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第三章
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しおりを挟む「やっぱり、こうなったか」
ベビー服に身を包んだ女の子、ラフティがベビーベッドの中でスヤスヤと眠っている。ここは乳児院。ラフティは『空き家にいつの間にか住み着いた若夫婦が置き去りにした子』として預けられた。この子は祖父と孫娘との間に生まれた子だ。
「このような結果にならぬよう、魅了の鎖を与えたのだが」
「関係を持っていたのは祖父を含めて全部で十人。数が多ければ可能性も減っただろうに……。何故一番禁忌と言われる二人の子供として生まれたのか」
「次は平凡な両親のもとに生まれてくるがいい」
赤ん坊の胸に手を当てると、小さな雷魔法で小さな心臓が止まった。その心臓から黒い靄が湧きあがるが、陽の光で浄化される。
「これで三人目。でも、これ以上は可哀想な運命を背負った子供は生まれないわ」
「ああ、そうだな」
「あの子が生まれなければ、こんなこともなかったのに」
「でも、そうなっていたらリリィはあの金髪と結婚させられていただろう?」
「その前に、あの金髪のボウヤには別の女が侍るわ。バカで節操なしのひ孫なんだから」
近親相姦は禁忌と言われている。『禁忌だから近親相姦はいけない』という簡単な話ではない。近親相姦で生まれた子は魔力が大きく、そしてもれなく闇堕ちして世界を崩壊させる。魔力が大きいため、感情だけで魔法を暴走させてしまう。それで町が簡単に滅ぶ。もちろん、この子が純粋無垢なままで生命を終えた理由はそれだけではない。
「支配欲が強い親から生まれた子は……たとえ闇堕ちしなくても、負の感情が強くなれば簡単に魔物になるわ」
「近親相姦のほとんどが、男たちの支配欲から始まる。そんな歪な関係で出来た子供は、生まれる前から周りから恨みや憎しみを向けられて悪意を敏感に受けてしまう。さっき、心臓が止まったと同時にでた黒い靄。近親相姦というだけで、すでに通常の大人が溜め込む量を超えている」
「あのまま成長を続けていたら『王妃ふたたび』だったわ。いいえ、ソレイユがいるから三度かしら」
「あれは王妃になれなかったから数に入れなくてもいい。─── しかし、ここまで近親相姦の血が強く残るとは」
「ええ、こんなに強いなんて……。やはり呪詛だったのね」
私の弟が王となった国がいい例だ。兄妹で婚姻を重ね、臣籍降下した公爵家と婚姻を重ね、歪な血統を重ねていった。そんな、王族という立場に固執した結果、彼らにとって大切だった少女を自らの手で殺してしまった。そこで正気になり、暴走が止まった。逆に自暴自棄になっていたら、今はアーシュレイ領となった国の元妃のようになっていただろう。
「だいたい、あの元妃一族を放置したアレが悪いです」
「まさか、その血が今回の件を起こし、国を一つ消すとはな」
「でも旦那様。今回の件で元妃一族にまとめて責任をとっていただくことが出来ましたわ」
呪術に長けた一族、それも一族きっての呪術師。それが北方の国で処刑された元妃の正体だった。あの女は自国を呪術で乗っ取り、主だった人たちを呪術で操った。呪術で穢れた大地で作られた農作物を食べる国民も呪術師の影響を受けた。モーリトスの国境に張られた結界で、呪術の悪影響は呪術師一族に乗っ取られた彼の国と、隣接していたサンジェルス国だけですんだ。
ただ……やりすぎた。モーリトス国にも手を伸ばした。そして魔術師と賢者を自国に求めた。
北方で処刑される前にあの女は呪詛を吐いた。それは死を前にした女の恨み節のように思われていたが、実際には自身と同じ血統の親族に向けて呪いをかけていた。
『私が死んでも我が一族の血が王族に混じる。そのときに私の悲願は達成される。─── 私たちの血が世界を破滅させる』
あの王妃は悪役令嬢とは関係ない。ただ、私が作ったゲームでは、前編で呪術師一族は『悪役令嬢を操って混乱を引き起こす』真の悪役だ。そして後編の開始時点ではすでに『滅びた一族』になっている……はずだった。だからこそ、前編が発動せず、一族が生き延びたことを知った。
元々、ウーレイ家は呪術師一族が隠れ住むために狙いをつけられた被害者だ。今まで、近親相姦が起きなかったのは、本来のウーレイ家が持ち続けた常識が徐々に薄まったからだろう。
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