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クリスの女装と誘拐と
セルシティによる衝撃的な発言
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音楽が賑やかになり、人々がダンスを始める。その中でクリスはため息を吐いた。
「私は帰るぞ」
これだけ苦労して作った外見もルドに一目で見破られた以上、さっさと脱いで楽になりたい。
「あ、自分も帰ります」
帰ろうとする二人をセルシティが笑顔で止める。
「今日はなんの祝いの会だ? 功労者が二人もいなくなってどうする?」
「私の名と姿は公表しない。最初に交わした約束だぞ」
「もちろん覚えているよ。ただ、もっと楽しんでほしいだけさ」
「副隊長とウルバヌスがいるし、自分たちがいなくても問題ないと思うが?」
ルドの視線の先。少し離れたところに、魔法騎士団の正装を着たアウルスとウルバヌスがいた。周囲には若い女性たち。
魔法騎士団といえば騎士の中でも、かなりの実力者しかなれない、憧れの存在。
そんな魔法騎士団の騎士が二人。しかもパートナーを連れていない。女性が目の色の変えて集まるのは当然で。
ウルバヌスは笑顔で女性たちの相手をしているが、アウルスはひたすら困惑した顔。
セルシティが頷きながら話す。
「もちろん、あの二人は功労者として勲章を与えるよ。それを見てから帰ってもいいんじゃないかな?」
「興味ない」
パチンと扇子を畳んだところで人々が騒ぎ出した。人が割れ、その中心を一人の乙女が歩く。
緩いウェーブがかかった白に近い金色の髪。長い睫毛にふちどられた水色の大きな瞳。筋が通った鼻に、ぷっくりと膨らんだ桃色の唇。小柄な体に自然と人を惹きつける可愛らしさ。
セルシティと同い年ぐらい乙女が三人の前で足を止めた。
「会いたかったわ、ルドヴィクス」
うっとりとした表情の乙女に対し、ルドがセルシティを盾にして後ろに下がる。
「え、あ、お、お久しぶりです」
全身から滝のように汗を流すルド。クリスが説明を求めてセルシティを見た。それだけでセルシティが動く。
「久しぶりだね、ベレン。来るなら連絡をしてくれればよかったのに」
「ルドを驚かせようと思って」
無邪気に微笑むが目は笑っていない。まるで獲物を狩る肉食獣。その目がクリスを睨んだ。
「で、そちらは?」
ルドが慌てるが、それを隠すようにセルシティがクリスの腰に手をまわした。
「私の婚約者になる予定のクリスティだ。まだ誰にも言っていないから内密に頼むよ」
セルシティの説明にルドの顔が真っ青になる。一方のクリスは扇子を開き、恥しそうに顔を隠した。そんなクリスにセルシティが乙女を紹介する。
「私の叔母の一人娘、ベレンガリアだ」
セルシティの叔母、つまり現帝の姉。その娘なので皇族の一人。女のため帝位継承権はないが、地位は皇族に次ぐ公爵と同等。
クリスは恐れ多いという様子でセルシティに身を寄せた。ベレンがにこやかに微笑む。
「まあ、そうだったの。結婚する様子がないと思っていたら、いつの間に?」
「見ての通りクリスティは、こういう場は苦手でね。表に出すつもりはないんだ」
ベレンが改めてクリスの全身を見る。
「そのようには見えませんけど? 化粧と服を変えたら、もっと化けそうですし」
「クリスティは目立つことが嫌いでね」
「そのドレスも十分目立っていると思いますわ」
「そうかな?」
美形同士のにこやかな微笑み。目に麗しい光景なはずなのに、猛吹雪で周囲を凍らしていく。
誰も近づけない空気の中、セルシティが振り返った。
「ルド。久しぶりだし、ベレンと一曲踊ってきたらどうだい?」
「……あ、あぁ」
魂が抜けたようなルドが言われるまま前に出る。抵抗すると思っていたセルシティが、ルドの予想外の動きに目を丸くした。
「大丈夫かい?」
「あぁ……」
透明な糸に操られたようにルドがベレンに手を差し出す。ベレンが嬉しそうにルドの手を取った。
「まあ! ルドと踊るなんて何年ぶりかしら!」
二人が会場の中心へと移動する。
脱け殻となっているルドにクリスは首を傾げながらセルシティに訊ねた。
「犬の魂が抜けかけているが、二人はどういう関係だ?」
「ルドの魂が抜けかけている原因はベレンではないだろうけど……まあ、簡単に説明するとルドが女性恐怖症になった原因だね」
「どういうことだ?」
セルシティが苦笑いをする。
「見ての通りベレンは幼い頃からルドが好きで、ルドに近づく同年代の少女は全て排除してきたんだ」
「……排除?」
「どういうふうに排除したかは想像に任せるよ。ただ、それで女性の怖い面をいろいろ実体験したルドは、立派な女性恐怖症になった。あと、女性に近づくとベレンが動くから、自然と避けるようになったのもある」
クリスはぎこちなくダンスをするルドを眺める。
「トラウマ、ということか。で、なぜ私はセルティの婚約予定者になったんだ?」
「ベレンの排除対象はルドの婚約者になる可能性がある女子。つまり、婚約者がいない女性すべて」
「なるほど。私を排除対象から外すための嘘か」
「私としては嘘でなくてもいいけど」
「寝言は寝て言え」
クリスは扇子をピシャリと閉じた。
「帰る」
不機嫌なまま歩き出したクリスにセルシティが肩をすくめる。
「表に馬車を回しておくよ」
クリスは様々な視線を浴びながら会場から出て行った。
魂が抜けたまま一曲踊り終えたルドがセルシティの下へ戻る。
「まったく。そんなに腑抜けていると子犬にも負けるぞ」
「あぁ……」
ルドが呆然と歩きながら壁に額をぶつける。
「おい、おい。前を見ているか?」
「あぁ……婚約……男……だが、前例も……」
壁に額をつけたまま呟き続けるルド。セルシティが他の人たちからチヤホヤされているベレンを眺めながら言った。
「クリスティを私の婚約予定者と紹介したことが、そんなにショックだったかい?」
「……」
「あぁ言わないと、ベレンがクリスティに何か仕掛けていたと思うけど」
セルシティの言葉の意味を咀嚼したルドが勢いよく顔をあげる。
セルシティがニヤリと笑った。
「私としては婚約者でも良いんだけどね。クリスティが拒否するんだ」
「……つまり婚約者ではない?」
「そういうことだ」
濁っていた琥珀の瞳にみるみる光りが戻る。そのままセルシティに突っかかった。
「なんで、師匠を巻き込む嘘を言うんだ!?」
「さっきも言っただろ? 君が女性と一緒にいるだけでベレンは何をするか分からない。これぐらいの嘘は可愛いものだし、私は嘘でなくてもいいと思っている」
「だが師匠は男だ! ちゃんと説明すればベレンも……セル?」
セルシティが紫の瞳が零れそうなほど目を見開く。
「……あのドレス姿を見て、まだそれを言うのか?」
「あの姿? あぁ、あれはカリストの魔法で外見を変えたのだろ? カリストの魔力が師匠を包んでいるから分かったぞ」
「おまえなぁ……いや、いい」
セルシティがルドの肩に手をのせて囁いた。
「そうやって真実から目を逸らし続けるがいい。その間にクリスティは私がもらう」
「どういうことだ?」
ルドがセルシティを睨む。
「言葉の通りだよ」
「そんなの師匠が……そういえば師匠は?」
「君が踊っている間に帰ったよ」
「帰った? いや、でもこの感じは……」
そこに城の使用人がやってきた。
「馬車の御者よりクリス様が現れないと報告がありました」
「城内は探したのか?」
「ただいま探しておりますが、姿を見た者がおりません」
セルシティとルドが同時にベレンを探す。しかし、見当たらない。
「ベレンの足取りを追え。あとクリスティの執事に状況を伝えろ」
「かしこまりました」
駆け出そうとしたルドをセルシティが押さえる。
「目立つ動きをするな。私もすぐに追う」
頷いたルドは静かに会場を後にした。
「私は帰るぞ」
これだけ苦労して作った外見もルドに一目で見破られた以上、さっさと脱いで楽になりたい。
「あ、自分も帰ります」
帰ろうとする二人をセルシティが笑顔で止める。
「今日はなんの祝いの会だ? 功労者が二人もいなくなってどうする?」
「私の名と姿は公表しない。最初に交わした約束だぞ」
「もちろん覚えているよ。ただ、もっと楽しんでほしいだけさ」
「副隊長とウルバヌスがいるし、自分たちがいなくても問題ないと思うが?」
ルドの視線の先。少し離れたところに、魔法騎士団の正装を着たアウルスとウルバヌスがいた。周囲には若い女性たち。
魔法騎士団といえば騎士の中でも、かなりの実力者しかなれない、憧れの存在。
そんな魔法騎士団の騎士が二人。しかもパートナーを連れていない。女性が目の色の変えて集まるのは当然で。
ウルバヌスは笑顔で女性たちの相手をしているが、アウルスはひたすら困惑した顔。
セルシティが頷きながら話す。
「もちろん、あの二人は功労者として勲章を与えるよ。それを見てから帰ってもいいんじゃないかな?」
「興味ない」
パチンと扇子を畳んだところで人々が騒ぎ出した。人が割れ、その中心を一人の乙女が歩く。
緩いウェーブがかかった白に近い金色の髪。長い睫毛にふちどられた水色の大きな瞳。筋が通った鼻に、ぷっくりと膨らんだ桃色の唇。小柄な体に自然と人を惹きつける可愛らしさ。
セルシティと同い年ぐらい乙女が三人の前で足を止めた。
「会いたかったわ、ルドヴィクス」
うっとりとした表情の乙女に対し、ルドがセルシティを盾にして後ろに下がる。
「え、あ、お、お久しぶりです」
全身から滝のように汗を流すルド。クリスが説明を求めてセルシティを見た。それだけでセルシティが動く。
「久しぶりだね、ベレン。来るなら連絡をしてくれればよかったのに」
「ルドを驚かせようと思って」
無邪気に微笑むが目は笑っていない。まるで獲物を狩る肉食獣。その目がクリスを睨んだ。
「で、そちらは?」
ルドが慌てるが、それを隠すようにセルシティがクリスの腰に手をまわした。
「私の婚約者になる予定のクリスティだ。まだ誰にも言っていないから内密に頼むよ」
セルシティの説明にルドの顔が真っ青になる。一方のクリスは扇子を開き、恥しそうに顔を隠した。そんなクリスにセルシティが乙女を紹介する。
「私の叔母の一人娘、ベレンガリアだ」
セルシティの叔母、つまり現帝の姉。その娘なので皇族の一人。女のため帝位継承権はないが、地位は皇族に次ぐ公爵と同等。
クリスは恐れ多いという様子でセルシティに身を寄せた。ベレンがにこやかに微笑む。
「まあ、そうだったの。結婚する様子がないと思っていたら、いつの間に?」
「見ての通りクリスティは、こういう場は苦手でね。表に出すつもりはないんだ」
ベレンが改めてクリスの全身を見る。
「そのようには見えませんけど? 化粧と服を変えたら、もっと化けそうですし」
「クリスティは目立つことが嫌いでね」
「そのドレスも十分目立っていると思いますわ」
「そうかな?」
美形同士のにこやかな微笑み。目に麗しい光景なはずなのに、猛吹雪で周囲を凍らしていく。
誰も近づけない空気の中、セルシティが振り返った。
「ルド。久しぶりだし、ベレンと一曲踊ってきたらどうだい?」
「……あ、あぁ」
魂が抜けたようなルドが言われるまま前に出る。抵抗すると思っていたセルシティが、ルドの予想外の動きに目を丸くした。
「大丈夫かい?」
「あぁ……」
透明な糸に操られたようにルドがベレンに手を差し出す。ベレンが嬉しそうにルドの手を取った。
「まあ! ルドと踊るなんて何年ぶりかしら!」
二人が会場の中心へと移動する。
脱け殻となっているルドにクリスは首を傾げながらセルシティに訊ねた。
「犬の魂が抜けかけているが、二人はどういう関係だ?」
「ルドの魂が抜けかけている原因はベレンではないだろうけど……まあ、簡単に説明するとルドが女性恐怖症になった原因だね」
「どういうことだ?」
セルシティが苦笑いをする。
「見ての通りベレンは幼い頃からルドが好きで、ルドに近づく同年代の少女は全て排除してきたんだ」
「……排除?」
「どういうふうに排除したかは想像に任せるよ。ただ、それで女性の怖い面をいろいろ実体験したルドは、立派な女性恐怖症になった。あと、女性に近づくとベレンが動くから、自然と避けるようになったのもある」
クリスはぎこちなくダンスをするルドを眺める。
「トラウマ、ということか。で、なぜ私はセルティの婚約予定者になったんだ?」
「ベレンの排除対象はルドの婚約者になる可能性がある女子。つまり、婚約者がいない女性すべて」
「なるほど。私を排除対象から外すための嘘か」
「私としては嘘でなくてもいいけど」
「寝言は寝て言え」
クリスは扇子をピシャリと閉じた。
「帰る」
不機嫌なまま歩き出したクリスにセルシティが肩をすくめる。
「表に馬車を回しておくよ」
クリスは様々な視線を浴びながら会場から出て行った。
魂が抜けたまま一曲踊り終えたルドがセルシティの下へ戻る。
「まったく。そんなに腑抜けていると子犬にも負けるぞ」
「あぁ……」
ルドが呆然と歩きながら壁に額をぶつける。
「おい、おい。前を見ているか?」
「あぁ……婚約……男……だが、前例も……」
壁に額をつけたまま呟き続けるルド。セルシティが他の人たちからチヤホヤされているベレンを眺めながら言った。
「クリスティを私の婚約予定者と紹介したことが、そんなにショックだったかい?」
「……」
「あぁ言わないと、ベレンがクリスティに何か仕掛けていたと思うけど」
セルシティの言葉の意味を咀嚼したルドが勢いよく顔をあげる。
セルシティがニヤリと笑った。
「私としては婚約者でも良いんだけどね。クリスティが拒否するんだ」
「……つまり婚約者ではない?」
「そういうことだ」
濁っていた琥珀の瞳にみるみる光りが戻る。そのままセルシティに突っかかった。
「なんで、師匠を巻き込む嘘を言うんだ!?」
「さっきも言っただろ? 君が女性と一緒にいるだけでベレンは何をするか分からない。これぐらいの嘘は可愛いものだし、私は嘘でなくてもいいと思っている」
「だが師匠は男だ! ちゃんと説明すればベレンも……セル?」
セルシティが紫の瞳が零れそうなほど目を見開く。
「……あのドレス姿を見て、まだそれを言うのか?」
「あの姿? あぁ、あれはカリストの魔法で外見を変えたのだろ? カリストの魔力が師匠を包んでいるから分かったぞ」
「おまえなぁ……いや、いい」
セルシティがルドの肩に手をのせて囁いた。
「そうやって真実から目を逸らし続けるがいい。その間にクリスティは私がもらう」
「どういうことだ?」
ルドがセルシティを睨む。
「言葉の通りだよ」
「そんなの師匠が……そういえば師匠は?」
「君が踊っている間に帰ったよ」
「帰った? いや、でもこの感じは……」
そこに城の使用人がやってきた。
「馬車の御者よりクリス様が現れないと報告がありました」
「城内は探したのか?」
「ただいま探しておりますが、姿を見た者がおりません」
セルシティとルドが同時にベレンを探す。しかし、見当たらない。
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