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第五章
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しおりを挟むそして救えなかった女性たちも多くいます。
流通のある小国から縁あってグリュンタール国の方に嫁いだ二百人近くの女性は『裏切り国への見せしめ』として処刑されていたのです。市井の無辜の民、そして国の礎となられている方々を路傍の石のように扱われたのです。
「小国へ婿入りされた方、小国から婿入りされた方はいかが……」
私の言葉の途中で表情に翳りを見せられた戦乙女の方に声を途切らせてしまいました。
─── そう、そうなのですね。
男性の方が体力も戦闘能力も上です。女性は訓練されていないと路傍の草花でしかないのです。どちらを人質として残していると危険でしょう?それはもちろん男性です。敵の手に渡った上に武器を与えられれば、そのまま戦力になってしまうのです。
グリュンタール国のとった手段は、そう考えれば正しい手段です。
ですが、大事な点を忘れていました。彼らの敵は周辺国の小国ではなく、サルブレス公国およびモーリトス国なのです。
小国は人質の男性を国外追放しました。流石に報復として人質の男性たちを処刑できなかったのです。たとえ上に立つ者たちが問題ありであっても、国民が『右ならえ右』で従うでしょうか? 従うのでしたら洗脳を疑いますわ。さらにほかの国に住んでいたら、その国の考え方に感化されます。
そして、小国に移り住んだグリュンタール国出身の男性たちは人民に信頼と高評価されている方が多かったのです。それこそ報復という名の処刑をしようものなら国内が荒れてしまうほどに……
「国外追放された方々には、サルブレス公国に移っていただきました。中には家族が一緒に出られた男性もいます。のちに小国に戻るか、このまま公国に移り住むか決めていただきます」
「彼らは知るのでしょうね。生国の愚かな行為と小国の裏切りを。そして強き国にすり寄る小国の寄生根性を」
「父は人質だった者たちをどう扱うつもりでしょう?」
戦乙女の方の報告とイリアお義姉様の感想に、それまで難しい顔をされて黙っていたライールの口が動きました。
「それは……」
戦乙女の方が口ごもります。ええ、私も気になっていたのです。
「同盟に加わらず、『小国の結束』に加わらず、その恩恵を今まで受けてこなかった公国が、なぜ人質を拾う必要がありますの?」
私の指摘に戦乙女の方は口を閉ざし俯かれます。戦乙女の方が行ったのは強国による越権行為なのです。
「強国の使者が命じればそれに従うしかありません。たとえあなたにその意思はなく、ただ人質を救いたいという思いからの提案だとしても」
「エレン、あなた……まさか戦乙女側から人質の保護を申し出たの⁉︎」
「す、すみません!」
イリアお義姉様が青ざめた表情で詰問すると、戦乙女の方は床に跪きました。その姿にイリアお義姉様は慌ててライールに跪きました。
「私の部下が父君の公国に多大なるご迷惑をおかけしてしまいました。お詫びいたします。大変申し訳ございません」
「頭をお上げください、イリア王妃。これはあなたの責任ではございません」
「いいえ、私はモーリトス国王妃であり、戦乙女の総大将という立場でもございます。部下の不始末は私の不始末。責任は私にございます」
ライールが困った表情で私を見ました。ライールは謝罪を望んでいるのではありませんから、この状態に困っているのでしょう。仕方がありませんね。私が『ライールの妻』という立場で対応させていただきましょう。
ですが、今度からはあなたが自分で対応してくださいね、ライール。
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