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第四章
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しおりを挟む私は後編に参加する気はなかった。前編で全ルートから外れていたから、後編が無事に始まるかどうかもわからない。だからモーリトス国でカイエルと共に生きていく道を選んだ。
モーリトス国は精霊が人間世界に作った国。前編で国王陛下が亡くなられたのは『クーデターから国民を守った』からだ。魔力だけでなく生命力も使い、国からクーデターに賛同した貴族やその一族を排除した。その先はクーデターを計画した隣国。生命をかけた国外追放のおかげで、追放された者たちはモーリトス国に入ることができなくなっていた。そのため、のちのモーリトス国国軍と反乱軍の戦場は隣国が舞台だ。
隣国の王太子が、国王の死と共に反乱軍を切り捨てたのもそれが理由だった。
「そんなことが起きていたのか」
「歴史は正しく公表する必要がありますな」
私たちが見聞きした歴史の真実を国王に報告した。それはこの国に必要だと判断したからだ。
それまでは、『モーリトス国で起きたクーデターが隣国を巻き込んだ』と言われてきたが、実際には黒幕が隣国の国王だったことが判明した。それを公にすることができれば汚名を晴らせる。
「しかし、歴史書はその国の黒歴史を隠して伝えられる」
「その点は精霊の使う『真実の目』を使えばいい」
汚名を返上するため大人たちが、精霊の末裔である国王陛下自身が、率先して動いていた。歴史家たちはカイエルに『ひと夜の夢』ではなく精霊魔法『真実の目』を使ってもらい、当時の状況を細かく調べ上げていった。
「『真実の目』って記録されたときの周囲が見られるだけだと思ってたわ」
「ああ、記録が書かれた時代、つまり過去なんだけど。その時代を思い返すための精霊魔法なんだよ。それの威力を落として使用範囲を書物内って制限したのが魔導具の『ひと夜の夢』ってこと」
「それをカイエルが私と魔力循環をする前から使えていたことに驚いたわ」
「それは僕も精霊の末裔だからね」
「数代前の王妹殿下の家系、だっけ?」
「そうだよ。直系ではないけど、精霊の血は流れているからね。そして、傍系は王家ほどではないけど僕みたいな先祖返りが生まれているから」
「その上、私と魔力を循環させたから……」
「よかったよ。僕と一緒に生きていける人がいるんだから」
カイエルはそう言って笑う。精霊の魔力が混じった私と魔力を循環したことで、先祖返りとはいえ眠っていた精霊の血を目覚めさせてしまった。モーリトス国王家直系は先祖返りではなくても平均年齢約五百年の寿命が長いという認識範囲内だ。先祖返りは存在自体が精霊に近くなったことで初代国王陛下のように一千年の寿命を生きる。そして私たち二人も一千年を生きていくことになる。ただ、カイエルは私と魔力循環をさせたために、精霊と同じ魔法すべてを使えるようになってしまった。
そのことを知り、謝った私にカイエルは笑って言った。
「これで魔力切れを起こす心配もないし、使える魔法も増えた。魔法を色々試して、使えそうな魔法があったら威力を弱めたものを魔導具にしよう。魔導具は一回のみから最大三回までの回数制限をつけて売ったら、モーリトスも繁栄すると思わない?」
「カイエル…………。仮にも王家に連なる者が金儲けを念頭に計画をたてる?」
「ええ⁉︎ 国の繁栄を考えて、だよ」
「本音は?」
「─── 長い人生、楽しまなきゃ損だよ」
カイエルは魔導具を生み出すことで、モーリトス国に戦争を仕掛けてこない、と考えている。戦争を起こせば、生活の一部となった魔導具を永遠に失うことになる。魔導具に魔法を付与できるのは、精霊の血を継いだ者だけ。そして、心ならずも精霊と魔力循環をさせたことで精霊となった私も。初歩の魔法なら魔導具職人でも付与できるが、ここモーリトス国の魔道具は精霊の魔法。精霊の魔力で定着させるため、通常の魔導具より値が張る。
こういう考え方から、もしかしてカイエルも日本からの転生者かと思ったが、彼は前世もこの世界の人だった。
「前世って……覚えているものなの?」
「普通は忘れているよ。ただ僕は精霊の血を引いているから。アイシアも前世の記憶のカケラがでてきたのは、精霊と魔力を循環させたからだと思うよ」
「それは……たしかにそうでした」
カイエルの前世は他国の商人。だから、商人だった頃の感覚で物事を見てしまうそうだ。
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