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第四章
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しおりを挟む「最初、私には転落のときに死んだっていっていたのよ。義姉が運び出されたときは本当に死体のようだったんだから。あとで、生きているのを知ったら私が止めを刺しにいくって思ったからそのときに死んだことにしたって。本当に私を何だと思っているのかしら」
《もしも無事を知ったらどうしてた?》
《殺しにいったの?》
「殺さないわよ。何をいっても『自分が足を滑らせて落ちただけじゃない』って主張するから。それに、転落事故のショックで記憶が混乱してる、とか夢と現実がごっちゃになってるっていえば周りも納得するだろうし」
《まあ、賢いわねえ》
《たしかに記憶が混乱している可能性もあるからな》
みんなから誉められて嬉しくなる。誰も私を誉めてくれなかった。その反動が今の私を作った。─── いま私が置かれている状況って両親のせいじゃない。
「養女なんだから、大人しく私のストレスの捌け口になっていればいいのよ。元々、弟の恋人だったときからいけ好かなくて関わりたくなかったんだから」
《そうねえ。養子の場合、その家のために役立つことが恩義に報いる一番の方法だわ》
《養家に利益をもたらす結婚をするとか、新たな稼業で利益をあげるとか。すでにある家業で大幅な利益をあげるのも養子には求められるな》
「そうよ。それなのに何も役に立たないで私にまで迷惑をかけて死ぬなんて」
《養家も自分の立場を弁えない養子を抱えているだけでも養家の恥だ。捨ててしまいたくなるのもよくわかる》
《そのお義姉さんのお墓は? 一度はお参りにいったのでしょう?》
「いってないわ。結婚式をしたらそのまま婚家に入れられて、二度といっていないもの」
《子供は見せにいったのでしょう?》
「ミラットリア家の領地に戻ったときに、子供たちと乳母が会いにいったわよ。私は疲れているからって一人で部屋で過ごしていたわ。移動の馬車も子供たちが邪魔だから別にしてもらったのよ。両親も孫を見せれば何も文句はいわないし、私だってうるさくて可愛くもない子供がいない静かな時間を過ごしたいのよ」
《そういえば婚家の人たちとはどうなの?》
「酷いものよ。私に持参金を持たせて、一年もしないで道楽に使い切ったんだから。おかげで、使用人を増やすのに文句。勝手に増やせばまた文句。子供の乳母は実家から送ってくるから文句はいわれないけど……。乳母に私の用事を押し付けようとしたら『私は子供たちの世話係です』って断るのよ。それでも無理矢理仕事をさせたら、その乳母ったらミラットリア家に追加で給料を請求したのよ。おかげで嫁いびりが酷くなったわ」
《旦那様の方はどう思っているのかしら? 花嫁が入れ替わることになったでしょう? 関係はどうなの?》
「私に悪いと思っているんじゃない? 私は何もしなくて良い、なんていってるわ。両親や私の顔色をみて小さくなりながら生きているわ」
《あらあら》
《男としてみっともないな》
声に笑いが含まれている。やっぱり、ユベールの気の小ささは笑いの種になるのね。これでよく義姉の実家を魔導具で破壊して多数の怪我人をだしたわね。それも死者は出さなかったんだから、器用というのか度胸がないのか。
────── 私なんて、何人も殺したのに。
「それで結婚式当日にミラットリア家の義母の実家の人たちが挨拶にきたの。それが精霊の血のせいか、義母の兄って若くて格好良くて。一目惚れだったのよ。それなのに既婚者で邪魔な嫁は妊娠中」
みんなが静かに聞いてくれるから、自分の中に溜まっていた気持ちを吐き出していた。
「そんなときに『どんな夢でも叶う』という指輪を持っている人がいて……」
私は夢の話を始めた。あれは夢、結婚式で疲れた私の心が見せた自分の望みが夢で叶った話。あれはただの夢であって現実ではない。だって、私が望んだ通りになるのなら、死ぬのはあの女一人だったのだから。
私はそう何度も自分に言い聞かせながら話した。
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