類を惹く

星来香文子

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第七章 狂者の昂進

狂者の昂進(1)

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 向井さんが住んでいたマンションの屋上から、B室の住人の証言通り兄を盗撮した写真と、ゴミ置場から回収してきたであろうペットボトルや空き缶が見つかった。
 どれも、丁寧にジップロックに入れて回収した日付まで書かれている。
 彼女がストーカーをしていた十分な証拠であった。

 しかし、彼女はあくまで自分は兄を守ろうとしていただけで、殺してはいないという。
 その証拠として、不機嫌そうに怒りながら渡されたのは、事件が起きた当日の202号室の玄関前の映像だった。
 もちろん、それも盗撮したものだ。

 設置したのは事件が起こる三日前だったのだが、ネットで購入した安物だったようで所々画像が止まったり、画質が荒くなってしまったりしてはいたものの、証拠として十分だった。
 自分が隠しカメラを仕掛けたことがばれるのを恐れて、警察通報し、騒ぎになる前に思い出して密かに外したのだという。

 映像を確認すると、兄は夕方五時半頃に帰宅していたようだ。まだ外は明るく、電気をつけるには少し早いくらいだ。
 202号室の鍵を開けて、中に入っている。
 その後、数分後に階段がある画面左下の方から、髪の長い女性が202号室を訪ねているのが映っていた。
 
 兄はその女性と少し会話しているようだったが、カメラの角度から女性の顔はよく見えなかった。
 女性が部屋の中に入ったところで、画質が荒くなり、画像が止まってしまう。

 しばらく早送りしてみたが、カメラの映像は兄の死亡推定時刻まで止まったり動いたりを繰り返していて、本当に使い物にならなそうだった。
 そのうち、向井さんがやってくる。
 そこでやっと映像が少し動いた。時刻は日付が変わる少し前。

 少しだけ空いていた玄関のドアの開けて中を覗くと、彼女は持っていたタッパーを床に落として、大慌てで階段を駆け下りていく。
 玄関の中には入っていない。
 また少しだけ映像が止まって、201号室の部屋の明かりがついたのか、画面の左端が少しだけ明るくなった。
 そこへ、また髪の長い女がやってくる。

「これ……服装がさっきの女性と違いますね」
「あ、本当だ」

 二人とも同じような色のミモレ丈のワンピースを着ていたようだが、若干柄の感じが違っていた。
 この時、空いていた玄関の前に立ち、中へ入って行ったのが横田葵だろうという話になった。
 古住弁護士が持っていた事件当時の資料の中に写っている当時の横田葵の服装と一致したのだ。

 その後、警察と向井さんが202号室へやってくる。
 向井さんがカメラの存在を思い出して、画面いっぱいに向井さんの顔のドアップが映ったところで映像は終わった。


「この映像が何度か止まっている間に、最初の女性が出て行ったんじゃないでしょうか? 横田葵さんが着替えてもう一度入ってくるなんてことはないでしょうし……というか、この最初の女性が入って来た時間には横田葵さんにはアリバイがあるんです」
「それじゃぁ、やっぱり、犯人は横田葵じゃないってことですよね」
「そうなりますね。でも、一体誰なんでしょうか? この女性……————向井さん、他の日の映像は残っていますか?」
「あるけど……? 必要なの?」
「飛鳥さんがすんなり中に入れたということは、知り合いの可能性が高いと思います。飛鳥さんには、スーパーで働いている料理上手な彼女がいるという話も出ていますし」
「スーパーで働いている料理上手な彼女!? どこの誰よ!!」
「ですから、それがわからないから調べているんじゃないですか。落ちつてください。これ以前の映像は全て確認しましたか?」
「全部は見てないわ。あの子……横田葵が飛鳥くんの玄関の前で何かしているって話を聞いて、問い詰めるために設置したものなのよ。一日目は見たけど……」

 お世辞にも、盗撮なのでいいこととは言えないが、真犯人を見つけるためにはこの映像はかなり重要な手がかりとなった。
 改めて映像を一日目から確認してみると、二日目、事件の起こる前日にも兄の部屋を訪ねてチャイムを鳴らしている————おそらく同じ女性であろう髪の長い女がいたのだ。
 何度か映像は途切れ、画質はあまり良くはなかったが、兄が不在なのがわかって諦めて帰ろうとその女が振り返った。

「これ……201号室の————」

 向井さんが一番最初に彼女の顔を見て、それを口にした。

「音成さんと同棲してた女よ!! この顔、そうだわ、絶対そう!! どういうこと!? なんで、この女が飛鳥くんの部屋に!? まさか、浮気!? なんて、穢らわしい!!」

 興奮した向井さんが、また顔を真っ赤にして怒っているが、反対に私は震えが止まらなかった。
 色の白いその髪の長い女の顔が、AJIYA食品本社ビルのエレベーターですれ違った女とよく似ていたからだ。
 
 音成優さんによく似た、あの女と。
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