愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

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第四章

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「お父様、お母様。ただいま」
「おかえりなさい。私のアイシア」
「おかえり、アイシア。カイエルもおかえり」
「ただいま戻りました」

私は毎日、自分の邸でカイエルから精霊魔法を教わったり、週に一回、王城でカイエルのお母様、トルステア様から貴族令嬢のマナーを教わっている。私の邸には魔法の暴走が抑えられるようにカイエルの結界が張られている。夜の三時間、夕食時に一緒に過ごせるようになったのはごく最近。精霊魔法のコントロールができるようになってきたから、そのご褒美だった。
陛下へのお願いは、私は『家族一緒に過ごせること』。カイエルは『私と一緒に生活をすること』だった。

「僕だってエルリと同い年の子供で、今は魔導具でコントロールしているだけだよ。でも魔力が漏れだすこともその魔力が周りに影響をもたらす事だってあるんだ。いくらなんでも、王城を吹き飛ばすわけにはいかないでしょう?」

そういって、私の邸に結界を張って一緒に過ごしている。ただ、私の家族が被害を受けるわけにはいかず……そのため、この前まで日中に一時間しか一緒に過ごせなかった。

そして王城でのマナー講座を受けているのは、精霊の一人となった私はモーリトス国の代表として各国に招かれる可能性が高いからだ。でも、マナーは最低限のことしか教わっていない。毎回お茶会をしているのだ。それでも様々なマナーが詰まっていて、一つ一つ注意を受けている。

「本当なら最低限のマナーだって覚える必要はないわ。あなたとカイエルに一番必要なのは、一日でも長く家族と幸せな日々を送ること。私たちはどんなに頑張っても、あなたたち二人を遺して逝くわ。だから、家族と過ごせる時間は大事なの」

そんなトルステア様の言葉で、私とカイエルは『私の本当の家族』と過ごしているのだ。


あの日、カイエルに連れられて初めて王城に入った日。陛下たちの前からさがった私は、カイエルに連れられて離宮に向かったら、そこに知らない人たちと一緒に私の兄妹が待っていた。

「アイシア、おかえり。カイエルもおつかれ様」
「アイシア、おかえり」
「ねえさまー!」
「エイデックお兄様? エルリ兄様、ディディも……? どうして……」

ここにいるはずのない兄妹の登場に驚いていた私は、兄たちと一年半ぶりの再会の喜びを全身で受け止めていた。しばらく兄妹の温もりを感じあって、私はやっと兄妹が目の前にいると実感した。
その様子を赤ん坊を抱いて椅子に座る見知らぬ女性が見守っていた。その横で目を潤ませる男性とすでに涙腺が壊れて滂沱状態の女性が立っていた。

「アイシア、誰だかわかるか?」
「────── お父様? と、お母様?」
「アイシア!」

エイデックお兄様の言葉に半信半疑で答えると、泣いている女性が駆け寄ってきてそのまま強く抱きしめられた。強すぎて、息が……

「や、め……」
「アイシアを離しなさい」
「イヤよ! やっと私の腕の中へ帰ってきたのよ! やっと……」
「だったら腕をゆるめなさい。アイシアを殺す気か」

少し厳しめの男性の声に、私を抱きしめていた腕がゆるむと思わず突き飛ばすように腕を伸ばして離れる。そのときに勢いがついていたのか、後ろにふらついた身体を大きな腕で支えられた。

「大丈夫かい? 急で驚かせてしまったな」

頭を撫でるこの暖かさを……私は覚えている。宰相や陛下が頭を撫でてくれたときの暖かさ。カイエルはそれを『親の愛』だと教えてくれた。

「お父様……」

私の声に黙って頷くこの人が、エイデックお兄様が手紙で書いてきた……?

「説明は手紙で書いたが……」
「無理でしょう? アイシアを一体何歳だと思っているのですか。はじめてエルリと会ったときより小さいのですよ」

エイデックお兄様がそういうとお父様が困った表情をする。その様子に、椅子に座っている女性がクスクスと笑いながら腕の中で眠る赤ん坊をあやしていた。

「アイシアは今五歳半。僕らが父様と母様にはじめて会ったのは半年前で僕が七歳になる三ヶ月前。エイデック兄様が誕生日を迎えた直後で八歳、ディディが四歳。僕たちと比べるより、一歳下のディディと同じだと思った方がいいよ」
「しかし、二人は手紙をだしているではないか」
「ですから、ように書かないから無理だと言っているのです」

エルリ兄様との会話やりとりだと、三人は半年前に両親と会ったようだ。エイデックお兄様の手紙に両親のことが書かれるようになったのも半年前からだ。
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