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死者使いと悪魔召喚
勉強熱心な弟子による愚直な行動
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朝日がいつもより高い位置から差し込む。
「おはようごさいます!」
浮上する意識の中でルドの声が遠くから聞こえた。あのバカ真面目な性格からして、読んだ本の分からなかったところを調べに来たのだろう。
いつもより長く寝たからか、眠気はない。
クリスは体を起こしボーとしていると、ノックの音がした。
「入れ」
「失礼します」
ティーセットを持ったカリストが素早く部屋に入り、後ろ手でドアを閉める。
クリスはあくびをしながら言った。
「犬は朝から元気だな」
「申し訳ございません」
「おまえたちのことだ。私を起こさないように静かに仕事をしていたのだろ? 犬が見事にぶち壊したが」
「笑い事ではありません。皆が暴走しないように抑えるのは大変でした」
だろうな、と思いながらクリスはボサボサの金髪をかく。
「で、犬は袋叩きにされたのか?」
「いえ。素直に謝ったので、皆毒気を抜かれて解散しました」
「つまらないな。そういえば結界には気づかれてはいないか?」
「はい。すぐに対応しましたので、気づかれていないと思います」
クリスはカリストから紅茶を受け取ると、ゆっくりと口をつけた。
「普通の屋敷は結界などないからな。気づかれたら説明が面倒だ」
「はい。ところで朝食はいかがなさいますか?」
「軽く食べる。犬の相手は誰がしている?」
「カルラがしております」
「なら、しばらく任せられるな」
カリストが鼈甲の櫛を取り出して金髪をとかす。櫛を通った髪は茶色になり、爆発した毛先が大人しくなっていく。
「髪を乾かしてから寝て下さい。髪が痛みます」
「気にすることないだろ。長い髪に魔力が宿るから伸ばしているだけで、それがなければ短くしている」
カリストが長い茶色の髪を一つにまとめ、質素な紐で結ぶ。
「クリス様」
「わかっている。髪は切らない」
「身の上をわきまえて下さい」
「そんなものをわきまえていたら、この屋敷は存在しないぞ」
そう言い捨てるとクリスは立ち上がった。
「この話はここまでだ。着替えるから朝食の準備を頼む。あ、犬の相手でもいいぞ」
「……朝食の準備をしてまいります」
カリストが静かに部屋を後にした。
※
朝食を食べ終え、廊下を歩いていると、洗濯物を抱えたカルラとクリスはすれ違った。
「犬の相手をしているのではなかったのか?」
犬が誰のことを指しているのか瞬時に理解したカルラが頷く。
「とても勉強熱心な犬なので、自由にさせています」
「では、少し覗いてみるか」
「それでしたら、飲み物をお持ちします」
「なら、少し間を開けて庭に持ってきてくれ」
「かしこまりました」
カルラが頭を下げて仕事に戻る。クリスはのんびりと歩いて書庫へ移動した。
クリスは扉を開けようとして、手を止める。フッと気配を消し、音もなく部屋に入った。
扉の近くにある机と椅子にルドがこちらを向いて座っている。机には開かれた複数の本が並び、それを読み比べながらノートに書き写すルド。クリスには気づいていない。
足音を消してクリスは近づき、ノートに書いている内容を見ようと覗く。と同時にルドの姿が消えた。
「あ、師匠でしたか」
ルドが本棚の後ろから顔を出す。恥ずかしそうに腰から手をあげ、赤髪をかいた。
「突然でしたので驚きました」
クリスは視線をルドから机に移した。あれだけの動きにも関わらず、机の上の紙や本は一切乱れていない。
そのことにクリスは素直に感心した。
「でかい図体だが、動きは俊敏だな」
「驚かさないでください」
「驚いただけか? 近づいたのが私でなかったら、どうなっていたんだろうな?」
そう言いながらクリスはルドの腰に目を向けた。苦笑いを浮かべながら出てきたルドが腰の隠しナイフを机に置く。
飛び退いた直後は、相手がクリスだと気づいておらず、腰のナイフを抜きかけていた。
「師匠に隠し事はできませんね。他のも出しましょうか?」
「いや、いい。ナイフも持っておけ。ただし、この屋敷にいる時は無暗に抜くなよ。抜けば命の保証はできない」
ルドが視線だけで天井を見る。
「そのようですね」
相手を刺激しないように注意をしながらルドが隠しナイフを腰に戻した。
「で、どうだ? 本は読んだか?」
クリスの質問にルドの鋭い気配が消える。琥珀の瞳が子どものように輝いた。
「興味深いことばかりで、素晴らしいです! 覚えきれない自分の頭が憎いです!」
「そうか。透視魔法のほうはどうだ?」
「一応、できました」
予想より早い習得にクリスは目を少し大きくする。
「では、その成果を見せてもらおう。こっちにこい」
クリスはルドを連れて中庭へ移動した。
屋敷から中庭に出てすぐの場所。庭を囲むように円形に石が敷き詰められ、独特の雰囲気が漂う。
クリスは懐から紺色の布袋を出すと、手のひらに乗せてルドに見せた。
「ここなら魔法が暴発しても地面に仕込んた魔法陣が魔力を吸収するから、周囲を気にせず魔法を使える」
「すごい庭ですね」
「で、この袋の中に何が入っているか透視魔法で見てみろ」
「はい」
ルドが透視魔法の魔法式を頭に浮かべながら両手を袋にかざす。
『透視』
詠唱すると、頭の中に白黒の映像が出てきた。表面の袋が消え、中が見える。
「丸い……硬貨のような……この柄は……銅貨が二枚と銀貨が四枚と金貨が一枚、見えます」
「正解だ」
クリスは布袋の中身を見せる。そこにはルドが言った通り、銅貨が二枚と銀貨が四枚と金貨が一枚あった。
思ったより完璧なルドの透視魔法にクリスは次の課題を出す。
「よし。次は透視魔法を発動しながら魔力を曲げてみろ」
「え? いや、でも……」
「ぐだぐだ言うな。まずは透視魔法をやれ」
クリスは硬貨を戻した布袋を手に乗せ、ルドに突き出した。ルドが仕方なく先程と同じように両手をかざして魔法式を頭に浮かべる。
『透視』
「よし。そこで手から出ている魔力を感じろ。感じたら、その魔力を四十五度曲げればいい」
「四十五度? そんなに正確な角度でないといけないのですか!?」
「具体的に言ったほうが曲げやすくないか?」
「逆に曲げにくいです」
「なら、とにかく曲げろ」
泣きそうな声でルドが嘆く。
「その前に魔力を感じられません」
「布袋の中は見えているんだろ?」
「はい」
「なら両手から魔力が出ているのを感じるはずだが」
「……わからないです」
「……そうか」
どう指導するか悩むクリスに後方から声がした。
「クリス様、お茶の準備が出来ました。こちらへどうぞ」
二人が振り返ると、芝生しかなかった場所にテーブルと椅子とティーセットが準備され、カルラが立っている。
「とりあえず休むか」
「いえ。自分はもう少しやってみます」
「わかった」
クリスはルドに布袋を渡すと、即席のお茶席へと移動した。
「おはようごさいます!」
浮上する意識の中でルドの声が遠くから聞こえた。あのバカ真面目な性格からして、読んだ本の分からなかったところを調べに来たのだろう。
いつもより長く寝たからか、眠気はない。
クリスは体を起こしボーとしていると、ノックの音がした。
「入れ」
「失礼します」
ティーセットを持ったカリストが素早く部屋に入り、後ろ手でドアを閉める。
クリスはあくびをしながら言った。
「犬は朝から元気だな」
「申し訳ございません」
「おまえたちのことだ。私を起こさないように静かに仕事をしていたのだろ? 犬が見事にぶち壊したが」
「笑い事ではありません。皆が暴走しないように抑えるのは大変でした」
だろうな、と思いながらクリスはボサボサの金髪をかく。
「で、犬は袋叩きにされたのか?」
「いえ。素直に謝ったので、皆毒気を抜かれて解散しました」
「つまらないな。そういえば結界には気づかれてはいないか?」
「はい。すぐに対応しましたので、気づかれていないと思います」
クリスはカリストから紅茶を受け取ると、ゆっくりと口をつけた。
「普通の屋敷は結界などないからな。気づかれたら説明が面倒だ」
「はい。ところで朝食はいかがなさいますか?」
「軽く食べる。犬の相手は誰がしている?」
「カルラがしております」
「なら、しばらく任せられるな」
カリストが鼈甲の櫛を取り出して金髪をとかす。櫛を通った髪は茶色になり、爆発した毛先が大人しくなっていく。
「髪を乾かしてから寝て下さい。髪が痛みます」
「気にすることないだろ。長い髪に魔力が宿るから伸ばしているだけで、それがなければ短くしている」
カリストが長い茶色の髪を一つにまとめ、質素な紐で結ぶ。
「クリス様」
「わかっている。髪は切らない」
「身の上をわきまえて下さい」
「そんなものをわきまえていたら、この屋敷は存在しないぞ」
そう言い捨てるとクリスは立ち上がった。
「この話はここまでだ。着替えるから朝食の準備を頼む。あ、犬の相手でもいいぞ」
「……朝食の準備をしてまいります」
カリストが静かに部屋を後にした。
※
朝食を食べ終え、廊下を歩いていると、洗濯物を抱えたカルラとクリスはすれ違った。
「犬の相手をしているのではなかったのか?」
犬が誰のことを指しているのか瞬時に理解したカルラが頷く。
「とても勉強熱心な犬なので、自由にさせています」
「では、少し覗いてみるか」
「それでしたら、飲み物をお持ちします」
「なら、少し間を開けて庭に持ってきてくれ」
「かしこまりました」
カルラが頭を下げて仕事に戻る。クリスはのんびりと歩いて書庫へ移動した。
クリスは扉を開けようとして、手を止める。フッと気配を消し、音もなく部屋に入った。
扉の近くにある机と椅子にルドがこちらを向いて座っている。机には開かれた複数の本が並び、それを読み比べながらノートに書き写すルド。クリスには気づいていない。
足音を消してクリスは近づき、ノートに書いている内容を見ようと覗く。と同時にルドの姿が消えた。
「あ、師匠でしたか」
ルドが本棚の後ろから顔を出す。恥ずかしそうに腰から手をあげ、赤髪をかいた。
「突然でしたので驚きました」
クリスは視線をルドから机に移した。あれだけの動きにも関わらず、机の上の紙や本は一切乱れていない。
そのことにクリスは素直に感心した。
「でかい図体だが、動きは俊敏だな」
「驚かさないでください」
「驚いただけか? 近づいたのが私でなかったら、どうなっていたんだろうな?」
そう言いながらクリスはルドの腰に目を向けた。苦笑いを浮かべながら出てきたルドが腰の隠しナイフを机に置く。
飛び退いた直後は、相手がクリスだと気づいておらず、腰のナイフを抜きかけていた。
「師匠に隠し事はできませんね。他のも出しましょうか?」
「いや、いい。ナイフも持っておけ。ただし、この屋敷にいる時は無暗に抜くなよ。抜けば命の保証はできない」
ルドが視線だけで天井を見る。
「そのようですね」
相手を刺激しないように注意をしながらルドが隠しナイフを腰に戻した。
「で、どうだ? 本は読んだか?」
クリスの質問にルドの鋭い気配が消える。琥珀の瞳が子どものように輝いた。
「興味深いことばかりで、素晴らしいです! 覚えきれない自分の頭が憎いです!」
「そうか。透視魔法のほうはどうだ?」
「一応、できました」
予想より早い習得にクリスは目を少し大きくする。
「では、その成果を見せてもらおう。こっちにこい」
クリスはルドを連れて中庭へ移動した。
屋敷から中庭に出てすぐの場所。庭を囲むように円形に石が敷き詰められ、独特の雰囲気が漂う。
クリスは懐から紺色の布袋を出すと、手のひらに乗せてルドに見せた。
「ここなら魔法が暴発しても地面に仕込んた魔法陣が魔力を吸収するから、周囲を気にせず魔法を使える」
「すごい庭ですね」
「で、この袋の中に何が入っているか透視魔法で見てみろ」
「はい」
ルドが透視魔法の魔法式を頭に浮かべながら両手を袋にかざす。
『透視』
詠唱すると、頭の中に白黒の映像が出てきた。表面の袋が消え、中が見える。
「丸い……硬貨のような……この柄は……銅貨が二枚と銀貨が四枚と金貨が一枚、見えます」
「正解だ」
クリスは布袋の中身を見せる。そこにはルドが言った通り、銅貨が二枚と銀貨が四枚と金貨が一枚あった。
思ったより完璧なルドの透視魔法にクリスは次の課題を出す。
「よし。次は透視魔法を発動しながら魔力を曲げてみろ」
「え? いや、でも……」
「ぐだぐだ言うな。まずは透視魔法をやれ」
クリスは硬貨を戻した布袋を手に乗せ、ルドに突き出した。ルドが仕方なく先程と同じように両手をかざして魔法式を頭に浮かべる。
『透視』
「よし。そこで手から出ている魔力を感じろ。感じたら、その魔力を四十五度曲げればいい」
「四十五度? そんなに正確な角度でないといけないのですか!?」
「具体的に言ったほうが曲げやすくないか?」
「逆に曲げにくいです」
「なら、とにかく曲げろ」
泣きそうな声でルドが嘆く。
「その前に魔力を感じられません」
「布袋の中は見えているんだろ?」
「はい」
「なら両手から魔力が出ているのを感じるはずだが」
「……わからないです」
「……そうか」
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「クリス様、お茶の準備が出来ました。こちらへどうぞ」
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