愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

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第五章

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「戦乙女総大将イリア。この不始末を戦乙女はどう挽回するおつもりですか?」

私の言葉にライールが目を大きく見開いて驚いた表情を見せました。ですがイリアお義姉様は今、『戦乙女総大将』という臣下の立場で謝罪をしているのです。
本当に彼女に頭を上げていただきたいのであれば、話を先に進めるしかありません。

「はい。戦乙女に積み立てられている予算を使い、エリンたちが保護した方々の支援に使います。けっしてサルブレス公国およびモーリトス国の公費から支出するようなことはいたしません」
「保護した者たちはどうするのです?」
「はい。すでに女性たちはモーリトス国の避難民施設に収容しております。そちらにサルブレス公国で保護して頂いている方々に移っていただきます。そして、この騒動が終息したら各国にお送りします」
「ほとんどの方は国外追放の処分を受けています。そのため国に戻るのを拒否された場合はどうなさるおつもりですか?」
「まず、国外追放処分を取り消す意思があるかを確認します。そして取り消す意思がある国には送り返します」
「取り消す意思がない国にはどうしますか?」
「はい。グリュンタール国が滅びているならそのグリュンタールだった国に送り届けます。その上で移民を望まれるのであれば、正規の手続きを経ていただきます」

これはモーリトス国の対応です。

「では、ライール。サルブレス公国は移民をどう受け入れていますか?」
「え? ああ、サルブレス公国は小国からの移民や移住の受け入れはしていない。小国には小国同士の同盟がある。それに加わっていないサルブレス公国やたぶんモーリトス国、ほかの同盟国以外への移民や移住を禁止している。それと保護の間に使った費用や食費などは小国の同盟組織本部に請求すればいい。同盟に参加するのに金を毎年支払っているが、その金は今回のような請求に支払われる」
「そうですか。それでは戦乙女は騒動後、保護していた人たちを送り返すときに本部に出向いて請求をしてください」
「はい、ご指示どおりにさせていただきます」

そう言ったは、エリンを連れて部屋を飛び出していきました。

「リリィ、これでよかったのか?」
「イリアお義姉様のことですか?」
「ああ、仮にも王妃だから」
「イリアお義姉様は王妃であり戦乙女総大将なのよ。王妃として上に立ちたいだけなら戦乙女総大将の地位を返上すれば良いだけ。でもイリアお義姉様はそうしなかった。だったらその責務を果たしていただく。出来る、出来ないの問題ではないの。その地位にとどまると決めたのはイリアお義姉様。だからの」

ライールも理解したのでしょう。困った表情から驚きの表情に変わり、今は納得した表情から覚悟を決めた固く凛々しい表情をしています。

「俺が父や兄たちに『無責任』と言われていたのは王子としての責務から逃げていたからか」
「もう逃げられないわ。だって私の配偶者となり、オルティの父親となって、もう一人新しい生命が家族となるもの。そして新たな領地で領主の夫として私と一緒に領民を守っていくの」
「────── 責任重大だな」
「あら、簡単よ」

そう言って私はライールの胸に額を寄せます。

「あなたは私の夫。そして二人の子供の父親。それだけよ」
「ああ、俺はただ家族と幸せになるために生活を整えていくだけなのだな」
「出来ますか?」
「ああ、愛する家族と仲間たちの幸せで平穏な日々のために」
「フフフ。『夫連合』で頑張ってください。『小ネズミ』に戻らないでくださいね」
「もちろん、愛する家族のために。そして新たな生命と、この先に生まれるのを待っているであろう我が子たちのために」

ライールはそう言って優しく抱きしめて額にキスをくださいました。

「まあ、私はあと何人産むのかしら?」
「何人でも。その子たちが幸せになれるよう俺は努力しよう」

それは巡り巡って領地の安寧秩序に。そしてモーリトス国の繁栄に。さらには海の向こうにあるサルブレス公国の平穏に。
いずれは国単位ではなく世界中の人々に『より良い時代』が訪れるのですわ。

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