愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

文字の大きさ
47 / 82
第四章

47

しおりを挟む

私が過去の記憶を取り戻したのは歴史書を読んでいたとき。モーリトスこの国で起きたクーデター未遂事件の記録を読んでからだった。すぐに思い出さなかったのは『ゲームが始まらなかったためにクーデターは失敗した』からだろう。
はじめて触れた事件のはずなのに、どこかで似た話を聞いた……いや、違う。成功した話を知っている。
私は手当たり次第に歴史書を読んでいったけど、クーデターが起きたのは後にも先にもこの一回のみ。他国でも起きたことはない。あるのは非権力者が立ち上がった革命だけだ。
魔導具に『ひと夜の夢』というものがある。絵本など、希望のぞみの本の世界に一晩だけ飛び込めるというもの。これは傷付いた心を癒やすための魔法で……賢者が使える。

「アイシア。この魔法は危険だってわかってる?」
「ええ、カイエル。それでも使ってほしいの」
「─── 理由を聞いてもいいかな?」

私は自分が感じる違和感をカイエルに説明した。といっても私自身がわかっていないため詳しくは話せない。ただ漠然とした、それでも何かが違うおかしいとハッキリ言える不可思議で不可解なもの。
私の拙い言葉を一つずつ確認しながら、最後にこう言われた。

「これは書き手の意思が混じっているかもしれない。歴史書なんて片一方だけの状況が主体で残されている。もしかすると、反対の立場からみたら事情が全く変わっている可能性もある。それでもいい?」
「もちろんです。ただ、『私が知ってる話と違うのはなぜか』が知りたいだけです。それを知ったのはいつか。なぜ違った話を私は知っているのか。─── 私の家の書物にはなかった。だから……私は知りたい」

私の言葉にカイエルは一つだけ条件をつけた。

「一緒に行くのが条件、だなんて……」
「一緒に行けば何かあっても大丈夫だろう?」
「でも……」
「戻ってくるまで待っていると時間の流れが全然違うっていうでしょ。僕はアイシアが戻ってくるのをただ待ってるのは性に合わないからね。それに、もう今さら仕方がないでしょう?」

そう、この話をしている時点ですでに夢の中。歴史書の中に立っているのだから。そして私たちはクーデターが起きる一時間前の王城にきていた。私たちの姿は見えない。記録された歴史の中に私たちは存在していなかったのだから。

「アイシア。そろそろ後宮で事件が起きる頃だ」
「ええ、行きましょう」

こうして私たちは、記録書を読んだときに感じた私の違和感を目の当たりにした。


「─── そういうことだったのか」

私はクーデターを起こした首謀者『ユーレット王子』を実際にみて、生まれ変わる前の記憶を完全に思い出した。この世界が私の作ったゲームの舞台になっていることも。もちろん、すべてカイエルには話した。話した直後は突拍子もない話に驚いていたが、少しずつ受け入れてくれた。

「そういえば、肖像画がなかったわ。仮にも、この国の王子だというのに」
「クーデターを起こした者たちの肖像画はすでに失われて久しい」
「最初から失敗したときのために廃棄していたのでしょうか?」
「いや、失敗を前提にクーデターを起こす者はいないだろう。多分、国王陛下と幼い王子を殺したということで、存在を示すものすべてを破棄されたんだと思う。実際、貴族の家は破壊の限りを尽くされていたよ。歴史書には名前すら残したくはなかったみたいだね」

そう思えるほど、現代に記録は残されていない。ただ、貴族院の議事録にはクーデター事件の詳細が残されており、貴族籍から家族や親族の名前や生年月日などの個人情報に『貴族籍抹消』の朱印が押されている。手続きをすれば普通に公開される記録のため一度閲覧したことがあった。記憶を思い出したため、もう一度リストを見せてもらおう。
ユーレット以外にもゲームキャラが加わっているのだろうか? そして……転移ヒロインは現実的に考えて現れなかっただろう。そして、誰がヒロインの立ち位置にいたのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️
ファンタジー
【第5回ファンタジーカップにおきまして痛快大逆転賞を頂戴いたしました。応援頂き、本当にありがとうございました】「アルテミス! 其方の様な性根の腐った女はこの私に相応しくない!! よって其方との婚約は、今、この場を持って破棄する!!」 王立学園の卒業生達を祝うための祝賀パーティー。娘の晴れ姿を1目見ようと久しぶりに王都に赴いたワシは、公衆の面前で王太子に婚約破棄される愛する娘の姿を見て愕然とした。 大事な娘を守ろうと飛び出したワシは、王太子と対峙するうちに、この婚約破棄の裏に隠れた黒幕の存在に気が付く。 おのれ。ワシの可愛いアルテミスちゃんの今までの血の滲む様な努力を台無しにしおって……。 ワシの怒りに火がついた。 ところが反撃しようとその黒幕を探るうち、その奥には陰謀と更なる黒幕の存在が……。 乗り掛かった船。ここでやめては男が廃る。売られた喧嘩は徹底的に買おうではないか!! ※※ ファンタジーカップ、折角のお祭りです。遅ればせながら参加してみます。

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...