悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第6部

第二章 月下の出会い③

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 コウタ達の旅は順調に進んでいた。
 サザンを越えて、森の街道を進むことおよそ八時間。
 夜の八時を過ぎた頃。彼らは街道沿いにある旅人用のコテージ群に到着した。
 今日の移動はここまでだ。多くの馬車が停車し、中々の盛況ぶりを見せるコテージ群の一つを借りて、コウタ達は休息を取ることにした。
 そして女性陣、コウタとジェイクと零号達は各自の部屋へ。御者の男性は一礼をし、使用人達が集まるコテージへと移動した。


「ここのコテージを借りるのは初めてですが、他の地域と似た造りなのですね」


 と、リーゼが呟く。
 豪華ではないが、シャワールームなどの一通りの設備が完備されている一室。
 しっかり整理整頓もされており、休息を取るには充分な施設だった。


『ようやく一息つけそうですね』


 と、告げるのはメルティアだった。
 ズシン、ズシンといつもネコ耳付き着装型鎧機兵パワード・ゴーレムが室内を闊歩する。
 次いでベッドの前に立つと、プシューと音を立てて前面部の装甲が開いた。
 中から出てくるのは、これまたいつも通りのメルティアだ。
 リーゼはふふっと笑う。
 そう言えば、初めて彼女の『正体』を知った時もコテージでのことだった。
 次いで小さなサックを背負うアイリにも目をやった。
 アイリと親しくなったのもコテージでだ。
 今となっては、遙か昔の出来事のようにも感じられた。


「お嬢さま」


 その時、シャルロットが声をかけて荷物を机の上に置いた。


「皆さまも。今日はもう休むだけです。おくつろぎください」

「ええ。そうですわね」


 リーゼは微笑む。 


「ですが折角ですわ。コウタさま達も交えて談話でもしましょう」


 言って、リーゼはドアへと向かう。彼女はこの旅で壮大な目的を掲げている。少しでも一緒にいて親密度を上げておきたいのだ。


「……うん。そうだね」


 リーゼほどの目的は掲げていなくとも、気持ちはアイリも同じだ。
 同意して早速部屋を出たリーゼの後に続く。シャルロット、メルティアもその後に続くのだが、ただメルティアだけは少し気まずそうな顔をしていた。
 そうして数分もしない内に、四人はコウタ達の部屋に到着する。
 ノックをした。
 するとすぐにドアが開かれた。
 開いたのは、腕をワイヤーで伸ばした零号だった。


「……ヨクゾキタ。乙女タチヨ」


 と、零号は歓迎する。
 リーゼは頬を綻ばせて零号を見た後、男性部屋の室内に目をやって――。


「……あら?」


 パチパチと瞳を瞬かせた。
 部屋の構造は女性部屋と同じだ。そこにゴーレム達もいる。
 しかし、


「コウタさまはいらっしゃらないのですか?」


 室内にいたのはゴーレム達と、ベッドの上で胡座をかくジェイクだけだった。
 どこにもコウタの姿はない。


「コウタは野暮用だってよ」


 ジェイクは少し神妙な顔でそう告げた。
 リーゼが小首を傾げる。


「野暮用? どこかに行かれたのですか?」

「……リーゼ」


 リーゼの問いかけに答えたのはメルティアだった。


「あまり深く訊かないで上げてください」


 メルティアはわずかに視線を落として言葉を続けた。


「コウタは多分――……」



       ◆



 夜の森の中を進む。
 道はないが木々の間は広い。
 月明かりも差し込んでいるので、視界も開けている。


(……本当に久しぶりだな)


 静寂に包まれた森。
 懐かしさで溢れたその森を、コウタは一人だけで歩いていた。
 手には、サザンで購入した小さな花束を持っている。


(懐かしい)


 この森に立ち入るのは、およそ八年ぶりのことだった。


(最後に訪れたのは、ご当主さまに連れられてきた時か)


 あの日。故郷の様子を、どうしてもこの目で確認したいと無理を言って、連れてきてもらったのだ。結果としては絶望を抱くだけだったが。
 あの日以降は勇気が出せず、ここには一度も訪れることはなかった。
 ズキン、と胸が痛む。
 歩くたびに胸の痛みは増していく。

 そこにはもう何もない。
 誰もいない。
 友達も、親戚も。
 父も、母も、兄も、義姉も。

 それでも、もしかしたらと思ってしまう。
 徐々に近付くその場所には今も村があって、そこには家族が待っていて……。

 そんな幻想を抱いてしまう。


(……そんなことはあり得ないのに)


 思わず自嘲の笑みを零す。
 郷愁の森は、儚く淡い夢も見せてくれるようだ。
 しかし、それはとても残酷な夢でもあった。
 コウタは黙々と歩き続けた。
 少しだけ早足になる。
 あまり長くこの森にいると、涙を零してしまいそうだった。
 そうして十五分後。ようやく森を抜けた。
 視界に映るのは大きな広場。
 かつて、百名近い人間が暮らしていた村の跡地だ。
 今は建屋一つもないただの更地である。
 あるのは、村の中央にアベルが建ててくれたという慰霊碑だけで……。


「………え」


 コウタは目を丸くした。
 月が輝く夜。失われた故郷。
 彼は本当に驚いた。
 そこは、もう誰もいないはずの場所なのに――。


「あなたは……」

「……え?」


 不意に呼びかけられてが振り向いた。
 二人の視線が重なる。
 慰霊碑の前に立つ彼女も少し驚いた顔をしていた。

 ――月光の下。
 失われた故郷には今、花束を持つ一人の女性がいた。
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