363 / 399
第11部
第八章 そうして、彼女は運命を知る➄
しおりを挟む
肌に突き刺さる殺気。
巨大なる炎を間近で見たかのような威圧感。
圧倒的な覇気を前にして、ライガは、軽く息を呑んだ。
(……これが、アルフレッド=ハウルか)
双眸を鋭く細める。
アヤメが怪物と称した人物。
なるほど。この圧ならば納得だ。
(しかし、温厚な人物だという噂だったが……)
ゆっくりと近づいてくる少年。
目の前の人物は、とても温厚とは呼べない表情を浮かべていた。
噂が嘘だった……とは、今回に関しては思わない。
温厚な人間でも、激昂することもあるのだ。
例えば――。
(しまったな。調査不足だったか)
ライガは茫然とした顔で、少年を見るアンジェリカに目をやった。
逆鱗に触れたとすれば、間違いなくこの少女のことだ。
恐らく、彼女は、アルフレッド=ハウルの恋人だったのだろう。
自分の女が見知らぬ男に襲われているのだ。激怒しないはずもない。
仮に、ライガが逆の立場なら――。
(……ふん)
余計な考えだと、思考を止めた。
いずれにせよ、ここからは相手が変わるようだ。
未熟な騎士候補生ではない。
正真正銘の皇国騎士。それも最強の七人の一人だ。
「何をしたと聞いているんだ……」
アルフレッドは、槍の間合いで足を止めた。
対し、ライガは、すっと足を踏み出し、拳の甲を見せて構えた。
口を開くことはない。
代わりに、アンジェリカが何かを伝えようとしていたが、まだ体が恐怖に縛られているのか、口をパクパクと動かすだけだった。
アルフレッドは、その様子を一瞥して、ギリと歯を軋ませた。
「……お前の素性はもういい」
アルフレッドは呟く。
「今すぐアンジュから離れろ。これ以上、彼女に近づくな」
「……それは聞けんな――」
と、ライガが答えようとした瞬間だった。
――ズドンッ!
(――ッ!)
突如、肩に強い衝撃を受けた。
ライガは大きく後ろに飛ぶ。右肩を押さえた。
肩に痺れるような強い痛みが走った。
「……お前」
アルフレッドが、突き出した槍を手に、双眸を細める。
「随分と硬い体なんだな。どんな鍛え方をしているんだ?」
「……なに。ただの体質というやつだ」
ライガはそう答えるが、内心では本当に驚いていた。
今の刺突は、ほとんど見えなかった。
まるで閃光である。
(……本当に、『人』の子か?)
獅子の尾を踏んだとしても、恐ろしいほどの技の冴えだった。
このままでは、勝てないかもしれない。
(さて。どうするか)
やはり、ここは鬼人の本性で戦うべきか。
そう考えていると、
「……また無口になったな」
アルフレッドが、再び間合いを詰めてくる。
「色々と考えてるのか? けど、僕はこれ以上、お前に付き合う気はない」
一歩、二歩、三歩。
間合いは、再び槍の領域に入った。
「アンジュが怪我をしているかもしれないんだ。お前に構っている暇なんかない」
すっと、槍を構える。
「とりあえず、お前はもう退場しろ。頑丈なのが取り柄みたいだから、もし生きていたらその時は尋問でもしてやる」
そう言った途端、アルフレッドの手元が消えた。
そして次の瞬間、
(――ぬお!?)
ライガは、目を見開いた。
全身が、無数の衝撃で殴打されたのだ。
まるで流星。すべて、アルフレッド=ハウルの刺突だった。
あまりの速さに身構えることも出来ず、ライガの両足がわずかに浮いた。
その刹那、
――ズドンッッ!
一際強烈な一撃が、ライガの体を射抜いた。
ライガは耐えることも出来ず、遥か後方に吹き飛ばされた。
そして、ズガンっと壁にぶち当たった。
ライガの体の強度もあって、その衝撃は砲弾にも近かったようだ。
壁の一部は粉砕されて、ライガはその奥へと消えていった――。
「いいか。よく聞け」
くるりと槍を回して、アルフレッドが言う。
「アンジュを泣かせるな。それだけは絶対に許さないからな」
「「……オオオ」」
ガンガンガンっとゴーレムたちが拍手を贈る。
メルティアも『凄いですね』と、ガンガンと拍手していた。
一方、アンジェリカは、
(うわあ……アル君、アル君……)
――カアアアアアっ、と。
幼馴染の雄姿に見惚れつつ、まるで自分の女に手を出すなと言わんばかりに、激しい怒りを見せてくれたことが嬉しく嬉しくて、顔を真っ赤にしていた。
もし、ここに『アル君人形』があれば、その豊満なおっぱいと、日々の修練で鍛え上げた腕力で、人形の胃を圧縮するぐらいに抱き潰していたことだろう。
(はうわァ、アル君~っ)
トラウマによる恐怖など、もう完全に吹き飛んでいた。
一方、アンジェリカの感激ぶりには、メルティアも気付いていた。
なにせ、事前に相談されていたのだから、彼女の想いは一目瞭然だった。
(――アンジュ。これはチャンスですよ)
これは、絶好の好機だった。
これほどの危機。そしてまるで王子さまのような登場をしたアルフレッド。さらには、悪漢を怒りに任せた一蹴である。
幼馴染の達人であるメルティアの目で見れば明白だ。
アルフレッドは、何だかんだいっても、まだ、アンジェリカに好意を持っていてくれているのだ。アンジェリカの話だと、もの凄いモラハラを受けているような気もするが、圧倒的な嫌悪の軍団に対し、たとえ劣勢でも好意軍は必死に抵抗を続けていたのだ。
(今です! 今こそ心を開く時なのです! アンジュ!)
ここでデレを見せれば、まさに逆転の一手だ。
アンジェリカの印象も大きく変わるはず。
(さあ! おっぱいも使って、ぎゅっと抱き着くのです! アンジュ!)
メルティアは、着装型鎧機兵の中で、両手の拳を固めた。
アルフレッドは片膝をつき、「大丈夫? アンジュ?」と、まさに今、アンジェリカに手を差し伸べようとしていた。
さあ、怖かったと、本心を吐露するのだ。
その大きなおっぱいを目いっぱい使って抱き着くのだ。
アルフレッドの性格ならば、困惑しても抱きしめ返してくれるに違いない。
そうして一度でも弱さを見せてしまえば、もう強がる必要もない。
徐々に、自然な態度も取れるようになるはずだ。
デレ100%も夢ではない。
(頑張ってください! アンジュ!)
メルティアは声には出さず、自分の弟子を自称する少女を応援した。
――が、
「相変わらず遅すぎるのよ。アルフレッドは」
………………………。
「いつまでたっても成長しないわね。それでいいと思っているの?」
…………………………………。
「どうせならこうなる前に来なさいよ。何よ、あのタイミングは。あなた、まさか出てくるタイミングを計っているんじゃないでしょうね」
……………………………………………。
……………………………おい。
「まあ、あの程度の奴。その気になれば楽勝だったわ」
と、アルフレッドの差し伸べた手をはたいて、言い放つアンジェリカ。
アルフレッドは「う、うん。そうだね」と、顔を引きつらせていた。
先程までの怒りや迫力は、もうどこにもない。
すでに覇気まで消えかけている。
今の彼を見て《七星》の一人だと思う人間はいないだろう。
アンジェリカは立ち上がると、片手を腰に、赤い髪を手で払った。
「まったく。アルフレッドって本当に愚図――」
と、言いかけたところで、
――むんず、と。
アンジェリカの頭は、巨人の手で掴まれた。
「え? ふえ? 我が師?」
両足が宙に浮き、アンジェリカが動揺の声を上げた。
アンジェリカの頭を掴んだメルティアは、唖然とするアルフレッドに告げる。
『アルフレッドさま』
「あ、は、はい。何ですか?」
アルフレッドが尋ねると、
『アンジュを借りていきます。少しこの場でお待ちください』
「え? あ、はい」
コクコクと頷くアルフレッド。
メルティアは、アンジェリカを浮かせたまま、ズシン、ズシンと移動していく。
そうして、《フォレス》の影にまで移動すると、
『何を考えているのですか! あなたは――ッ!』
「ひやあああッ!? ごめんなさあいいいッ! 我が師ッ!」
メルティアは、生まれて初めてガチの説教をした。
一方、アルフレッドは、
「アンジュ、メルティアさまと仲良くなれたんだ……痛、いたたた……」
彼は彼で、彼女たちに気付かれないように胃を押さえるのであった。
が、そんな中で――。
(……凄まじいな……)
ガラガラ、と。
岩を退かし、壁の一つ向こう側で、ライガは立ち上がった。
出血する自分の肩の付け根に片手をやる。
(……なんという技量だ。これが《七星》なのか)
無数の流星の中にあった一筋の光。
あの瞬間、わずかにだが、体を捻れたのは僥倖だった。
もし、あと一秒でも遅れていたら、確実に喉を貫かれていただろう。
全力を出すこともなく、ここに屍として転がっていたはずだ。
「……所詮は『人』と侮っていたか」
ライガの額から、グググっと心角が伸びる。
同時に、筋肉がさらに引き締まり、傷口の出血が止まった。
「だが、ここからは本気だ。俺も負ける訳には――」
と、呟いた時だった。
その声は、唐突に響いた。
「……ソコマデニ、シテオケ」
それは、決して威圧するような口調ではない。
だが、それでも、ライガは雷でも落とされた感覚を抱いた。
ハッとして、後ろに振り向く。
そして、そこに居たのは、
――ズズズズ……。
影が岩壁に沿って這っていた。
――そう。影だ。
とても長く、太く、まるで蛇のような巨大な影が這っていたのである。
鋭いアギトを持つ巨大な影だ。
壁面に、地面に、天井。全部で三体の巨大な影。
三つの影は途中で一つとなって繋がっており、その先には、とても小柄な人影があるのだが、ライガの瞳には巨大な影だけが映っていた。
「おお、おおお……」
感嘆にも似た声を上げるライガ。
すると、影は、アギトを動かしてこう告げる。
「……問オウ。異界ノ子ヨ。ワレガ、何者カ、ワカルカ?」
「――何を仰られますか!」
ライガは両膝を、両手を地に付けた。
「一目で分かりましたぞ! 焔魔さまの血がお教えくださった! 御身こそが、我らが偉大なる王!」
「………焔魔ノ子、ダッタノカ」
獣の影は、双眸を細めた。
「……懐カシイ名ダ。東方天・焔魔。北方天ノ遺シタ《教団》ハ、知ッテイタガ、アヤツマデ、コノ地二、キテイタトハナ。アヤツハ、ドウシテイル?」
「……残念ながら焔魔さまは、すでに亡くなられております。ですが我らがここに」
ライガは、頭を深々と下げた。
「我らが王と、我らが御子さまのために。我ら焔魔堂は、この日のために今代まで在り続けておりました」
「……ソウカ」
獣の影は、数瞬ほど沈黙した。
「しかしながら、王よ」
ライガは言葉を続ける。
「まさか御子さまのみならず、王まで蘇っておられようとは……」
「……残念ダガ、ソレハ違ウ。ワレノコノ姿ハ、ヨリシロダ。仮初ニスギヌ」
影は尋ねる。
「……焔魔ノ子ヨ。ウヌハ、ワガ御子二、スデニ逢ッタカ?」
「……は」
ライガは答えた。
「御子さまのご尊顔は遠方よりですが拝見しております。拝謁はまだですが――」
少しだけ迷いつつも、ライガは報告する。
「我が義妹が、今まさに御子さまの元に。名はアヤメ。幼少の頃より、御子さまの寵愛を賜るために育てあげた娘でございます」
「……ホウ」
大いなる影は、面白そうに呟いた。
「……ソノ乙女。牙ハ、モッテオルカ?」
「……牙ですと?」
「……御子二、ツキタテル牙ダ」
「………なっ」
ライガは目を見開き、顔を上げた。
「御子さまに、牙ですと?」
「……贄ナル花嫁ハ、牙ヲモタネバ、意味ガナイ。ソノ牙サエモ喰ラウ。怒リモ、激情サエモ愛スル。ソレガ、ワガ代行者。ワガ御子ナノダ」
「なんと……ッ」
ライガは、深々と王に頭を垂れた。
「恐れながら、御子さまの望まれる通りの状況かと。我が義妹は、まさに今、御子さまに牙を向けに行っているのです」
偉大なる王に、ライガは正直に語った。
アヤメが、御子さまの花嫁であるお側女役を嫌っていることを。
その運命を覆すために、今御子さまに戦いを挑んでいることを。
すると、大いなる影は、クツクツと笑った。
「……オオ。安定ノ、女難……」
と、こっそりと呟きつつ、影は三つある双眸を細めた。
「……焔魔ガ、遺シタ、贄ナル花嫁カ。ナカナカニ、オモシロイ。ワガ御子ニ、フサワシキ乙女ナノカ。ミセテモラオウカ」
巨大なる炎を間近で見たかのような威圧感。
圧倒的な覇気を前にして、ライガは、軽く息を呑んだ。
(……これが、アルフレッド=ハウルか)
双眸を鋭く細める。
アヤメが怪物と称した人物。
なるほど。この圧ならば納得だ。
(しかし、温厚な人物だという噂だったが……)
ゆっくりと近づいてくる少年。
目の前の人物は、とても温厚とは呼べない表情を浮かべていた。
噂が嘘だった……とは、今回に関しては思わない。
温厚な人間でも、激昂することもあるのだ。
例えば――。
(しまったな。調査不足だったか)
ライガは茫然とした顔で、少年を見るアンジェリカに目をやった。
逆鱗に触れたとすれば、間違いなくこの少女のことだ。
恐らく、彼女は、アルフレッド=ハウルの恋人だったのだろう。
自分の女が見知らぬ男に襲われているのだ。激怒しないはずもない。
仮に、ライガが逆の立場なら――。
(……ふん)
余計な考えだと、思考を止めた。
いずれにせよ、ここからは相手が変わるようだ。
未熟な騎士候補生ではない。
正真正銘の皇国騎士。それも最強の七人の一人だ。
「何をしたと聞いているんだ……」
アルフレッドは、槍の間合いで足を止めた。
対し、ライガは、すっと足を踏み出し、拳の甲を見せて構えた。
口を開くことはない。
代わりに、アンジェリカが何かを伝えようとしていたが、まだ体が恐怖に縛られているのか、口をパクパクと動かすだけだった。
アルフレッドは、その様子を一瞥して、ギリと歯を軋ませた。
「……お前の素性はもういい」
アルフレッドは呟く。
「今すぐアンジュから離れろ。これ以上、彼女に近づくな」
「……それは聞けんな――」
と、ライガが答えようとした瞬間だった。
――ズドンッ!
(――ッ!)
突如、肩に強い衝撃を受けた。
ライガは大きく後ろに飛ぶ。右肩を押さえた。
肩に痺れるような強い痛みが走った。
「……お前」
アルフレッドが、突き出した槍を手に、双眸を細める。
「随分と硬い体なんだな。どんな鍛え方をしているんだ?」
「……なに。ただの体質というやつだ」
ライガはそう答えるが、内心では本当に驚いていた。
今の刺突は、ほとんど見えなかった。
まるで閃光である。
(……本当に、『人』の子か?)
獅子の尾を踏んだとしても、恐ろしいほどの技の冴えだった。
このままでは、勝てないかもしれない。
(さて。どうするか)
やはり、ここは鬼人の本性で戦うべきか。
そう考えていると、
「……また無口になったな」
アルフレッドが、再び間合いを詰めてくる。
「色々と考えてるのか? けど、僕はこれ以上、お前に付き合う気はない」
一歩、二歩、三歩。
間合いは、再び槍の領域に入った。
「アンジュが怪我をしているかもしれないんだ。お前に構っている暇なんかない」
すっと、槍を構える。
「とりあえず、お前はもう退場しろ。頑丈なのが取り柄みたいだから、もし生きていたらその時は尋問でもしてやる」
そう言った途端、アルフレッドの手元が消えた。
そして次の瞬間、
(――ぬお!?)
ライガは、目を見開いた。
全身が、無数の衝撃で殴打されたのだ。
まるで流星。すべて、アルフレッド=ハウルの刺突だった。
あまりの速さに身構えることも出来ず、ライガの両足がわずかに浮いた。
その刹那、
――ズドンッッ!
一際強烈な一撃が、ライガの体を射抜いた。
ライガは耐えることも出来ず、遥か後方に吹き飛ばされた。
そして、ズガンっと壁にぶち当たった。
ライガの体の強度もあって、その衝撃は砲弾にも近かったようだ。
壁の一部は粉砕されて、ライガはその奥へと消えていった――。
「いいか。よく聞け」
くるりと槍を回して、アルフレッドが言う。
「アンジュを泣かせるな。それだけは絶対に許さないからな」
「「……オオオ」」
ガンガンガンっとゴーレムたちが拍手を贈る。
メルティアも『凄いですね』と、ガンガンと拍手していた。
一方、アンジェリカは、
(うわあ……アル君、アル君……)
――カアアアアアっ、と。
幼馴染の雄姿に見惚れつつ、まるで自分の女に手を出すなと言わんばかりに、激しい怒りを見せてくれたことが嬉しく嬉しくて、顔を真っ赤にしていた。
もし、ここに『アル君人形』があれば、その豊満なおっぱいと、日々の修練で鍛え上げた腕力で、人形の胃を圧縮するぐらいに抱き潰していたことだろう。
(はうわァ、アル君~っ)
トラウマによる恐怖など、もう完全に吹き飛んでいた。
一方、アンジェリカの感激ぶりには、メルティアも気付いていた。
なにせ、事前に相談されていたのだから、彼女の想いは一目瞭然だった。
(――アンジュ。これはチャンスですよ)
これは、絶好の好機だった。
これほどの危機。そしてまるで王子さまのような登場をしたアルフレッド。さらには、悪漢を怒りに任せた一蹴である。
幼馴染の達人であるメルティアの目で見れば明白だ。
アルフレッドは、何だかんだいっても、まだ、アンジェリカに好意を持っていてくれているのだ。アンジェリカの話だと、もの凄いモラハラを受けているような気もするが、圧倒的な嫌悪の軍団に対し、たとえ劣勢でも好意軍は必死に抵抗を続けていたのだ。
(今です! 今こそ心を開く時なのです! アンジュ!)
ここでデレを見せれば、まさに逆転の一手だ。
アンジェリカの印象も大きく変わるはず。
(さあ! おっぱいも使って、ぎゅっと抱き着くのです! アンジュ!)
メルティアは、着装型鎧機兵の中で、両手の拳を固めた。
アルフレッドは片膝をつき、「大丈夫? アンジュ?」と、まさに今、アンジェリカに手を差し伸べようとしていた。
さあ、怖かったと、本心を吐露するのだ。
その大きなおっぱいを目いっぱい使って抱き着くのだ。
アルフレッドの性格ならば、困惑しても抱きしめ返してくれるに違いない。
そうして一度でも弱さを見せてしまえば、もう強がる必要もない。
徐々に、自然な態度も取れるようになるはずだ。
デレ100%も夢ではない。
(頑張ってください! アンジュ!)
メルティアは声には出さず、自分の弟子を自称する少女を応援した。
――が、
「相変わらず遅すぎるのよ。アルフレッドは」
………………………。
「いつまでたっても成長しないわね。それでいいと思っているの?」
…………………………………。
「どうせならこうなる前に来なさいよ。何よ、あのタイミングは。あなた、まさか出てくるタイミングを計っているんじゃないでしょうね」
……………………………………………。
……………………………おい。
「まあ、あの程度の奴。その気になれば楽勝だったわ」
と、アルフレッドの差し伸べた手をはたいて、言い放つアンジェリカ。
アルフレッドは「う、うん。そうだね」と、顔を引きつらせていた。
先程までの怒りや迫力は、もうどこにもない。
すでに覇気まで消えかけている。
今の彼を見て《七星》の一人だと思う人間はいないだろう。
アンジェリカは立ち上がると、片手を腰に、赤い髪を手で払った。
「まったく。アルフレッドって本当に愚図――」
と、言いかけたところで、
――むんず、と。
アンジェリカの頭は、巨人の手で掴まれた。
「え? ふえ? 我が師?」
両足が宙に浮き、アンジェリカが動揺の声を上げた。
アンジェリカの頭を掴んだメルティアは、唖然とするアルフレッドに告げる。
『アルフレッドさま』
「あ、は、はい。何ですか?」
アルフレッドが尋ねると、
『アンジュを借りていきます。少しこの場でお待ちください』
「え? あ、はい」
コクコクと頷くアルフレッド。
メルティアは、アンジェリカを浮かせたまま、ズシン、ズシンと移動していく。
そうして、《フォレス》の影にまで移動すると、
『何を考えているのですか! あなたは――ッ!』
「ひやあああッ!? ごめんなさあいいいッ! 我が師ッ!」
メルティアは、生まれて初めてガチの説教をした。
一方、アルフレッドは、
「アンジュ、メルティアさまと仲良くなれたんだ……痛、いたたた……」
彼は彼で、彼女たちに気付かれないように胃を押さえるのであった。
が、そんな中で――。
(……凄まじいな……)
ガラガラ、と。
岩を退かし、壁の一つ向こう側で、ライガは立ち上がった。
出血する自分の肩の付け根に片手をやる。
(……なんという技量だ。これが《七星》なのか)
無数の流星の中にあった一筋の光。
あの瞬間、わずかにだが、体を捻れたのは僥倖だった。
もし、あと一秒でも遅れていたら、確実に喉を貫かれていただろう。
全力を出すこともなく、ここに屍として転がっていたはずだ。
「……所詮は『人』と侮っていたか」
ライガの額から、グググっと心角が伸びる。
同時に、筋肉がさらに引き締まり、傷口の出血が止まった。
「だが、ここからは本気だ。俺も負ける訳には――」
と、呟いた時だった。
その声は、唐突に響いた。
「……ソコマデニ、シテオケ」
それは、決して威圧するような口調ではない。
だが、それでも、ライガは雷でも落とされた感覚を抱いた。
ハッとして、後ろに振り向く。
そして、そこに居たのは、
――ズズズズ……。
影が岩壁に沿って這っていた。
――そう。影だ。
とても長く、太く、まるで蛇のような巨大な影が這っていたのである。
鋭いアギトを持つ巨大な影だ。
壁面に、地面に、天井。全部で三体の巨大な影。
三つの影は途中で一つとなって繋がっており、その先には、とても小柄な人影があるのだが、ライガの瞳には巨大な影だけが映っていた。
「おお、おおお……」
感嘆にも似た声を上げるライガ。
すると、影は、アギトを動かしてこう告げる。
「……問オウ。異界ノ子ヨ。ワレガ、何者カ、ワカルカ?」
「――何を仰られますか!」
ライガは両膝を、両手を地に付けた。
「一目で分かりましたぞ! 焔魔さまの血がお教えくださった! 御身こそが、我らが偉大なる王!」
「………焔魔ノ子、ダッタノカ」
獣の影は、双眸を細めた。
「……懐カシイ名ダ。東方天・焔魔。北方天ノ遺シタ《教団》ハ、知ッテイタガ、アヤツマデ、コノ地二、キテイタトハナ。アヤツハ、ドウシテイル?」
「……残念ながら焔魔さまは、すでに亡くなられております。ですが我らがここに」
ライガは、頭を深々と下げた。
「我らが王と、我らが御子さまのために。我ら焔魔堂は、この日のために今代まで在り続けておりました」
「……ソウカ」
獣の影は、数瞬ほど沈黙した。
「しかしながら、王よ」
ライガは言葉を続ける。
「まさか御子さまのみならず、王まで蘇っておられようとは……」
「……残念ダガ、ソレハ違ウ。ワレノコノ姿ハ、ヨリシロダ。仮初ニスギヌ」
影は尋ねる。
「……焔魔ノ子ヨ。ウヌハ、ワガ御子二、スデニ逢ッタカ?」
「……は」
ライガは答えた。
「御子さまのご尊顔は遠方よりですが拝見しております。拝謁はまだですが――」
少しだけ迷いつつも、ライガは報告する。
「我が義妹が、今まさに御子さまの元に。名はアヤメ。幼少の頃より、御子さまの寵愛を賜るために育てあげた娘でございます」
「……ホウ」
大いなる影は、面白そうに呟いた。
「……ソノ乙女。牙ハ、モッテオルカ?」
「……牙ですと?」
「……御子二、ツキタテル牙ダ」
「………なっ」
ライガは目を見開き、顔を上げた。
「御子さまに、牙ですと?」
「……贄ナル花嫁ハ、牙ヲモタネバ、意味ガナイ。ソノ牙サエモ喰ラウ。怒リモ、激情サエモ愛スル。ソレガ、ワガ代行者。ワガ御子ナノダ」
「なんと……ッ」
ライガは、深々と王に頭を垂れた。
「恐れながら、御子さまの望まれる通りの状況かと。我が義妹は、まさに今、御子さまに牙を向けに行っているのです」
偉大なる王に、ライガは正直に語った。
アヤメが、御子さまの花嫁であるお側女役を嫌っていることを。
その運命を覆すために、今御子さまに戦いを挑んでいることを。
すると、大いなる影は、クツクツと笑った。
「……オオ。安定ノ、女難……」
と、こっそりと呟きつつ、影は三つある双眸を細めた。
「……焔魔ガ、遺シタ、贄ナル花嫁カ。ナカナカニ、オモシロイ。ワガ御子ニ、フサワシキ乙女ナノカ。ミセテモラオウカ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる