悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第9部

プロローグ

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 静かな朝。
 コウタは、未だ微睡に包まれた。
 服装はいつもの制服に、腰の白布だけを外した状態。昨晩は、それはもう色々とありすぎて寝間着に着替える暇もなく、ソファーの上に倒れこんだのだ。
 そもそも、寝間着云々以前に、この部屋は、ルカが王城に用意してくれたコウタの――正確にはジェイクとの相部屋ではない。
 昨日の夜、精神統一がしたいとか、コウタ自身も意味不明と思う言い訳をして、急遽ルカに用意してもらった一人部屋だ。
 その後も『準備は万端じゃ! さあ、わらわをお主のモノにするがよい!』と、とんでもないことを言う彼女を宥めつつ、ようやく睡眠を得たのである。

 コウタは、珍しく熟睡していた。
 かなり疲れていたこともあるのだろう。

 けれど、それ以上にこの部屋は、とても落ち着くのだ。まるでメルティアが傍で眠っている時のような、安らかで優しい気持ちになれる。
 コウタは夢現のまま、その穏やかになれる存在を求めた。
 両手を動かす。すると、それはすぐ傍にいた。
 コウタはまるで枕のように、その存在を抱き寄せた。


「……ん」


 と、少女の声が聞こえる。
 同時に、柔らかすぎる二つの膨らみの感触が胸板に。
 ………………………。
 ………………。
 ……数瞬の沈黙。


(――っ!?)


 コウタは、カッと目を見開いた。
 慌てて、自分の腕の中に目をやる。


(う、うわっ!)


 そこいたのは、一人の少女だった。
 歳の頃は、恐らくだが、コウタとほぼ同い年。
 瞳を閉じた美麗な顔立ちに、緩やかに波打つ長い菫色の髪の上には、ネコ耳を彷彿させるような癖毛。首には蒼いチョーカー。昨晩と同じ少し大きめのワンピース型の蒼いドレスを纏っている。少しはだけた胸元には年齢不相応の大きな双丘。それがコウタの胸板で押し潰されているのだ。
 かああっ、とコウタの顔が赤くなる。


(な、なんでここにリノが!?)


 ――リノ=エヴァンシード。
 昨晩、唐突に再会した少女である。
 この部屋は、彼女のために用意してもらった部屋だった。


(た、確か、昨日はベッドで寝ていたはず……)


 それが今は何故か、コウタの腕の中だ。
 ――ああ、それにしても柔らかい。


(ボ、ボクは何を考えて!)


 コウタは、ハッとした。
 続けて、彼女を抱えた状態でソファーに座り直すと同時に、慌てて彼女の体を離す――と、彼女は完全に寝入っているようで、ソファーからずれ落ちそうになる。


「あ、危ない!」


 コウタは、リノの両脇を両手で拾い上げた。
 が、その勢いで、彼女を再び抱きかかえることになる。
 再び、リノの豊かな双丘が、コウタの胸板で押し潰された。
 コウタはギョッとするが、一度落としかけたので今度は離せない。
 彼女と重なるように座ったまま、動けなくなってしまった。


(ど、どうしよう……)


 ゴクリ、と喉を鳴らす。
 彼女の柔らかさ。
 甘い匂い。
 少し高い体温に、確かに伝わる鼓動。
 そのすべてを間近で感じて、コウタは頭がクラクラとし始めた。
 ただ、それ以上に――。


(ああ。本当に彼女なんだ)


 無意識に彼女の背中に手を回して、力強く抱きしめる。


「……ん」


 少し痛みを感じたが、彼女が小さく呻く。
 それさえも愛しかった。


(本当に、また会えてよかった)


 コウタは双眸を細めて、彼女の髪を撫でた。
 かの犯罪組織。《黒陽社》の支部長の一人である彼女。
 コウタにとっては、仇であるあの男の同胞となる少女だ。
 だが、それでもコウタはリノのことを心配していた。
 ほんのわずかな期間だけ邂逅した少女。
 笑顔を見せてくれた。
 戦いもした。
 天真爛漫であり、傲岸不遜でもある。
 危険な少女であることは、間違いないだろう。
 けれど、彼女を大切に想う気持ちに揺らぎはない。
 こうして腕の中に抱き、いっそうその想いは強くなっていた。


(リノに、闇の中は似合わない)


 改めて、そう思う。
 彼女を裏の世界から、表の世界へと連れ出す。
 それが、どれほど困難なのかは、少しは理解しているつもりだ。
 だが、二度と彼女の手を離すつもりはなかった。


(……リノ)


 コウタがもう一度、彼女の髪を撫でた――時だった。


「……コホン。流石にの」


 不意に声が響く。それはリノの声だった。
 どうやら、目を覚ましていたらしい。


「寝起きざまに、こんなにも愛しげで、優しい愛撫をされては、わらわでも恥ずかしく感じるのう……」


 そう告げる彼女の顔こそ見えないが、うなじなどの肌はかなり赤かった。
 言葉通り、本当に恥ずかしいのだろう。


「……え?」


 コウタは固まってしまう。
 その一瞬の隙にリノは少し体を離し、コウタの顔を見つめた。
 宝石を思わせる紫色の瞳に、コウタが映る。


「……コウタよ」

「な、何かな? リノ?」


 コウタは、やや顔を強張らせて尋ねる。
 リノは、コホンと喉を鳴らした。


「わらわが愛しいことは分かる。久しぶりの再会でもあるしの。じゃが、眠るわらわを、わざわざ自分の元にまで連れ込んで愛撫とは、いささか独占欲が強すぎぬか?」

「………………」


 コウタは、数秒ほど硬直した。
 そして、


「――違うよっ!?」


 絶叫を上げる。
 断じて、自分はリノをソファーに連れ込んでなどいない。


「ソファーに入り込んだのは、リノの方じゃないの!?」

「……ん? そういえば?」


 リノは小首を傾げた。
 その仕草一つ一つが、実に愛らしい。
 流石は、傾国の雛鳥といったところか。


「夜中にふと目が覚めたような? 月明かりに照らされたコウタの顔が愛しくて、つい頬にキスをして、確かそのまま……」

「そんなことしたの!?」


 コウタは、自分の頬を片手で押さえて顔を真っ赤にした。
 対し、リノは妖艶に笑う。


「隙だらけじゃったからの。精進が足りんぞ。コウタ」


 言って、コウタの首筋に腕を伸ばして抱き着いてくる。


「リ、リノ……」


 コウタは嘆息した。
 確かに寝入って接近を許したのはコウタだ。
 ただ、本来、寝入るコウタに近づくのは容易なことではない。
 それを出来るのは、コウタがよほど気を許している相手だけなのだ。


(それだけ、リノに気を許しているってことなのか)


 本当に、自分の気持ちを思い知らされる。
 一方、リノは早速マーキングするように、コウタに頬ずりしていた。


「リ、リノ。流石に恥ずかしいからやめてよ」

「何を言っておる。お主も寝ているわらわを愛撫しておったのであろう?」

「……う」


 それは確かな事実だった。
 コウタは、恥ずかしく感じつつも拒絶は出来なかった。
 そしてたっぷりマーキングを堪能した後、


「改めて、おはようなのじゃ! コウタよ!」


 満面の笑みで、リノが告げる。
 その笑顔の前に、コウタもまた破顔してしまった。


「うん。おはよう。リノ」


 そうして。
 今日も朝が始まるのであった。
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