悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第5部

第五章 乙女の園①

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「す、凄い、です……」


 魔窟館の地下。メルティア工房に案内されたルカは息を呑んだ。
 面積にして部屋五つ分の広さを持つ工房には、二機の鎧機兵が直立していた。


「こ、これはお師匠さまのオリジナルの機体ですか!」


 そう言って、メルティアの方に振り向く。


「はい。そうです」


 それに対し、メルティアは微笑んで答える。
 今その場にはルカとメルティア。ジェイクとリーゼ。そしてコウタとアイリの姿があった。さらに言えば十数機のゴーレム達も滞在している。
 いつにない大人数に満たされた工房でメルティアはルカに視線を向けてから、まずは通常の二倍近い身長を持つ重装甲な機体に目をやり、


「右側にあるのが作品ナンバー468。機動城砦型鎧機兵・《フォレス》です。私専用に造った機体でゴーレム三機と共に搭乗することで操縦します」

「ゴーレムとですか! 凄いです!」


 ルカが瞳を輝かせた。メルティアは満足げに頷き、この工房にいる数機ほどのゴーレム達がぐいっと親指を上げた。なおその中に零号の姿はない。遅れてやってくる予定の最後のお客さまを出迎えるため、正門に戻っている最中だった。


「全身の装甲はダイグラシム鋼製。防御重視型の機体です。そのため自重が極めて重く、歩行速度は完全に死んでしまっていますが、脚部に無限軌道を内蔵し、その欠点を克服しているのです!」


 と、メルティアが大きな胸をたゆんっと反らして意気揚々と愛機の性能を語る。
 ルカは憧れさえ抱いてますます瞳を輝かせた。
 一方、その傍らで、


「(う~ん、あの機体は鎧機兵って呼べねえような気がするんだが……)」

「(ま、まあ、一応は人型ですし。ギリギリ許容範囲と考えてよいのでは?)」


 ジェイクとリーゼがひそひそ話をするのだが、その隣に居るコウタは、メルティアの元気な様子ににこにこと微笑んでいた。
 まるで愛娘の成長を見守る父親のような眼差しだ。


「作品ナンバー128。《ディノ=バロウス》」


 続けて、メルティアは視線をもう一機の鎧機兵、自分の最高傑作――密かに愛の結晶とも本人は呼んでる――である機体へと向けた。


「愛称は《ディノス》。私の自信作であり、コウタの愛機でもあります」


 と、ルカに説明する。
 創世神話における三つ首の魔竜を象る黒と赤で彩られた《ディノス》はいつもの処刑刀は台座に立てかけ、静かに佇んでいた。さらに現在はメンテナンス中なのか、竜鱗を彷彿させる右腕全体の装甲が取り外されており、銀色の人工筋肉が見えていた。


「こ、これは……」


 流石にルカも息を呑んだ。《フォレス》には大いに瞳を輝かせた彼女ではあるが、《ディノス》の前では気後れしてしまう。あまりにも造形デザインが凶悪だからだ。


「どうして……」


 ルカは師の方に振り向いて尋ねる。


「どうしてこの機体はこんな怖い造形デザインなの、ですか?」


 ちらりとコウタの方にも視線を送る。
 彼の操手としての力量は分からないが、ここ一週間半ほどの付き合いでこの先輩がとても優しい人であることは理解していた。
 正直、彼には似つかわしくない機体だと思った。


「……そうですね」


 それに対し、メルティアはふっと笑った。


「《ディノ=バロウス》――《ディノス》はとにかく最強を目指した機体なのです。ゆえに誰もが知る最強の存在である魔竜を模して造りました。まあ、悪趣味なのは自分でも理解していますが……」


 そこでメルティアは大きな胸を支えるように左手を腹部に、右手を頬に当てた。
 次いで、後ろにいるコウタへと視線を向ける。


「……コウタもやはり不満ですか?」


 と、少し不安そうに尋ねてきた。
 するとコウタは「あはは」とにこやかに笑って。


「そんなこととはないよ。まあ、いろんな人にツッコミは入れられるけど、メルがボクのために造ってくれたんだ。不満なんてある訳ないじゃないか」


 そう答えつつ、メルティアの隣にまで近付いて愛機を見上げた。


「今もボクの我が儘を聞いてくれてこうやって改造までしてくれているんだ。感謝しかないよ。けど一つだけ。あえて言うのなら……」


 コウタは少しだけ苦笑を浮かべた。


「出来れば《悪竜ディノ=バロウス》モードはメルが乗らなくても使えるようにして欲しいな」


 と、本音を零す。
《ディノス》の切り札である《悪竜ディノ=バロウス》モードはメルティアが同乗しなければ起動できない。それがコウタにとっての唯一の不満だった。
 なにせ、《悪竜ディノ=バロウス》モードが必要となる相手は尋常ではない敵だけだ。そんな強敵の前にメルティアを晒したくないのがコウタの正直な気持ちだ。
 ただ、同時に少しだけ……。
 戦闘中、否が応でも背中に押しつけられる彼女のたわわで柔らかなおっぱいに、どうにも心が落ち着かなくなる事情があったりもする。
 まあ、そんな思いだけは口が裂けても言えないが。
 すると、メルティアが「《悪竜ディノ=バロウス》モードですか? それはダメ――」と言いかけて「い、いえ、無理です」と慌てて言い直す。


「そ、それはまだ無理なのです。《悪竜ディノ=バロウス》モードはとても精密なコントロールが必要になります。自動で行うにはまだまだ研究が必要なのです」


 と、視線を明後日の方に向けて言葉を続けた。
 その時、ルカが「あ、あの……」とおずおずとした様子で声をかけてきた。


「研究なら、私も手伝いましょうか?」

「え?」


 続けて告げられた台詞にメルティアは呆気に取られる。
 が、すぐにブンブンと頭を振り、


「い、いえ! ルカ! その、《ディノス》は特別なのです! 言わば私の秘匿技術! 最秘奥なのです! これだけは私のみで対応する必要があるのです!」

「そ、そうなのですか……?」


 師に協力を拒否されてルカはしゅんと落ち込んだ。
 その様子に師の方はわたわたと焦り始めるが、


「まあ、そう落ち込まないで下さいまし。ルカ」


 そう言って、リーゼが近付いてきてルカの肩をポンと叩いた。


「メルティアはあなたを嫌っている訳ではありませんわ。ただこれは技術の問題ではないのです。むしろ心情の問題かしら? ねえメルティア」


 と、リーゼが仮面のような笑顔をメルティアに向けてくる。
 友人の真相を見抜いた眼差しにメルティアは頬を引きつらせた。
 さらにトコトコと歩き出したアイリがルカの手を握り、


「……うん。これは実際のところ、技術なんかじゃなくて、ただの戦術だから。ルカにも好きな人が出来たら分かるよ」


 九歳のメイド少女はどこか達観した表情でそう告げた。


「ア、アイリ……やはりあなたまで……」


 メルティアは神妙な顔つきで静かに喉を鳴らした。
 そしてまじまじと妹分である少女を見やる。
 前回の《死面卿》事件以降、薄々気付いていたがやはりこうなってしまったか。
 まあ、アイリはメルティアを除けばコウタの一番近くにいる女の子だ。きっと遅かれ早かれこうなるような予感はしていた。だがしかし、最も頼りがいのあった味方が遂に敵になってしまうのはやはり辛いものだ。
 それにアイリは美男美女揃いの《星神》の純血だ。
 今はまだメルティアには遠く及ばなくとも順当に成長すれば、恐るべき強敵になることは火を見るより明らかだ。
 そんな未来を予想してメルティアは内心で落ち込んだ。

 ――と、その時だった。


「……大丈夫だよ。心配しないで」


 不意にアイリが穏やかに笑った。


「……うん。ここ数週間、色々と悩んだけど、やっと答えが出たよ。大丈夫。私はこれからかもメルティアのサポートをするから」

「え?」


 唐突な宣言に、メルティアは目を丸くした。


「ほ、本当ですか? アイリ?」 


 まさか、アイリは自分のために芽生えた恋心を封印してくれるというのか……。
 一瞬そう考えたのだが、アイリはその後、こんな台詞を続けるのであった。


「……だってメルティアが正妻だし。だから私はその後でいいよ」


 …………………………………………………………。
 …………………………………………………。
 …………アイリの顔は大真面目だった。



「「……え?」」


 ポツリ、とこぼれ落ちる二人分の少女の声。


「「ええっ!?」」


 一瞬後に続く驚愕の声。
 これにはメルティアだけでなく、リーゼまで愕然をした。
 二人してアイリを凝視すると、メイドの少女は「おかしな事を言ったのかな?」という感じで小首を傾げた。
 メルティアとリーゼはパクパクと唇を動かした。
 どうやらこの九歳のメイド少女はメルティアへの親愛と恩義。そして初めての恋心の狭間を彷徨いまくった結果、想定外すぎる境地に至ったようだ。
 その上、よほど自分が辿り着いた答えに自信があるのか、今はドヤ顔で両腕を腰に当てて胸を張っている。


「え、えっと? みなさん?」


 当然ながら三人の状況が掴めず、困惑した表情を見せるルカ。
 それに加え、


「ん? どうかしたの? みんな?」


 これまた全く話についていけていないコウタが小首を傾げた。
 ルカを除く少女達はコウタに視線を送る。そして――深々と嘆息した。
 一方、ジェイクとゴーレム達は揃って額に手を当てている。
 何とも気まずい空気が流れる中、


「ま、まあいいじゃねえか! それよりもそろそろ始めようぜ! なっ、メル嬢」


 場の雰囲気を変えるため、ジェイクは必要以上のテンションで声を上げ、メルティアに対し、二カッと笑みを見せた。
 それに対し、メルティアはホッとした表情で「そ、そうですね」と首肯する。


「え、ええ。それでは始めましょうか」


 続けてそう切り出すと、彼女はルカの両肩に手をそっと置いて宣言した。


「ルカの……私の弟子の歓迎会を」
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