愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

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第四章

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《ああ、新しい仲間がきた》
《久しぶりだなぁ》
《今度の仲間は若い女じゃないか》

「うう……ん、うるさい……」

《おやおや、威勢がいいねぇ》
《まだ状況がわかっていないようだ》
《困ったわねぇ》
《ねえ、あなた。早く起きて。そうじゃないと闇に飲み込まれてしまうわ》

私が疲れて眠っているのに……何よ、煩いわねえ。覚えがない声だけど、誰? ああ、レンデムにつけられた乳母かしら。─── え? 何? 『闇に飲み込まれる』ですって?

「何、バカなことを言ってるのよ」

自分の声で目が覚めた。寝言で目覚めるなんて…………?
私はベッドに入って寝たはずなのに、何故か固い床で横になっていた。これはどういうこと? ここはどこ? まだ暗いのにどうして私のことが見えているの?

《ああ、やっと起きた》
《可哀想に。ここにきても眠っていたからんだな》

「誰! どこから見てるの!」

《落ち着いて》

「こんな状態で落ち着けるわけないじゃない!」

《落ち着いて、まずは自己紹介してもらえるかな? そうしたらその目も見えてくるよ》

それ以外に今は方法がないというなら……

「私はジョゼフィン・ミラットリア。夫の爵位は子爵……でした」

チカッ。
視界の端でわずかに光ったと思うと、真っ暗闇が微かに明るくなった? ほとんど変わってない? 気のせい?

《大丈夫よ。そうやって話していけば段々見えていくから》

「話と言われても、何を話したら……」

《じゃあ、ジョゼフィン。あなたは小さい頃何が好きだったかしら。ちなみに私は部屋に優しい風が吹くときに揺れるレースのカーテンだったわ》

「私は……」

私の過去は決して誉められるようなことではない。黙っていようと思っても周りから聞かれると自然に話してしまう。みんな聞き上手なのだ。そして……話す度に僅かでも明るくなっていく視界。その小さな明かりを失いたくなくて黙ることができず、聞かれていないことまで話してしまう。
チカッ。
また少し明るくなる視界。私はすでに気付いていた。本来なら誰にも話せない内容ことの方が、普通の話よりも心持ち明るくなることに。

「ある日、私の家に器量がいいというだけの女が私たちの姉として転がり込んできたの。元々弟の恋人だったのに、貴族から乗り換えたのよ」

《私たち? では、ほかにご兄弟がいらしたの?》

「ええ、弟が。でも恋人が貴族に乗り換えたのがショックだったみたいで、学院を卒業してもそのまま王都から戻らなかったわ。以前手紙が届いたけど、毎日、自分の好きなことをして過ごしているっていってたわ」

《まあ……。それは腹立たしいでしょうね。跡継ぎなのに自由に生きてるなんて》

「そうよ。両親もまだ自分たちが現役で働けるからって弟を甘やかすんだから」

チカッ。
周りと人影の色の濃さが僅かに変わり、人影は暗いままだが周囲は少し明るくなった。これなら、全部話した頃には視界は明るくなっているだろう。

「それで、義姉は……」

私は結婚式直前の転落事故に触れる。そして真実を口にする。

「幸せ自慢をする義姉の幸せを奪いたくて、その結果がどうなるかわかっていて……階段から突き落としたのよ」

《運が良ければ骨折、運が悪ければ……》
《それで、そのお義姉さんは?》

「結婚式当日に死んだわ。結婚式が先か死んだのが先かは知らないけど……。先に死んでいれば私は結婚しなくてもよかったのに。延期になれば、その間に代わりの相手を用意したのよ。ほんと、最期まで役に立たないんだから」

いまだ影しか見えない周りのみんなが私に同情的だったのはここまでだった。
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