愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

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第四章

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「この部屋でいいわね。広いし」

ジョゼフィンはに入ると各部屋を見て回り、の見晴らしがよい二部屋続きの部屋に足を踏み入れた。窓の向こうでは、夫のユベールと義父のアルフォンソが荷役夫よろしく魔法を使わないで運び込んでいる姿が見えた。とりあえず、荷物をフカフカの毛並みの長い絨毯に下ろすと、あつらえられているソファーセットに腰掛ける。

「ふう……。まったく、なんでこんなところに来なきゃいけないのよ」

ジョゼフィンにとって、この地に直接きたことはないものの嫌な思い出しか湧かない。
ジョゼフィンはユベールと恋をして結婚したわけでも政略結婚だったわけでもない。もちろん、ミラットリア子爵家という肩書きに惚れたわけでもない。狙うなら侯爵家以上だ。ただ、ユベールの婚約者だった義姉が死んだため、婚約者に仕立てあげられただけだ。
彼女は流行り風邪であっけなく死んだ。─── ことになっている。死の原因が私だと責められ、薄くても精霊の血を受け継ぐミラットリア子爵家との繋がりを切りたくなかった両親に、義姉の代わりとして差し出された。その裏で両家は悪魔のような取引をしていた。
何故か中止にならない義姉の結婚式。ただ義姉の死が急だったため連絡が届かなかったせいだと思っていたが、予定通りに結婚式が開かれることになっていた。私の代わりに結婚する心優しい義姉が、結婚のできない私を憐れんで自分の代わりにバージンロードを歩かせるのだ。
そんな話を聞かされた出席者は誰もが美談という。

「どこが美談なのよ! 悪趣味じゃない!」

そういった私に母が笑っていった、「あなたは代わりにミラットリア子爵家に嫁ぐことになったのよ」、と。

「なんで……私は妊娠できないからって断ったのは向こうじゃない!」
「それは相手も了承したわ。だいたいあの子が死んだのは、あなたが階段から突き落としたからよ」
「何よ、私はちょっと押しただけよ。それを大袈裟に階段から落ちたんじゃない」

その結果、に死んだ。私はただいつもの挨拶としてだけよ。だってそうじゃない。我が家に婚約の話が舞い込んできたけど、私が病気で妊娠できないから親戚から頭が良くて器量がいいってだけで引き取られたブサイクのくせに。私の代わりだっていうのにいつも『幸せ自慢』したくせに。

「もう何をいっても無駄よ。あなたはとして、予定通り明日の結婚式にでるの……花嫁としてね。もし嫌だというなら、あなたが今までしてきたことを公表するわ。────── あなたが妊娠できない身体になったのは、堕胎後に当時付き合っていた男に呼ばれて暴力を受けたからだって」
「なっ……やめて! なんでそんなこと……」
「あら、本当の話でしょう? 避妊に失敗したとあなたに責任を押し付けて暴行を加えたのは。家のお荷物になったあなたが今まで置いていてもらえたのは、暴行相手から高額な慰謝料をもらったからよ。でも、この前あなたが殺しちゃったから、そのことでお金を使ったの。おかげであなたがその身体で稼いだ慰謝料はなくなったわ。だから、


そして結婚式当日。私は新婦のドレスで着飾られて、頭からヴェールをかけられて顔がわからないようにされた。逃げ出さないように拘束の魔法で椅子に座らせ、声を封じ、見張りのように両親が脇を固めた。そんな私が相手の親族として出会ったのが義母の兄だった。義母の兄といっても精霊の血で老化が遅いから、見た目は青年のまま止まっていた。そんな彼に目と心を奪われて『自分のものにしよう』と考えた。私は妊娠できないんだから愛人関係になっても証拠は残らない子供はできない。ただ、その計画に邪魔なのは彼の両親と彼の妻。私よりブサイクなのに彼に愛されているその女のことが憎かった。

義母の実家からきた四人が帰る前日に馬車の車軸に傷をつけ、賭けにでることにした。馬車が事故にあっても、精霊の血をひいている三人は大した怪我は負わないだろう。死ぬのは、精霊の血を引いていないあの女だけのはずだ。
結論からいえば、馬車は事故にあって大破した。私が傷つけた車軸が折れたわけではなく、ただの不幸な落盤事故だった。車軸に地面の石が当たって傷がつくことはよくあり、私がつけた傷も出発前のチェックで修復されていた。
そして、馬車から弾き飛ばされて重傷を負った御者以外に生存者はいなかった。落ちた岩盤は馬車を直撃していたのだから。精霊の血を受け継いで不老となっていても、不死ではないなんて知らなかった。
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