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第6部
第八章 贄なる世界④
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『ぐああああァああああああああアァァ――――ッ!』
異空間に轟く絶叫。
『痛てエェ、痛てエエぇんだよォォ!』『殺してくれえェえ、殺してやるゥゥ!』『ちくしょうゥ……なんで、なんで俺だけがあああああァァ!』
そして次々と湧き上がるおぞましい雄叫び。
静かな街並みを模倣した《怨嗟》の世界にて、黒い影が乱立していく。
『……これは』
コウタは面持ちを鋭くする。
黒く巨大な影達は徐々に形を定めた。すべてが人型だ。それは狼の頭部を持つ黒い鎧機兵の姿をしていた
『確か追憶兵だったっけ? けど、こんな機体に見覚えは……』
コウタは独白のように呟く。
――追憶兵とは、相界陣の機能の一つだった。
一つの世界を創り出す相界陣には、ある特徴があった。
それは、生み出す世界が取り込んだ相手の記憶に依存することだ。
例えば周囲を覆う景色。これはコウタのルーフ村の記憶から創り出されている。
そして追憶兵も同様だ。対象者の記憶から兵を生み出すものと聞いている。
だからこそ、コウタは疑問に思った。
眼前に立ち塞がる十数機の鎧機兵に全く見覚えがなかったのだ。
(流石に《金妖星》や《水妖星》なんて生み出されたら洒落にもならないけど、なんで全く知らない鎧機兵が出てくるんだ?)
「ふん、疑問か?」
すると、その疑問に答えてくれたのは鉄仮面の女だった。
「言っただろう。私の相界陣は特殊であると」
言って、彼女は自分の胸元に片手を当てた。恐らくそこに相界陣を発生させる中核である道具――『キューブ』を仕込んであるのだろう。
「私の相界陣は数世代前の時代遅れの品でな。他者の記憶には頼らない。私の記憶を元に世界を生み出しているのさ」
『自分の記憶で』コウタは眉根を寄せた。
『相手に頼らなくてもいいのか。それは随分と使い勝手が良さそうですね。どうしてそれが時代遅れなんですか?』
湧き出てきた素朴な疑問を彼女にぶつけてみる。
鉄仮面の女は肩を竦めた。
「効率が悪いのさ。特に追憶兵がな。閉鎖世界そのものは私の記憶で創り出せる。だが追憶兵だけは違う」
そこで彼女は仮面の下で皮肉げに笑った。
「このキューブで追憶兵を生み出すには、呼び出したいその相手を自分の手で殺さなければならないからな」
『………………』
コウタは無言で周囲に目をやった。
怨嗟の影はさらに増えている。五十――いや七十はいるか。
「私がこれまで殺した人間の数は九十六人。役にも立たない愚図もいるが、その内の七十七人は鎧機兵も操れる強者だった」
怨嗟の影は次々と形を定めていった。
今や一個の軍隊のようだった。
コウタは愛機を通じて屋根の上に陣取る鉄仮面の女を見据えた。
『あなたは死者を操るのですか?』
「ああ、その通りだ」
鉄仮面の女は恭しく礼をした。
「私は《怨嗟の魔女》。死を喰らう女。殺せば殺すほど強くなる悪魔だ」
『………そうですか』
コウタは小さく嘆息した。
『なるほど。分かりました。けど、おかげで一つ安心しました』
「……なに?」
今度は鉄仮面の女が仮面の下で眉をひそめた。
「どういう意味だ? 安心しただと?」
『だってそうでしょう。ここにいるのはあなたとボク以外は死者の幻影だけだ』
そこでコウタはふっと笑った。
『それって相手に怪我をさせないように気遣う必要もないってことですから』
言って、コウタは愛機に戦闘の意志を伝えた。
途端、《ディノス》は石畳を蹴り付けて加速する。
それはまるで瞬間移動のような速度だった。そして次の刹那には《ディノス》は処刑刀を狼頭の鎧機兵に振り下ろしていた。
――ザンッ!
処刑刀は一瞬の停滞もなく狼頭の鎧機兵を頭から両断した。
さらに黒い処刑刀は、勢い余って大地までも深く切り裂いていく。
「な、なんだと?」
まさに刹那。
それこそ瞬きの時間さえもかけず《ディノス》は敵の一機を葬り去った。
鉄仮面の女――ジェシカは仮面の下で目を剥いていた。
『――ぐがああああアァ! 殺してやららア!』
そんな中、狼頭の一機が怨嗟を上げて襲い掛かるが、
――ズンッ!
水平に振られた処刑刀の前に胴体が泣き別れをする。
機体は二つに分かれて地面に転がった。
『正直に言うと、ボクは自分より弱い人と戦うのはあまり得意じゃありません』
魔竜を象る鎧機兵が、血糊を落とすように処刑刀を振るう。
そして主人である少年は語り続けた。
『出来ることなら傷つけたくない。殺したくない。むしろ自分よりも強い人と戦う方が遙かに気が楽なんです。だけど、相手が最初から死者なら気に掛ける必要もない』
「……お前は」
――どこまでも傲慢。
ジェシカは改めて《悪竜の御子》の本質を知ったような気がした。
『けれど、たとえ幻影であってもやっぱり不快なのは事実です。ボクはあなたのやり方を許せそうにない。このままあなたを放置する気もない』
そう言って、コウタの操る《ディノス》はジェシカを睨み据えた。
悪竜の騎士の眼光に、ジェシカは息を呑む。
『――ボクは』
そしてそんな彼女に、コウタははっきりと宣告する。
『ここであなたの《怨嗟》を喰らい尽くす。あなたを逃すつもりはないから』
異空間に轟く絶叫。
『痛てエェ、痛てエエぇんだよォォ!』『殺してくれえェえ、殺してやるゥゥ!』『ちくしょうゥ……なんで、なんで俺だけがあああああァァ!』
そして次々と湧き上がるおぞましい雄叫び。
静かな街並みを模倣した《怨嗟》の世界にて、黒い影が乱立していく。
『……これは』
コウタは面持ちを鋭くする。
黒く巨大な影達は徐々に形を定めた。すべてが人型だ。それは狼の頭部を持つ黒い鎧機兵の姿をしていた
『確か追憶兵だったっけ? けど、こんな機体に見覚えは……』
コウタは独白のように呟く。
――追憶兵とは、相界陣の機能の一つだった。
一つの世界を創り出す相界陣には、ある特徴があった。
それは、生み出す世界が取り込んだ相手の記憶に依存することだ。
例えば周囲を覆う景色。これはコウタのルーフ村の記憶から創り出されている。
そして追憶兵も同様だ。対象者の記憶から兵を生み出すものと聞いている。
だからこそ、コウタは疑問に思った。
眼前に立ち塞がる十数機の鎧機兵に全く見覚えがなかったのだ。
(流石に《金妖星》や《水妖星》なんて生み出されたら洒落にもならないけど、なんで全く知らない鎧機兵が出てくるんだ?)
「ふん、疑問か?」
すると、その疑問に答えてくれたのは鉄仮面の女だった。
「言っただろう。私の相界陣は特殊であると」
言って、彼女は自分の胸元に片手を当てた。恐らくそこに相界陣を発生させる中核である道具――『キューブ』を仕込んであるのだろう。
「私の相界陣は数世代前の時代遅れの品でな。他者の記憶には頼らない。私の記憶を元に世界を生み出しているのさ」
『自分の記憶で』コウタは眉根を寄せた。
『相手に頼らなくてもいいのか。それは随分と使い勝手が良さそうですね。どうしてそれが時代遅れなんですか?』
湧き出てきた素朴な疑問を彼女にぶつけてみる。
鉄仮面の女は肩を竦めた。
「効率が悪いのさ。特に追憶兵がな。閉鎖世界そのものは私の記憶で創り出せる。だが追憶兵だけは違う」
そこで彼女は仮面の下で皮肉げに笑った。
「このキューブで追憶兵を生み出すには、呼び出したいその相手を自分の手で殺さなければならないからな」
『………………』
コウタは無言で周囲に目をやった。
怨嗟の影はさらに増えている。五十――いや七十はいるか。
「私がこれまで殺した人間の数は九十六人。役にも立たない愚図もいるが、その内の七十七人は鎧機兵も操れる強者だった」
怨嗟の影は次々と形を定めていった。
今や一個の軍隊のようだった。
コウタは愛機を通じて屋根の上に陣取る鉄仮面の女を見据えた。
『あなたは死者を操るのですか?』
「ああ、その通りだ」
鉄仮面の女は恭しく礼をした。
「私は《怨嗟の魔女》。死を喰らう女。殺せば殺すほど強くなる悪魔だ」
『………そうですか』
コウタは小さく嘆息した。
『なるほど。分かりました。けど、おかげで一つ安心しました』
「……なに?」
今度は鉄仮面の女が仮面の下で眉をひそめた。
「どういう意味だ? 安心しただと?」
『だってそうでしょう。ここにいるのはあなたとボク以外は死者の幻影だけだ』
そこでコウタはふっと笑った。
『それって相手に怪我をさせないように気遣う必要もないってことですから』
言って、コウタは愛機に戦闘の意志を伝えた。
途端、《ディノス》は石畳を蹴り付けて加速する。
それはまるで瞬間移動のような速度だった。そして次の刹那には《ディノス》は処刑刀を狼頭の鎧機兵に振り下ろしていた。
――ザンッ!
処刑刀は一瞬の停滞もなく狼頭の鎧機兵を頭から両断した。
さらに黒い処刑刀は、勢い余って大地までも深く切り裂いていく。
「な、なんだと?」
まさに刹那。
それこそ瞬きの時間さえもかけず《ディノス》は敵の一機を葬り去った。
鉄仮面の女――ジェシカは仮面の下で目を剥いていた。
『――ぐがああああアァ! 殺してやららア!』
そんな中、狼頭の一機が怨嗟を上げて襲い掛かるが、
――ズンッ!
水平に振られた処刑刀の前に胴体が泣き別れをする。
機体は二つに分かれて地面に転がった。
『正直に言うと、ボクは自分より弱い人と戦うのはあまり得意じゃありません』
魔竜を象る鎧機兵が、血糊を落とすように処刑刀を振るう。
そして主人である少年は語り続けた。
『出来ることなら傷つけたくない。殺したくない。むしろ自分よりも強い人と戦う方が遙かに気が楽なんです。だけど、相手が最初から死者なら気に掛ける必要もない』
「……お前は」
――どこまでも傲慢。
ジェシカは改めて《悪竜の御子》の本質を知ったような気がした。
『けれど、たとえ幻影であってもやっぱり不快なのは事実です。ボクはあなたのやり方を許せそうにない。このままあなたを放置する気もない』
そう言って、コウタの操る《ディノス》はジェシカを睨み据えた。
悪竜の騎士の眼光に、ジェシカは息を呑む。
『――ボクは』
そしてそんな彼女に、コウタははっきりと宣告する。
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