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第8部
プロローグ
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「な、なん、じゃと……?」
不意に零れる呟き。
彼女は、その紫色の瞳を大きく見開いていた。
そこは《黒陽社》第3支部。
主に薬物の開発と生産を行う、まるで研究所のような建造物。その第三会議室だ。
大きな楕円状の机に、それを囲う十数人が座れる席。
だが、その場には今、六人の人間しかいなかった。
四人が対角線上に座り、二人の人間がそれぞれの上司の後ろに控えていた。
驚き、愕然とする彼女は、椅子に座る人物の一人だった。
歳の頃は十四、五歳。
美麗な顔立ちに、身長こそ同年代よりもかなり低いが、抜群であるスタイル。
背中まである淡い菫色の髪は緩やかに波打ち、獣人族のネコ耳を彷彿させるような癖毛を持っている。首には蒼いチョーカー。少し大きめのワンピース型の蒼いドレスに、両足には紐付きの長いブーツを履いている。
リノ=エヴァンシード。
《黒陽社》第1支部の支部長にして、社長令嬢。
さらには《九妖星》の一角であり、《水妖星》の称号を持つ少女である。
「そ、それは真の話なのかッ!?」
――バンッ!
机を強く叩き、リノは立ち上がった。
その視線は、眼前に座る少年に向けられている。
「お、お嬢さま」リノの後ろに立つ部下――ゲイルが困惑した声を上げる。「どうか落ち着いてください。ボーダー支部長に失礼になります」
「構わん。気にするな」
と、告げるのは、黒いスーツで身を固めた少年だ。
年齢は十代後半か。
しかし、放つ雰囲気は、とても十代のものではない。
灰色の髪を持つ、冷酷とも言えるほどの冷たい眼差しを持つ少年である。
「まさか、リノ嬢ちゃんが、あの小僧と知り合いだったとはな」
少年――《木妖星》レオス=ボーダーが、皮肉気に笑う。
次いで、懐から安物の煙草を取り出すと、ボッと火を点けた。
ふうっ、と紫煙を吐き出す。
「だが、十中八九、真実だと思うぞ」
レオスの台詞に、リノは目を見開くばかりだ。
すると、
「そうですか」
別の人物が、感嘆の声を上げた。
「それは、私も気になりますね」
椅子に座る人物の一人。彼も黒いスーツを纏っている。
いや、そもそもリノ以外は、全員が黒いスーツ姿だ。
「まさか、クラインさんに、弟さんがいらっしゃったとは……」
あごに手をやり、感慨深げに呟く彼は、ボルド=グレッグ。
中間管理職という言葉を具現化したような、しょぼくれた格好。温和な顔つきに、常に笑っているような細い瞳を持つ四十代後半の中年男。
だが、その実態は、《黒陽社》における九大幹部の一人。《九妖星》の一角、《地妖星》の称号を持つ男だ。
彼の傍らには、赤い眼鏡をかけた美貌の秘書。カテリーナ=ハリスの姿もある。
彼女もまた、レオスから告げられた情報に困惑の表情を見せていた。
「しかも」ボルドは視線をレオスに向けた。「ボーダー支部長を、そのようなお姿に追い込むほどの実力者ですか」
「……ふん。言い訳はせんよ」
レオスは、煙草の火を灰皿に擦りつけた。
「あの小僧は強い。《七星》にも並ぶほどの強者だ」
「そ、そうかの?」
レオスの宣言に、何故かリノが頬を赤く染めた。
「ま、まあ、わらわの未来の旦那さまだからの! 強いのは当然じゃ!」
言って、大きな胸をたゆんっと揺らした。
が、すぐに悩ましげな表情で頬に手を当てて。
「しかし、コウタの兄上があの《双金葬守》とはの。困ったものじゃ……」
――《七星》の第三座。《双金葬守》アッシュ=クライン。
彼女達にとって天敵とも言える《七星》の中でも最強と謳われる人物だ。
(……むう)
リノは、本気で頭を悩ませた。
コウタと結ばれるのは確定事項。それに変更はない。
しかし、そこまでに至る道程が、より険しくなったのは確実だ。
リノの背景も大概だが、コウタの方も相当なものだ。
なにせ、兄は《七星》最強。
そして――。
(盟主殿め。コウタの素性を知った上で、わらわに隠しておったな)
リノは、眉をひそめた。
温和な雰囲気を持つ黒髪の女性に、不満を抱く。
伝えられた、もう一つの事実。
驚くべき事に、コウタの義姉は《ディノ=バロウス教団》の盟主であるらしい。
(まぁよいか。事実は変わらぬ。それよりも、どうしたものかの)
まずは義姉上か、義兄上に挨拶をすべきだろうか。
と、リノが、そんなことを悩み始めた、その時だった。
「……ククク」
不意に、くぐもった笑い声が部屋に響いた。
この場にいる最後の人物。
椅子に腰をかける三十代半ばの男だ。
まるで古の戦士を思わせる泰然とした佇まい。
右側の額に大きな裂傷を持つ、頬のこけた人物である。
彼は、くつくつと笑っていた。
「どうかしたのかの? ラゴウ」
リノが眉をひそめて尋ねる。と、
「いえ。失礼しました。姫」
《九妖星》の一角。《金妖星》ラゴウ=ホオヅキが謝罪する。
「随分と機嫌がいいようだな。ラゴウ」
と、レオスも尋ねた。
「ふふ、それも当然でしょう」ラゴウは、最古の《九妖星》に目を向けた。「これほど喜ばしいことは実に久しい」
言って、ラゴウは双眸を細めた。
「――素晴らしい」
再び、口角を不敵に崩す。
「吾輩が見初めたあの少年。吾輩の想像の上を行ってくれる」
その驚くべき素性以上に。
今や、最古の《九妖星》を追い込むほどに成長した実力。
ラゴウとしては、喜ばしい限りであった。
「ますますもって、再び対峙する時が楽しみになったな」
思わずそう呟くと、
「ああ、そうだな。俺も同感だ」
レオスが、二本目の煙草を取り出して同意した。
「さて。そろそろ本題に入るか」
ボッと火を付け、三人の同胞達に目をやる。
「今回の件。俺も色々と思うところがあった。ゆえに、部下を使って、あの小僧の動向を監視していたのだが、あの小僧め。面白い行動を見せた」
「面白い行動? 弟さんは一体何を?」
ボルドが眉根を寄せる。レオスは「ふむ」と呟いた。
「本来は俺の個人的な計画だったのだが、こうしてお前達も都合がついた。どうだ。俺から一つ提案がある」
レオスに注目する《九妖星》達。
そんな中、レオスは紫煙を吐き出して、皮肉気な笑みを見せた。
「いい機会だしな。お前達。俺の計画に付き合ってみる気はないか?」
不意に零れる呟き。
彼女は、その紫色の瞳を大きく見開いていた。
そこは《黒陽社》第3支部。
主に薬物の開発と生産を行う、まるで研究所のような建造物。その第三会議室だ。
大きな楕円状の机に、それを囲う十数人が座れる席。
だが、その場には今、六人の人間しかいなかった。
四人が対角線上に座り、二人の人間がそれぞれの上司の後ろに控えていた。
驚き、愕然とする彼女は、椅子に座る人物の一人だった。
歳の頃は十四、五歳。
美麗な顔立ちに、身長こそ同年代よりもかなり低いが、抜群であるスタイル。
背中まである淡い菫色の髪は緩やかに波打ち、獣人族のネコ耳を彷彿させるような癖毛を持っている。首には蒼いチョーカー。少し大きめのワンピース型の蒼いドレスに、両足には紐付きの長いブーツを履いている。
リノ=エヴァンシード。
《黒陽社》第1支部の支部長にして、社長令嬢。
さらには《九妖星》の一角であり、《水妖星》の称号を持つ少女である。
「そ、それは真の話なのかッ!?」
――バンッ!
机を強く叩き、リノは立ち上がった。
その視線は、眼前に座る少年に向けられている。
「お、お嬢さま」リノの後ろに立つ部下――ゲイルが困惑した声を上げる。「どうか落ち着いてください。ボーダー支部長に失礼になります」
「構わん。気にするな」
と、告げるのは、黒いスーツで身を固めた少年だ。
年齢は十代後半か。
しかし、放つ雰囲気は、とても十代のものではない。
灰色の髪を持つ、冷酷とも言えるほどの冷たい眼差しを持つ少年である。
「まさか、リノ嬢ちゃんが、あの小僧と知り合いだったとはな」
少年――《木妖星》レオス=ボーダーが、皮肉気に笑う。
次いで、懐から安物の煙草を取り出すと、ボッと火を点けた。
ふうっ、と紫煙を吐き出す。
「だが、十中八九、真実だと思うぞ」
レオスの台詞に、リノは目を見開くばかりだ。
すると、
「そうですか」
別の人物が、感嘆の声を上げた。
「それは、私も気になりますね」
椅子に座る人物の一人。彼も黒いスーツを纏っている。
いや、そもそもリノ以外は、全員が黒いスーツ姿だ。
「まさか、クラインさんに、弟さんがいらっしゃったとは……」
あごに手をやり、感慨深げに呟く彼は、ボルド=グレッグ。
中間管理職という言葉を具現化したような、しょぼくれた格好。温和な顔つきに、常に笑っているような細い瞳を持つ四十代後半の中年男。
だが、その実態は、《黒陽社》における九大幹部の一人。《九妖星》の一角、《地妖星》の称号を持つ男だ。
彼の傍らには、赤い眼鏡をかけた美貌の秘書。カテリーナ=ハリスの姿もある。
彼女もまた、レオスから告げられた情報に困惑の表情を見せていた。
「しかも」ボルドは視線をレオスに向けた。「ボーダー支部長を、そのようなお姿に追い込むほどの実力者ですか」
「……ふん。言い訳はせんよ」
レオスは、煙草の火を灰皿に擦りつけた。
「あの小僧は強い。《七星》にも並ぶほどの強者だ」
「そ、そうかの?」
レオスの宣言に、何故かリノが頬を赤く染めた。
「ま、まあ、わらわの未来の旦那さまだからの! 強いのは当然じゃ!」
言って、大きな胸をたゆんっと揺らした。
が、すぐに悩ましげな表情で頬に手を当てて。
「しかし、コウタの兄上があの《双金葬守》とはの。困ったものじゃ……」
――《七星》の第三座。《双金葬守》アッシュ=クライン。
彼女達にとって天敵とも言える《七星》の中でも最強と謳われる人物だ。
(……むう)
リノは、本気で頭を悩ませた。
コウタと結ばれるのは確定事項。それに変更はない。
しかし、そこまでに至る道程が、より険しくなったのは確実だ。
リノの背景も大概だが、コウタの方も相当なものだ。
なにせ、兄は《七星》最強。
そして――。
(盟主殿め。コウタの素性を知った上で、わらわに隠しておったな)
リノは、眉をひそめた。
温和な雰囲気を持つ黒髪の女性に、不満を抱く。
伝えられた、もう一つの事実。
驚くべき事に、コウタの義姉は《ディノ=バロウス教団》の盟主であるらしい。
(まぁよいか。事実は変わらぬ。それよりも、どうしたものかの)
まずは義姉上か、義兄上に挨拶をすべきだろうか。
と、リノが、そんなことを悩み始めた、その時だった。
「……ククク」
不意に、くぐもった笑い声が部屋に響いた。
この場にいる最後の人物。
椅子に腰をかける三十代半ばの男だ。
まるで古の戦士を思わせる泰然とした佇まい。
右側の額に大きな裂傷を持つ、頬のこけた人物である。
彼は、くつくつと笑っていた。
「どうかしたのかの? ラゴウ」
リノが眉をひそめて尋ねる。と、
「いえ。失礼しました。姫」
《九妖星》の一角。《金妖星》ラゴウ=ホオヅキが謝罪する。
「随分と機嫌がいいようだな。ラゴウ」
と、レオスも尋ねた。
「ふふ、それも当然でしょう」ラゴウは、最古の《九妖星》に目を向けた。「これほど喜ばしいことは実に久しい」
言って、ラゴウは双眸を細めた。
「――素晴らしい」
再び、口角を不敵に崩す。
「吾輩が見初めたあの少年。吾輩の想像の上を行ってくれる」
その驚くべき素性以上に。
今や、最古の《九妖星》を追い込むほどに成長した実力。
ラゴウとしては、喜ばしい限りであった。
「ますますもって、再び対峙する時が楽しみになったな」
思わずそう呟くと、
「ああ、そうだな。俺も同感だ」
レオスが、二本目の煙草を取り出して同意した。
「さて。そろそろ本題に入るか」
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「今回の件。俺も色々と思うところがあった。ゆえに、部下を使って、あの小僧の動向を監視していたのだが、あの小僧め。面白い行動を見せた」
「面白い行動? 弟さんは一体何を?」
ボルドが眉根を寄せる。レオスは「ふむ」と呟いた。
「本来は俺の個人的な計画だったのだが、こうしてお前達も都合がついた。どうだ。俺から一つ提案がある」
レオスに注目する《九妖星》達。
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