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第9部
プロローグ
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静かな朝。
コウタは、未だ微睡に包まれた。
服装はいつもの制服に、腰の白布だけを外した状態。昨晩は、それはもう色々とありすぎて寝間着に着替える暇もなく、ソファーの上に倒れこんだのだ。
そもそも、寝間着云々以前に、この部屋は、ルカが王城に用意してくれたコウタの――正確にはジェイクとの相部屋ではない。
昨日の夜、精神統一がしたいとか、コウタ自身も意味不明と思う言い訳をして、急遽ルカに用意してもらった一人部屋だ。
その後も『準備は万端じゃ! さあ、わらわをお主のモノにするがよい!』と、とんでもないことを言う彼女を宥めつつ、ようやく睡眠を得たのである。
コウタは、珍しく熟睡していた。
かなり疲れていたこともあるのだろう。
けれど、それ以上にこの部屋は、とても落ち着くのだ。まるでメルティアが傍で眠っている時のような、安らかで優しい気持ちになれる。
コウタは夢現のまま、その穏やかになれる存在を求めた。
両手を動かす。すると、それはすぐ傍にいた。
コウタはまるで枕のように、その存在を抱き寄せた。
「……ん」
と、少女の声が聞こえる。
同時に、柔らかすぎる二つの膨らみの感触が胸板に。
………………………。
………………。
……数瞬の沈黙。
(――っ!?)
コウタは、カッと目を見開いた。
慌てて、自分の腕の中に目をやる。
(う、うわっ!)
そこいたのは、一人の少女だった。
歳の頃は、恐らくだが、コウタとほぼ同い年。
瞳を閉じた美麗な顔立ちに、緩やかに波打つ長い菫色の髪の上には、ネコ耳を彷彿させるような癖毛。首には蒼いチョーカー。昨晩と同じ少し大きめのワンピース型の蒼いドレスを纏っている。少しはだけた胸元には年齢不相応の大きな双丘。それがコウタの胸板で押し潰されているのだ。
かああっ、とコウタの顔が赤くなる。
(な、なんでここにリノが!?)
――リノ=エヴァンシード。
昨晩、唐突に再会した少女である。
この部屋は、彼女のために用意してもらった部屋だった。
(た、確か、昨日はベッドで寝ていたはず……)
それが今は何故か、コウタの腕の中だ。
――ああ、それにしても柔らかい。
(ボ、ボクは何を考えて!)
コウタは、ハッとした。
続けて、彼女を抱えた状態でソファーに座り直すと同時に、慌てて彼女の体を離す――と、彼女は完全に寝入っているようで、ソファーからずれ落ちそうになる。
「あ、危ない!」
コウタは、リノの両脇を両手で拾い上げた。
が、その勢いで、彼女を再び抱きかかえることになる。
再び、リノの豊かな双丘が、コウタの胸板で押し潰された。
コウタはギョッとするが、一度落としかけたので今度は離せない。
彼女と重なるように座ったまま、動けなくなってしまった。
(ど、どうしよう……)
ゴクリ、と喉を鳴らす。
彼女の柔らかさ。
甘い匂い。
少し高い体温に、確かに伝わる鼓動。
そのすべてを間近で感じて、コウタは頭がクラクラとし始めた。
ただ、それ以上に――。
(ああ。本当に彼女なんだ)
無意識に彼女の背中に手を回して、力強く抱きしめる。
「……ん」
少し痛みを感じたが、彼女が小さく呻く。
それさえも愛しかった。
(本当に、また会えてよかった)
コウタは双眸を細めて、彼女の髪を撫でた。
かの犯罪組織。《黒陽社》の支部長の一人である彼女。
コウタにとっては、仇であるあの男の同胞となる少女だ。
だが、それでもコウタはリノのことを心配していた。
ほんのわずかな期間だけ邂逅した少女。
笑顔を見せてくれた。
戦いもした。
天真爛漫であり、傲岸不遜でもある。
危険な少女であることは、間違いないだろう。
けれど、彼女を大切に想う気持ちに揺らぎはない。
こうして腕の中に抱き、いっそうその想いは強くなっていた。
(リノに、闇の中は似合わない)
改めて、そう思う。
彼女を裏の世界から、表の世界へと連れ出す。
それが、どれほど困難なのかは、少しは理解しているつもりだ。
だが、二度と彼女の手を離すつもりはなかった。
(……リノ)
コウタがもう一度、彼女の髪を撫でた――時だった。
「……コホン。流石にの」
不意に声が響く。それはリノの声だった。
どうやら、目を覚ましていたらしい。
「寝起きざまに、こんなにも愛しげで、優しい愛撫をされては、わらわでも恥ずかしく感じるのう……」
そう告げる彼女の顔こそ見えないが、うなじなどの肌はかなり赤かった。
言葉通り、本当に恥ずかしいのだろう。
「……え?」
コウタは固まってしまう。
その一瞬の隙にリノは少し体を離し、コウタの顔を見つめた。
宝石を思わせる紫色の瞳に、コウタが映る。
「……コウタよ」
「な、何かな? リノ?」
コウタは、やや顔を強張らせて尋ねる。
リノは、コホンと喉を鳴らした。
「わらわが愛しいことは分かる。久しぶりの再会でもあるしの。じゃが、眠るわらわを、わざわざ自分の元にまで連れ込んで愛撫とは、いささか独占欲が強すぎぬか?」
「………………」
コウタは、数秒ほど硬直した。
そして、
「――違うよっ!?」
絶叫を上げる。
断じて、自分はリノをソファーに連れ込んでなどいない。
「ソファーに入り込んだのは、リノの方じゃないの!?」
「……ん? そういえば?」
リノは小首を傾げた。
その仕草一つ一つが、実に愛らしい。
流石は、傾国の雛鳥といったところか。
「夜中にふと目が覚めたような? 月明かりに照らされたコウタの顔が愛しくて、つい頬にキスをして、確かそのまま……」
「そんなことしたの!?」
コウタは、自分の頬を片手で押さえて顔を真っ赤にした。
対し、リノは妖艶に笑う。
「隙だらけじゃったからの。精進が足りんぞ。コウタ」
言って、コウタの首筋に腕を伸ばして抱き着いてくる。
「リ、リノ……」
コウタは嘆息した。
確かに寝入って接近を許したのはコウタだ。
ただ、本来、寝入るコウタに近づくのは容易なことではない。
それを出来るのは、コウタがよほど気を許している相手だけなのだ。
(それだけ、リノに気を許しているってことなのか)
本当に、自分の気持ちを思い知らされる。
一方、リノは早速マーキングするように、コウタに頬ずりしていた。
「リ、リノ。流石に恥ずかしいからやめてよ」
「何を言っておる。お主も寝ているわらわを愛撫しておったのであろう?」
「……う」
それは確かな事実だった。
コウタは、恥ずかしく感じつつも拒絶は出来なかった。
そしてたっぷりマーキングを堪能した後、
「改めて、おはようなのじゃ! コウタよ!」
満面の笑みで、リノが告げる。
その笑顔の前に、コウタもまた破顔してしまった。
「うん。おはよう。リノ」
そうして。
今日も朝が始まるのであった。
コウタは、未だ微睡に包まれた。
服装はいつもの制服に、腰の白布だけを外した状態。昨晩は、それはもう色々とありすぎて寝間着に着替える暇もなく、ソファーの上に倒れこんだのだ。
そもそも、寝間着云々以前に、この部屋は、ルカが王城に用意してくれたコウタの――正確にはジェイクとの相部屋ではない。
昨日の夜、精神統一がしたいとか、コウタ自身も意味不明と思う言い訳をして、急遽ルカに用意してもらった一人部屋だ。
その後も『準備は万端じゃ! さあ、わらわをお主のモノにするがよい!』と、とんでもないことを言う彼女を宥めつつ、ようやく睡眠を得たのである。
コウタは、珍しく熟睡していた。
かなり疲れていたこともあるのだろう。
けれど、それ以上にこの部屋は、とても落ち着くのだ。まるでメルティアが傍で眠っている時のような、安らかで優しい気持ちになれる。
コウタは夢現のまま、その穏やかになれる存在を求めた。
両手を動かす。すると、それはすぐ傍にいた。
コウタはまるで枕のように、その存在を抱き寄せた。
「……ん」
と、少女の声が聞こえる。
同時に、柔らかすぎる二つの膨らみの感触が胸板に。
………………………。
………………。
……数瞬の沈黙。
(――っ!?)
コウタは、カッと目を見開いた。
慌てて、自分の腕の中に目をやる。
(う、うわっ!)
そこいたのは、一人の少女だった。
歳の頃は、恐らくだが、コウタとほぼ同い年。
瞳を閉じた美麗な顔立ちに、緩やかに波打つ長い菫色の髪の上には、ネコ耳を彷彿させるような癖毛。首には蒼いチョーカー。昨晩と同じ少し大きめのワンピース型の蒼いドレスを纏っている。少しはだけた胸元には年齢不相応の大きな双丘。それがコウタの胸板で押し潰されているのだ。
かああっ、とコウタの顔が赤くなる。
(な、なんでここにリノが!?)
――リノ=エヴァンシード。
昨晩、唐突に再会した少女である。
この部屋は、彼女のために用意してもらった部屋だった。
(た、確か、昨日はベッドで寝ていたはず……)
それが今は何故か、コウタの腕の中だ。
――ああ、それにしても柔らかい。
(ボ、ボクは何を考えて!)
コウタは、ハッとした。
続けて、彼女を抱えた状態でソファーに座り直すと同時に、慌てて彼女の体を離す――と、彼女は完全に寝入っているようで、ソファーからずれ落ちそうになる。
「あ、危ない!」
コウタは、リノの両脇を両手で拾い上げた。
が、その勢いで、彼女を再び抱きかかえることになる。
再び、リノの豊かな双丘が、コウタの胸板で押し潰された。
コウタはギョッとするが、一度落としかけたので今度は離せない。
彼女と重なるように座ったまま、動けなくなってしまった。
(ど、どうしよう……)
ゴクリ、と喉を鳴らす。
彼女の柔らかさ。
甘い匂い。
少し高い体温に、確かに伝わる鼓動。
そのすべてを間近で感じて、コウタは頭がクラクラとし始めた。
ただ、それ以上に――。
(ああ。本当に彼女なんだ)
無意識に彼女の背中に手を回して、力強く抱きしめる。
「……ん」
少し痛みを感じたが、彼女が小さく呻く。
それさえも愛しかった。
(本当に、また会えてよかった)
コウタは双眸を細めて、彼女の髪を撫でた。
かの犯罪組織。《黒陽社》の支部長の一人である彼女。
コウタにとっては、仇であるあの男の同胞となる少女だ。
だが、それでもコウタはリノのことを心配していた。
ほんのわずかな期間だけ邂逅した少女。
笑顔を見せてくれた。
戦いもした。
天真爛漫であり、傲岸不遜でもある。
危険な少女であることは、間違いないだろう。
けれど、彼女を大切に想う気持ちに揺らぎはない。
こうして腕の中に抱き、いっそうその想いは強くなっていた。
(リノに、闇の中は似合わない)
改めて、そう思う。
彼女を裏の世界から、表の世界へと連れ出す。
それが、どれほど困難なのかは、少しは理解しているつもりだ。
だが、二度と彼女の手を離すつもりはなかった。
(……リノ)
コウタがもう一度、彼女の髪を撫でた――時だった。
「……コホン。流石にの」
不意に声が響く。それはリノの声だった。
どうやら、目を覚ましていたらしい。
「寝起きざまに、こんなにも愛しげで、優しい愛撫をされては、わらわでも恥ずかしく感じるのう……」
そう告げる彼女の顔こそ見えないが、うなじなどの肌はかなり赤かった。
言葉通り、本当に恥ずかしいのだろう。
「……え?」
コウタは固まってしまう。
その一瞬の隙にリノは少し体を離し、コウタの顔を見つめた。
宝石を思わせる紫色の瞳に、コウタが映る。
「……コウタよ」
「な、何かな? リノ?」
コウタは、やや顔を強張らせて尋ねる。
リノは、コホンと喉を鳴らした。
「わらわが愛しいことは分かる。久しぶりの再会でもあるしの。じゃが、眠るわらわを、わざわざ自分の元にまで連れ込んで愛撫とは、いささか独占欲が強すぎぬか?」
「………………」
コウタは、数秒ほど硬直した。
そして、
「――違うよっ!?」
絶叫を上げる。
断じて、自分はリノをソファーに連れ込んでなどいない。
「ソファーに入り込んだのは、リノの方じゃないの!?」
「……ん? そういえば?」
リノは小首を傾げた。
その仕草一つ一つが、実に愛らしい。
流石は、傾国の雛鳥といったところか。
「夜中にふと目が覚めたような? 月明かりに照らされたコウタの顔が愛しくて、つい頬にキスをして、確かそのまま……」
「そんなことしたの!?」
コウタは、自分の頬を片手で押さえて顔を真っ赤にした。
対し、リノは妖艶に笑う。
「隙だらけじゃったからの。精進が足りんぞ。コウタ」
言って、コウタの首筋に腕を伸ばして抱き着いてくる。
「リ、リノ……」
コウタは嘆息した。
確かに寝入って接近を許したのはコウタだ。
ただ、本来、寝入るコウタに近づくのは容易なことではない。
それを出来るのは、コウタがよほど気を許している相手だけなのだ。
(それだけ、リノに気を許しているってことなのか)
本当に、自分の気持ちを思い知らされる。
一方、リノは早速マーキングするように、コウタに頬ずりしていた。
「リ、リノ。流石に恥ずかしいからやめてよ」
「何を言っておる。お主も寝ているわらわを愛撫しておったのであろう?」
「……う」
それは確かな事実だった。
コウタは、恥ずかしく感じつつも拒絶は出来なかった。
そしてたっぷりマーキングを堪能した後、
「改めて、おはようなのじゃ! コウタよ!」
満面の笑みで、リノが告げる。
その笑顔の前に、コウタもまた破顔してしまった。
「うん。おはよう。リノ」
そうして。
今日も朝が始まるのであった。
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