悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
314 / 399
第10部

第五章 嵐の予感④

しおりを挟む
 ――その日の夜。
 コウタは一人、王城の渡り廊下を歩いてた。
 目的の場所は、メルティアの部屋だ。
 これから彼女に、とても重要な話をするのだ。
 緊張した面持ちで歩くコウタ。やや早足になる。

 と、そうこうしている内にメルティアの部屋に辿り着いた。
 王城に来た当初は、メルティアはリーゼ達と同室だったが、次々とゴーレムを召喚してしまったために手狭となり、今はゴーレム達と一緒に個室になっていた。
 部屋の前には、二機のゴーレムが門番のように立っている。メルティアは、ここは魔窟館ではないと言ってたが、かなり魔窟館化しているような気もする。
 コウタは苦笑しつつも、「メルはいる?」とゴーレム達に尋ねた。

「……ウム。メルサマハ、イル」

「……ヨバイカ? コウタ」

「……違うよ。少し用があるんだ。入ってもいい?」

 コウタが続けてそう尋ねると、ゴーレムの一機がノックした。

「……メルサマ。コウタガキタ。イレテイイカ?」

「コウタですか? いいですよ」

 と、メルティアの声がドア越しに聞こえてくる。
 ゴーレム達は、ドアを開けてくれた。
 コウタは室内に入った。
 今朝来た時と同じ部屋。大きな天蓋付きベッドに、紅茶などを嗜むための丸テーブル。壁には心を落ち着かせるような絵画が飾ってあり、バルコニーもあった。
 そして二十機近いゴーレム達が、床のあちこちに座っていた。
 まだ結構な数ではあるが、かなり個体数が減っている。
 今朝がたの意味不明な騒動の後、メルティアが大幅に送還したのだ。
 コウタは詳しいことは分からないが、どうも、送還されてしまうようなことをゴーレム達はしでかしたらしい。各機、反省文まで提出させられたそうだ。

 ともあれ、コウタはメルティアを探した。
 メルティアは、ベッドの縁に腰を掛けていた。

(うわ……)

 思わず息を呑む。
 彼女は、すでに寝間着ネグリジェ姿だった。
 肌がうっすら見えるほどに薄い布の寝間着ネグリジェ。下着のラインも浮き出ており、何よりへその窪みが見えるのが……。

(ダ、ダメだ!?)

 つい、ガン見しようとしてしまい、コウタは慌てて視線を外した。
 幼馴染の蠱惑的な姿に、顔が赤くなるのを止められない。

「どうかしたのですか? コウタ」

 コウタが視線を逸らしたことに、メルティアが不思議そうに小首を傾げた。
 コウタも大胆になってきているかもしれないが、メルティアもまた、かなり大胆になってきているのだ。本人には自覚はないようだが。

「い、いや……」

 コウタは、一度息を吐きだした。
 メルティアが恥ずかしがっていない以上、コウタが慌てても仕方がない。
 それに一度は見たこともある姿だ。だからこそメルティアも平常通りなのだろう。
 コウタだけが、今さら動揺してどうするのか。

「な、何でもないよ。それより話があるんだ」

 言って、コウタはメルティアの方に近づいた。
 まだ心拍数が高いが、歩くと同時に徐々に落ち着かせていく。
 すると、それに合わせるかのようにゴーレム達も動き出した。零号を筆頭に、ぞろぞろと退室していく。気を利かせて二人だけにしてくれるようだ。
 部屋にいるのは、コウタとメルティアだけになった。

「隣、座ってもいい?」

「どうぞ。座ってください」

 メルティアの承諾を得て、コウタは彼女の隣に腰を下ろした。
 しかし、そこからは沈黙した。
 コウタは、指を組んで前を見つめている。
 二人とも何も語らなかった。
 メルティアは真剣な顔つきのコウタの横顔から、彼が重要な話を告げようとしているのを察して、ただ、彼が口を開くのを待った。

 そして――。

「今日、兄さんと……」

 ようやく、コウタが口を開いた。

「あの男の話をしたんだ」

 ――あの男。
 コウタが、そう呼ぶ人間は限られている。
 ラゴウ=ホオヅキか、もしくは……。

「レオス=ボーダーのことですか?」

「……うん」

 コウタが頷く。

「あの男もまた、この国に来ている」

「……そうですか」

 メルティアは瞳を閉じてから、コウタを見つめた。

「……戦うのですね」

「……うん」

 コウタは、再び頷いた。

「多分、兄さんはあの男とは出会うことはない。そんな気がする。あの男と――父さんとクライン村の仇であるあの男と戦うのは、きっとボクだ」

 コウタは――そして彼の兄もそう感じていた。
 レオス=ボーダーと決着をつけるのは、コウタの役目。
 クライン村の兄弟は、そう確信していた。
 メルティアは、キュッと拳を固めた。
 あの男と、初めて対峙した時のコウタの様子を思い出す。

 ――怒りと憎悪を剥き出しにしたコウタの姿を。

(……私は)

 コウタの傍にいたい。
 しかし、レオス=ボーダーは強敵だ。
 自分では、きっと足手まといになるだろう。
 それに今や、リーゼはもちろん、元 《九妖星》であるリノまでコウタの傍にいる。
 メルティアと違い、戦闘に精通した彼女達ならば、《悪竜》モードも十全に使いこなし、自分以上にコウタをサポートしてくれることだろう。

「あの男と戦うには《悪竜》モードが必須だ」

 コウタは、言葉を続けた。

「ボク一人では勝てない。だから……」

 メルティアは、グッと瞳を閉じた。
 その先の言葉を覚悟して。

「あの男と戦う時、メルに傍にいて欲しいんだ」

 静寂が訪れた。
 五秒、十秒と続く。

「………え?」

 メルティアは顔を上げて、コウタを見つめた。
 彼の黒い瞳と視線が重なる。

「ど、どうして私なのですか?」

 思わず尋ねた。

「リーゼやニセネコ女ではなく、どうして私を……」

「……うん。確かにリーゼやリノは頼りになるよ」

 コウタは、視線を少し落とした。

「彼女達は戦闘のプロだしね。戦闘のサポートはもちろん、ボクが思いつかないような戦術も考えてくれると思う。だけど、あの男と戦う時、必要なのはボク自身の力なんだ。そしてボクが一番強くなるのは……」

 一拍の間を置いて。

「君が傍にいる時なんだ。だから」

 コウタは、メルティアの肩に両手を置いた。

「ボクの傍にいて欲しい。危険なのはよく分かっている。けど、それでも、メルに傍にいて欲しんだ」

「……コ、コウタ」

 メルティアは息を呑んだ。
 コウタは不安そうに眉根を寄せる。

「……ダメかな」

「い、いえ」メルティアはかぶりを振った。「コウタが望むなら私は応えます」

「……ありがとう。メル」

 コウタは微笑んだ。
 メルティアも瞳を細めて口角を崩す。

「いえ。コウタの頼みですから。それよりも……」

 そこで、メルティアはジト目になった。

「コウタが私を大切に想ってくれることは疑っていませんが、やはり最近コウタは他の女の子に構いすぎだとも思っています」

「……え」

「ニセネコ女のこともそうですが、どうもそれだけではないような気がします。例えば、サクヤさんの傍にいた女性です。コウタは、彼女とも知り合いのように見えましたが、実のところ、どういう知り合いなのですか?」

「――えっ」

 コウタは、目を見開いた。
 思わぬ指摘に、汗がダラダラと噴き出してくる。
 メルティアの言う女性とは、ジェシカのことだ。まさか、会話もしたことのない彼女をメルティアが意識していたとは思っていなかった。

「そ、それってジェシカさんのこと?」

「……なるほど。ジェシカと言うのですか」

「え、えっと、彼女は……」

 何と説明すればいいのか……。
 何故か主従関係になったとは言えず、コウタはしどろもどろになった。
 その様子を見て、メルティアは大きな溜息をついた。

「まったく。まあ、今はいいでしょう。そのジェシカさんという人とも、いずれ出会うことでしょうし。それからですね」

 ポツリ、と呟く。

「やはり私達も一度サミットを開くべきですね。ユーリィ達のように」

「え? メル?」

 あまりに小さな呟きだったので聞き取れず、眉根を寄せるコウタ。
 メルティアは、パンと柏手を打った。

「気にしないでください。それより分かっていますね。コウタ」

 言って、両手を広げるメルティア。
 コウタは「……やっぱり?」と尋ねる。

「当然です。相手は《九妖星》ですよ。その話だけでブレイブ値は激減です」

「うう……分かったよ」

 正直、寝間着ネグリジェ姿のメルティアは普段よりも遥かにハードルが高いのだが、無理を言っているのはコウタだ。仕方がない。
 コウタは、彼女の背中に手を回した。
 薄い布のせいか、いつも以上に柔らかさと体温をはっきりと感じる。
 特に豊かな双丘の感触は、もはや暴力と言ってもいい。
 しかし、意外にも動揺や羞恥心よりも、安堵感の方が強かった。

 改めて思う。
 やはり、メルティアは自分にとって欠かせない存在なのだと。

「一緒に頑張りましょう。コウタ」

「……うん。頑張ろう。メル」

 最も大切な温もりを、しっかりと感じ取り。
 必勝を誓うコウタだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...