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第四章
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しおりを挟む「まったくもう。私が夢で見たのと同じ死に方だなんて」
『どんな夢でも叶う』という指輪を持っている客がいたから、バレないように似た指輪と入れ替えた日に事故死を願った。そのまま眠った私は夢の中で真っ暗な空間にいた。テーブルの上に置かれた箱庭。それを覗くと、義母の兄たちが乗っている馬車が岩山沿いにある街道に置いてあった。そのため、岩山の一部をとり、馬車の上に落として馬車を潰した。
夢の通りになるんだったら、あの女だけ死ぬ方法を考えればよかったな。箱庭には何体か魔物が置いてあったから、その魔物に襲われるとか破落戸に殺されるとか。
別に精霊の血であの女以外は死なないって思っていたから、一人だけ死んだら不自然だと思って一緒に事故にあってもらったのに。幸せ自慢のあの女。わざわざ私の結婚式にくる途中で妊娠なんかして少し目立つお腹を見せびらかして……
「あんなもの、ただ馬車の中で何もしないでいたから太ったのを妊娠したなんて嘘ついただけでしょ。そして帰る途中の馬車でいかにも流産したフリをして同情を集めるのよ。ほんと、不細工な女ほど小賢しいマネが得意よね」
起きたら、眠るときにはめたままだった指輪が消えていた。取り替えたはずの指輪がアクセサリーケースの中にあったから、指輪の件は夢だったのだと思っていた。結婚式前日から色々あって疲れたから深く考えなかったけど、ミラットリア家の私とユベールは私室も寝室も別だった。
いま考えれば、嫁として認められていなかったのね。
だいたい、義父母も両親も考え方が悪魔なのよ。
ユベールと死んだ義姉の卵子で気持ち悪い化け物を人工子宮で作ってたなんて知らなかった。それだけではなく、それを人工子宮ごと魔法で私のお腹に詰め込むなんて。『母性本能を生ませるため』っていっていたけど、ユベールは閨を共にしていない私のお腹が大きくなっていく姿をどうみていたのかしらね。
魔法でお腹から人工子宮を取り出したら中の化け物が大きくなってるし。あんな不気味なものがお腹に入れられていたなんて、ホント気持ち悪かったわ。まあ、あんな物は侍女たちが育てていたから適当に可愛がってるフリをしてたけど。母親として育てろなんていわれていたら、事故に見せかけて目の前から片付けてやったのに。
「それもレンデムで最後。あー、やっと五回の妊娠擬似体験も終わったし。さっさと、こんな連中との家族ごっこは切り上げましょ」
荷物の中から出した紅茶セットとお茶請けとして焼き菓子を取り出した。ポットに魔法で出した茶葉とお湯を入れて蒸らす。いい香りにようやく気持ちが落ち着いてきた。
こういうときに一人で良かったと思うわ。だって私はただの平民、仕事で成功して成金貴族になった父が、貴族と縁続きになるためにユベールと結婚させたんだから。それを知ってて、使用人の代わりがいると考えているから、使用人がいなくても平気な顔をしているんだわ。
その両親も昨年、目の前からいなくなった。家督を弟に継がせて、小さな領地に作らせた別宅で悠々自適な生活をしているっていってたわね。
今度ここにくるという官吏には『五度も妊娠ごっこをさせられた』って訴えよう。そして、自分もこの家族から暴行を受けた被害者だと認めてもらい、ここから出してもらおう。
〈つまり、自分の行動に反省するところはない、というのだな〉
「当たり前じゃない。私は……って、あら? 誰かいたのかしら?」
ジョゼフィンは周りを見回すが誰もいない。
空耳だったのかしら。ずっと馬車に乗せられていたから疲れているのね、きっと。いま何時かしら? あら、もう遅い時間ね。特にお腹も空いていないし、このまま休みましょう。
彼女は何もわかっていない。気付いてもいない。
この迎賓館は使われなくなって十年弱。その間ずっと掃除されてこなかったことを。それなのに調度品にホコリがまったく残っていないことを。
玄関には鍵がかかっておらず、夜なのに昼間のように室内が明るいことも。
外からみた迎賓館が二階建てだったのに、いま自分のいる部屋が三階だということも……
彼女は何一つ不思議に思わなかった。
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