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第10部
第四章 『刃』、頑張る①
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「……ふむ。ジェシカの奴は上手くやれるかのう」
王城・ラスセーヌの大庭園で。
リノは蒼い空を見上げて、独り言ちた。
リノがこの庭園にいるのは、別に散策をしていた訳ではない。
偶然、コウタが庭園に入る姿を見かけたから追いかけて来たのだ。
しかし、そこで一旦、コウタを見失い、庭園内を歩いていたところ、これまた偶然でジェシカの姿も見かけたのである。
(……ふむ)
リノは瞬時に状況を整理した。
コウタは何というか、持っている男だ。
愛する者の危機に絶妙なタイミングで現れる。
それが、素で出来る男だった。
だからこそ思った。
滞在の理由は分からないが、ここにジェシカがいる以上、きっとコウタは、彼女と遭遇するに違いないと。
(ならば、わらわも一手打ってくか)
リノはそう考えて、ジェシカに声をかけた。
そして現状を伝えるとともに、軽く発破をかけてやったのだ。
メルティア達に対しては厳しい態度をとるリノにしては、寛大な対応だった。
だが、それも当然だった。
庭園内を歩きながら、リノは腰に手を当てて、ふっと笑った。
(ジェシカには頑張ってもらわんといかんからな)
ジェシカを擁護する。
以前、そう約束したこともあるが、他にも狙いはあった。
現状、リノはコウタの傍にいる女性陣の中では孤立している。
――新参者であり、その上、元犯罪者。
警戒されるのは当然である。
しかし、そう割り切っていても、孤立無援はやはり厳しいものだ。
しかも、あの三人は中々の強敵揃いであった。
容姿、スタイルにおいてはリノにも匹敵し、幼馴染として、最もコウタに大切に扱われるメルティア=アシュレイ。
淑女の静謐さと穏やかさを持ち、常にコウタを全面において支え、まさに良妻のように振る舞うリーゼ=レイハート。
無邪気さを装う老獪な幼女。ただ、老獪であるのは、それ以外に身を守る術もないほどに無力だからという証でもある。だからこそ、誰よりもコウタにすべてを委ねているアイリ=ラストン。
近くで対峙すると、よく分かる。
リノの美貌を以てしても侮れない、恐るべき三人であった。
さらに徒党を組まれると、正妻の座が危ういとも言えるほどの強敵である。
だからこそのジェシカなのだ。
(やはり、腹心は欲しいからのう)
リノは腕を組んで「うんうん」と頷いた。
ジェシカは、リノと同じ裏の人間だ。
互いの事情はよく理解している上に、それなりの良好関係も築いている。
ジェシカが、正式にコウタの側室の一人となれば、孤軍奮闘するリノにとって頼もしい味方となることだろう。
だが、そのためには、クリアしなければならない問題もある。
(……う~む)
リノは眉根を寄せて呻いた。
問題は、中々コウタに会えないジェシカの状況にある。
その上、話してみて分かったが、あの年上の女性はかなりの奥手な性格をしていた。まだ生娘ではなのかと疑わしいぐらいの初心さ加減だ。
まあ、流石にそれはないと思うが。
リノは、苦笑を零した。
ジェシカは、本来は暗殺者だと聞く。
あのレベルの容姿と美貌を持つ暗殺者が『女』を利用しないとは考えにくい。
(義母上も言っておったしのう)
そこで、リノはふと義母の一人を思い出した。
彼女も元暗殺者だったそうだ。それも相当な腕前だったらしい。
そんな義母も、男が最も油断するのは、情事の最中だと語っていた。いかなる屈強な男も必ず油断する。その一瞬の隙に頸動脈を掻っ切るのが定石とのことだ。ただ、彼女はその手法で父を狙ったことが仇となって、結果、父の七人目の妻になったそうだが。
義母曰く、父は確信犯だったということだ。
『……あの野郎』
半眼でそう呟く義母の顔が思い浮かぶ。
実は、暗殺は最初から見抜かれていたらしく、それを分かった上で誘い込まれたということらしい。そして散々弄ばれた挙句に、『気に入った! 今日からお前も俺の女だ!』と通告されたとのことだ。
リノは、深々と嘆息した。
まったくもって、父には脱帽する。
(父上には困ったものじゃ。まあ、揃って、わらわに父上との出会いを惚気る義母上達にも霹靂ものじゃが。それにしても……)
――元義賊、元令嬢、元王女、元暗殺者。
本当に、リノの義母達のバリエーションは多彩で凄い。
まあ、父がただの好色家であると言えば、それまでだが。
閑話休題。
ともあれ、恐らくはジェシカは、『女』を利用するのに何も感じない人生を歩んできたため、真っ当な少年相手にかえって純情化しているだけなのだろう。
しかし、
(だとしても、あやつの積極性はロリ神以下ではないか?)
リノはあごに手をやって、ジェシカを酷評する。
事実、それは当たっていた。
なにせ、ジェシカはコウタに対して何もしようとしないのだ。
あれでは正直、ダメだった。
何もしない者に勝利の女神は微笑みかけたりはしない。
(あやつにも、そろそろ覚悟を決めてもらわんとな)
リノは、再び庭園に目をやった。
リノの直感だと、そろそろ二人が出会ってもおかしくはない。
「折角、わらわが用意した舞台じゃ」
リノは、ニヤリと笑った。
「覚悟を見せてみせよ。ジェシカよ」
女王さまは腹心をお求めだった。
派閥を築くためにも、ジェシカの奮闘に期待するリノだった。
王城・ラスセーヌの大庭園で。
リノは蒼い空を見上げて、独り言ちた。
リノがこの庭園にいるのは、別に散策をしていた訳ではない。
偶然、コウタが庭園に入る姿を見かけたから追いかけて来たのだ。
しかし、そこで一旦、コウタを見失い、庭園内を歩いていたところ、これまた偶然でジェシカの姿も見かけたのである。
(……ふむ)
リノは瞬時に状況を整理した。
コウタは何というか、持っている男だ。
愛する者の危機に絶妙なタイミングで現れる。
それが、素で出来る男だった。
だからこそ思った。
滞在の理由は分からないが、ここにジェシカがいる以上、きっとコウタは、彼女と遭遇するに違いないと。
(ならば、わらわも一手打ってくか)
リノはそう考えて、ジェシカに声をかけた。
そして現状を伝えるとともに、軽く発破をかけてやったのだ。
メルティア達に対しては厳しい態度をとるリノにしては、寛大な対応だった。
だが、それも当然だった。
庭園内を歩きながら、リノは腰に手を当てて、ふっと笑った。
(ジェシカには頑張ってもらわんといかんからな)
ジェシカを擁護する。
以前、そう約束したこともあるが、他にも狙いはあった。
現状、リノはコウタの傍にいる女性陣の中では孤立している。
――新参者であり、その上、元犯罪者。
警戒されるのは当然である。
しかし、そう割り切っていても、孤立無援はやはり厳しいものだ。
しかも、あの三人は中々の強敵揃いであった。
容姿、スタイルにおいてはリノにも匹敵し、幼馴染として、最もコウタに大切に扱われるメルティア=アシュレイ。
淑女の静謐さと穏やかさを持ち、常にコウタを全面において支え、まさに良妻のように振る舞うリーゼ=レイハート。
無邪気さを装う老獪な幼女。ただ、老獪であるのは、それ以外に身を守る術もないほどに無力だからという証でもある。だからこそ、誰よりもコウタにすべてを委ねているアイリ=ラストン。
近くで対峙すると、よく分かる。
リノの美貌を以てしても侮れない、恐るべき三人であった。
さらに徒党を組まれると、正妻の座が危ういとも言えるほどの強敵である。
だからこそのジェシカなのだ。
(やはり、腹心は欲しいからのう)
リノは腕を組んで「うんうん」と頷いた。
ジェシカは、リノと同じ裏の人間だ。
互いの事情はよく理解している上に、それなりの良好関係も築いている。
ジェシカが、正式にコウタの側室の一人となれば、孤軍奮闘するリノにとって頼もしい味方となることだろう。
だが、そのためには、クリアしなければならない問題もある。
(……う~む)
リノは眉根を寄せて呻いた。
問題は、中々コウタに会えないジェシカの状況にある。
その上、話してみて分かったが、あの年上の女性はかなりの奥手な性格をしていた。まだ生娘ではなのかと疑わしいぐらいの初心さ加減だ。
まあ、流石にそれはないと思うが。
リノは、苦笑を零した。
ジェシカは、本来は暗殺者だと聞く。
あのレベルの容姿と美貌を持つ暗殺者が『女』を利用しないとは考えにくい。
(義母上も言っておったしのう)
そこで、リノはふと義母の一人を思い出した。
彼女も元暗殺者だったそうだ。それも相当な腕前だったらしい。
そんな義母も、男が最も油断するのは、情事の最中だと語っていた。いかなる屈強な男も必ず油断する。その一瞬の隙に頸動脈を掻っ切るのが定石とのことだ。ただ、彼女はその手法で父を狙ったことが仇となって、結果、父の七人目の妻になったそうだが。
義母曰く、父は確信犯だったということだ。
『……あの野郎』
半眼でそう呟く義母の顔が思い浮かぶ。
実は、暗殺は最初から見抜かれていたらしく、それを分かった上で誘い込まれたということらしい。そして散々弄ばれた挙句に、『気に入った! 今日からお前も俺の女だ!』と通告されたとのことだ。
リノは、深々と嘆息した。
まったくもって、父には脱帽する。
(父上には困ったものじゃ。まあ、揃って、わらわに父上との出会いを惚気る義母上達にも霹靂ものじゃが。それにしても……)
――元義賊、元令嬢、元王女、元暗殺者。
本当に、リノの義母達のバリエーションは多彩で凄い。
まあ、父がただの好色家であると言えば、それまでだが。
閑話休題。
ともあれ、恐らくはジェシカは、『女』を利用するのに何も感じない人生を歩んできたため、真っ当な少年相手にかえって純情化しているだけなのだろう。
しかし、
(だとしても、あやつの積極性はロリ神以下ではないか?)
リノはあごに手をやって、ジェシカを酷評する。
事実、それは当たっていた。
なにせ、ジェシカはコウタに対して何もしようとしないのだ。
あれでは正直、ダメだった。
何もしない者に勝利の女神は微笑みかけたりはしない。
(あやつにも、そろそろ覚悟を決めてもらわんとな)
リノは、再び庭園に目をやった。
リノの直感だと、そろそろ二人が出会ってもおかしくはない。
「折角、わらわが用意した舞台じゃ」
リノは、ニヤリと笑った。
「覚悟を見せてみせよ。ジェシカよ」
女王さまは腹心をお求めだった。
派閥を築くためにも、ジェシカの奮闘に期待するリノだった。
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