悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第1部

第七章 鋼の進軍③

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「……異常はないか?」


 不意に声をかけられ、見張りの黒服は振り向いた。
 そこには、テントから出て来たばかりの同僚の姿があった。
 その片手には何やら小さな革袋を携えている。


「ああ、異常はないさ」


 周辺を一瞥してから見張りの男は答える。
 時刻は深夜二時半過ぎ。周囲からは虫の声しか聞こえない静かな森だ。
 当然、人の気配もない。


「皇国にしろエリーズにしろ、流石にまだこの場所の特定はできないだろう」


 ふっと笑って、同僚にそう告げると、


「まあ、確かにそうだろうが油断はするなよ。それと差し入れだ。あと三十分ほどで出立だからな。腹ごしらえしておけ」


 言って、革袋を差し出してきた。どうやら夜食のようだ。
 見張りの黒服は苦笑しながら受け取った。


「ありがとよ。けど、どうせなら見張りを代わってくれよ」

「それはごめんだな。どうせあと三十分ほどだろ。我慢しろ――」


 と、言いかけた所で同僚の男は、視線を森の方へ向けた。


「……どうした?」


 見張りの男が問う。が、すぐに異常に気付いた。


「……虫の声が」

「ああ、さっきから消えている」


 数多の修羅場を越えてきた男達の勘が囁く。
 これは危険な兆候だ、と。


「……おい」


 懐から短剣を引き抜き、見張りの男は同僚に告げる。


「支部長に連絡を頼む。俺は少し探りを――」

「いや待て。何か聞こえるぞ」


 同僚は見張りの男の声を遮り、そう呟いた。
 確かに耳を澄ませば、何か聞こえてくる。
 獣の声か? 人の声か?
 いや、生き物にしては無機物すぎるような……。


「くッ! 正体は分からんが、何かが近付いてくるぞ!」

「――ああ、来る!」


 見張りの男が短剣を身構え、そう叫んだ瞬間だった。


「「「……ウオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」


 いきなりは現れた。
 繁みの中から砲弾の如く飛び出してきたのは、恐らくは鎧機兵。
 幼児ほどの大きさしかなく、手には何故か工具を握りしめた紫色の機兵達だ。
 次々出てくるため、その総数は把握しきれないが、数十機は確実にいる。


「な、何だこいつらは!?」

「が、鎧機兵なのか!? こんなサイズの!?」


 あり得ない光景に仰天する黒服達。
 すると、は獲物を見つけた獣の群れのように男達に襲い掛かってきた。


「「う、うわああああああああああ――ッ!?」」


 百戦錬磨のはずの黒服達が、思わず悲鳴を上げた。
 それはあまりにも異様な光景だった。狼狽するのも無理はない。
 しかし、紫色の鎧機兵――ゴーレム達はあらゆる意味で容赦なかった。


「……メルティアン!」「……ホロボス!」

「――ごふっ!?」「ぐぎゃ!?」


 黒服達は目を剥いて前のめりに倒れ込んだ。
 地面に横たわる彼らは、ピクピクと身体を震わせていた。
 問答無用でを殴打されたのだ。
 ゴーレム達の背丈は幼児ほど。彼らが工具を振り回せば、必然的にヒットするのは下半身の位置――男性にとって最悪の急所だった。
 人間ならば攻撃を躊躇うような部位も、鋼の従者達には関係なかった。
 黒服達は泡まで吹いているが一瞥もせずに放置し、ゴーレム達は進軍する。
 その先頭を駆けるのは零号だ。
 スパナを振り上げ、始まりのゴーレムは叫ぶ!


「……雑魚ニ、カマウナ! 乙女ヲタスケヨ!」

「……ラジャ!」「……マカセロ」「……オトメ、タスケル!」


 ゴーレム達は各機、了解の声を上げた。
 そして怒涛の勢いで広場を駆け抜ける鋼の軍団。
 彼らが目指す場所は《星神》達が囚われている馬車だ。


「な、何だ! 敵襲か!?」

「おい、どうした――うわあっ!?」


 異常を察した黒服達が、次々とテントから顔を出して驚愕の表情を浮かべるが、ゴーレム達は気にもかけない。
 鋼の進軍はまさに留まる事を知らなかった。


       ◆


「し、支部長! 大変です!」

「――ッ! 何事か!」


 と、答えるのはラゴウの副官だ。
 ラゴウと副官は支部長用のテントで移動に向けてルートの確認をしていた。


「どうした?」


 ただならぬ部下の様子に、ラゴウは面持ちを鋭くする。


「緊急事態か。何があった?」 


 そう尋ねる支部長に、部下は険しい声で報告する。


「――はっ! 敵襲です! 広場の右端部にて、《商品》を管理している馬車が現在襲撃を受けています!」

「なんだと!」


 と、副官が怒声を上げた。


「馬鹿な! 皇国騎士団か! それともエリーズの騎士団か!」

「そ、それが……」


 しかし、副官の設問に、報告に来た部下は一瞬困惑したような表情を浮かべた。
 その様子に、ラゴウと副官は眉をひそめた。
 いかに奇襲であろうとも彼らの部下は、いつまでも動揺したりはしない。
 だというのに、眼前の部下は明らかに未だ困惑していた。


「どうした? 敵の規模を申せ」


 長たるラゴウにも促され、部下は躊躇いがちに口を開いた。


「襲撃者の所属は不明ですが、恐らくは鎧機兵。その規模は目視で確認する限り百~百三十機ほどかと思われます」

「ひゃ、百機以上の鎧機兵だと!?」


 副官は目を大きく見開いた。
 言葉には出さないが、ラゴウも神妙そうに眉根を寄せた。
 流石にその数は、あまりにも想定外の大部隊である。


「察するに皇国とエリーズの合同部隊か。だが、どうやってこの場所を……」


 と、ラゴウが独白すると、部下の男はかぶりを振った。


「い、いえ、その前に支部長。申し訳ありません。説明不足でした。その、敵は恐らく鎧機兵だとは思うのですが、通常のサイズとまるで違います。子供の背丈ぐらいしかない鎧機兵が百十数機、我々に襲い掛かって来ているのです」


 いきなりそんな報告を受け、ラゴウと副官は目を丸くした。
 が、一瞬後には副官が怒声を上げた。


「何だそれは! まさか貴様酔っているのか!」

「い、いえ、酒など呑んでおりません! 正直私も困惑していまして……」


 と、口籠る部下の男。彼自身この状況が信じられないのだ。
 テント内が奇妙な緊迫感に包まれる。
 そしてそんな中、ラゴウはすっと黒い瞳を閉じた。


(……ふむ)


 部下の報告を疑う訳ではないが、まずは自身でも確認すべきだろう。
 ラゴウは感覚と耳を研ぎ澄ましてみる。
 すると、遥か遠くで悲鳴や怒号のような声が聞こえて来た。


「……なるほど。微かにだが騒乱の音が聞こえるな」


 あごに手を当ててラゴウは呟く。
 どうやら襲撃自体は間違いないようだ。


「では、支部長。本当にそんな小型の鎧機兵が……?」


 副官が困惑した眼差しを向けてくる。
 組織最強の戦士である上司が言う以上、事実なのだろう。


「もしや皇国かエリーズ国の新兵器なのでしょうか?」


 そう尋ねてくる副官に、ラゴウは両腕を組んで答える。


「それは何とも言えんな。皇国かエリーズ国の騎士の姿はないのか?」


 と、報告に来た部下に問う。
 それに対し、部下はかぶりを振る。


「いえ。小型鎧機兵だけです。騎士らしき姿も、従来タイプの鎧機兵の姿も現時点では確認されていません」

「……そうか」


 ラゴウは目を細めた。
 そして副官の方へ目をやり、指示を出す。


「……よし。ヌシが現場に向かって指揮を執れ。鎧機兵を使用しろ。小型の見た目に騙されるな。鎧機兵には鎧機兵でしか対抗できない」


 支部長の指示に副官は敬礼する。


「了解しました。支部長はどうなされますか?」

「吾輩は一つ気になることがあるのでな。そちらは任せたぞ」

「――はっ! お任せ下さい。では行くぞ!」


 副官の最後の台詞は、もう一人の部下に向けたものだった。
 そうして、ラゴウの二人の部下達はテントから退出していった。
 その姿を見届けてから、


「さて。吾輩も行くか」


 そう呟いて、ラゴウもテントの入り口をくぐった。
 外に出てみると、改めて騒ぎの大きさが分かる。火の手は上がっていないようだが、阿鼻叫喚の声がここまで響いてきていた。


「……ふん。また随分と派手にやってくれたものだ」


 思わず苦笑を浮かべてしまう。
 しかし、ラゴウの部下も無能ではない。
 右腕とも呼べる副官も送った。鎧機兵さえ使用すれば、すぐに巻き返すだろう。


(これは吾輩もぐずぐずはしておれんな)


 ラゴウは一人、目的の場所へ向かい始めた。
 この状況は正直、腑に落ちない。
 報告にあった小型鎧機兵が、グレイシア皇国か、もしくはエリーズ国の新兵器だったとしても、どうして未だ騎士の姿がどこにもないのか。
 新兵器の試験の可能性もあるが、それを救出作戦で実施するなどあり得ない。
 恐らくこれは騎士団の襲撃ではない。
 だとすれば第三者。例えば《黒陽社》に恨みを持つ組織などが考えられるが、そんな連中がいきなりここに現れるというのも説得力がない。


「……ふふ、ふはははっ」


 草原を歩きながら、ラゴウの口元からは笑みがこぼれていた。
 色々と推測しているが、結局、ラゴウの脳裏に浮かんでいるのは一つだけだ。
 理屈も推測も越えて、戦士としての勘が確信させる。
 きっと、この襲撃の黒幕は――。


「くくくっ、何ともせっかちなことよ」


 先程の戦いから、まだ一時間半ほどしか経っていない。
 五年の猶予を与えたというのに、まさかこうも早く再戦を挑みにくるとは。


「やれやれだな」


 ラゴウはくつくつと笑う。


「そこまであの少女が愛しいのか。少年よ」
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