【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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死者使いと悪魔召喚

魔法騎士団による迅速なアンデッド退治

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『神の劫火よ、風と舞え!』

 ルドの魔法で竜巻が起こり、アンデッドの手が飛ばされる。

「おぎゃぁ……」

 腕の中から聞こえた小さな泣き声にラミラが視線を落とす。そこには無傷の赤ん坊。

「よかった……」

 安堵したラミラの前には、アンドレが、二人の盾になるように両手を広げて立っていた。

 いつも被っていた布が飛ばされ、誰も見たことがない素顔が現れる。
 髪も眉もなく、耳と鼻はそぎ落とされ、唇も焼けて形がない。人とは思えないアンドレの顔立ちに全員が息を飲む。
 そこにルドが叫んだ。

「早く行ってください!」
「は、はい!」

 声に押されラミラが走りだす。ずっと隠していた姿を見られ固まるアンドレに、いつもと変わらい態度でルドが声をかけた。

「二人を守ってください」
「……わかった」

 アンドレがラミラを追う。そこへ竜巻で吹き飛ばされたアンデッドが再び集まってきた。

「焼かないとダメか」

 ルドが背中越しにラミラとアンドレが部屋から出たことを確認する。

「追いかけろ! 依り代を連れ戻せ!」

 ベッティーノの命令にアンデッドが部屋の出口へ向かう。だが、アウルスが剣でアンデッドを薙ぎ払った。

「アンデッドども! ここは通さん!」

 アウルスが掛け声ととにアンデッドを斬り、押し返す。敵の数が多いがアウルスの動きは止まらない。赤黒い血しぶきを浴びながら、アンデッドを一ヶ所へ集めていく。

 派手な動きのアウルスに注目が集まる中、ウルバヌスが気配を消し、駆け抜ける。そのままアンデッドの中心地へ行き、剣先を天井へ掲げた。

『大いなる慈悲の神よ。この者たちに休息と安眠を。汚れなき永遠の安らぎを与えたまえ!』

 アンデッドの動きが一斉に止まる。そして全身が輝き、そのまま倒れた。

 この光景にベッティーノの顔が青くなる。

「なっ!? どういうことだ!?」
「アンデッドは浄化しました」

 ウルバヌスが得意気に微笑む。

 死者であるアンデッドへの攻撃は細切れにして動きを止めるのが精一杯だった。
 そんなアンデッドを倒せる魔法が最近、治療院研究所で開発された。それが神の加護を持つ治療師しか使えない浄化魔法。その特性ゆえ扱いは難しいが、ウルバヌスは浄化魔法を使いこなせる数少ない一人でもあった。

 唖然とするベッディーノの前にアウルスとウルバヌスが立つ。

「ここまでだ」
「ま、まだだ! こうなれば、不完全だが悪魔を!」

 ベッディーノが手を掲げるが何も起きない。

「何故だ!? 何故、魔法陣が発動しない!?」

 驚くベッディーノにカリストが悠然と微笑む。

「ただ斬られているだけだと思ったのですか?」
「まさか!?」

 ベッディーノが魔法陣を確認する。重要な文字がすべて血で書き換えられていた。
 攻撃を避けながらもベッディーノにわざと斬られていたカリストが、飛んだ血しぶきも利用して魔法陣の書き換えていた。

「これで魔法陣は発動しません。四十四人目の生贄もなく、依り代となる赤ん坊もなく、悪魔は召喚されません。負けを認めたら、どうですか?」
「くっ……」

 ベッディーノが悔しそうに俯く。

「元ルーファット王国の第二王子、ベッディーノ! 反逆罪にて連行する!」

 アウルスが罪状を述べ、ウルバヌスが拘束する。一段落着いた雰囲気が漂いかけた時、金属が床に落ちる音が響いた。

 全員の視線が集まる先。

 クリスは机に手をついて体を支えていた。床にはピンセットやハサミが落ちている。

「師匠!?」
「近づかないでください!」

 駆け寄ろうとしたルドが足を止める。カルラが空中で手を動かすと、傾いたクリスの体が何かに支えられるように立った。

「クリス様はエマのお腹を切るために、特殊な方法で洗浄された服を着ています。触れたら服が汚れ、エマのお腹を塞ぐことが出来なくなります」
「ですが……」

 心配するルドにクリスは軽く頭を振る。

「エマの体力を持たせるために、私の魔力を分け与えていたから少し疲労しただけだ。問題ない」

 クリスは子宮の中の出血状態を確認すると、腹の傷を広げていた金属の板を外し、両手をかざした。

『子宮組織の修復』

 エマの腹の中が光り、開いていた傷が閉じていく。クリスは手際よく治療を進めていた。

 その時。


「どけぇぇぇぇ!!!」


 後ろ手に縛られたベッディーノが魔法陣の中に突進してきた。そのことに気づいたルドがクリスの前に立ち、壁となる。

「とまれっ!」

 ルドの叫びにもベッディーノは止まらない。

「やむえん!」

 アウルスが剣を振り上げ、ベッディーノの背中を大きく斬った。
 ルドの目の前で倒れていくベッディーノ。その顔が不敵に笑う。言い知れぬ不気味な感覚がルドの背中を走った。

「なんだ?」

 ルドが警戒していると、アウルスが剣を収めながらウルバヌスを叱責した。

「なにをしている! こんなところで気を抜くなど言語道断だぞ!」
「え? は?」

 ウルバヌスはアウルスの声で我に返ったように瞬きをした。そして魔方陣の中で倒れているベッディーノを見て、自分の手を見て、驚愕の顔になる。

「いつの間に!?」
「寝ぼけているのか!」

 混乱しているウルバヌスにアウルスが怒鳴る。そこにカリストが声をかけた。

「ベッディーノは相手の意識を乗っ取る魔法も使えたようです。短い時間でしたが、意識を乗っ取り、隙を作って逃げたのでしょう」
「そのような魔法まで使えたのか!? だが、それで逃げられるとは腑抜けている!」

 ウルバヌスが諦めたように潔く言った。

「処罰はあとで受けます。それより、どうしますか?」

 アウルスがウルバヌスの視線の先で絶命しているベッディーノを睨んだ。

「このままでいい。あとで来るアンデッドの回収班に任せよう」
「はい」
「ルド。おまえも撤退……ルド?」

 ルドが全神経を張り巡らせ、周囲を見まわす。

「どうした?」
「何かが、います……」
「なにがいるんだ? どこにいる?」

 アウルスとウルバヌスも警戒する。

「何かわからないのですが……まるでこの部屋全体から威圧感と不気味な空気を感じます」
「確かに、空気が変わってきているな」

 周囲を確認していたアウルスが絶命しているベッディーノに視線を止めた。

「威圧感は、ここからだな」

 カリストが魔法陣を見回し、変わりがないか確認する。

「ベッディーノは魔法陣を書き換えても、魂を捧げれば悪魔は召喚される、と言っていました。依り代になる赤ん坊はいませんが、魂が捧げられた以上、なんらかの方法で悪魔が具現化すると考えられます」

 視線を落とすと、どこか満足そうなベッティーノの顔。

「おそらくベッディーノはこの魔法陣の中で死ぬために、ワザと逃げて斬られたのでしょう。自身の魂を四十四人目として捧げるために」
「謀られたということか。私も鍛練が足りないな」

 素直に悔しがるアウルス。一方で、周囲を警戒し続けているルドが、カリストに質問をした。

「師匠の治療はあとどれぐらいで終わりますか?」
「もう少しで終わると思います」
「治療を中断して、すぐにここから離れることはできませんか?」

 思わぬ言葉にカリストが眉をひそめる。

「それは、中断して避難した方が良いぐらいの危険が迫っているということですか?」
「はい」
「中断は難しいと思いますが、報告してきます」

 カリストがクリスの元へ走った。






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