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第四章
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しおりを挟む前編のバッドエンドから何百年も過ぎて私は生まれた。前世の記憶が戻ったのは、私が国境近くの森で【 魔力循環 】をしてしまったからだ。当時はその森に『精霊の棲まう樹』があることは知らず、私自身もただ深呼吸のつもりだった。【 魔力循環 】の相手が精霊ということもあり、私の身体に負担はなかった。それでも四歳だった私の精神には負担がのしかかった。
「こわいよぉ」
日中は説明されても何もわかっていない素振りだった私の寝言に、家族は慌てふためいた。それもそうだろう。大人の魔力より、いや、世界を探してもいないと思われる膨大な魔力を持ってしまった私。寝惚けて魔法を使ってしまったら……部屋や家だけならまだマシ。下手をすれば、国やこの大陸自体を消し去ってしまえるのだ。
私のことを知った当時のモーリトス国国王は、ある少年を使者として私のもとへ送った。
「はじめまして。僕はカイエルっていうんだ。怖かったね。もう大丈夫だよ」
そう言って頭を撫でられた私は、魔力循環事件( と記録に残された )以降、感情で暴走させないように薬で封じられていた感情を爆発させた。────── そう、大泣きしたのだ。
そんな私の手を握り、抱きしめて背中をさすり、泣き疲れて眠っても、カイエルは私と一緒にいてくれた。
カイエルが一緒にいてくれることで、私は魔力のコントロールを身につけた。正確にはカイエルと共に【 魔力循環 】をすることで、暴走しかけていた魔力が中和された。そのカイエルの魔力が私に『魔法の使い方』を教えてくれたのだ。
「どうした?」
黙ってしまった私を心配した旦那様が、優しく背を撫でてくれた。
「フフフ。旦那様とはじめて会ったときのことを思い出していましたの」
「ああ、そういえばここは……」
「ええ、私の実家のあった場所で、旦那様が家族に置き去りにされた私と共に過ごしてくださった大切な場所ですわ」
当時のここは王都から外れた農村で、我が家は貴族でも領主でもなく、豪農というより『ちょっと裕福な農民』だった。前世の日本でいうなら、小作人ではなく地主に近いだろうか。王都からカイエルと共に来た料理人たちに生活を見てもらっていたため、私は家族や農民たちに農地ごと捨てられたことを知ったのは大分あとになってからだった。
家族と共に生きた家はすでにない。魔力のコントロールを実践するために、カイエルと共に過ごす邸に建て替えた。その時になって、はじめて真実を知らされた。
「悪かったと思ってるよ。アイシアの家族がアイシアに……いや、アイシアの魔力に怯えていたのには気付いていた。しかし、魔力を制御する魔導具もあるし、コントロールが可能だということはすでに知られていた。だから、恐怖なんて一時的だと思っていた」
「謝らないでください。私の魔力をコントロールするために旦那様の魔力を増やすことになってしまいました……」
「『好きな人といつまでも一緒』というのは幸せなことだよ」
私たちは精霊の魔力を得てしまい、そのときから『人の世で生きる精霊』となった。そして私たちが結婚して興ったアシュラン家は精霊一族と認識されている。モーリトス王家も元々精霊一族の血が含まれていた。だからこの国に『精霊の棲まう樹』があったのだ。
「精霊は不老でも不死ではない。だから、好きな人と大切な人たちと長く一緒に過ごせる幸せ。これこそ幸福だと思わないかい?」
「ええ、ですが私の幸せは旦那様と巡り会えたことですわ」
この地は今、王都で過ごすアシュラン家の王都専用邸として使われている。ここから離れた場所に造られた家に、今は奴隷として働く平民夫婦を住まわせていた。精霊のちからが宿ったこの場所に住んでいる間は正常だったのは元妃の呪詛が届かなかったからだ。王城に行かなければ……このままこの場所で、農民でもいいので生きていく覚悟が持てれば呪詛から完全に解放された。両親の愛情を受けて育てられていれば、ラフティーも普通の子として生きられただろう。
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