悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第4部

第七章 魔窟館攻防戦①

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 ――時刻は早朝。アシュレイ邸の客室。
 椅子に座るアルフレッドと、直立不動で構えるイアンは静かに対峙していた。
 壁時計の音がコチコチと鳴る中、重い沈黙が続く。
 そして十数秒後、


「…………そうか」


 額に手を当てアルフレッドが口を開いた。
 イアンは未だ沈黙したままだ。


「さらに二人、失ったのか」


 苦悩に満ちた渋面を浮かべるアルフレッド。
 早朝。修練に出向く前にイアンから聞いた昨夜の出来事。それは王都にある共同墓地で二人の黒犬が《死面卿》に返り討ちにあい、死亡した報告だった。


「……申し訳ありません。アルフレッドさま」


 イアンが深々と頭を垂れる。


「よもや功を焦るとは。不戦の徹底が不充分でした。その上、墓地にあったのは部下の遺体のみ。黒犬の機体を二機、あの男に拿捕までされて……完全に私の失態です」

「それは――いや」


 アルフレッドは自分の責任だと言いかけてやめた。
 殉職者の死は悼むが、今は責任の追及よりも彼らの最期の報告を元に《死面卿》の対策を考えるべきだった。それが亡くなった二人の弔いにもなるだろう。


「その件は後で話そう。それよりもイアン。彼らの報告だとやはり《死面卿》はまだこの国にいるということか」

「……はい」


 少しだけ間を空けてイアンが頷く。


「宣言通り、あの少女を諦めていないのでしょう。恐らくは近日中――いえ、今日にでも襲撃があるのではないかと」

「……今日、か」


 アルフレッドは渋面を浮かべた。
 予想通りとはいえ、どうやら決戦は近いようだ。


「……アルフレッドさま」


 表情を険しくする若き主人に、イアンは告げる。


「やはり今の状況はまずいかと。たとえ、同じ敷地内であっても護衛対象から離れ過ぎています。いざという時に駆けつけるまでの時間ロスは致命的です」

「……イアンもそう思うか」


 アルフレッドはあごに手をやり、嘆息した。
 どう考えても今の状況はまずい。
 現在、アルフレッド達が滞在しているアシュレイ家の本邸から別館まで行くには、走っても五分ほどかかるらしい。
 ゴーレムの内の数機は、アシュレイ家の本邸にも待機しているので、別館の襲撃はリアルタイムで知ることは出来るが、それでも五分のロスはあまりにも厳しい。
 先日親しくなったコウタやジェイクの実力を疑う訳ではないが、あくまで《死面卿》の目的はあの少女を攫うことである以上、正面からの戦闘は避け、隙をついてくるのは当然考えられる戦術だった。


「……《死面卿》は狡猾だ。恐らく何かしらの策を講じて来るだろうね」


 と、ポツリと呟くアルフレッド。


「はい、それは間違いなく」イアンも首肯して自分の意見を述べる。

「そもそもあの男は戦士ではありません。むしろ正面きっての戦闘を仕掛けてくることは考えにくいかと思います」

「まあ、そうだろうね」


 アルフレッドは皮肉気な笑みを見せた。
 実に的を獲た意見であり、反論の余地もない。
 やはり現状の警備体制を見直す必要性があった。少なくともいざという時に即座に対応でき、体制にはしておきたかった。
 アルフレッドはコウタとジェイクの実力を承知の上で自負していた。もしも鎧機兵戦になるとすれば、この場にいる最高戦力は間違いなく自分であると。


「……仕方がないな」


 だからこそ、アルフレッドは嘆息してから決断する。


「ここはラックス殿か……もしくはリーゼさま辺りに頼んで、もう一度メルティアさまと交渉するしかないね」

「はっ、それがよろしいかと」


 若き主人の言葉に、イアンも賛同する。
 アルフレッドは苦笑を浮かべつつ、


「それじゃあ早速行くか」


 そう言って、おもむろに椅子から立ち上がった。
 次いでイアンを伴い、ドアに向かう。
 そうして二人は部屋を後にした。


       ◆


 そこはアシュレイ家本邸。一階にあるホールにて。


「……そうですか」


 と、リーゼは頬に手を当てて嘆息した。
 それからゆっくりとかぶりを振り、


「犠牲者が……それに、まだ《死面卿》の居場所は……」


 無念そうにそう呟く。
 現在、ホールには三名の人間と、外套を纏うゴーレムが一機の姿があった。
 まずはリーゼとシャルロット。
 次いで緊急時の速報のために付き添っているゴーレム――四十六号。
 そして最後に、父・マシューの部下である男性騎士の姿だ。


「はっ。残念ながら未だ捜索中です」


 と、騎士が報告する。
 リーゼは再び小さな溜息をついた。隣に控えるシャルロットも、表情こそ普段と大して変わっていないが、どこか険しい様子だった。
 リーゼ達がわざわざ魔窟館から出向いて騎士団から受けた現状の報告はとても痛ましいものだった。
 騎士団員ではないが、捜索に当たっていた人間が二名殉職。
 その上、《死面卿》は再び行方不明ときた。
 状況は悪化しているとも言えるだろう。


「やはり容易な相手ではないようですわね」

「はい。お嬢さま。我々も早く魔窟館に戻りましょう」


 と、シャルロットが進言する。リーゼは頷いた。


「では、またご報告いたします」


 騎士は敬礼してそう告げた。
 リーゼは「ええ、お願いしますわ」と答えた後、


「次はもう少し魔窟館の近くで報告を受けられるようメルティアに交渉しますか。出来れば門前まで。入館以外ならば彼女もある程度妥協してくれるでしょうし」


 と、小さく呟いた。
 主人の提案にシャルロットも「そうですね」と首肯する。
 すると、その時だった。


「! これはリーゼさま。おはようございます」


 不意に少年の声がホールに響いた。
 イアンを伴って階段を降りてきたアルフレッドの声だ。


「アルフレッドさま。おはようございます」


 近付いてくる少年の姿を確認し、リーゼは深々と頭を垂れた。
 シャルロットも頭を下げ、傍にいた騎士は敬礼をした。
 次いでアルフレッド達が彼女達の前に立ち止まるのに合わせて、


「部下の方々の悲報。お悔やみ申し上げます。アルフレッドさま」


 両手を腰の前に重ねて丁寧に頭を下げる。
 それに対し、アルフレッドはかぶりを振った。


「いえ、彼らも覚悟の上です。ただ……」


 そこでひと呼吸入れて。


「彼らの遺志を尊重するためにも、実はリーゼさまにご相談がありまして……」


 赤い髪の少年はそう切り出して、今の状況について自分の意見を語り始めた。
 やはり魔窟館に滞在したい。どうにか出来ないか、と。
 しばしの間、リーゼはアルフレッドの言葉に耳を傾けていた。


(……アルフレッドさまの言い分はもっともですね)


 そして内心で考える。
 彼の分析通り、今の状況はかなり後手に回っている気がする。
 今回のリーゼやシャルロットのように用があって護衛の何名かが魔窟館を離れざる得ない状況もある。
 それに何よりも――。


「―――……」


 リーゼは真剣な眼差しで、アルフレッドを見つめた。
 極上とも呼べるレベルの美少女に至近距離から見つめられ、何気にアルフレッドが内心で結構動揺している事には気付かず、リーゼは少年を見つめ続けた。


(もし父の話が真実であるのならばアルフレッドさまは……)


 更に続く沈黙。リーゼはその明晰な頭脳で考えた。
 そして十数秒後、


「……そうですわね」


 恐らくかなりの高確率で戦闘になるであろうことが予測できるこの状況で、彼を戦場から遠ざけるのはあまりにも
 リーゼは方針を決めた。


「承知いたしましたわ。ならば、わたくしからもメルティアに頼んでみましょう」


 リーゼはにこやかな笑みを見せて言う。
 それから一拍置いて、彼女はこう告げるのだった。


「流石に入館はお約束できませんが、これからアルフレッドさま達を魔窟館の前までご案内いたしますわ」
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