23 / 399
第1部
第七章 鋼の進軍②
しおりを挟む
「……とりあえずヌシはここで休むといい」
とある森の野営地。
メルティアはラゴウに連れられ、テントの一つに案内された。
複数人が入れるようなかなり大きなテントであり、木製の机や椅子、就寝用の毛布なども置かれている。高官用の上質なテントだ。
「ふむ。では吾輩は行くぞ」
メルティアがテントの中に目を向けていたら、もう用は済んだとばかりに、ラゴウは立ち去ろうとしていた。
が、テントの入り口をくぐろうとした所で足を止め、
「ああ、すまんが、しばし起きていてくれ。一時間後には出立する予定なのでな。その時には馬車で移動してもらう」
「……このテントといい、随分と親切なのですね。てっきり拘束され、牢屋にでも放り込まれるものと思っていました」
メルティアが皮肉混じりにそう告げると、ラゴウは軽く肩をすくめて、
「あの少年と約束した手前、乱雑に扱う訳にもいかんよ」
と、そこでふと思い出す。
「そう言えば、あの少年もヌシも、名を聞いていなかったな」
「……それを言うのなら、私もあなたの名前を知りません」
「ん? そうであったか?」
言われてみれば、ラゴウは彼女には名乗っていない。
宿敵にしようと見初めた少年と、情婦にすると宣告した少女。
そんな二人の名前を知らないとは、少しばかり間抜けな話である。
「ふん、まあ良いか。吾輩の名はラゴウ=ホオヅキという。ヌシの名は何だ?」
「……メルティア。メルティア=アシュレイです」
「ふむ。中々良い名ではないか、少女よ。では、あの少年の名は……」
と、尋ねかけた所でラゴウは思い直す。
「いや、別に今聞かずともよいか。それは、次にあの少年と立ち合う時の楽しみにしておこう。では少女よ。しばし休息をとるといい」
言って、今度こそラゴウはテントを去って行った。
テントに一人残ったメルティアはしばし入り口を見据えて――。
「…………ふう」
と、小さく嘆息して身体を支えるように机に片手を置く。
正直、本当に疲れた。
この神経を削る状況に加え、そもそも人と対面するだけで怖いのだ。
メルティアの消耗は相当なものだった。
(……でも、交渉には成功しました)
どうにかコウタ達の命の危機は回避できた。
ここまでは目論見通りだ。
後は彼女自身が救出されるのを待つだけなのだが……。
(コウタ達は上手くやってくれるでしょうか)
このテントに来る途中に周囲の様子を窺う機会があった。
規模的には四十人程度のキャラバンか。
二十を超えるぐらいのテントと、牢屋を思わせる馬車が数台ほど停留していた。
もしかしたら、あの中には今のメルティアと同じ立場の人間――《星神》達が囚われているのかもしれない。どうにかしてやりたいとは思うが……。
(今は自分のことを第一に考えましょう)
メルティアはかぶりを振った。
そこまでの余裕はない。何より彼女自身も危うい状況なのだ。
「……さて」
メルティアは小さくそう呟くと、おもむろにブラウスの上のボタンを外した。
そして、白磁のように白い胸元が露わになる。
メルティアは少し頬を赤く染めて嘆息した。英雄譚などではよく聞く手法だが、まさか自分でする羽目になるとは思わなかった。
「……万が一を考えてここに隠しましたが、我ながら……」
言って、彼女は豊かな双丘の間から小指程度の大きさの発信器を取り出した。
これがある限り、コウタ達に自分の位置を伝えられるはずだ。
だがその探索範囲には限界がある上、恒力の補給もなく長時間使用はできない。
本格的に移動されたら、位置を消失する可能性が高かった。
(あと一時間。それがタイムリミット……)
メルティアは発信機をギュッと握りしめた。
彼女を守る鎧もなく、見知らぬ人間だらけのこの場所。
何よりコウタが傍にいないことが、不安を加速させていく。
「……コウタ」
そして少女は愛しい少年の名を呟いて、祈るように目を伏せる。
「早く迎えに来て下さい。コウタ」
◆
「(……どうやら当たりみたいだな、コウタ)」
「(うん。反応はあそこから出ている。あのテントのどれかにメルがいるんだ)」
と、森の繁みの中、ジェイクとコウタは小さな声でそうやり取りした。
眼前には大きな広場で野営をするキャラバンがある。
直径としては三百セージルほど。二十四、五のテントが点在しており、広場の右端には数台の馬車が停留してある。
ラゴウと同じような黒服を着た男達が、数人ほど見張りをしている所から察するに、間違いなく《黒陽社》の野営地だろう。
「(……よし。一旦戻ろう。ジェイク)」
「(おう。分かったぜ)」
そう言って二人は繁みで姿を隠しつつ、来た道を戻っていく。
そして十五分ほど進み、大きな広場に出た。
そこには、リーゼと零号。そして百二十三機のゴーレム達が待機していた。
コウタ達の現在の全戦力だ。ちなみにアイリだけは、数機のゴーレムを護衛につけて別の場所にて避難させている。
「ッ! 二人ともどうでした?」
偵察から帰還したコウタ達の姿に気付き、リーゼと零号が近付いてくる。
「うん。やっぱり野営地はあったよ。多分メルもいる」
と、答えるコウタに、リーゼはホッとした表情を見せた。
零号も機械ゆえに表情は変わらないが、安堵しているような感じだ。
「けどよ。やっぱ見張りが結構いてな。正直こっそり近付くのは無理そうだ」
「……そうですの」
ジェイクの補足に、今度は気落ちするリーゼ。
しかし、すぐさま表情を改め、コウタの方へ視線を向けて尋ねる。
「では、やはり当初の作戦通りに?」
「うん。それしかないみたいだ」
そう返して、コウタは零号に目をやった。
「零号。やっぱり君達の力を借りるよ」
「……マカセロ」
ゴン、と自分の胸を叩き、零号は応える。
頼もしくもあり、どこか不安でもある仕種にコウタは少し苦笑を浮かべたが、
「うん。君らには陽動を任せたい」
表情を真剣なものに変え、最も付き合いの長いゴーレムに改めて作戦を告げる。
「ゴーレム隊全機で奇襲をかけて、奴らをとにかく混乱させるんだ。その隙をついてボクがメルを救出する」
そこでひと呼吸入れて。
「君達の目標は馬車だ。多分あそこに《星神》が捕まっている。《星神》の救出自体を陽動にするよ。と言うよりこの際、全部かっさらってやろう」
今回の一件。当然だがコウタは相当腹に据えかねている。
ラゴウは《星読み》を使えるが、そう何人も使い手はいないだろう。ゴーレム各機に《星神》達を担いで森の中に逃走してもらえば、逃げ切ることも可能だ。
自分からメルティアを奪おうとしたのだ。これぐらいの意趣返しはさせてもらう。
「頼んだよ。零号」
「……了解シタ」
グッと親指を立てて承諾する零号。
そしてゴーレム隊の方へ歩き出す。が、ふと足を止めて。
「……トコロデ、コウタ」
「えっ? なに?」
いきなり声をかけられ、キョトンするコウタ。
すると、零号は背を向けたまま、不敵(?)に聞こえる声で、
「……メルサマト、《星神》ニガシタラ、ヤツラヲ全滅サセテ、イイカ?」
と、かなり物騒なことを言い出した。
コウタは目を丸くする。
「へっ? ぜ、全滅? い、いや、無茶しない範囲でなら……」
「……ソウカ」
言って、零号はテクテクと再び歩き出した。
そしてゴーレムの集団の前に立ち、声を高らかにして叫ぶ。
「……キケ。ワガ弟タチヨ!」
ゴーレム達の視線が、最も古きゴーレムに向けられた。
「……イマ、メルサマハ危機テキナ、状況ニアル」
ざわざわざわ、と。
ゴーレム達がにわかに騒ぎ出した。
それに対し、零号は淡々と言葉を続ける。
「……イマ、メルサマハ、ロリコンニ、狙ワレテイル。捕マッテイルノダ」
その内容に、ゴーレム達のざわめきはさらに大きくなった。
「……ヒドイ」「……メルサマ、カワイソウ」「……ユルセナイ」「……コロス」
憤りや罵声の言葉が、鋼の従者達の口から次々と上がる。
まるで荒ぶる波のようだ。
そんな中、彼らの長兄たる零号は声を張り上げた。
「……ミナ、シズマレイ! 十三号ハ、イルカ!」
「……ココニイル。アニジャ」
ズシン、ズシン、と。
巨大な木箱を担いで一機のゴーレムが現れ出る。
「……工具ノ貯蔵ハ、ジュウブンカ」
零号のその問いかけに、十三号は木箱をひっくり返すことで応えた。
ガラガラと、大量のスパナやハンマーが地面に山積みされる。
零号はおもむろに工具の山に近付くと、太いスパナを一本引き抜いた。
「……良キ、剣ダ」零号はスパナを天にかざす。
「コノ剣ナラバ、世界サエ、ウチクダケル」
と、ただのスパナにとんでもない期待をかける。
それから零号は工具の山を見やり、弟達に告げた。
「……ミナモ、工具ヲトレ」
その指示に従い、次々と手渡しされていく工具。
瞬く間に全機に武器が行き渡った。
それを見届けてから、零号は言葉を続ける。
「……ロリコンハ、他ニモ《星神》ノ、乙女タチヲ、捕マエテル」
実際のところ《星神》には男性もいるのだが、零号はそう言い切った。
ゴーレム達は工具を手に、長兄の声に耳を傾ける。
「……弟タチヨ。ウヌラハ許セルカ? コノ非道」
「……ユルセナイ!」「……ゲドウガ!」「……ロリコン、シスベシ!」
打てば響くような弟達の声に、零号は笑み(?)を深めた。
始まりのゴーレムは弟達に問う。
「……ナラバ、ドウスル?」
「……タオス!」「……コロス!」「……ホロボス!」
怒涛の如く沸きたつ声。
頼もしき弟達を前にして、零号はスパナを横に振った。
「……ヨクゾ、言ッタ。弟タチヨ!」
続けて、スパナを雄々しく天に掲げた。
「……工具ヲカカゲヨ。《星導石》ヲモヤセ! 壊レテ螺子ヲ、拾ウモノナシ! ワレラ、メルティアン魔窟キシ団、ナリ!」
堂々とそう名乗りを上げる。
「「「……ウオオオオオオオオオオッ!」」」
それに呼応して、ゴーレム達も各自の工具を一斉に振り上げた。
「……メルティアン!」「……ナリ!」「……ナリ!」「……ナリ!」「……メルティアン!」「……メルティアン!」「……シカリ!」「……ナリ!」「……ナリ!」「……メルティアン!」「……ナリ!」「……メルティアン!」
森の中にて轟く大歓声。
今ここに、鋼の軍団が誕生した瞬間だった。
その高い士気のもと、零号はスパナを振り下ろした!
「……ロリコンヲ、殲滅セヨ! メルティアン魔窟キシ団!」
「「「……ウオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」
そして鋼の従者達は進軍を開始した。
各機が「……メルティアン!」「……コロス!」とか叫びながら、凄まじい速さで森の中を疾走していく。もはや紫色の雪崩だ。
後に残されたのは、呆然とするコウタ達だった。
「な、なあ、コウタ」
と、ジェイクが尋ねる。
「あ、あいつらって本当に機械なのか? 中に小人でも入ってんじゃねえの?」
「……は、はは、それはボクも時々疑問に思う」
あればかりは長い付き合いのコウタも半信半疑だ。
いずれにせよ、これで戦端は開かれた。
「ジェイク。リーゼさん」
コウタは真剣な面持ちで告げる。
「ここからは別行動だ。予定通り二人は敵が鎧機兵を喚ぶことに備えて、零号達のサポートをしてくれ」
「ああ、了解だ」「任せて下さいまし。コウタさま」
二人の承諾にコウタは頷く……が、少し内心で首を傾げた。
はて? 今、おかしな呼ばれ方をしたような?
(まぁいっか)
ともあれ、コウタは話を続ける。
「ボクはメルの監禁されたテントに向かう。作戦決行時間は十分。十分経過したら即座に撤退してくれ」
二人は真直ぐコウタを見据えて頷いた。
「二人とも無茶はしないで」
「ああ、分かっているよ。お前も無茶すんなよ」
「あなたも、どうかお気をつけて」
と、互いに言葉をかけて――。
「それじゃあ、メルティア救出作戦開始だ!」
森を駆け出す三人の学生達。
コウタ達もまた作戦を開始した。
とある森の野営地。
メルティアはラゴウに連れられ、テントの一つに案内された。
複数人が入れるようなかなり大きなテントであり、木製の机や椅子、就寝用の毛布なども置かれている。高官用の上質なテントだ。
「ふむ。では吾輩は行くぞ」
メルティアがテントの中に目を向けていたら、もう用は済んだとばかりに、ラゴウは立ち去ろうとしていた。
が、テントの入り口をくぐろうとした所で足を止め、
「ああ、すまんが、しばし起きていてくれ。一時間後には出立する予定なのでな。その時には馬車で移動してもらう」
「……このテントといい、随分と親切なのですね。てっきり拘束され、牢屋にでも放り込まれるものと思っていました」
メルティアが皮肉混じりにそう告げると、ラゴウは軽く肩をすくめて、
「あの少年と約束した手前、乱雑に扱う訳にもいかんよ」
と、そこでふと思い出す。
「そう言えば、あの少年もヌシも、名を聞いていなかったな」
「……それを言うのなら、私もあなたの名前を知りません」
「ん? そうであったか?」
言われてみれば、ラゴウは彼女には名乗っていない。
宿敵にしようと見初めた少年と、情婦にすると宣告した少女。
そんな二人の名前を知らないとは、少しばかり間抜けな話である。
「ふん、まあ良いか。吾輩の名はラゴウ=ホオヅキという。ヌシの名は何だ?」
「……メルティア。メルティア=アシュレイです」
「ふむ。中々良い名ではないか、少女よ。では、あの少年の名は……」
と、尋ねかけた所でラゴウは思い直す。
「いや、別に今聞かずともよいか。それは、次にあの少年と立ち合う時の楽しみにしておこう。では少女よ。しばし休息をとるといい」
言って、今度こそラゴウはテントを去って行った。
テントに一人残ったメルティアはしばし入り口を見据えて――。
「…………ふう」
と、小さく嘆息して身体を支えるように机に片手を置く。
正直、本当に疲れた。
この神経を削る状況に加え、そもそも人と対面するだけで怖いのだ。
メルティアの消耗は相当なものだった。
(……でも、交渉には成功しました)
どうにかコウタ達の命の危機は回避できた。
ここまでは目論見通りだ。
後は彼女自身が救出されるのを待つだけなのだが……。
(コウタ達は上手くやってくれるでしょうか)
このテントに来る途中に周囲の様子を窺う機会があった。
規模的には四十人程度のキャラバンか。
二十を超えるぐらいのテントと、牢屋を思わせる馬車が数台ほど停留していた。
もしかしたら、あの中には今のメルティアと同じ立場の人間――《星神》達が囚われているのかもしれない。どうにかしてやりたいとは思うが……。
(今は自分のことを第一に考えましょう)
メルティアはかぶりを振った。
そこまでの余裕はない。何より彼女自身も危うい状況なのだ。
「……さて」
メルティアは小さくそう呟くと、おもむろにブラウスの上のボタンを外した。
そして、白磁のように白い胸元が露わになる。
メルティアは少し頬を赤く染めて嘆息した。英雄譚などではよく聞く手法だが、まさか自分でする羽目になるとは思わなかった。
「……万が一を考えてここに隠しましたが、我ながら……」
言って、彼女は豊かな双丘の間から小指程度の大きさの発信器を取り出した。
これがある限り、コウタ達に自分の位置を伝えられるはずだ。
だがその探索範囲には限界がある上、恒力の補給もなく長時間使用はできない。
本格的に移動されたら、位置を消失する可能性が高かった。
(あと一時間。それがタイムリミット……)
メルティアは発信機をギュッと握りしめた。
彼女を守る鎧もなく、見知らぬ人間だらけのこの場所。
何よりコウタが傍にいないことが、不安を加速させていく。
「……コウタ」
そして少女は愛しい少年の名を呟いて、祈るように目を伏せる。
「早く迎えに来て下さい。コウタ」
◆
「(……どうやら当たりみたいだな、コウタ)」
「(うん。反応はあそこから出ている。あのテントのどれかにメルがいるんだ)」
と、森の繁みの中、ジェイクとコウタは小さな声でそうやり取りした。
眼前には大きな広場で野営をするキャラバンがある。
直径としては三百セージルほど。二十四、五のテントが点在しており、広場の右端には数台の馬車が停留してある。
ラゴウと同じような黒服を着た男達が、数人ほど見張りをしている所から察するに、間違いなく《黒陽社》の野営地だろう。
「(……よし。一旦戻ろう。ジェイク)」
「(おう。分かったぜ)」
そう言って二人は繁みで姿を隠しつつ、来た道を戻っていく。
そして十五分ほど進み、大きな広場に出た。
そこには、リーゼと零号。そして百二十三機のゴーレム達が待機していた。
コウタ達の現在の全戦力だ。ちなみにアイリだけは、数機のゴーレムを護衛につけて別の場所にて避難させている。
「ッ! 二人ともどうでした?」
偵察から帰還したコウタ達の姿に気付き、リーゼと零号が近付いてくる。
「うん。やっぱり野営地はあったよ。多分メルもいる」
と、答えるコウタに、リーゼはホッとした表情を見せた。
零号も機械ゆえに表情は変わらないが、安堵しているような感じだ。
「けどよ。やっぱ見張りが結構いてな。正直こっそり近付くのは無理そうだ」
「……そうですの」
ジェイクの補足に、今度は気落ちするリーゼ。
しかし、すぐさま表情を改め、コウタの方へ視線を向けて尋ねる。
「では、やはり当初の作戦通りに?」
「うん。それしかないみたいだ」
そう返して、コウタは零号に目をやった。
「零号。やっぱり君達の力を借りるよ」
「……マカセロ」
ゴン、と自分の胸を叩き、零号は応える。
頼もしくもあり、どこか不安でもある仕種にコウタは少し苦笑を浮かべたが、
「うん。君らには陽動を任せたい」
表情を真剣なものに変え、最も付き合いの長いゴーレムに改めて作戦を告げる。
「ゴーレム隊全機で奇襲をかけて、奴らをとにかく混乱させるんだ。その隙をついてボクがメルを救出する」
そこでひと呼吸入れて。
「君達の目標は馬車だ。多分あそこに《星神》が捕まっている。《星神》の救出自体を陽動にするよ。と言うよりこの際、全部かっさらってやろう」
今回の一件。当然だがコウタは相当腹に据えかねている。
ラゴウは《星読み》を使えるが、そう何人も使い手はいないだろう。ゴーレム各機に《星神》達を担いで森の中に逃走してもらえば、逃げ切ることも可能だ。
自分からメルティアを奪おうとしたのだ。これぐらいの意趣返しはさせてもらう。
「頼んだよ。零号」
「……了解シタ」
グッと親指を立てて承諾する零号。
そしてゴーレム隊の方へ歩き出す。が、ふと足を止めて。
「……トコロデ、コウタ」
「えっ? なに?」
いきなり声をかけられ、キョトンするコウタ。
すると、零号は背を向けたまま、不敵(?)に聞こえる声で、
「……メルサマト、《星神》ニガシタラ、ヤツラヲ全滅サセテ、イイカ?」
と、かなり物騒なことを言い出した。
コウタは目を丸くする。
「へっ? ぜ、全滅? い、いや、無茶しない範囲でなら……」
「……ソウカ」
言って、零号はテクテクと再び歩き出した。
そしてゴーレムの集団の前に立ち、声を高らかにして叫ぶ。
「……キケ。ワガ弟タチヨ!」
ゴーレム達の視線が、最も古きゴーレムに向けられた。
「……イマ、メルサマハ危機テキナ、状況ニアル」
ざわざわざわ、と。
ゴーレム達がにわかに騒ぎ出した。
それに対し、零号は淡々と言葉を続ける。
「……イマ、メルサマハ、ロリコンニ、狙ワレテイル。捕マッテイルノダ」
その内容に、ゴーレム達のざわめきはさらに大きくなった。
「……ヒドイ」「……メルサマ、カワイソウ」「……ユルセナイ」「……コロス」
憤りや罵声の言葉が、鋼の従者達の口から次々と上がる。
まるで荒ぶる波のようだ。
そんな中、彼らの長兄たる零号は声を張り上げた。
「……ミナ、シズマレイ! 十三号ハ、イルカ!」
「……ココニイル。アニジャ」
ズシン、ズシン、と。
巨大な木箱を担いで一機のゴーレムが現れ出る。
「……工具ノ貯蔵ハ、ジュウブンカ」
零号のその問いかけに、十三号は木箱をひっくり返すことで応えた。
ガラガラと、大量のスパナやハンマーが地面に山積みされる。
零号はおもむろに工具の山に近付くと、太いスパナを一本引き抜いた。
「……良キ、剣ダ」零号はスパナを天にかざす。
「コノ剣ナラバ、世界サエ、ウチクダケル」
と、ただのスパナにとんでもない期待をかける。
それから零号は工具の山を見やり、弟達に告げた。
「……ミナモ、工具ヲトレ」
その指示に従い、次々と手渡しされていく工具。
瞬く間に全機に武器が行き渡った。
それを見届けてから、零号は言葉を続ける。
「……ロリコンハ、他ニモ《星神》ノ、乙女タチヲ、捕マエテル」
実際のところ《星神》には男性もいるのだが、零号はそう言い切った。
ゴーレム達は工具を手に、長兄の声に耳を傾ける。
「……弟タチヨ。ウヌラハ許セルカ? コノ非道」
「……ユルセナイ!」「……ゲドウガ!」「……ロリコン、シスベシ!」
打てば響くような弟達の声に、零号は笑み(?)を深めた。
始まりのゴーレムは弟達に問う。
「……ナラバ、ドウスル?」
「……タオス!」「……コロス!」「……ホロボス!」
怒涛の如く沸きたつ声。
頼もしき弟達を前にして、零号はスパナを横に振った。
「……ヨクゾ、言ッタ。弟タチヨ!」
続けて、スパナを雄々しく天に掲げた。
「……工具ヲカカゲヨ。《星導石》ヲモヤセ! 壊レテ螺子ヲ、拾ウモノナシ! ワレラ、メルティアン魔窟キシ団、ナリ!」
堂々とそう名乗りを上げる。
「「「……ウオオオオオオオオオオッ!」」」
それに呼応して、ゴーレム達も各自の工具を一斉に振り上げた。
「……メルティアン!」「……ナリ!」「……ナリ!」「……ナリ!」「……メルティアン!」「……メルティアン!」「……シカリ!」「……ナリ!」「……ナリ!」「……メルティアン!」「……ナリ!」「……メルティアン!」
森の中にて轟く大歓声。
今ここに、鋼の軍団が誕生した瞬間だった。
その高い士気のもと、零号はスパナを振り下ろした!
「……ロリコンヲ、殲滅セヨ! メルティアン魔窟キシ団!」
「「「……ウオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」
そして鋼の従者達は進軍を開始した。
各機が「……メルティアン!」「……コロス!」とか叫びながら、凄まじい速さで森の中を疾走していく。もはや紫色の雪崩だ。
後に残されたのは、呆然とするコウタ達だった。
「な、なあ、コウタ」
と、ジェイクが尋ねる。
「あ、あいつらって本当に機械なのか? 中に小人でも入ってんじゃねえの?」
「……は、はは、それはボクも時々疑問に思う」
あればかりは長い付き合いのコウタも半信半疑だ。
いずれにせよ、これで戦端は開かれた。
「ジェイク。リーゼさん」
コウタは真剣な面持ちで告げる。
「ここからは別行動だ。予定通り二人は敵が鎧機兵を喚ぶことに備えて、零号達のサポートをしてくれ」
「ああ、了解だ」「任せて下さいまし。コウタさま」
二人の承諾にコウタは頷く……が、少し内心で首を傾げた。
はて? 今、おかしな呼ばれ方をしたような?
(まぁいっか)
ともあれ、コウタは話を続ける。
「ボクはメルの監禁されたテントに向かう。作戦決行時間は十分。十分経過したら即座に撤退してくれ」
二人は真直ぐコウタを見据えて頷いた。
「二人とも無茶はしないで」
「ああ、分かっているよ。お前も無茶すんなよ」
「あなたも、どうかお気をつけて」
と、互いに言葉をかけて――。
「それじゃあ、メルティア救出作戦開始だ!」
森を駆け出す三人の学生達。
コウタ達もまた作戦を開始した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる