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死者使いと悪魔召喚
アウルスによる不安な予見〜ルド視点〜
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悪魔召喚事件から三日。
悪魔召喚という大事件を解決した功労者の一人であるルドは、自宅謹慎させられていた。
あれからクリスの姿を見るどころか連絡さえもない状況。
クリスのことを心配しながらも、報告書の作成や、クリスから課せられた魔法の練習と、借りた本の勉強で時間が過ぎていく。
それでも、気がつけば空を眺め、ため息を吐く。
「師匠は無事だろうか……」
今は何もない左耳に自然と手が伸びる。
悪魔からクリスを守るため、自分の魔力が籠もったピアスを渡した。
ピアスの魔宝石は自分と魔力と繋がっており、ルドから離れていても、ピアスの所持者を守る。そして、所持者の状態をなんとなく感じることができる。
ピアスからは、ずっとクリスの気配を感じるため、肌身離さず持っているのだろう。それに悪い感じもしない。
それでも直接姿を見ていないため、ルドの心配が募る。
「……師匠」
「腑抜けているな」
突然の声にルドが慌てて振り返った。部屋の入口に厳つい顔をしたアウルスが立つ。
「ふっ、副隊長!」
ルドは慌てて椅子から立ち上がり部屋の入口へ移動した。そのまま反射的に敬礼しそうになり、手をさげる。
その様子に私服のアウルスが薄く笑った。
「相変わらず真面目だな」
ルドは笑って誤魔化す。
「なにか御用ですか?」
「いや、ちょっと暇だから顔を見に来た」
「帝都へ戻らないのですか?」
「思ったより後処理が面倒でな。しばらく滞在するように、と指令が出た」
「そうですか。ところで」
アウルスの後ろを覗きながらルドは訊ねた。
「お一人ですか?」
勤務時間外とはいえ、出張中は二人一組での行動が基本。それなのに、相方であるウルバヌスの姿がない。
アウルスが呆れたように軽くため息を吐いた。
「あいつはこの屋敷に来てすぐ、掃除をしていたメイドをお茶に誘ったんだ。そこに、ちょうどマルティ将軍が通りかかってな。そのまま連行されて説教中だ」
その光景が簡単に浮かぶ。アウルスの心境を察したルドは同意した。
「大変でしたね」
「まったくだ。治療魔法が使える騎士は貴重だが、あの性格はいただけん」
かける言葉がみつからないルドは苦笑いを浮かべたまま黙った。
「あいつのことはいい。説教が終われば、ここに来るだろう。それより、この前の悪魔召喚で気になることがあるのだが」
「なんでしょう?」
「おまえに聞くのは筋違いかもしれんが……あの現場にいた治療師のことを、おまえは知っているか?」
ルドはアウルスの目を見たまま、きっぱりと言った。
「申し訳ありません。治療院研究所に関わることは、副隊長でも話せません」
「……そうだったな。セルシティ第三皇子に報告した時も、あの治療師に深入りするな、と言われた」
ルドは無表情のまま、内心では驚いていた。何も言えないことを知っていながら聞いてくるということは、相当なことがあるはずだ。
気を引き締めるルドにアウルスが話を進める。
「あの治療師もいろいろありそうだが、それよりも奴隷たちの方が問題だ」
「何かありましたか?」
「魔法を使っていただろ? この国では女と奴隷は魔法が使えないのに。執事からメイドまで魔法を使っていた。これは由々しき問題だ」
「……そのことを誰かに報告しましたか?」
「事が事だからな。セルシティ第三皇子にだけ報告した。だが、皇子はこちらで処理をするから口外するな、と終わられた」
アウルスが悔しそうに握りこぶしを作る。
「皇子は事の重大さを分かっておられるのか? 奴隷が魔法を使えたのだぞ! これは国家転覆の危機につながる! 我が国の奴隷は年々増えている。もし、その奴隷たちが魔法を使い、反乱を起こしたら……」
アウルスが息を呑む。
「奴隷の数を考えると、国内にいる兵だけで抑えるのは難しい。たとえ抑えきれたとしても、兵はかなり疲弊する。そんなとき、他国に攻められたら……」
凡人はそこまで考えない。逆に言えば、ここまでの先見の明があるからこそ、魔法騎士団一番隊副隊長を務めている。
「口外するなと言われたことを私に話していいのですが?」
「おまえはセルシティ第三皇子と懇意にしているからな。皇子のお考えが分かるかと、聞いてみた」
「……副隊長は帝都で誰かに報告しますか?」
「現帝に報告する」
ルドは目を伏せて考えた。
重大な案件が発生した場合、最近の現帝は跡取り教育として、まず皇子たちの意見を聞く。
コンスタンティヌス第一皇子は帝王学を叩き込まれ、王位を継ぐために、身を守ることを第一に大切に育てられた。そのため慎重派で保守的になりやすいが、国を守るためなら大胆に攻めることもある。
その攻めを担当するのが、クラウディウス第二皇子。第二皇子は武人であり、戦はほとんど負けなし。何かあれば、すぐに武力で処理しようとする。
残りの第三皇子であるセルシティは知で相手を攻略する。策を練り、相手の裏をかいて最小限の行動で相手を制す。
もし、このことを第一皇子が知ったら奴隷狩りをする可能性がある。そうなれば民の生活が乱れるのは必死。そこに第二皇子が関われば、国をあげての盛大な武力衝突が起きる。
しかしセルシティなら、そうなる前に手を打つだろう。
「副隊長。報告することで、自身に危険が及ぶ可能性は考えていますか?」
つまり報告する前に口封じされる、ということだ。
アウルスが神妙に頷く。
「それは考えている。だが、我が身より国の方が重要だ。それに、我が身が狙われようと遅れはとらない」
報告するが簡単にはやられない、つもりらしいが。
ルドは軽く頭を左右に振った。
「確かに副隊長が遅れを取るとは思いません。ですが、すでに打たれた先手を回避するのは難しいと思います」
「……まさか、もう先手を打たれているのか?」
「残念ながら」
ルドは机から札を取り出し、アウルスに差し出した。
この札は魔法や呪いをかけられているか、いないかを判別する時に使われる。もし何らかの魔法がかけられていれば、触れた瞬間に札が燃える。
アウルスが半信半疑で札に手を伸ばす。触れた瞬間、札が燃え上がった。
「まさ、か……」
唖然としながらもアウルスが首を左右に振って訴える。
「だが、こうして話しても何も起きないぞ。話そうとした時点で魔法が発動して口封じされているはずだ」
「全て計算の上です。副隊長が現帝に報告する前に、自分か祖父に相談すると考え、一回だけ猶予を持たせたのでしょう」
無言になったアウルスにルドは説明を続ける。
「副隊長はご自身より国のことを重んじています。そのことを知っているからこそ、第三皇子はこの国に必要な人として、一回の猶予を持たせたのだと思います。ですが、次はありません。次は口に出した瞬間、絶命するでしょう」
「なぜ、第三皇子はそこまで見通せるのに、奴隷を放置するんだ!?」
「放置はしないと思います。大事にならないよう裏で処理するのでしょう」
アウルスが渋々納得する。
「……それならお任せしよう」
「ウルバヌスはどうでしょうか?」
「あいつには今回のことは一切口外するなと命令している。あぁいう性格だが、口は堅いから大丈夫だろう」
「そうですね」
女性にはだらしないが、仕事は堅実。そうでなければ魔法騎士団に入隊できない。
ルドが納得しているとドアが開いた。
悪魔召喚という大事件を解決した功労者の一人であるルドは、自宅謹慎させられていた。
あれからクリスの姿を見るどころか連絡さえもない状況。
クリスのことを心配しながらも、報告書の作成や、クリスから課せられた魔法の練習と、借りた本の勉強で時間が過ぎていく。
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「師匠は無事だろうか……」
今は何もない左耳に自然と手が伸びる。
悪魔からクリスを守るため、自分の魔力が籠もったピアスを渡した。
ピアスの魔宝石は自分と魔力と繋がっており、ルドから離れていても、ピアスの所持者を守る。そして、所持者の状態をなんとなく感じることができる。
ピアスからは、ずっとクリスの気配を感じるため、肌身離さず持っているのだろう。それに悪い感じもしない。
それでも直接姿を見ていないため、ルドの心配が募る。
「……師匠」
「腑抜けているな」
突然の声にルドが慌てて振り返った。部屋の入口に厳つい顔をしたアウルスが立つ。
「ふっ、副隊長!」
ルドは慌てて椅子から立ち上がり部屋の入口へ移動した。そのまま反射的に敬礼しそうになり、手をさげる。
その様子に私服のアウルスが薄く笑った。
「相変わらず真面目だな」
ルドは笑って誤魔化す。
「なにか御用ですか?」
「いや、ちょっと暇だから顔を見に来た」
「帝都へ戻らないのですか?」
「思ったより後処理が面倒でな。しばらく滞在するように、と指令が出た」
「そうですか。ところで」
アウルスの後ろを覗きながらルドは訊ねた。
「お一人ですか?」
勤務時間外とはいえ、出張中は二人一組での行動が基本。それなのに、相方であるウルバヌスの姿がない。
アウルスが呆れたように軽くため息を吐いた。
「あいつはこの屋敷に来てすぐ、掃除をしていたメイドをお茶に誘ったんだ。そこに、ちょうどマルティ将軍が通りかかってな。そのまま連行されて説教中だ」
その光景が簡単に浮かぶ。アウルスの心境を察したルドは同意した。
「大変でしたね」
「まったくだ。治療魔法が使える騎士は貴重だが、あの性格はいただけん」
かける言葉がみつからないルドは苦笑いを浮かべたまま黙った。
「あいつのことはいい。説教が終われば、ここに来るだろう。それより、この前の悪魔召喚で気になることがあるのだが」
「なんでしょう?」
「おまえに聞くのは筋違いかもしれんが……あの現場にいた治療師のことを、おまえは知っているか?」
ルドはアウルスの目を見たまま、きっぱりと言った。
「申し訳ありません。治療院研究所に関わることは、副隊長でも話せません」
「……そうだったな。セルシティ第三皇子に報告した時も、あの治療師に深入りするな、と言われた」
ルドは無表情のまま、内心では驚いていた。何も言えないことを知っていながら聞いてくるということは、相当なことがあるはずだ。
気を引き締めるルドにアウルスが話を進める。
「あの治療師もいろいろありそうだが、それよりも奴隷たちの方が問題だ」
「何かありましたか?」
「魔法を使っていただろ? この国では女と奴隷は魔法が使えないのに。執事からメイドまで魔法を使っていた。これは由々しき問題だ」
「……そのことを誰かに報告しましたか?」
「事が事だからな。セルシティ第三皇子にだけ報告した。だが、皇子はこちらで処理をするから口外するな、と終わられた」
アウルスが悔しそうに握りこぶしを作る。
「皇子は事の重大さを分かっておられるのか? 奴隷が魔法を使えたのだぞ! これは国家転覆の危機につながる! 我が国の奴隷は年々増えている。もし、その奴隷たちが魔法を使い、反乱を起こしたら……」
アウルスが息を呑む。
「奴隷の数を考えると、国内にいる兵だけで抑えるのは難しい。たとえ抑えきれたとしても、兵はかなり疲弊する。そんなとき、他国に攻められたら……」
凡人はそこまで考えない。逆に言えば、ここまでの先見の明があるからこそ、魔法騎士団一番隊副隊長を務めている。
「口外するなと言われたことを私に話していいのですが?」
「おまえはセルシティ第三皇子と懇意にしているからな。皇子のお考えが分かるかと、聞いてみた」
「……副隊長は帝都で誰かに報告しますか?」
「現帝に報告する」
ルドは目を伏せて考えた。
重大な案件が発生した場合、最近の現帝は跡取り教育として、まず皇子たちの意見を聞く。
コンスタンティヌス第一皇子は帝王学を叩き込まれ、王位を継ぐために、身を守ることを第一に大切に育てられた。そのため慎重派で保守的になりやすいが、国を守るためなら大胆に攻めることもある。
その攻めを担当するのが、クラウディウス第二皇子。第二皇子は武人であり、戦はほとんど負けなし。何かあれば、すぐに武力で処理しようとする。
残りの第三皇子であるセルシティは知で相手を攻略する。策を練り、相手の裏をかいて最小限の行動で相手を制す。
もし、このことを第一皇子が知ったら奴隷狩りをする可能性がある。そうなれば民の生活が乱れるのは必死。そこに第二皇子が関われば、国をあげての盛大な武力衝突が起きる。
しかしセルシティなら、そうなる前に手を打つだろう。
「副隊長。報告することで、自身に危険が及ぶ可能性は考えていますか?」
つまり報告する前に口封じされる、ということだ。
アウルスが神妙に頷く。
「それは考えている。だが、我が身より国の方が重要だ。それに、我が身が狙われようと遅れはとらない」
報告するが簡単にはやられない、つもりらしいが。
ルドは軽く頭を左右に振った。
「確かに副隊長が遅れを取るとは思いません。ですが、すでに打たれた先手を回避するのは難しいと思います」
「……まさか、もう先手を打たれているのか?」
「残念ながら」
ルドは机から札を取り出し、アウルスに差し出した。
この札は魔法や呪いをかけられているか、いないかを判別する時に使われる。もし何らかの魔法がかけられていれば、触れた瞬間に札が燃える。
アウルスが半信半疑で札に手を伸ばす。触れた瞬間、札が燃え上がった。
「まさ、か……」
唖然としながらもアウルスが首を左右に振って訴える。
「だが、こうして話しても何も起きないぞ。話そうとした時点で魔法が発動して口封じされているはずだ」
「全て計算の上です。副隊長が現帝に報告する前に、自分か祖父に相談すると考え、一回だけ猶予を持たせたのでしょう」
無言になったアウルスにルドは説明を続ける。
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「なぜ、第三皇子はそこまで見通せるのに、奴隷を放置するんだ!?」
「放置はしないと思います。大事にならないよう裏で処理するのでしょう」
アウルスが渋々納得する。
「……それならお任せしよう」
「ウルバヌスはどうでしょうか?」
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