愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

第三章

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計画を実行する日はジョスカーと勉強をする日に決めていた。

「休暇に家へ帰ってたんだって？」
「はい、ジョスカーからあった方がいいと教えていただいた本を購入するためです。時間かかると思って外泊にしたのですが運が良かったのか早めに見つかりました」
「それがこの本だね。取り扱っている店が少ないから探すのは大変だったろう」
「いいえ、父の商家で探してもらったので」
「ああ、そういえば父君の商家では手に入らないものはないと言われているんだったな」
「父の商家をご存知だったのですか？」
「ああ、うわさ程度だが」

このとき、私は有頂天になっていた。でも知られているはずだ。『婚約者の領地の商家』だったのだから。それをまるで父の店のように話す私をジョスカーはバカだと思っていたのだろうか。
このあと、私は計画を実行に移した。

「ここにはこの公式を入れる……と、あ、解けました。これであっていますか？」
「ああ、そうだ。よく一人で正解に辿りついたね」
「これもすべて、バカな私をジョスカーが見捨てずに教えてくださったからです」

ここで私は俯いて「何かお礼を」と呟いた。でもジョスカーの目を真っ直ぐに見てしまうと続きを言えなくなった。そして、胸の指輪に触れる。─── 言わなくては。「私はお礼に差し出せる物は何も持っていません。この身体以外は」と。でもそう言ったら嫌われるかも知れない。
そう考えて固まった私に、ジョスカーから驚くような言葉をかけられた。

「ソレイユの努力をお祝いしてあげたいけど……この身体以外何も持っていない。こんな俺だが、よければ受け取ってもらるだろうか？」
「は、はい！」

私から誘うことに失敗したけど結果オーライ！
そのあとは学院の片隅にある誰も来ないような小さな教会に連れて行かれた。ここの祭壇に私は供物のように寝かされ、ジョスカーは神職者のように私を抱く。それがまるで『神に捧げる神聖な行為』のようで、この日以降ここが私たちの密会の舞台となった。

だからといって、ほかの子息との関係が終わったわけではない。彼らにとっても無料の娼婦は手放せなかったのだろう。ただ無料の代償として父の商家をお得意先として取り立てた。何より、日本と同じ調味料の数々を取り扱っているのがそこだけだったため、けっこう高額で取り引きされていた。
ジョスカーが婚約破棄をして各地の商家がなくなってもまだ調味料がある家は問題なかった。しかし少しずつ調味料が切れていくと、今までと違って食材の味以外しない食事しかできなくなった。さらに大半の食材すらこの国では流通していなかった。次々と食事の量が減り、穀類が底をつき、王族ですら薄いスープが一杯の日もある。中に押し麦が入っていればご馳走と言われた。

そんな日々の中、私とジョスカー、そして私と関係を持っていた八人の子息とご実家、そこに連なる貴族家の立場はひどくなっていた。ただ私とジョスカーは王城の中で与えられた離宮で擬似新婚生活を送っていたから何も知らなかった。実家から連絡が届かないのも『新婚生活の邪魔をしないため』だと思っていた。私たちが離宮で生活していたのも幽閉されていただけ。

「婚約破棄の一件で混乱しているため、落ち着いてから婚約が正式に結ばれる。それまで愛し合う二人で過ごすがいい」

そういったのは陛下だった。陛下に認められればもう結婚できる。私が王太子妃、いずれ王妃になれるのだ。ちょっと変わったけど、悪役令嬢を国から追い出し、私はジョスカーとのハッピールートを勝ち取った。
─── 私は本気でそう信じていたの。