【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

文字の大きさ
39 / 243
死者使いと悪魔召喚

アウルスによる孤独な苦悩と葛藤〜ルド視点〜

しおりを挟む
 カップから口を離した三人はそれぞれ感想を漏らした。

「な、なんだ! この苦さは!?」
「濃いとかじゃなくて、味が不味い!」
「め、珍しい味と言えば珍しい味ですよね」

 ルドのフォローが虚しく響く。

 そこにクリスが現れた。サロンに入るなり漂ってきた独特の紅茶の匂いに軽く口角を上げる。

「茶の味はどうだ?」
「えっと……独創的な味、ですね。初めて飲みました」

 そう言いながらルドはもう一口飲んだ。

「おまえ、よく飲めるな」

 ウルバヌスの顔がひきつった顔が二度と飲みたくないと雄弁に語る。
 そんなウルバヌスを気にせずクリスが説明する。

「これは不要なものを出す茶だ。体に良いぞ」
「これが? 体に良い?」

 ウルバヌスが訝しむ。とてもそんな作用があるように思えない。
 同じように紅茶を睨むアウルスにクリスが視線を向けた。

「不要な詮索は止めておけ。あと、腹にためておくのは体に悪いぞ」

 眉間にシワを寄せたアウルスが鼻の息を止めて、一気に紅茶を飲む。そしてクリスを見ることなく立ち上がった。

「失礼した」
「あ、ちょっ、副隊長!」

 サロンから出て行ったアウルスをウルバヌスが慌てて追いかける。

「すみません」

 ルドも追いかけようと立ち上がった。そこにクリスが独り言のように呟く。

「どうせセルティが余計なことをしたのだろう。正面から話せば解除してやっても良かったのに」
「……師匠?」

 ルドは足を止めた。クリスが悠然と茶菓子に手を伸ばす。

「カリストは魔法の解除が得意だからな。あれぐらいの魔法なら解除できる」
「……どこまで知っているのですか?」

 クリスが深緑の瞳をルドに向ける。

「何も知らないぞ。ただ、あの男を見た感想を言っただけだ」
「少し待ってて下さい!」

 ルドは走ってサロンから出た。

「待って下さい! 副隊長!」

 ルドの声は届いているはずなのにアウルスが出口へ突き進む。ルドはアウルスの肩を掴んで無理やり止めた。

「待って下さい!」
「なんだ?」

 アウルスの低い声にウルバヌスが思わず固まる。戦闘で緊張している時とは違う、苛立った様子のアウルスにルドは躊躇うことなく言った。

「先ほど自分に話した疑問を師匠に話して下さい」
「何故だ? 口にしたらどうなるか教えたのはお前だぞ」
「大丈夫です。師匠を信じて下さい!」
「私はその師匠という人物をほとんど知らない。しかも知っているのは、胡散臭い人物ということだけだ。そんな状態で信じろというのか?」
「確かにそうですが……ですが、師匠なら大丈夫です!」

 真剣な琥珀の瞳から、どうにかアウルスを助けたいというルドの想いが伝わる。

「……師匠という人物は、そこまで信頼できるのか?」
「はい!」

 勢いよく返事をしたルドの頭と尻に犬耳と尻尾の幻影が現れた。思わずアウルスが自分の目をこする。

 真面目で鉄仮面で無愛想だが自慢の部下だったルド。それを感情溢れる犬に変えた人物に興味はある。
 しかし、あまり関わりたくないという気持ちもある。

 沈黙したアウルスにウルバヌスが恐る恐る声をかけた。

「あの、話が全然見えないのですが……」

 アウルスがウルバヌスに視線を移す。ウルバヌスは気づいていないが、自分と同じように魔法がかけられている。口止めはしたが、何かの拍子に話せば命はない。
 だが、ここでうまくいけばウルバヌスの魔法も解除できる。

 アウルスが決断してルドを見た。

「話すか話さないかは自分で決める。戻るぞ」
「はい!」

 踵を返したアウルスをルドとウルバヌスが追った。


 アウルスとウルバヌスを連れてルドはサロンに戻った。

「師匠。魔法の解除をお願いします」
「なら、まずは座れ」

 ルドは何か言いたげなアウルスを座らせる。それにならってウルバヌスも椅子に座った。そこにカリストが新しい茶を持ってサロンに入る。

 カリストが四人の前に取っ手がないカップを並べ、茶を注いだ。漂ってきた茶葉の香りにウルバヌスの表情が曇る。

「珍しい形のカップ? ですね」

 ルドが取っ手のないカップを持つ。円柱形だがカップの表面はゴツゴツしている。しかし、それが手に馴染んで持ちやすい。

「湯呑という茶器だ。ティーポットは急須と言う。この茶は、元々この茶器で淹れるものだ」
「初めて見ました」
「この辺では使われていないからな」

 そう言ってクリスが平然と茶を飲む。ルドも続いて飲むが味に慣れたのか、始めほどの違和感はない。

 アウルスとウルバヌスが黙って湯呑を見つめているとクリスが声をかけた。

「飲まないのか?」

 アウルスが険しい表情のまま湯呑を手に取り、そのまま一口飲んだ。

「ん?」

 目を丸くしてアウルスが湯呑を見る。その様子にルドは訊ねた。

「どうしました?」
「これは、さっきと同じ茶か?」
「そうだと思いますけど……」

 ルドは確認するようにクリスに視線を向ける。クリスが茶菓子を食べながら頷いた。

「同じだ」
「苦味がないし、味が違う」
「本当ですか?」

 ウルバヌスが茶を飲むが、すぐに口を押えた。

「これさっきと同じ茶ですよ! 苦いし、不味いし、同じです!」

 そう言ってウルバヌスがむせる。その様子にアウルスがクリスに訊ねた。

「どういうことだ?」
「言っただろ? この茶は体の中にある不要なものを出す、と」

 察したアウルスがウルバヌスに命令する。

「その茶を一気に全部飲め」
「え?」

 明らかに嫌そうな顔をしたウルバヌスにアウルスが副隊長の顔になった。

「飲め」
「はっ!」

 ウルバヌスが姿勢を正して湯呑を持つ。そして躊躇うことなく一気に茶を飲んだ。飲み終わった後も表情は一切変わらず、次の命令を待つ。

 そこにカリストが茶を注いだ。

「もう一口飲んでみろ」

 クリスの言葉にウルバヌスが横目でアウルスを確認をする。アウルスが黙ったまま頷くと、ウルバヌスが真剣な顔のまま一口飲んだ。

「どうだ?」

 アウルスの質問にウルバヌスが表情を変えずに答える。

「苦味はありません。独特の味はありますが、先ほどのような不味さは消えています」
「どういうことだ?」

 アウルスの問いにクリスが素っ気なく話す。

「だから言っただろ? 体の中にある不要なものを出す、と。不要なものさえ出れば、茶は本来の味になる」

 茶菓子を茶で飲み込んだクリスが不敵に口角を上げてアウルスに訊ねた。

「で、何か私に聞きたいことがあるんじゃないのか?」

 アウルスが口を開きかけて、すぐに閉じる。そして、そのまま考え込んだ。






しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...