悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
73 / 399
第3部

第四章 いよいよ始まる『初デート』③

しおりを挟む
「……ふむ」


 その頃、一人の少女がソファーに座って足を組んでいた。
 そこはとある廃屋敷。王都の南端に位置する地区にある屋敷の応接室だ。
 エリーズ国の王都パドロは人口八十万人を超える大都市。発展した街は同時に闇の部分も抱える。この廃屋敷はスラム街と呼ばれる南端地区に数多くある館の一つだった。


「何もこんな場所でもなくてよかろうに」


 言って、かなり劣化したソファーに手を触れる少女は、リノだった。
 一応この日のために、掃除だけは事前にしているので大きな埃などはないが、とてもではないが、快適とは言い難い座り心地だった。これでは育ちのよいリノは勿論、これからやって来る客人にとっても不快ではないのだろうか。
 リノは周囲の内装も窺う。
 部屋全体も殺風景だ。調度品は一切なく、あるのはひび割れた背の低い大理石の机と向かい合わせに配置されたソファーのみ。実に寂れた部屋だった。


「とても客人を迎える部屋ではないな。わらわのホテルでもよかろうに」


 リノが少しばかり不機嫌そうにそんなことを呟くと、


「……お嬢さま」


 ソファーの後ろで控えていたゲイルが眉をしかめて忠言する。


「こればかりは仕方がありません。確かに今回は新たなる盟主殿との初顔見せ。それに相応しい場所を用意したいというお気持ちは分かりますが……」


 そこで小さく嘆息し、


「どうやらエリーズ国の騎士団が我らの動きに感づいているようなのです。彼らとの商談の場所にホテルなど使えば足がつく可能性があります」

「……ふん。そんなことは分かっておる」


 と、リノが鼻を鳴らして告げるが、ゲイルは彼女の真意を見抜いていた。
 別に彼女は、《教団》の新たなる盟主に気を遣った訳ではない。単純に、あえて騎士団に発見され、大立ち回りをしたかったのだろう。
 ゲイルが告げた《悪竜顕人》とやらと一戦交えてみたい。
 そう考えているのが、ありありと分かった。


(……本当に困ったお嬢さまだ)


 ゲイルはリノの後ろ姿を見据え、渋面を浮かべる。
 彼の主人はまるで猫のように気まぐれな少女だった。仕事を優先させるかと思えば、すぐさま欲望に走る。ある意味、彼女の父親の教育の賜物か。
 しかもこの気まぐれな少女こそが、組織において兵器及び武器の販売を担う第1支部の長だというのだから、とんでもない話だった。


(まあ、尊大な態度ではあるが、男女問わず惹きつけるこの美貌があるからこそ案外商談役にも向いているかもしれんな)


 そんなことを考えるゲイル。事実、彼女は莫大な利益を上げている。
 意外と適材適所とも呼べる人材配置かもしれない。
 だが、それでも思う。彼女の側近であるゲイルだからこそ思ってしまうのだ。
 偉大なる『あのお方』に不敬を抱きたくないが、正直、娘の教育の方だけはもう少し何とかならなかったのだろうか、と。
 ゲイルはリノに気付かれないようにやれやれと溜息をついた。
 すると、不意にリノがソファーに仰け反って、ゲイルの方に視線を向ける。
 一瞬溜息に気付かれたかと、ゲイルは冷や汗を浮かべたが、リノの視線はそのまま応接室のドアの方へと移行した。
 そこでゲイルも気付く。ドアの向こうから気配らしきものを感じた。同時にギシギシという足音も聞こえてくる。恐らく二人ほどか。
 リノはいち早くその気配を感じ取ったらしい。本当に猫のような少女である。


「……どうやら客人がいらっしゃったようですね」

「ふむ。そうじゃな」


 言って立ち上がるリノ。
 その直後、コンコンとドアがノックされる。リノはゲイルを一瞥した。ゲイルは修司に対し首肯する。それからドアの元へ進み、「今お開けします」と、扉の向こうにいる客人達に告げてドアをガチャリと開けた。
 そして視界が広がるなり、ゲイルは少し息を呑んだ。


「ありがとう」


 そう言って笑みを浮かべるのは、艶やかな黒髪を持つ少女だった。
 彼女はコートのようなタイトワンピースを纏っており、優雅な姿勢で一礼した。


(なんと美しい……)


 ゲイルは再び小さく息を呑む。
 彼女の放つオーラはまるで王侯貴族のようであり、傾国の雛鳥であるリノに見慣れたゲイルでさえも思わず見惚れるほどの美貌を持つ少女だった。
 黒髪の少女の後ろには護衛か従者なのだろうか。黄色い短髪の女性がいた。彼女もリノとゲイルに軽く一礼する。ゲイルはただ呆然としていたが、


「これ。何をしておる」


 リノの声に、ハッと正気に返る。慌てて「も、申し訳ありません」と謝罪し、客人である二人の女性を部屋の中に招き入れる。
 女性達はゆっくりと歩を進めると、リノの前で改めて一礼した。
 一方、リノもスカートの裾を少し上げ「お初にお目にかかる」と優雅に応える。
 それから、ふふっと笑みを見せて。


「立ち話もなんじゃ。粗末な場所で申し訳ないが座られよ。《ディノ=バロウス教団》の新たなる盟主殿よ」

「ええ、それでは失礼しますね。《水妖星》さま」


 言って、《ディノ=バロウス教団》の盟主であり、この国においては『サラ』と名乗る少女はソファーに座った。
 護衛である短髪の女性――ジェシカはサラの後ろに回り、静かに控える。
 それを見届けてから、リノもソファーに座った。
 全く同じタイミングで、ゲイルはリノの後方に控えた。


「では、盟主殿」


 そして互いの姿をしっかり見据えてから、リノはいよいよ話を切り出した。


「このたびの商談の内容をお伺いしようかの」



       ◆



「……《黒陽社》と《ディノ=バロウス教団》か」


 イスクーン城の四階にある執務室にて。
 アベル=アシュレイは指を組み、渋面を浮かべていた。
 彼の眼差しは、机の上に広げられた地図にずっと向けられている。


(やれやれだな)


 片や『欲望こそが人の真理』を教義に掲げ、人身売買から兵器売買。そして麻薬の密売にさえも手を染めた第一級犯罪組織――《黒陽社》。

 片や『《悪竜》とは神罰の顕現。神を蘇らせ、今度こそ世界に神罰を』を謳い文句に、暗殺や諜報を生業とする終末思想集団――《ディノ=バロウス教団》。
 どちらも厄介かつ有名な犯罪組織だ。

 そんな二大犯罪組織の――それも、両組織における幹部クラスの大物達がこの王都パドロのどこかに潜み、会談を行おうと企んでいるらしい。
 具体的な会談の内容――もしくは商談なのかもしれないが、その情報を諜報機関から受けた時も、アベルは今と同じように渋面を浮かべた。
 本来《黒陽社》にしても《ディノ=バロウス教団》にしても、どちらかと言えば隣国のグレイシア皇国にて暗躍している組織だ。
 それがわざわざエリーズ国に出向いて会談をする理由が分からない。


「我々が皇国騎士団よりも、くみ易い相手と考えたか?」


 そんなことも考えるが、それも定かではない。
 だが、いずれにせよ相手は犯罪組織。みすみす放置する訳にはいかなかった。
 早速アベルは警戒網を強化した。そして部下であるイザベラ達の尽力もあり、数人の怪しい人物をリストアップしたのだ。
 恐らくは《黒陽社》側の人間だ。残念ながら《バロウス教団》側の人間の姿は掴めなかったが、どうやら奴らは一般的にスラム街と呼ばれる地区に集まっているようだ。報告によると異常なほど警戒しているらしい。それが返って情報を教えてくれた。今回の会合はその付近で行われるのだろう。


「……ふむ」


 アベルはあごに手を置き、少し疑問に思う。
 彼の知る《黒陽社》はもっと洗練された組織だ。警戒を悟られるような未熟な組織などではない。いかに慣れない他国とは言え、これはいささか不自然だった。


(何かの罠か?)


 そうも考えられるが、それもしっくりこない。
 何故なら《黒陽社》にしろ《ディノ=バロウス教団》にしろ他国の犯罪組織。エリーズ国の騎士団を罠にかけるメリットも因縁もないからだ。


(それにこの警戒ぶりも気になるな)


 アベルは地図をさらに凝視する。そこには事前に確認できた範囲で《黒陽社》の者が配置されている箇所が『×』印で記されていた。
 その配置は外側からの襲撃よりも、むしろを警戒しているように思えた。


(我々騎士団よりも《教団》ともめ事になることを警戒しているのか? だが、あの組織は暗殺こそ得意でも戦闘力自体はさほどないと聞くが……)


 そこまで考え、アベルは小さく嘆息した。
 情報量が少なすぎて一向に思考が定まらないのだ。優秀であるからこそ、様々な可能性を検討してしまう。アベルの悪い癖だった。
 ともあれ、もはや静観している時機ではないことだけは確かだ。


「我々は我々の最善を尽くすだけだ」


 アベルは目を細めて、冷淡な声で呟く。


「我がエリーズ国の騎士団を侮った代償は払ってもらうぞ、外道ども」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

処理中です...