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第8部
第五章 頂きに挑む①
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「……遂にですわね」
揺れる馬車の中。
リーゼが、神妙な口調でそう呟いた。
朝の十時。現在、馬車はクライン工房へ向かっていた。
馬車の数は二台。
二組に別れたこの馬車のメンバーは、車両前側に座るリーゼにアイリ。ジェイク。向かい側に並んで座るミランシャと、シャルロット。
そして、床に腰をつける零号達三機のゴーレムと、オルタナだ。
「……流石に緊張してきたよ」
アイリが、微かに喉を鳴らした。
「……コウタのお兄さん。どんな人なんだろう」
「……そうですわね」
リーゼも、神妙な声で呟く。
コウタの兄のことは当然、ミランシャとシャルロットから人柄などを聞いている。
だが、人の印象とは、実際に会うまでは分からないものだ。
加え、彼女達にとっては、コウタの兄は特別な存在だ。
その初対面ともなれば、不安や緊張を抱くのも仕方がない。
「まあ、そんな緊張すんなって」
ジェイクが、苦笑を浮かべた。
「よっぽど変なことをしねえ限り大丈夫だろ。普通に会えることを楽しめって」
と、陽気な少年は気軽に言う。
「……ウム」
その時、零号が呟いた。
「……ワレモ、タノシミダ」
オルタナを頭に乗せる零号は、何故か遠くの方を見据えた。
「……アヤツハ、イマモ、壮健カ」
何やら不思議なことを呟いている。
リーゼ達は首を傾げた。
一方、年長者二人は、到着を前に、ひそひそと小声で話し込んでいた。
「(シャルロットさん。覚悟はしていた方がいいわよ)」
ミランシャが、神妙な顔で囁く。
シャルロットは赤毛の美女の顔を見据えた。
「(昨日、シャルロットさんだけには教えたけど、多分、オトハちゃんが遂に次の段階に入った可能性が高いわ。昨日の話はそれだけ重いから。アシュ君だって絶対落ち込むだろうしね。実は凄いチャンスだったのよ。雰囲気や状況的には充分でしょう?)」
「(ええ。確かそうですね。学生であるサーシャさま、アリシアさままでなら、まだ可能性は低いでしょうが、大人である私、ミランシャさま、そしてオトハさまならば、その可能性は充分にあり得ます。ですが――)」
シャルロットは、艶めかしい溜息をついた。
「(もしそうだとしたら非常に無念です。仮に昨日、オトハさまが何かしらの理由で留守だった場合は、きっと、私はご報告の後も残ってお世話をしたはずですから……)」
そこで、唇に片手を当てて、シャルロットは頬を赤く染めた。
ミランシャは、ジト目で友人を見据えた。
「(もしかしたら、昨夜の相手は自分だったかもってこと?)」
「(は、はい……)」
シャルロットは、こくんと頷いた。
「(……まあ、それも否定しないけど……)」
ミランシャは、苦笑いを浮かべた。
「(けど、それって、アタシ達にとってはもう遅かれ早かれでしょう? あの女とオトハちゃん以外は、全員、覚悟は昨夜の内に決めちゃったし)」
「(それもそうですが、それはまだ私達だけの意志です。クライン君の意志は確認していません。私達は合意しましたが、これはやはり少数派の考えです)」
シャルロットは、少しだけ不安を零した。
「(本当に一夫多妻制を実践するなど)」
そうして、かぶりを振る。
「(クライン君が一体どう思うかは、まだ分かりません。それに、そもそも相手はあのクライン君なのですよ? このレベルの重い話がないと一向に踏み込んでくれない世紀の鈍感王なのですよ?)」
シャルロットは嘆息した。
「(やはり、チャンスは掴みたいと考えます)」
「(……うん。ごめん。確かにそうだったわね)」
ミランシャは、素直に謝罪した。
「(それに、クライン君の性格です。軽い気持ちや、自分の都合だけで女性を抱いたりしないと思います)」
「(それって……オトハちゃんとの結婚も考えていること?)」
ミランシャの問いかけに、シャルロットは静かに頷いた。
確かに、その可能性も充分あり得る。
彼はコウタ同様に、頑固で生真面目な性格をしていた。
「(そこは、オトハちゃんもこちら側に入れて対応しましょう。けど、これはアタシの直感なんだけど、きっと大丈夫のような気がするの。だって)」
ミランシャは、微笑んだ。
「(アシュ君にとって、アタシも、シャルロットさんも、ユーリィちゃんも、サーシャちゃんも、アリシアちゃんも、ルカちゃんも。不本意だけどあの女も)」
ミランシャは、遠い目をして窓の外を覗いた。
「(オトハちゃんにも負けないぐらい大切なのよ)」
彼女は言葉を続ける。
「(アシュ君は自分が思っている以上に遙かに強欲なのよ。大切な人は手放したくない。自分の手で守りたい。心の底ではそう思っている人なの。コウタ君同様にね。そして、それを行うためには……)」
「(……ミランシャさま)」
神妙な顔で名を呼ぶシャルロットに、ミランシャは破顔した。
「(だから大丈夫。アシュ君はアタシ達全員を愛してくれるわ。サーシャちゃんの話だと世界には十一人も奥さんがいる強者もいるそうだし。アタシとして気掛かりとしたら、みすみすオトハちゃんやあの女に正妻の座を渡したくないことね)」
シャルロットは、苦笑を浮かべた。
と、そんな年長組に、リーゼとアイリは不思議そうに小首を傾げた。
「シャルロット? さっきからミランシャさまと何のお話を?」
リーゼがそう尋ねると、二人は顔を見合わせた。
そしてミランシャが口元を押さえて、クスクスと笑った。
「いずれ、リーゼちゃん達も通る道について話し合っているの」
「まあ、そうなりますね」
シャルロットは表情を変えずに、そう告げる。
リーゼ達としては、ますます首を傾げるだけだ。
「まあ、いいじゃない。それよりも、そろそろね」
ミランシャは目を細める。
窓の景色が、見覚えのあるものに変わってきていた。
「クライン工房に到着するわ」
揺れる馬車の中。
リーゼが、神妙な口調でそう呟いた。
朝の十時。現在、馬車はクライン工房へ向かっていた。
馬車の数は二台。
二組に別れたこの馬車のメンバーは、車両前側に座るリーゼにアイリ。ジェイク。向かい側に並んで座るミランシャと、シャルロット。
そして、床に腰をつける零号達三機のゴーレムと、オルタナだ。
「……流石に緊張してきたよ」
アイリが、微かに喉を鳴らした。
「……コウタのお兄さん。どんな人なんだろう」
「……そうですわね」
リーゼも、神妙な声で呟く。
コウタの兄のことは当然、ミランシャとシャルロットから人柄などを聞いている。
だが、人の印象とは、実際に会うまでは分からないものだ。
加え、彼女達にとっては、コウタの兄は特別な存在だ。
その初対面ともなれば、不安や緊張を抱くのも仕方がない。
「まあ、そんな緊張すんなって」
ジェイクが、苦笑を浮かべた。
「よっぽど変なことをしねえ限り大丈夫だろ。普通に会えることを楽しめって」
と、陽気な少年は気軽に言う。
「……ウム」
その時、零号が呟いた。
「……ワレモ、タノシミダ」
オルタナを頭に乗せる零号は、何故か遠くの方を見据えた。
「……アヤツハ、イマモ、壮健カ」
何やら不思議なことを呟いている。
リーゼ達は首を傾げた。
一方、年長者二人は、到着を前に、ひそひそと小声で話し込んでいた。
「(シャルロットさん。覚悟はしていた方がいいわよ)」
ミランシャが、神妙な顔で囁く。
シャルロットは赤毛の美女の顔を見据えた。
「(昨日、シャルロットさんだけには教えたけど、多分、オトハちゃんが遂に次の段階に入った可能性が高いわ。昨日の話はそれだけ重いから。アシュ君だって絶対落ち込むだろうしね。実は凄いチャンスだったのよ。雰囲気や状況的には充分でしょう?)」
「(ええ。確かそうですね。学生であるサーシャさま、アリシアさままでなら、まだ可能性は低いでしょうが、大人である私、ミランシャさま、そしてオトハさまならば、その可能性は充分にあり得ます。ですが――)」
シャルロットは、艶めかしい溜息をついた。
「(もしそうだとしたら非常に無念です。仮に昨日、オトハさまが何かしらの理由で留守だった場合は、きっと、私はご報告の後も残ってお世話をしたはずですから……)」
そこで、唇に片手を当てて、シャルロットは頬を赤く染めた。
ミランシャは、ジト目で友人を見据えた。
「(もしかしたら、昨夜の相手は自分だったかもってこと?)」
「(は、はい……)」
シャルロットは、こくんと頷いた。
「(……まあ、それも否定しないけど……)」
ミランシャは、苦笑いを浮かべた。
「(けど、それって、アタシ達にとってはもう遅かれ早かれでしょう? あの女とオトハちゃん以外は、全員、覚悟は昨夜の内に決めちゃったし)」
「(それもそうですが、それはまだ私達だけの意志です。クライン君の意志は確認していません。私達は合意しましたが、これはやはり少数派の考えです)」
シャルロットは、少しだけ不安を零した。
「(本当に一夫多妻制を実践するなど)」
そうして、かぶりを振る。
「(クライン君が一体どう思うかは、まだ分かりません。それに、そもそも相手はあのクライン君なのですよ? このレベルの重い話がないと一向に踏み込んでくれない世紀の鈍感王なのですよ?)」
シャルロットは嘆息した。
「(やはり、チャンスは掴みたいと考えます)」
「(……うん。ごめん。確かにそうだったわね)」
ミランシャは、素直に謝罪した。
「(それに、クライン君の性格です。軽い気持ちや、自分の都合だけで女性を抱いたりしないと思います)」
「(それって……オトハちゃんとの結婚も考えていること?)」
ミランシャの問いかけに、シャルロットは静かに頷いた。
確かに、その可能性も充分あり得る。
彼はコウタ同様に、頑固で生真面目な性格をしていた。
「(そこは、オトハちゃんもこちら側に入れて対応しましょう。けど、これはアタシの直感なんだけど、きっと大丈夫のような気がするの。だって)」
ミランシャは、微笑んだ。
「(アシュ君にとって、アタシも、シャルロットさんも、ユーリィちゃんも、サーシャちゃんも、アリシアちゃんも、ルカちゃんも。不本意だけどあの女も)」
ミランシャは、遠い目をして窓の外を覗いた。
「(オトハちゃんにも負けないぐらい大切なのよ)」
彼女は言葉を続ける。
「(アシュ君は自分が思っている以上に遙かに強欲なのよ。大切な人は手放したくない。自分の手で守りたい。心の底ではそう思っている人なの。コウタ君同様にね。そして、それを行うためには……)」
「(……ミランシャさま)」
神妙な顔で名を呼ぶシャルロットに、ミランシャは破顔した。
「(だから大丈夫。アシュ君はアタシ達全員を愛してくれるわ。サーシャちゃんの話だと世界には十一人も奥さんがいる強者もいるそうだし。アタシとして気掛かりとしたら、みすみすオトハちゃんやあの女に正妻の座を渡したくないことね)」
シャルロットは、苦笑を浮かべた。
と、そんな年長組に、リーゼとアイリは不思議そうに小首を傾げた。
「シャルロット? さっきからミランシャさまと何のお話を?」
リーゼがそう尋ねると、二人は顔を見合わせた。
そしてミランシャが口元を押さえて、クスクスと笑った。
「いずれ、リーゼちゃん達も通る道について話し合っているの」
「まあ、そうなりますね」
シャルロットは表情を変えずに、そう告げる。
リーゼ達としては、ますます首を傾げるだけだ。
「まあ、いいじゃない。それよりも、そろそろね」
ミランシャは目を細める。
窓の景色が、見覚えのあるものに変わってきていた。
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