愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径

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「こちらの世界に来るのは久しぶりですわね」

すでに愛し子たちは神の御許みもとへと旅立ちました。

「あれから三百年。世界も変わりましたわね」
「ええ、すでに国は統廃合で数を減らし、領地は都市と名を変えました」

あのとき、リリィたちがレヴィリア領に旅立つ前日に私たちは精霊の地へ引っ越しをしました。リリィからゆっくりと精霊の力を抜いてきたため、『普通の人より少し魔力が多い』程度にまで減らすことができました。

「リリィったら百五十年の寿命と聞いて笑ったのよ。『ひ孫まで抱けるかしら?』って。『玄孫まで抱けるわよ』って言ったら『じゃあ、その子たちが幸せになれるように領地を整えなきゃ』って」

その言葉通り、国の端にあるレヴィリア領は産業に特化した領地となったようだ。兄妹領だったアーシュレイ領はレヴィリア領が開発した農耕具で農作業が軽減された。その代わりに農地は広がり収穫量は農耕具を導入する前の五倍にまで跳ね上がったという実績が評価された。それが流通網のさらなる発展に結びつき、地の利から不便と言われてきたレヴィリア領は今でも有名な魔導具製造都市として繁栄している。

「精度も性能も高い魔導具なのね」
「魔導具は精霊魔法が元になってるけど、農耕具は現地の声を聞いて作って改良を重ねてきたのね」
「さすが、お二人の血をひくお孫さんですわ」

そう誉められて喜ばない祖父母はいない。カイエルもアイシアも誇らしげに微笑んだ。

「今では魔物を家畜化することにも成功したようね」
「それを安定供給させることもできているわ」
「ソレイユとジョスカーを引き取らせた農場の成果ね」
「ソレイユは異世界の知識を持っていたわ。それを正しく役立たせることができたのね」

彼らは最期まで奴隷のままだった。何度か自我を取り戻しては様々な提案をしてきた。しかし、生来の性格が矯正されることはなく自我を封じられることも多かったようだ。

「愚かでした。自分たちはどこまでも愚かでした」
「私たちは何度もやり直すチャンスをいただきました。それを壊してきたのは私たちです。今の姿は愚かな私たちに相応しいものです」

そう言っていた二人の死は壮絶なものだった。
ソレイユの知識に目をつけた者たちに狙われ、歯向かったソレイユとジョスカーは主人と仲間たちを逃して立てこもった宿舎ごと火に包まれた。焼け跡には固く抱き合った二人の遺体が炭化状態で見つかったらしい。

「脅しのつもりで火を付けた」
「逃げ出してくると思っていた! そうしたら救助と称して連れ去るつもりだった! 相手は奴隷なんだ。なぜこちらの命令に従わない!」
「「奴隷は殺しても罪にならない」」

取り押さえられた犯人たちは本当にそう考えていたらしい。彼らは『死んだのは奴隷だから罪にならない』と思い、自分たちの正当性を訴えた。しかし、二人はモーリトス国の国賊で主人はモーリトス国だ。さらに奴隷を場合に罪を問われないのは主人だけだ。体罰などで殺した場合はもちろん罪になる。誰でも罪にならないというわけではない。

「お前たちには奴隷になってもらおう。それも奴隷の中でも一番罪が重い永久奴隷に。奴隷保護法を外してもよいな? 『奴隷は誰が殺しても構わない』のであろう?」

犯人たちは泣いて謝罪したが国賊を殺したのだ。優しい罪になるはずがない。彼らの主人は自らが殺した奴隷たちの主人がなった。二人の代わりに死ぬまで働くことになったが……
自ら発した言葉の通り、主人以外の者に殴り殺された。
その犯人は奴隷を殺した罪に問われなかった。ただし、奴隷の主人に多大な慰謝料を支払うこととなったが。それは情報を鵜呑みにした自業自得である。

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