愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

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第五章

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「なんですって⁉︎」
「それは本当なのですか?」
「はい、その通りでございます」

私たちが驚いたのは、グリュンタール国に赴いた戦乙女の報告からです。この方はサルブレス公国の方とご縁があり、戦乙女の立場をそのままに、ほかのご縁に結ばれた戦乙女の方々とサルブレス公国に残られました。
戦乙女の方々は平民でも貴族同様の教養をお持ちです。女性の王族に関わることが多いので。そして生家で得た知識もあります。商家だったり鍛治師だったり、調合師だったため薬草に詳しい方もいらっしゃいます。生花店の出身でも、周りに毒性の草花があればそれを元に作戦を変えたりします。催眠性の高い薬草を使えば戦闘もなく無血開城が可能です。
戦乙女の方々は頭脳戦に明るい方々も多くいらっしゃられるのです。

「戦闘を避けて勝利に導くのもと呼ばれる所以です」

胸を張ってそう仰られる皆様は立ち居振る舞いも神々しいのです。


そんな方々から守られた大公に、王太子が抜刀して宣ったそうです。

「だったらサルブレス公国を滅ぼしてお前の息子を無惨に殺し、国民の前で息子の嫁を犯してやる! 飽きたら辻に置いて男たちの慰み者にしてやる!」

────── 王太子は一瞬で制圧されたそうです。

「似たことを使者も言っていましたね」
「つまり、女性蔑視の国ってことよ」

グリュンタール国は戦争を起こしたいようで、周辺各国に挙兵のために兵を差し出すよう命じているようです。

「それは無理ですね」
「それはなぜ?」
「私たちの婚姻によりサルブレス公国とモーリトス国は同盟を結んだ。それも戦乙女が派遣されるくらいに強固な同盟だ。事実はちょっと違うが周辺国はそう思っている。小国にしてみれば、背後に世界の半分を手中に収めた大国がいる公国と、王太子の失言で後がない自国と同じ小国のグリュンタール。─── ただ、小国には小国同士で結束がある。それを破って公国にすり寄るっていうのも……」

ライールは不快そうな表情で言葉を濁します。戦争を起こせば無辜の民の生命が奪われます。それは一番避けたいでしょう。ですが、結束を反故にした行為は不信感しかないのです。
小国の態度には私も不快感しかありません。簡単に裏切ったということは今後も約束ごとは破られるのでしょう。たとえ今回の件で兵を出せないというなら、直接でも信書でもそう訴えるべきです。

『グリュンタール国から挙兵を打診されましたが、我が国はサルブレス公国と行動を共にしたいと存じます』

各国はサルブレス公国にそう言って恩を着せようとしたそうです。その対価として、自国を守るよう一方的な交渉も行おうともしたそうですが大公は突っぱねました。

「小国の結束は何より固いものと伺っています。それを破るような裏切り者に擦り寄られるのは迷惑でしかありません」

サルブレス公国は結束に加わらない代わりに、小国同士で融通されてきた恩恵を受けてきませんでした。元々、国の一部に海岸線を有する国だったこともあり、ライールの話では利権漁りのために婚姻で結束を固める小国に辟易していたことも結束に加わらなかった理由だったそうです。

「な、何を……」
「正論であろう? ところで貴国にはグリュンタール国から嫁がれた令嬢がいたと思うが?」
「あ、はい。すでに同盟を破棄したため……」
「もしや手にかけた、とでもいうのではあるまい?」
「え、いや、その……」
「モーリトス国は生命を軽く扱う国を嫌う。それは重々承知であろう?」

大公は事前にそれを懸念していました。そのため、大公がグリュンタール国に向かわれると同時に戦乙女の皆さんが小国各国に向かわれたのです。救えたのは半数。どこの国から嫁いで来ようと、孫子まごこを愛しいと思うのは同じなのです。
ただ、救えなくても生きているのを確認できた国もあります。聡明な国の王侯貴族の中には、グリュンタール国の無礼を知り同盟の破棄を察知して投獄していたのです。

「話し合いの結果、過激な貴族たちの希望で国外追放となるでしょう。国外に追放された方々がは私共の預かり知らぬことです」

言葉をオブラートで優しくくるめば、『彼女たちは安全のために国外へ逃します。そのときに保護してあげてください』となる。実際に国境まで送られて、泣く泣く国を追われた女性たちには、戦乙女たちが事情を説明してモーリトス国に送られました。

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