424 / 499
第14部
第二章 レディース・サミット3③
しおりを挟む
一方、第三会議室は、緊迫感に包まれていた。
原因は言うまでもなく、サクヤの強烈な一言にある。
全員がサクヤに注目していた。
そこへ、サクヤは、さらに畳みかける。
手をちょこんと上げて。
「ちなみに、先日、トウヤとはエッチもしました。一晩中……というより、丸一日レベルで愛を確かめ合いました」
「「「――ッ!?」」」
全員が息を呑む中、サクヤは素早く状況を見定めた。
全員の顔色を一瞥する。
激しく動揺しているのは四人。年少組だ。
年長者の二人は、不満げにサクヤを睨みつけている。
全く動揺していないのは一人だけだ。
オトハ=タチバナ。
やはり、彼女だけは、サクヤと同じ場所にいるのだと確信した。
「……ふん」
そして一番先に口を開いたのも、やはりオトハだった。
「クラインが貴様を愛していることなど、ここにいる者たちは全員知っている。その先にある行為など今さらだ。それよりも……」
オトハは、サクヤを睨みつけた。
「あいつのことは、『アッシュ』か、『クライン』と呼べ。あいつがどんな想いであの名前を名乗っていることは、貴様もよく理解しているだろう」
「………」
サクヤは沈黙した。
「……そうね」
そして首肯する。
「彼のことは、アッシュと呼ぶことにするわ。実は何度かは練習もしていたのだけど、まだ全然慣れなくて」
言って、サクヤは微笑んだ。
あまりにも穏やかな笑みに、少し空気も緩和する。
「……サクヤさんが」
続けて、口を開いたのはアリシアだった。
「アッシュさんに愛されていることは、よく知っています。それを踏まえた上で、お尋ねします。サクヤは……」
一拍おいて。
「これから、どうしたいんですか?」
シン、とした。
誰もが、サクヤに注目する。
それに対して、サクヤは、
「私は……」
自分の想いを語る。
「アッシュを愛しています。ここにいる誰よりも。だから宣言します。私は……」
一呼吸入れて、彼女は告げた。
すでにアッシュ自身にも言った台詞を。
「――私こそが、アッシュの『正妻』であると」
その宣言に、全員が目を剥いた。
全員が、驚きを隠せないようだった。
――『妻』ではなく、『正妻』。
その言い回しの差が意味することとは……。
「それで……いいの?」
そう呟くのは、ユーリィだった。
「サクヤさんは多分、一番アッシュに愛されている。アッシュに望めば……きっと、アッシュは応えると思う」
辛そうに呟く。
口惜しく思うが、自分はまだ『愛娘』から脱却しきれていない。
想いを告げて、ようやくスタートラインに立ったばかりだ。アッシュに『女』として見てもらうには、まだまだ時間がかかるだろう。
けれど、サクヤは――。
ユーリィが、下唇をキュッと噛みしめる。と、サクヤは双眸を細めた。
「トウ……アッシュにとって、あなたたちも大切なのよ。絶対に失いなくないと思えるぐらいに。本人はまだ、曖昧な自覚しかないみたいだけど……」
そこで、小さく息を吐きだした。
「私は、もう彼を苦しめるような真似はしたくない。それに、今の彼を作ってしまったのは私の責任よ。これも運命だわ。けど!」
サクヤは立ち上がって、自分の豊かな胸元に片手を当てた。
そして、もう一度宣言する。
「これだけは譲らないわ! 『正妻』は私! 一番は私なのよ!」
「……言ってくれるわね」
その宣言に青筋を立てたのは、ミランシャだった。
「少しだけ先にアシュ君と出会って、少しだけ先にアシュ君と実戦を経験したからって、ちょっと調子に乗りすぎじゃないかしら?」
立ち上がって、ポキポキと拳を鳴らした。
「あら。その差って結構大きいと思いますけど?」
サクヤはサクヤで、退く様子はない。
再び険悪になる空気。流石にオトハがミランシャを止めようとした時、
「……うんしょ」
不意にそう呟いて、ルカが動いた。
足元から大量の本を取り出して、ズドンと机の上に置いたのだ。
「……ルカ?」
ルカと一番親しいユーリィが、小首を傾げた。
ルカは、ポンと両手を叩いた。
「よかった、です。これで、みんな、仮面さんのお嫁さんに、なれます」
にっこりと笑う。
「え、えっと、ルカ?」「いや、そうなんだけど……」
姉貴分であるサーシャとアリシアは、困惑した顔で妹分を見た。
ルカの笑みは崩れない。
「色々と、調べました。アティスでは一夫多妻は、今でも認められて、います。必要なのは男爵位だけで。それは、賞与で得た人もいるけど、お金でも購入できる、そうです。過去の記録だと、ビラル金貨、百枚から百二十枚で。鎧機兵五、六機分の金額だから、決して安くはないけれど」
ポン、と書物の山に両手を乗せてルカが告げた。
本気で着々と話を進める王女さまに、全員が呆気に取られた。
「……私の、降嫁に、関しても、実例があるから、問題、ないです」
視線を落として少し恥ずかしそうだったが、ルカははっきりとそう告げた。
「お見事です。ルカさま」
と、声を掛けたのは、シャルロットだった。
「すでに準備は万端という訳ですね。では、後は……」
彼女は顔を少し赤くして、周囲に目をやった。
「サクヤさまとオトハさま。このお二人の除いた私たちが、どの順番であるじ――クライン君にしっかりと愛されるかですね」
一拍の間。
――ボンッ、と。
全員の顔が真っ赤になった。サクヤとオトハも含めてだ。
「――わ、私はっ!」
その時、ユーリィが立ち上がった。
「大丈夫っ! だって、アッシュに私を貰ってもらう言質を取っている! な、なんなら今からでも頑張るって伝えてあるからっ!」
完全に、目がグルグルと回った状態で、そんなことを叫んだ。
サクヤだけは「ええッ!?」と、愕然としていた。
彼女だけは、その話を知らなかった。
全員がユーリィに注目する中、次に動いたのはルカだった。
自分の顔をこするように両手を動かしながら、「あ、あう……」と口を開く。
「お、お母さんが、私を身籠ったのは、十代後半でした。だ、だから私も……」
溢れ出しそうな羞恥で目尻に涙を浮かべつつも、彼女ははっきりと意志を示した。
先陣を切る最年少二人に、負けじと思ったのか、
「――ア、アタシだってッ!」
ミランシャが、バンッと机の上を叩いた。
彼女の顔は、髪にも負けないぐらい真っ赤だった。
「アルフがいるから大丈夫よ! 家を出ても家名を捨てても大丈夫っ! 今すぐにだってアシュ君の元に翔んでみせるわ!」
「……私は」言い出した本人であり、比較的冷静なシャルロットが口を開く。
「元より孤児の身。リーゼお嬢さまからも進退の承諾を得ております。すべてにおいて彼に仕える覚悟も準備も出来ています」
自分の胸元に手を当てて、堂々たる声色で宣言した。
彼女たちの視線は、残る二人に向けられた。
アリシアと、サーシャだ。
アリシアは、コホンと喉を鳴らした。
「私も覚悟は出来ているわ」
そう切り出して。
「私はアッシュさんと出会って、初めて恋を知ったわ。だけど、それはとても淡い恋。時間が過ぎれば、ただの思い出になるような恋だった。多分、私はこの中で一番覚悟が出来ていなかったと思う」
だけど、と言葉を続ける。
「今の私は違うわ。もう思い出なんかにするつもりはない。そもそも私って負けず嫌いだったのを思い出したし。何もしないでくよくよするなんて馬鹿みたいだったわ」
アリシアは迷いを払いように長い髪をかき上げた。
「まあ、そうなると、それって今さらの話よね。だって、いつかはする必然的な行為なんだし。むしろ、私にとって最大の問題は、私の父親を納得させることなんだけど、そこは何とかするしかないわね」
そう告げて、最後に苦笑を浮かべた。
全員の視線が最後の一人に移る。
サーシャ=フラムだ。
彼女は微笑んだ。
「私は、アッシュを愛しています」
迷いなくそう告げる。
「私は、アッシュの強さも弱さも、傍で見てきました。その上で、私は彼の傍にいたいと思った。その想いに揺らぎはありません」
彼女は、机の上に置いてある自分のヘルムに、そっと手を置いた。
「彼が望むのなら、私は全力で応えたい。私は消えたりしないと彼に教えてあげたい。私はずっと彼の傍にいたい」
覚悟を込めて、サーシャはもう一度言う。
「私は、アッシュを愛しています。だからアリシアの言う通り、それは今さらです。流石に口にすると恥ずかしいけど」
まあ、お父さまの説得がしんどそうなのは私も同じかな。
そう言って、言葉を締めた。
すると、オトハが笑った。
「順番の話だったのだが、全員の覚悟を問うことになったか。ただ……」
そこで、少し気難しい顔をする。
「フラムとエイシスの話でふと思ったのだが、案外、最終的なハードルが一番高いのは私なのかもしれないな」
「「……え?」」
サーシャとアリシアが、キョトンとした。
オトハは、深い溜息をついてから、ボソリと告げた。
「私の父親の話だ。正直に言って、私の父さま……父は格が違う」
武の化身のような実父の姿を思い出して、オトハは冷や汗を流した。
「クラインのことだ。いつかは私の父に挨拶に行くつもりだろう。生真面目なのは変わらないからな。だが、流石にこの状況を知れば、父は……」
「うわあ……」
ミランシャが、顔を引きつらせた。
「オトハちゃんのお父さんって《黒蛇》の団長よね。《刀天覇王》とか呼ばれてる」
「……ああ。娘の私が言うのも何だが、正真正銘の化け物だ」
そんな人物に、娘さんを嫁の一人にくださいとお願いする訳だ。
いかに、アッシュであっても、こればかりは命がけかもしれない。
「まあ、その時は私も加勢すればいいことか」
オトハは、嘆息した。
そして、サクヤに視線を戻した。
「ともあれ、ここにいる全員は、すでに覚悟済みということだ」
「ええ。そうね……」
サクヤは、脱力するように微笑んだ。
「相変わらず、トウ……アッシュは恐ろしいわ。これだけの綺麗な子たちに、ここまで言わせるなんて。コウちゃんにもその傾向があるし。けど、それも、ここに至ってはどうしようもないことね」
そう呟いて、サクヤは、机の上を指先でなぞった。
それから、視線をオトハたちに向ける。
「ともかく。皆さんの覚悟は分かりました。では、ここでしなければならないことは」
サクヤはポケットの中から、一本のペンを取り出した。
そして、にっこり笑って告げるのだった。
「これまでのことと、これからのことを。順番の件も大事なことだけど、まずは私たちの状況を整理しましょうか」
原因は言うまでもなく、サクヤの強烈な一言にある。
全員がサクヤに注目していた。
そこへ、サクヤは、さらに畳みかける。
手をちょこんと上げて。
「ちなみに、先日、トウヤとはエッチもしました。一晩中……というより、丸一日レベルで愛を確かめ合いました」
「「「――ッ!?」」」
全員が息を呑む中、サクヤは素早く状況を見定めた。
全員の顔色を一瞥する。
激しく動揺しているのは四人。年少組だ。
年長者の二人は、不満げにサクヤを睨みつけている。
全く動揺していないのは一人だけだ。
オトハ=タチバナ。
やはり、彼女だけは、サクヤと同じ場所にいるのだと確信した。
「……ふん」
そして一番先に口を開いたのも、やはりオトハだった。
「クラインが貴様を愛していることなど、ここにいる者たちは全員知っている。その先にある行為など今さらだ。それよりも……」
オトハは、サクヤを睨みつけた。
「あいつのことは、『アッシュ』か、『クライン』と呼べ。あいつがどんな想いであの名前を名乗っていることは、貴様もよく理解しているだろう」
「………」
サクヤは沈黙した。
「……そうね」
そして首肯する。
「彼のことは、アッシュと呼ぶことにするわ。実は何度かは練習もしていたのだけど、まだ全然慣れなくて」
言って、サクヤは微笑んだ。
あまりにも穏やかな笑みに、少し空気も緩和する。
「……サクヤさんが」
続けて、口を開いたのはアリシアだった。
「アッシュさんに愛されていることは、よく知っています。それを踏まえた上で、お尋ねします。サクヤは……」
一拍おいて。
「これから、どうしたいんですか?」
シン、とした。
誰もが、サクヤに注目する。
それに対して、サクヤは、
「私は……」
自分の想いを語る。
「アッシュを愛しています。ここにいる誰よりも。だから宣言します。私は……」
一呼吸入れて、彼女は告げた。
すでにアッシュ自身にも言った台詞を。
「――私こそが、アッシュの『正妻』であると」
その宣言に、全員が目を剥いた。
全員が、驚きを隠せないようだった。
――『妻』ではなく、『正妻』。
その言い回しの差が意味することとは……。
「それで……いいの?」
そう呟くのは、ユーリィだった。
「サクヤさんは多分、一番アッシュに愛されている。アッシュに望めば……きっと、アッシュは応えると思う」
辛そうに呟く。
口惜しく思うが、自分はまだ『愛娘』から脱却しきれていない。
想いを告げて、ようやくスタートラインに立ったばかりだ。アッシュに『女』として見てもらうには、まだまだ時間がかかるだろう。
けれど、サクヤは――。
ユーリィが、下唇をキュッと噛みしめる。と、サクヤは双眸を細めた。
「トウ……アッシュにとって、あなたたちも大切なのよ。絶対に失いなくないと思えるぐらいに。本人はまだ、曖昧な自覚しかないみたいだけど……」
そこで、小さく息を吐きだした。
「私は、もう彼を苦しめるような真似はしたくない。それに、今の彼を作ってしまったのは私の責任よ。これも運命だわ。けど!」
サクヤは立ち上がって、自分の豊かな胸元に片手を当てた。
そして、もう一度宣言する。
「これだけは譲らないわ! 『正妻』は私! 一番は私なのよ!」
「……言ってくれるわね」
その宣言に青筋を立てたのは、ミランシャだった。
「少しだけ先にアシュ君と出会って、少しだけ先にアシュ君と実戦を経験したからって、ちょっと調子に乗りすぎじゃないかしら?」
立ち上がって、ポキポキと拳を鳴らした。
「あら。その差って結構大きいと思いますけど?」
サクヤはサクヤで、退く様子はない。
再び険悪になる空気。流石にオトハがミランシャを止めようとした時、
「……うんしょ」
不意にそう呟いて、ルカが動いた。
足元から大量の本を取り出して、ズドンと机の上に置いたのだ。
「……ルカ?」
ルカと一番親しいユーリィが、小首を傾げた。
ルカは、ポンと両手を叩いた。
「よかった、です。これで、みんな、仮面さんのお嫁さんに、なれます」
にっこりと笑う。
「え、えっと、ルカ?」「いや、そうなんだけど……」
姉貴分であるサーシャとアリシアは、困惑した顔で妹分を見た。
ルカの笑みは崩れない。
「色々と、調べました。アティスでは一夫多妻は、今でも認められて、います。必要なのは男爵位だけで。それは、賞与で得た人もいるけど、お金でも購入できる、そうです。過去の記録だと、ビラル金貨、百枚から百二十枚で。鎧機兵五、六機分の金額だから、決して安くはないけれど」
ポン、と書物の山に両手を乗せてルカが告げた。
本気で着々と話を進める王女さまに、全員が呆気に取られた。
「……私の、降嫁に、関しても、実例があるから、問題、ないです」
視線を落として少し恥ずかしそうだったが、ルカははっきりとそう告げた。
「お見事です。ルカさま」
と、声を掛けたのは、シャルロットだった。
「すでに準備は万端という訳ですね。では、後は……」
彼女は顔を少し赤くして、周囲に目をやった。
「サクヤさまとオトハさま。このお二人の除いた私たちが、どの順番であるじ――クライン君にしっかりと愛されるかですね」
一拍の間。
――ボンッ、と。
全員の顔が真っ赤になった。サクヤとオトハも含めてだ。
「――わ、私はっ!」
その時、ユーリィが立ち上がった。
「大丈夫っ! だって、アッシュに私を貰ってもらう言質を取っている! な、なんなら今からでも頑張るって伝えてあるからっ!」
完全に、目がグルグルと回った状態で、そんなことを叫んだ。
サクヤだけは「ええッ!?」と、愕然としていた。
彼女だけは、その話を知らなかった。
全員がユーリィに注目する中、次に動いたのはルカだった。
自分の顔をこするように両手を動かしながら、「あ、あう……」と口を開く。
「お、お母さんが、私を身籠ったのは、十代後半でした。だ、だから私も……」
溢れ出しそうな羞恥で目尻に涙を浮かべつつも、彼女ははっきりと意志を示した。
先陣を切る最年少二人に、負けじと思ったのか、
「――ア、アタシだってッ!」
ミランシャが、バンッと机の上を叩いた。
彼女の顔は、髪にも負けないぐらい真っ赤だった。
「アルフがいるから大丈夫よ! 家を出ても家名を捨てても大丈夫っ! 今すぐにだってアシュ君の元に翔んでみせるわ!」
「……私は」言い出した本人であり、比較的冷静なシャルロットが口を開く。
「元より孤児の身。リーゼお嬢さまからも進退の承諾を得ております。すべてにおいて彼に仕える覚悟も準備も出来ています」
自分の胸元に手を当てて、堂々たる声色で宣言した。
彼女たちの視線は、残る二人に向けられた。
アリシアと、サーシャだ。
アリシアは、コホンと喉を鳴らした。
「私も覚悟は出来ているわ」
そう切り出して。
「私はアッシュさんと出会って、初めて恋を知ったわ。だけど、それはとても淡い恋。時間が過ぎれば、ただの思い出になるような恋だった。多分、私はこの中で一番覚悟が出来ていなかったと思う」
だけど、と言葉を続ける。
「今の私は違うわ。もう思い出なんかにするつもりはない。そもそも私って負けず嫌いだったのを思い出したし。何もしないでくよくよするなんて馬鹿みたいだったわ」
アリシアは迷いを払いように長い髪をかき上げた。
「まあ、そうなると、それって今さらの話よね。だって、いつかはする必然的な行為なんだし。むしろ、私にとって最大の問題は、私の父親を納得させることなんだけど、そこは何とかするしかないわね」
そう告げて、最後に苦笑を浮かべた。
全員の視線が最後の一人に移る。
サーシャ=フラムだ。
彼女は微笑んだ。
「私は、アッシュを愛しています」
迷いなくそう告げる。
「私は、アッシュの強さも弱さも、傍で見てきました。その上で、私は彼の傍にいたいと思った。その想いに揺らぎはありません」
彼女は、机の上に置いてある自分のヘルムに、そっと手を置いた。
「彼が望むのなら、私は全力で応えたい。私は消えたりしないと彼に教えてあげたい。私はずっと彼の傍にいたい」
覚悟を込めて、サーシャはもう一度言う。
「私は、アッシュを愛しています。だからアリシアの言う通り、それは今さらです。流石に口にすると恥ずかしいけど」
まあ、お父さまの説得がしんどそうなのは私も同じかな。
そう言って、言葉を締めた。
すると、オトハが笑った。
「順番の話だったのだが、全員の覚悟を問うことになったか。ただ……」
そこで、少し気難しい顔をする。
「フラムとエイシスの話でふと思ったのだが、案外、最終的なハードルが一番高いのは私なのかもしれないな」
「「……え?」」
サーシャとアリシアが、キョトンとした。
オトハは、深い溜息をついてから、ボソリと告げた。
「私の父親の話だ。正直に言って、私の父さま……父は格が違う」
武の化身のような実父の姿を思い出して、オトハは冷や汗を流した。
「クラインのことだ。いつかは私の父に挨拶に行くつもりだろう。生真面目なのは変わらないからな。だが、流石にこの状況を知れば、父は……」
「うわあ……」
ミランシャが、顔を引きつらせた。
「オトハちゃんのお父さんって《黒蛇》の団長よね。《刀天覇王》とか呼ばれてる」
「……ああ。娘の私が言うのも何だが、正真正銘の化け物だ」
そんな人物に、娘さんを嫁の一人にくださいとお願いする訳だ。
いかに、アッシュであっても、こればかりは命がけかもしれない。
「まあ、その時は私も加勢すればいいことか」
オトハは、嘆息した。
そして、サクヤに視線を戻した。
「ともあれ、ここにいる全員は、すでに覚悟済みということだ」
「ええ。そうね……」
サクヤは、脱力するように微笑んだ。
「相変わらず、トウ……アッシュは恐ろしいわ。これだけの綺麗な子たちに、ここまで言わせるなんて。コウちゃんにもその傾向があるし。けど、それも、ここに至ってはどうしようもないことね」
そう呟いて、サクヤは、机の上を指先でなぞった。
それから、視線をオトハたちに向ける。
「ともかく。皆さんの覚悟は分かりました。では、ここでしなければならないことは」
サクヤはポケットの中から、一本のペンを取り出した。
そして、にっこり笑って告げるのだった。
「これまでのことと、これからのことを。順番の件も大事なことだけど、まずは私たちの状況を整理しましょうか」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる