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第四章
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しおりを挟む当時の記録を確認する限り、このクーデターは私たちのゲーム設定とは違っていた。元々、転移ヒロインが現れるための舞台だけど、現実にそんなことが起きるはずがない。
『驕る平家は久しからず』
『驕る平家は内より崩る』
この諺をもとに『偉そうにしているだけの貴族は必ず滅びる』という構想で作った小説だ。弟からは「こんなバカが実際にいるか?」と聞かれたが「じゃあ、政治家をみてみたら?」と返したら納得された。
「現実ではバカでも権力をもてば優先的に守られるのよ。たとえその結果、国にとって有能な人材が喪われたとしてもね」
「独裁政治かよ。それでよく国民は我慢しているな」
「別に生まれた時から、それがその国の常識として育てられたら? だいたい、比較できる常識を知らないから比べようがないでしょ」
どこと比べるのよ。隣の村や町だって同じ常識枠の中で生きているんだから。
そう言った私に弟は納得して、それを基に作られたのがスマホゲーム『光り輝く愛の庭』だった。課金アイテムもあったため、配信時に代表者を決める必要があった。
「別に姉貴の名義でいいじゃん」
「なに言ってるの。これは私が全部作ったんじゃないでしょ」
私の小説だけど、それ以外……キャラのデザインを作ったり、プログラミングしたりというのは、弟や弟の友人たちが作ったもの。それを「私がすべて作りました」って言うつもりはなかった。
「じゃあ、このメンバーで制作会社を作ってしてしまえばいいじゃない。それでお姉さんが代表になれば、みんなの意見が全部叶うでしょ」
「そうだね。俺たちはお姉さんの小説を土台につくったゲームだから代表になってほしいし、お姉さんは俺たちも一緒に評価してもらいたいんだから」
「あ、リモート会社にしようぜ。それだったら出社しなくていいだろ」
「どうせ作るときは、こうやって集まって話し合うんだし」
弟の友人たちがそう提案して、私が代表になって制作会社が設立された。でも私が代表だったのは五年にも満たない。私が病気で倒れたのは、『光り輝く愛の庭』前後編が人気になり、今まで私が書き溜めた小説を弟たちがスマホゲームとして発表していたときだ。
「姉貴、ここってどんな状況なんだ?」
「もう……そこは学院の廊下だから」
「あ、すみません。その学院なんですが、見取り図はこんな感じでいいですか?」
「うぉーい! これじゃあ、階段が一ヶ所しかないじゃない。最低でも四ヶ所は必要でしょ。学生が何人いると思ってるの」
「そういえば、小学校でも……。作り直します」
「お姉さん、今度の攻略キャラはこんな感じでいいですか?」
「きゃぁぁぁぁ! このキャラ、めっちゃイケメン!」
「あ、やっぱりお姉さんはその真面目キャラが一番気にいっていたんですね。作品も彼ルートが一番ラブラブでしたし」
「ねえねえ、この絵ちょうだい!」
「それもいいですが、コッチの彼のスチールはどうです?」
「きゃあ! ステキ! イケメン!」
「謹んで上納させて頂きます」
代表を退いても、弟たちは私を顧問にして会社に縛りつけた。元々リモートでネット環境があれば問題がないのが私たちの会社。そのためプログラミングなどの作業を、私の部屋と隣の部屋に折りたたみの机を持ち込んで仕事をしていた。それもカーテンを閉め切って外部から切り離されたこの中では時間の概念はなく、好きな時間に起きて、お腹が空いたらごはんの時間にして、疲れたら寝る。時間はパソコンタブレットに表示される時計とつけっぱなしのテレビで知る。そのため、ニュースには詳しくなった。
何時に起きても誰かが必ず起きていた。それは私がいつ急変するかわからなかったから。病院で『人生終了、待ったなし』の宣告を受けたときに、弟たちが「最期の瞬間まで一緒に」と連れ帰ってくれた。もちろんすべて覚悟の上で。
期限は四年。それをほんの少しだけ延長して、私はいつものように普通に目を閉じ、みんなの作業を聞きながら眠りに……人生の終幕を迎えた。
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