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第6部
第八章 贄なる世界⑤
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(こ、これほどだったのか……)
ジェシカは内心で焦っていた。
眼下の大通り。
そこでは、彼女の亡霊兵と悪竜の騎士が戦闘を繰り広げていた。
しかし、それは戦闘と呼ぶには眉をひそめてしまうようなものだった。
グオオオオオオオオオオ――ッ!
魔竜が雄叫びを上げて処刑刀を振るう。
その度にまるで紙切れのように亡霊兵は切り裂かれていった。
そして瞬時に別の機体の元へ移動。
今度は爪で頭部を砕き、そのまま地面へと押し潰す。
かつてジェシカが目撃した炎を纏う姿も見せる様子もない。
――いや、そもそも必要がないのだろう。
それが理解できるほどに悪竜の騎士の力は圧倒的であり、暴虐的であった。
グオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!
再び轟く咆哮。
それだけで怯えないはずの亡霊兵達が身を竦ませる。
ジェシカの亡霊兵は不死の軍団だ。
倒されても倒されても、彼女が望めば何度でも復活する。
だが、次々と粉砕される亡霊兵を前にしてジェシカは復活を躊躇っていた。復活させたところで亡霊兵が悪竜の騎士を打ち倒せるとは思えないからだ。
(――くそッ!)
とは言え、ここで退くことは出来ない。
この襲撃は盟主の命だ。
コウタ=ヒラサカが《悪竜の御子》を名乗るに相応しいかを見定める栄誉を主君より賜ったのだ。ここまで圧倒的な力を見ればもう充分かも知れないが、ただ一方的に蹂躙されるだけの試練など情けないのにも程がある。
ジェシカのプライドにかけて一矢だけは報いたかった。
(やむ得ない。切り札を出すか)
ジェシカは自分の胸元に片手を当てた。
自分の胸元には今、相界陣の核であるキューブがある。キューブが彼女の意志に応えるのを感じた。
途端、
――ドロリ、と。
『ッ!』
《ディノス》が後方に跳躍した。
そして警戒するように処刑刀を身構えた。
『ぐあああああッ!?』『痛え! 痛えぇよおおおお――ッ!?』
次々と上がる絶叫。
唐突に亡霊兵達の姿が、硫酸でもかけられたように崩れ始めたのだ。
そしてみるみる粘性のある液体へと変わり、大通りの地面を覆い始めた。
『……これはまた悪趣味な』
流石にコウタも渋面を浮かべる。
今や偽りのルーフ村は漆黒の海に半ば沈んでいた。《ディノス》自身もまた、両膝まで黒い液体に浸かっている。
そして――。
『うああァあああああ――……』『ちくしょう……なんで俺がああ……』『死ねよオォ。お前も死ねよオオオオ……』
怨嗟の声の共に黒い手が《ディノス》の両足に取り付き始めた。
鎧機兵の腕ではない。人間サイズの無数の腕だ。それが《ディノス》の巨体を黒い海に引きずり込もうとしていた。
「それは恨みの混合体。怨嗟の海だ」
屋根の上からジェシカが語る。
『……怨嗟の海?』
《ディノス》が視線をジェシカに向けた。
すると、ジェシカは腰に片手を当てて肩を竦めた。
「怨嗟と怨念で満たされた死の海だ。浅く見えても底はない。一度呑み込まれれば待つのは怨嗟の渦のみ。黒い海の中で精神が壊れるか、ショック死するか。いずれにせよただでは済まない」
さて、と言葉を続ける。
「この切り札を以て試練とさせて頂こう。この危地をいかに切り抜けるか。お前の真価を見せてもらうぞ」
『試練ですか……』
コウタはジェシカの言葉を反芻した。
『そこら辺の話も捕らえた後で聞かせてもらいます。あと、このままだと流石に危ないみたいなので破らせてもらいますけど、もし、ここでボクに知恵試しみたいのを期待しているのなら無理ですからね』
「……なに?」
ジェシカは訝しげに眉根を寄せる。と、コウタは愛機の中で苦笑を浮かべて。
『何だかんだでボクは力押しが多いんですよ』
そう告げた直後、《ディノス》が処刑刀を黒い海に突き立てた。
切っ先が地面に沈み込むが、ただそれだけだ。
「何の真似だ? 怨嗟の海に物理攻撃は通用しない――」
と、言いかけたところでジェシカはハッとする。
突如、処刑刀を持つ悪竜の騎士の右腕が赤く輝き始めたからだ。
赤い輝きは処刑刀にまで浸食し、そして――。
――ボッ!
「な、なに!?」
ジェシカは目を瞠った。
真紅に染まった処刑刀からいきなり炎が吹き出したのだ。
炎は瞬く間に燃え広がり、黒い死海は真紅の炎界へと変わった。
『亡霊は炎に弱い。そんな気がしたけど案の定ですね』
と、炎の中でコウタは苦笑を浮かべていた。
そして唖然とするジェシカを背に、悪竜の騎士は処刑刀を振り上げた。
その右腕も刃も赤く輝いたままだ。恐ろしいほどの恒力が刀身に収束していく。
「――ッ!」
悪寒を感じ、ジェシカは屋根の上を走り出した。
――ここにいてはまずい!
キューブに命じ、自身を別の場所に転移させようとする――が、
――ズズンッッ!
真紅の処刑刀が炎界に振り下ろされたのは、その瞬間だった。
それは例えるならば隕石の落下か。
凄まじい衝撃波がジェシカの背中を打ち付ける。
(クッ! まさか、こんなデタラメな真似をしようとは!)
本当に力技もいいところだ。
何てことはない。
要するにコウタは、問答無用でこの世界そのものを破壊するつもりなのだ。
まさしく、かつて世界を滅ぼそうとした伝説の《悪竜》のように。
そしてあの力ならば恐らくそれも可能だ。
このままでは破壊の嵐に呑み込まれてしまう。
「くそッ!」
彼女は再びキューブに転移を命じるが、わずかに遅かった。
――ズズンッッ!
すべてを破壊する衝撃が、再度炎界を揺らしたのはその直後だった。
ジェシカは内心で焦っていた。
眼下の大通り。
そこでは、彼女の亡霊兵と悪竜の騎士が戦闘を繰り広げていた。
しかし、それは戦闘と呼ぶには眉をひそめてしまうようなものだった。
グオオオオオオオオオオ――ッ!
魔竜が雄叫びを上げて処刑刀を振るう。
その度にまるで紙切れのように亡霊兵は切り裂かれていった。
そして瞬時に別の機体の元へ移動。
今度は爪で頭部を砕き、そのまま地面へと押し潰す。
かつてジェシカが目撃した炎を纏う姿も見せる様子もない。
――いや、そもそも必要がないのだろう。
それが理解できるほどに悪竜の騎士の力は圧倒的であり、暴虐的であった。
グオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!
再び轟く咆哮。
それだけで怯えないはずの亡霊兵達が身を竦ませる。
ジェシカの亡霊兵は不死の軍団だ。
倒されても倒されても、彼女が望めば何度でも復活する。
だが、次々と粉砕される亡霊兵を前にしてジェシカは復活を躊躇っていた。復活させたところで亡霊兵が悪竜の騎士を打ち倒せるとは思えないからだ。
(――くそッ!)
とは言え、ここで退くことは出来ない。
この襲撃は盟主の命だ。
コウタ=ヒラサカが《悪竜の御子》を名乗るに相応しいかを見定める栄誉を主君より賜ったのだ。ここまで圧倒的な力を見ればもう充分かも知れないが、ただ一方的に蹂躙されるだけの試練など情けないのにも程がある。
ジェシカのプライドにかけて一矢だけは報いたかった。
(やむ得ない。切り札を出すか)
ジェシカは自分の胸元に片手を当てた。
自分の胸元には今、相界陣の核であるキューブがある。キューブが彼女の意志に応えるのを感じた。
途端、
――ドロリ、と。
『ッ!』
《ディノス》が後方に跳躍した。
そして警戒するように処刑刀を身構えた。
『ぐあああああッ!?』『痛え! 痛えぇよおおおお――ッ!?』
次々と上がる絶叫。
唐突に亡霊兵達の姿が、硫酸でもかけられたように崩れ始めたのだ。
そしてみるみる粘性のある液体へと変わり、大通りの地面を覆い始めた。
『……これはまた悪趣味な』
流石にコウタも渋面を浮かべる。
今や偽りのルーフ村は漆黒の海に半ば沈んでいた。《ディノス》自身もまた、両膝まで黒い液体に浸かっている。
そして――。
『うああァあああああ――……』『ちくしょう……なんで俺がああ……』『死ねよオォ。お前も死ねよオオオオ……』
怨嗟の声の共に黒い手が《ディノス》の両足に取り付き始めた。
鎧機兵の腕ではない。人間サイズの無数の腕だ。それが《ディノス》の巨体を黒い海に引きずり込もうとしていた。
「それは恨みの混合体。怨嗟の海だ」
屋根の上からジェシカが語る。
『……怨嗟の海?』
《ディノス》が視線をジェシカに向けた。
すると、ジェシカは腰に片手を当てて肩を竦めた。
「怨嗟と怨念で満たされた死の海だ。浅く見えても底はない。一度呑み込まれれば待つのは怨嗟の渦のみ。黒い海の中で精神が壊れるか、ショック死するか。いずれにせよただでは済まない」
さて、と言葉を続ける。
「この切り札を以て試練とさせて頂こう。この危地をいかに切り抜けるか。お前の真価を見せてもらうぞ」
『試練ですか……』
コウタはジェシカの言葉を反芻した。
『そこら辺の話も捕らえた後で聞かせてもらいます。あと、このままだと流石に危ないみたいなので破らせてもらいますけど、もし、ここでボクに知恵試しみたいのを期待しているのなら無理ですからね』
「……なに?」
ジェシカは訝しげに眉根を寄せる。と、コウタは愛機の中で苦笑を浮かべて。
『何だかんだでボクは力押しが多いんですよ』
そう告げた直後、《ディノス》が処刑刀を黒い海に突き立てた。
切っ先が地面に沈み込むが、ただそれだけだ。
「何の真似だ? 怨嗟の海に物理攻撃は通用しない――」
と、言いかけたところでジェシカはハッとする。
突如、処刑刀を持つ悪竜の騎士の右腕が赤く輝き始めたからだ。
赤い輝きは処刑刀にまで浸食し、そして――。
――ボッ!
「な、なに!?」
ジェシカは目を瞠った。
真紅に染まった処刑刀からいきなり炎が吹き出したのだ。
炎は瞬く間に燃え広がり、黒い死海は真紅の炎界へと変わった。
『亡霊は炎に弱い。そんな気がしたけど案の定ですね』
と、炎の中でコウタは苦笑を浮かべていた。
そして唖然とするジェシカを背に、悪竜の騎士は処刑刀を振り上げた。
その右腕も刃も赤く輝いたままだ。恐ろしいほどの恒力が刀身に収束していく。
「――ッ!」
悪寒を感じ、ジェシカは屋根の上を走り出した。
――ここにいてはまずい!
キューブに命じ、自身を別の場所に転移させようとする――が、
――ズズンッッ!
真紅の処刑刀が炎界に振り下ろされたのは、その瞬間だった。
それは例えるならば隕石の落下か。
凄まじい衝撃波がジェシカの背中を打ち付ける。
(クッ! まさか、こんなデタラメな真似をしようとは!)
本当に力技もいいところだ。
何てことはない。
要するにコウタは、問答無用でこの世界そのものを破壊するつもりなのだ。
まさしく、かつて世界を滅ぼそうとした伝説の《悪竜》のように。
そしてあの力ならば恐らくそれも可能だ。
このままでは破壊の嵐に呑み込まれてしまう。
「くそッ!」
彼女は再びキューブに転移を命じるが、わずかに遅かった。
――ズズンッッ!
すべてを破壊する衝撃が、再度炎界を揺らしたのはその直後だった。
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