悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第9部

第七章 闇の先の未来②

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 夕暮れを迎えて少し過ぎた頃。
 星が瞬く空の下。
 コウタと、リノは高台にあった公園に訪れていた。
 王都を一望できる小さな公園だ。
 奇しくも、コウタとリノが初めて出会った場所に似ている。
 どんな国、どんな街でもこういった場所にはニーズがあるのだろう。


「……ウム。オレハ、ココデマッテイル」


 と、公園の入り口付近でサザンXが告げる。
 やはり気が利くゴーレムだった。
 コウタとリノの二人は、公園の奥へと進んだ。
 そして公園の端。柵に傍にまで辿り着く。


「ようやく落ち着いて話せるの」


 リノは、コウタの方に振り向いた。
 次いで、ふうっと嘆息する。


「コウタよ」


 リノは、真っ直ぐコウタを見据えた。


「何故、あのようなことをした?」

「……当然、リノを連れていかれないためにだよ」


 コウタはそう答える。


「……まったく」


 リノは、深々と溜息をついた。


「連れていかれるも何も、わらわは一度戻るだけじゃ。暇を見つければまた会いに来る。まあ、次はまた半年か、一年後かもしれんが……」


 リノは仮にも支部長。多忙な身だ。
 こうやって会えるのは、恐らく年に一度か、それぐらいのペースになるだろう。
 それはとても寂しいことだが、それも仕方がない。


「わらわは必ずまた会いに来る。だからお主は――」


 と、リノがコウタを説得しようとした時だった。


「そういう話じゃないんだ。リノ」


 ――グッと。
 コウタに腕を掴まれ、台詞を遮られた。


「コ、コウタ?」

「君は理解していない」


 コウタは真剣な眼差しでリノを見つめた。


「また会える? そんな機会はきっとないよ」

「え……」


 リノは瞳を見開いた。
 コウタはかぶりを振る。


「ボクの兄さんは《七星》なんだ。それも最強の《七星》だ。ボクに会いにくれば、当然兄さんにも近づくことになる。今回みたいに初見ならまだいいよ。けど、次は兄さんも君の素性を知っていることになる。次からは格段に危険になるんだよ。そんな事態、ラゴウ=ホオヅキにとっては到底見過ごせないはずだ」

「そ、それは……」


 リノは言葉を詰まらせる。


「当然、《黒陽社》としてもだ。君のそんな無謀な行動は見過ごせないはずだ。今回の件は君の父親にも報告されると思う。そうなれば……」


 コウタはグッと唇を噛んだ。


「ボク達は、二度と出会うことはない」

「…………」


 リノは言葉もなかった。
 ただ、茫然とした表情でコウタを見つめていた。
 コウタは言葉を続ける。


「君は理解していない。いや、違う」


 少年は、より強くリノの細腕を握った。


「ボクなんかよりずっと聡明な君が気付かないはずがない。あえて、それを考えないようにしているんじゃないか?」


 その指摘にも、リノは何も言えなかった。
 コウタの指摘通りだからだ。
 本当は理解していた。
 次からはもう、コウタに会える機会などあり得ないことには。
 何故なら自分は――。


「……コウタよ」


 リノは静かに瞳を閉じた。


「……わらわは《黒陽》の娘じゃ」


 結局、それがすべてを物語る。


「お主の指摘通りじゃ。所詮、わらわは闇の中より生まれた娘。光の中にいるお主とは相いられぬ存在なのじゃろう」

「………」


 今度は、コウタが無言になった。
 リノは視線を逸らした。


「お主の言う通り、次はない。反論も出来ぬわ。仮にお主と共に歩もうとすれば、わらわはすべてを捨てねばならぬ。わらわにはそれほどの覚悟はない」


 コウタは無言のまま、リノの腕を離した。
 リノは、ポスンとコウタの胸板に頭を乗せた。


「……済まぬ。わらわは二度とお主とは会えぬ。ここでお別れじゃ」


 コウタは未だ言葉を発しない。
 公園には静寂だけが訪れる。
 リノはただ、この最後の静寂に身を委ねていた。
 そして――。


「……リノ」


 コウタがようやく口を開いた。


「……ボクの故郷は《黒陽社》に滅ぼされた」


 リノは顔を上げた。
 コウタは静かな瞳で彼女を見つめる。


「父さんも。母さんも。叔父さんも。一緒に育った幼馴染達も。隣のおばさんも。近所のおじさんも……」


 小さく息を吐く。


「みんな、殺された」

「…………」


 リノに返す言葉はない。
 彼女はその《黒陽社》の幹部なのだ。
 返してもいい言葉などなかった。


「全部、奪われたよ。残ったのはボクの命と、兄さんと姉さんだけだ」


 その声に感情はない。
 けれど、リノの胸は強く締め付けられた。
 誰にも見せたことのない、まるで泣き出しそうな顔でコウタを見つめる。


「……ボクは《黒陽社》を憎んでいるし、恨んでいる。そして……」


 コウタは、リノを一瞥した。


「君に対しても、思うところがある」

「わ、わらわは……」


 リノは視線を伏せて、言葉を詰まらせる。
 彼女は《黒陽社》の、まさに中枢にいる存在だ。
 当然、コウタに敵意を向けられる可能性は大いにあった。
 それが怖くて、リノは自分が《黒陽》の娘であると打ち明けられなかったのだ。


「……リノ」


 コウタは、鋭い面持ちでリノを見据えた。
 リノは、ビクっと肩を震わせた。


(コ、コウタ……)


 潤んだ眼差しで少年を見つめる。
 彼の次の言葉が、本当に恐ろしかった。
 すると、


「……君は一つ誤解しているよ」


 不意にコウタが語り出す。


「ご、誤解、じゃと?」


 リノが恐怖を隠しながら尋ねる。と、


「ボクは君が思うほどに優しい人間じゃない。憎しみもあれば、殺意も持っている。レオス=ボーダーは殺してやりたい。ボクは《黒陽社》を絶対に許さない」

「コウタ……」


 リノは息を呑む。
 少年から放たれる圧は、生半可ではなかった。
 コウタはさらに語る。


「ボクは《黒陽社》が憎い。だからこそ」


 そこで黒い双眸を細めた。


「奪ってやろうと思うんだ」

「……え」


 リノは瞳を瞬かせた。


「奪う? どう言う意味じゃ? それは……」 

「簡単な話だよ。君が捨てるんじゃない。ボクが奪うんだ」


 コウタは、そっとリノの頬に片手を添えた。
 リノは「……え?」と目を見開いた。
 少年の手は暖かく、とても優しかった。
 だが、その手に込められた意志は、途轍もなく強い。
 そして――。


「ボクは《黒陽社》から、一番の宝物を――君を奪ってやるつもりなんだ」


 悪竜の騎士は《妖星》の姫君に宣言する。
 ――堂々たる覚悟を込めて。


「君を離さない。あの渓谷で君が望んだように、ボクが君のすべてを奪うよ」
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