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第一章・無自覚編〜出遭い
一般的な治療師による普遍的な治療(11/24一部変更)
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ルドと別れたクリスは治療院の休憩室でのんびり……していなかった。
机に紙を広げて魔法式を書きながら悩んでいる。
「魔力を増幅できれば、相性が悪い魔法も治療に使える……そうすれば、治療の幅も広がる」
さまざまな魔法式を書いては消しを繰り返す。そんなことをしながら時間は経過して。
「なにをしているんだ?」
休憩室に入ってきたテオに呆れられた。
「いや、待っている間が暇だったからな」
「その様子だと昼飯も食べていないだろ。受付員に買ってきてもらうか?」
「そうだな。適当に頼む」
そう言うとクリスはまた魔法式に意識を戻した。いつもの光景にテオが肩をすくめる。
「こうなったらダメだな。適当に注文しよう」
受付員が頼んだ昼食を買って戻る。クリスは具を挟んだパンを食べながら、魔法式を書き続けた。
「研究の虫だな」
食べ終わっても魔法式を書き続けるクリスにテオが苦笑いを浮かべる。
そもそも、なんの目的で来たのか。ルドはどこに行ったのか。
テオが考えていると、ドアが開いた。
「師匠、戻りました」
「ん。あ、あぁ」
クリスの生返事にルドが手を叩く。
「ししょう! ここに来た目的を忘れないでください」
「……ハッ、そうだった」
やっと話が進みそうな気配にテオが喜ぶ。
「ここまでが長かった。で、要件はなんだ?」
「研究室で小さな爆発をおこしてな。備品を破損した、という報告だ」
「クリスが研究室で爆発を? 珍しいな」
軽く驚くテオの前にルドが出てきて頭を下げる。
「自分が爆発をおこしました! すみません!」
潔いルドの態度にテオが笑う。
「そんなに謝られるても、逆に困るな。損壊した分タダ働きすれば済むことだし」
「そういうことだ。テオ、スケジュールが決まったら教えてくれ」
「わかった」
そこに受付の男が駆け込んできた。
「テオ様、すみません。至急、診てほしいと言う人が来まして……休憩中だと断ったのですが」
遠慮がちに受付の男が報告する。その姿にルドが首を傾げた。
「緊急なのに、なぜ断るのですか?」
「治療院研究所にいる治療師の多くは規定時間以外に治療することを嫌がるんだ」
「治療師なのに?」
「そうだ。それでも神の加護があって治療魔法が使えるからな。神が治癒の加護を与える判定基準を知りたい」
愚痴るクリスにテオが苦笑いを浮かべながら立つ。
「すぐ診よう。どういう状態だ?」
「助かります。尋常ではない腰痛を訴えていまして。軍付きの治療師から腰痛の治療を何度受けても、再発を繰り返しているそうです」
「そうか。では、軍の治療院から治療記録の聞き取りをしてくれ」
「今、他の受付員がしております」
クリスは二人の後ろ姿を見送りながらルドに話した。
「テオは奇特な存在だ。他の治療院研究所にいる治療師たちは研究がしたいから、治療院での治療を嫌がる。しかし、研究所で研究を続けるためには、治療院で治療の成果を出さないといけない」
「だから、渋々治療院で治療をしている、と?」
「そういうことだ。まあ、治療がしたい治療師は治療院務めをしているから、治療師全員がそういう考えではない」
「そうですよね。全員がそうではないですよね」
「そういうことだ。行くぞ」
階段を下りると、受付からテオの声が聞こえた。
「この記録はなんだ? すごく痛がっていたのに治療する前に痛みが引いた?」
「はい。何もしていないのに急に痛みが引いたそうです。ですから、この痛みは演技じゃないかと疑う治療師もいまして」
この言葉に引っかかるものを感じたクリスは足を診察室へ向けた。
「師匠?」
「少し覗いていく」
診察室のドアを静かに開け、中を覗く。ベッドには、上半身裸で体を丸めて唸る老人。
壁には軍服がかけられており、胸に付いた勲章から位が高い将軍であることが分かる。
受付から戻ったテオが老人の腰に触れた。
「ここが痛いですか?」
「あ、あぁ。くっ……」
声を出すので精一杯という様子。演技には見えない。
「では、治療をします」
テオが老人の腰に手を当て魔法の詠唱を始めた。
『我らを見守りし神よ。どうか、この哀れな子羊に慈悲と救いを。痛みからの解放を』
老人の腰が内側から光り、うめき声が消える。テオが老人に声をかけた。
「どうですか? 痛みは消えましたか?」
「あ、あぁ。だいぶん楽に……痛っ!」
体を起こそうとした老人が腰を押さえ、ベッドに伏せる。
「何故だ? 治療魔法をかけたのに、どうして……」
クリスは悩むテオに訊ねた。
「どこに治療魔法をかけた?」
「この腰から背中にある古傷だ。この年齢なら古傷が痛むことは、よくある」
「その古傷が原因なら、今の治療魔法で治っている。しかし痛みがあるということは、原因は他だ。治療魔法は異常状態を改善する効果はあるが、かける場所を間違えれば意味はない」
クリスは老人の腰に手を当て、魔法を詠唱した。
『透視』
深緑の瞳を細め、ゆっくり手を動かす。その間も老人が声を堪え苦顔する。職業柄のせいか相当、我慢強い人らしい。
クリスは腰の右側で手を止めて訊ねた。
「赤い尿が出ることはあるか?」
「た、たまに……」
「だろうな」
手を放したクリスは腕を組んで悩んだ。
「さて、どうするか」
「どうしたのですか?」
「いや、治療を……ん?」
遠くから聞こえたルドの声にクリスは振り返った。すると、ルドがドアに半分体を隠して覗いている。
「なぜ、入らない?」
「自分のことは気にしないで下さい」
あれだけ治療を見たがっていたのに、矛盾したルドの行動にクリスは首をかしげた。しかし、今はこの老人の治療の方が先だ。
老人の腰に視線を落として考える。
「治療をしたいが、私には不向きな魔法を使わないといけないから魔力が足りな……そうか!」
クリスはハッと顔をあげてルドを見た。
「ここに来きて屈め」
「え!? いや、でも……」
嫌がるルドにクリスは足元の床を指す。
「来い!」
逆らえないルドが診察室に入った。
「座れ」
無言でルドが片膝を床につく。そこで、クリスは無造作に左手でルドの赤毛を掴んだ。
突然のことにルドが思わず抗議する。
「師匠!? 何をするつもりですか!?」
「動くな。魔力をもらうぞ」
「「は!?」」
テオとルドの声が重なった。テオが慌ててクリスを説得する。
「クリス、それはやめろ! 危険すぎる! 他人の魔力を体に入れて反発したら、怪我では済まない」
「そんなヘマはしない」
「だが!」
「……師匠」
いつものルドからは想像がつかない重い声が響く。
「いくら師匠でも、これは協力できません」
頭を下げたまま王に進言するようにルドが言葉を続ける。
「自分の魔力は大きすぎ、普通とは比になりません。師匠が少しのつもりでも、自分の魔力は師匠の体を蝕み傷つけます。どうか、考え直してください」
ルドが嫌な記憶を封じるように琥珀の瞳を閉じ、唇の端を噛む。
その様子にクリスはルドの髪から手を離した。
「師しょ……」
開放されたルドが嬉しそうに顔を上げる。だが、その顔はすぐに凍り付いた。ルドの眼前にクリスの靴裏が迫る。
「危なっ!」
ルドが避けるとクリスは舌打ちをした。
「グダグダうるさい。これ以上、何か言うなら気絶させて魔力をもらう」
「ですが!」
クリスはルドを黙らせるように襟首を掴み、顔を近づける。
「今、治療をしないと、こいつは死ぬぞ」
「腰痛で、死?」
「死なせたくなかったら黙っていろ」
顔を離し、再びルドの髪を掴んだクリスは、老人の腰に右手を当てて宣言した。
「これより、尿管結石粉砕と尿管および、その周囲組織の修復を行う」
机に紙を広げて魔法式を書きながら悩んでいる。
「魔力を増幅できれば、相性が悪い魔法も治療に使える……そうすれば、治療の幅も広がる」
さまざまな魔法式を書いては消しを繰り返す。そんなことをしながら時間は経過して。
「なにをしているんだ?」
休憩室に入ってきたテオに呆れられた。
「いや、待っている間が暇だったからな」
「その様子だと昼飯も食べていないだろ。受付員に買ってきてもらうか?」
「そうだな。適当に頼む」
そう言うとクリスはまた魔法式に意識を戻した。いつもの光景にテオが肩をすくめる。
「こうなったらダメだな。適当に注文しよう」
受付員が頼んだ昼食を買って戻る。クリスは具を挟んだパンを食べながら、魔法式を書き続けた。
「研究の虫だな」
食べ終わっても魔法式を書き続けるクリスにテオが苦笑いを浮かべる。
そもそも、なんの目的で来たのか。ルドはどこに行ったのか。
テオが考えていると、ドアが開いた。
「師匠、戻りました」
「ん。あ、あぁ」
クリスの生返事にルドが手を叩く。
「ししょう! ここに来た目的を忘れないでください」
「……ハッ、そうだった」
やっと話が進みそうな気配にテオが喜ぶ。
「ここまでが長かった。で、要件はなんだ?」
「研究室で小さな爆発をおこしてな。備品を破損した、という報告だ」
「クリスが研究室で爆発を? 珍しいな」
軽く驚くテオの前にルドが出てきて頭を下げる。
「自分が爆発をおこしました! すみません!」
潔いルドの態度にテオが笑う。
「そんなに謝られるても、逆に困るな。損壊した分タダ働きすれば済むことだし」
「そういうことだ。テオ、スケジュールが決まったら教えてくれ」
「わかった」
そこに受付の男が駆け込んできた。
「テオ様、すみません。至急、診てほしいと言う人が来まして……休憩中だと断ったのですが」
遠慮がちに受付の男が報告する。その姿にルドが首を傾げた。
「緊急なのに、なぜ断るのですか?」
「治療院研究所にいる治療師の多くは規定時間以外に治療することを嫌がるんだ」
「治療師なのに?」
「そうだ。それでも神の加護があって治療魔法が使えるからな。神が治癒の加護を与える判定基準を知りたい」
愚痴るクリスにテオが苦笑いを浮かべながら立つ。
「すぐ診よう。どういう状態だ?」
「助かります。尋常ではない腰痛を訴えていまして。軍付きの治療師から腰痛の治療を何度受けても、再発を繰り返しているそうです」
「そうか。では、軍の治療院から治療記録の聞き取りをしてくれ」
「今、他の受付員がしております」
クリスは二人の後ろ姿を見送りながらルドに話した。
「テオは奇特な存在だ。他の治療院研究所にいる治療師たちは研究がしたいから、治療院での治療を嫌がる。しかし、研究所で研究を続けるためには、治療院で治療の成果を出さないといけない」
「だから、渋々治療院で治療をしている、と?」
「そういうことだ。まあ、治療がしたい治療師は治療院務めをしているから、治療師全員がそういう考えではない」
「そうですよね。全員がそうではないですよね」
「そういうことだ。行くぞ」
階段を下りると、受付からテオの声が聞こえた。
「この記録はなんだ? すごく痛がっていたのに治療する前に痛みが引いた?」
「はい。何もしていないのに急に痛みが引いたそうです。ですから、この痛みは演技じゃないかと疑う治療師もいまして」
この言葉に引っかかるものを感じたクリスは足を診察室へ向けた。
「師匠?」
「少し覗いていく」
診察室のドアを静かに開け、中を覗く。ベッドには、上半身裸で体を丸めて唸る老人。
壁には軍服がかけられており、胸に付いた勲章から位が高い将軍であることが分かる。
受付から戻ったテオが老人の腰に触れた。
「ここが痛いですか?」
「あ、あぁ。くっ……」
声を出すので精一杯という様子。演技には見えない。
「では、治療をします」
テオが老人の腰に手を当て魔法の詠唱を始めた。
『我らを見守りし神よ。どうか、この哀れな子羊に慈悲と救いを。痛みからの解放を』
老人の腰が内側から光り、うめき声が消える。テオが老人に声をかけた。
「どうですか? 痛みは消えましたか?」
「あ、あぁ。だいぶん楽に……痛っ!」
体を起こそうとした老人が腰を押さえ、ベッドに伏せる。
「何故だ? 治療魔法をかけたのに、どうして……」
クリスは悩むテオに訊ねた。
「どこに治療魔法をかけた?」
「この腰から背中にある古傷だ。この年齢なら古傷が痛むことは、よくある」
「その古傷が原因なら、今の治療魔法で治っている。しかし痛みがあるということは、原因は他だ。治療魔法は異常状態を改善する効果はあるが、かける場所を間違えれば意味はない」
クリスは老人の腰に手を当て、魔法を詠唱した。
『透視』
深緑の瞳を細め、ゆっくり手を動かす。その間も老人が声を堪え苦顔する。職業柄のせいか相当、我慢強い人らしい。
クリスは腰の右側で手を止めて訊ねた。
「赤い尿が出ることはあるか?」
「た、たまに……」
「だろうな」
手を放したクリスは腕を組んで悩んだ。
「さて、どうするか」
「どうしたのですか?」
「いや、治療を……ん?」
遠くから聞こえたルドの声にクリスは振り返った。すると、ルドがドアに半分体を隠して覗いている。
「なぜ、入らない?」
「自分のことは気にしないで下さい」
あれだけ治療を見たがっていたのに、矛盾したルドの行動にクリスは首をかしげた。しかし、今はこの老人の治療の方が先だ。
老人の腰に視線を落として考える。
「治療をしたいが、私には不向きな魔法を使わないといけないから魔力が足りな……そうか!」
クリスはハッと顔をあげてルドを見た。
「ここに来きて屈め」
「え!? いや、でも……」
嫌がるルドにクリスは足元の床を指す。
「来い!」
逆らえないルドが診察室に入った。
「座れ」
無言でルドが片膝を床につく。そこで、クリスは無造作に左手でルドの赤毛を掴んだ。
突然のことにルドが思わず抗議する。
「師匠!? 何をするつもりですか!?」
「動くな。魔力をもらうぞ」
「「は!?」」
テオとルドの声が重なった。テオが慌ててクリスを説得する。
「クリス、それはやめろ! 危険すぎる! 他人の魔力を体に入れて反発したら、怪我では済まない」
「そんなヘマはしない」
「だが!」
「……師匠」
いつものルドからは想像がつかない重い声が響く。
「いくら師匠でも、これは協力できません」
頭を下げたまま王に進言するようにルドが言葉を続ける。
「自分の魔力は大きすぎ、普通とは比になりません。師匠が少しのつもりでも、自分の魔力は師匠の体を蝕み傷つけます。どうか、考え直してください」
ルドが嫌な記憶を封じるように琥珀の瞳を閉じ、唇の端を噛む。
その様子にクリスはルドの髪から手を離した。
「師しょ……」
開放されたルドが嬉しそうに顔を上げる。だが、その顔はすぐに凍り付いた。ルドの眼前にクリスの靴裏が迫る。
「危なっ!」
ルドが避けるとクリスは舌打ちをした。
「グダグダうるさい。これ以上、何か言うなら気絶させて魔力をもらう」
「ですが!」
クリスはルドを黙らせるように襟首を掴み、顔を近づける。
「今、治療をしないと、こいつは死ぬぞ」
「腰痛で、死?」
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