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第四章
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しおりを挟む「さあて、お前たち。自分たちが何を仕出かしたのかわかっているかな?」
幼い招待客が辿々しいながらも可愛いカーテシーを見せて謁見に使われた御前会議室を退室すると、国王陛下は先ほどまで少女に接していた優しい口調のままで、雰囲気はガラリと変わり威圧と殺気を放っている。陛下だけではない。宰相をはじめとした貴族たちも同様だ。彼らの前には、少女の両親と先代当主夫妻が床に跪かされていた。
「精霊の力を持った者は何をおいても優先的に保護する。その国法を破り、まだ四歳という幼い娘を部屋に閉じ込め、荷物をまとめて先代が隠居する領地へと逃げたそうだな」
「そ、それは……」
「発言は認めておらぬよ」
陛下の言葉に表情を歪めて顔を下げる現当主。それにあわせて残りの三人も俯く。
「アイシア以外の兄弟は連れて出たらしいな。話を聞いて駆けつけたカイエルが見たものは、ひとりぼっちで泣きながらベッドの中にいたアイシアだ」
「お前たちはそれだけでも罪は深い。さらに、一度も娘を気にもせず、誕生日の贈り物も贈らず。すでに死んだと思っておったか? 幼な子は一定期間以上会わなければ親でも覚えておらぬ。そのことは親なら知らぬはずがなかろうて。残念だったな。死んだのはアイシアではなく、アイシアの記憶の中のお前たちだ。二度と親だ家族だと口にするな。アイシアの家族は死んだ。死んだ者が二度と蘇ることはない」
陛下の指摘に全身を震わせる四人。顔を赤らめているところを見ると図星だったようだ。その顔がさらに恥ずかしさで顔を赤らめる言葉を宰相が放つ。
「それで、捨てた娘が『救国の少女』として崇められることを知り、親として娘の栄誉を奪いに領地からしゃしゃり出てきましたか。でも邸の周りにはあなた方みたいな厚顔無恥が近付かないよう警備を強化しましたから。その甲斐あって、近付くことも御尊顔を拝することもできなかったようですね」
「わ、私たちは、ただ……家に帰るつもりだっただけです。それなのに兵士たちが邪魔を……」
「なに、寝ぼけたことを」
宰相は呆れた表情で大きく息を吐き出す。それがわざとであり、バカにしている態度だと誰もが気付いた。もちろん、床に跪いている四人の足りない脳でも。
「あなた方は領地に戻った。陛下に許しを得ずに。それがどのような意味を持つか、愚かな頭でもわからないはずはなかろう」
「あ、あ……」
「お許しを。どうか、どうか生命ばかりは……」
現当主が言葉を紡げぬ中、前当主が代わりに土下座をして助命を嘆願する。
彼らは与えられた任務と貴族の義務を放棄した。王城から何度も召集を受けてきたのに、様々な理由をつけて断り続けてきたのだ。貴族としての義務を放棄したのだから、貴族から平民に落とされても仕方がないことだ。
「たとえどんな事情があろうとも、この一年半の間一度も登城せぬ理由にはあたらぬ。幼な子を見捨て、餓死しているかもしれぬ邸に戻りたくなかった。そうであろう?」
「いえ……そのようなことは……」
「ないとは言わせぬぞ。だったら何故『中から出られない魔法』を玄関や窓、そしてアイシアの部屋にまで施した? さらに厨房には食材を置いていなかった。精霊の加護がなければ、アイシアはお前たちが望んだとおり死んでいただろう」
前当主はアイシアを置いてきたことしか聞いていなかったのだろう。陛下の言葉に驚いて顔を上げ、隣で震えながら土下座を続ける息子に目を向ける。同じように、その後ろで前当主夫人が顔を上げて隣の嫁を睨みつけていた。
「申し上げます。私たち、私と妻は『アイシアは精霊に生まれ変わった。今は妻のお腹に赤ん坊がおり、精霊の影響を受けてしまう恐れがある。そのため数人の使用人とともに残してきた』、そう聞いておりました。ですから、陛下の仰ったことを私たちはなにも聞いておりません」
「それが言い訳になると本気で思うておるのか?」
「い、いえ。そのような……」
「だいたい、私はいつお前たちに発言を許した?」
陛下に重ねた無礼。不敬罪で処刑されても仕方がない状態だ。それに気付いて、前当主夫妻は慌てて床に額を擦り付けた。
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