悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
291 / 399
第9部

第八章 黄金の魔王①

しおりを挟む
 さざ波の音が聞こえる。
 ラゴウは一人、夜の海岸で待っていた。
 月を照らす海。
 それを愛機の中で眺めている。
 牛頭に、蛇の頭部を持つ尾。獣のようにひしゃげた両脚。
 断頭台を思わせる巨大な斧槍を肩に担いだ、黄金の鎧機兵。
 恒力値は、圧巻の三万六千六百ジン。
 ――《金妖星》。
《黒陽社》が誇る最強の鎧機兵の一機だ。
 その気になれば一機で一国さえ落とせる怪物は静かに佇んでいた。
 今夜は月が明るい。
 照明などなくとも海が眺めれるほどの充分の光量があった。
 これならば戦闘に何の支障もないだろう。


(……やれやれ)


 ラゴウは苦笑を浮かべた。


(最初から戦闘が前提とはな)


 あの少年は、必ずこの場所に来る。
 そうして、姫を賭けて戦うことになる。
 ラゴウはそう確信していた。


(姫がお生まれになって、早十五年か)


 ラゴウは双眸を細めた。
 主君のただ一人のご息女。
 ラゴウにとっては、戦闘の指南もしたことのある少女だ。
 不敬ながら、彼女のことは娘同然にも思っている。


(……無論、姫には幸せになって頂きたい。だが……)


 ラゴウは、小さく嘆息した。


(それは、あくまで主君が望む形でだ)


 ラゴウにとって、忠誠を誓ったのは主君――《黒陽》。
 リノにも敬意をはらっているが、やはり主君とは明確な優先順位がある。
 主君は、愛娘を奪われることなど望んでいないだろう。
 下手すると、生涯、傍に置いておきたいとまで考えている可能性がある。


(……姫には迷惑な話であろうな)


 そこでまた苦笑を零す。
 彼女の母も、主君の溺愛ぶりには悩んでいたものだ。
 ただ、そんな主君の思惑も、今までは特に問題はなかった。
 何故なら、今まで姫のお眼鏡にかなうような男はいなかったからだ。

 ――《黒陽》の愛娘。加え、《九妖星》の一角。
 釣り合う男などいるはずもない。

 強いて挙げるならば他の《妖星》達だが、歳が離れすぎている。
 そのため、姫は恋とは無縁な人生を送っていた。
 傑出していたゆえの孤独である。
 その心は誰のモノにもなることはなく――。
 男女の恋や愛など鼻で笑うかのように、ただ美貌のみで男を……いや、世界で遊ぶような『傾国』へと育っていく。
 ラゴウのみならず《九妖星》達は全員、そう思っていた。
 しかし、今――。


(まさか、姫の心を奪う者が現れるとはな)


 ラゴウは月を見上げた。
 しかも、その人物はある意味、自分が見出した者である。
 その大いなる可能性に二つ名まで贈ったほどだ。
 その上、あの《双金葬守》の実弟。傑物であるのは疑いようもない。
 姫の伴侶に相応しいと言えないこともないが、流石にこればかりは想定外であった。


(まったく。あの少年はいつも吾輩を驚かせる)


 三度、苦笑を零す。
 と、その時だった。
 ――ズズウゥゥン……。
 突如、黒い影が浜辺に降り立ったのは。


(……来たか)


 ラゴウは、その黒い影に視線を向けた。


(悪竜の騎士よ)


 ――それは一機の鎧機兵だった。
 鋭利な甲鱗のような黒い鎧装に、竜頭を象る手甲。
 頭部には多関節の天を突くような二本角を持っている。手には処刑刀だ。
 竜の相貌を表すアギトはわずかに開いた状態で固定されており、赤い眼差しでラゴウを睨みつけている。


(相も変わらない威容であるな)


 ラゴウは、親しみさえも宿すような笑みを見せた。
 久方ぶりに見たその姿に、心が躍っている。
 戦士としての血が騒いでいた。
 夜の浜辺に顕現した悪竜の騎士は、黒い処刑刀を大きく振った。
 その一振りだけで、かつての頃より洗練されていることが理解できる。


(……ふふ)


 ラゴウの笑みが、ますます深まった。
 ただ、親しさは消えて、歓喜にも似た壮絶さが露になる。
 ――ズズン、と。
 斧槍の断頭台を地に下ろして。
 黄金の鎧機兵は、悪竜の騎士へと振り向いた。
 二機はそのまま対峙する。


『少年よ』


 ラゴウは問うた。


『覚悟は出来たようだな』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...