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クリスの女装と誘拐と
カリストによる懸命な魔法解除〜ルド視点〜
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「クリスティの領地に行く途中にある湖だろ? 私も最初はそう思ったが、違うそうだ。あれは、あの街を造った人間が、自分たちで沈めたらしい」
「え!? なんのために街を沈めたんだ?」
「あの大きな湖を作るためだ。人が増えれば水はより多く必要になる。必要な量の水を確保するために、ああいう湖を作り、川の流れを変え、水を管理、制御していたらしい」
「それだけの技術があったのか!?」
「そうだ。失われるには、とても惜しい知識や技術だ。あの街は湖に沈めたことで地表にはなかったから残った、という皮肉の結果だ」
閃いたルドは目を大きくした。
「そうか! 地表ではなく湖の中にあったから残ったのか! と、いうことは他にも地表になかった文明が残っている可能性が!」
「そうだ。ただ無傷で残ったのは三か所だけらしい」
「三か所!? それは、どこなんだ!?」
セルシティが悪戯をする子どものように笑う。
「私はクリスティがいた場所しか知らない。他の二か所は教えてもらえなかった」
「師匠の一族はどこにいたんだ!? 地表にはいなかった、ということは地下か?」
「私もそう思ったが、そうではなかった」
「どこなんだ?」
もったいぶるセルシティに苛立つ。そんなルドの気配を感じ取ったのか、セルシティがすぐに答えを出した。
白い指で天井を指す。
「空中庭園にいたそうだ。だから、奪われなかったらしい」
「空中庭園?」
「簡単に言うと空飛ぶ巨大な島だ。そこに数百人が住んでいたという」
「数百人が住める空飛ぶ島!?」
ルドの反応にセルシティが満足そうに笑った。
「それだけの技術と文明があったんだ。それを全て神に奪われたと思うと、惜しいという言葉では済まない」
セルシティが悔しそうに両手を握る。その気持ちはルドにも分かった。数千年かけて創り上げたモノを一方的に奪われる理不尽さ。
その知識と技術があれば、人はもっと豊かで、救われる命もあっただろう。
「クリスティの一族は文明を奪われることを免れたが金髪、緑目の人間しか生まれない体にされた。失われた文明の記憶を持つ者として、どこにいても分かるように。そして、”神に棄てられた一族“という仰々しい呼び名で、関われば呪われ、滅ぶ、と噂される存在にされた。奪った文明や、その知識が再び地上で栄えないようにするための、神の小細工だろうな」
「だから師匠は髪の色を変えていたのか……」
「あぁ。そもそも、神に棄てられた一族は空中庭園内で生活が出来るから、地上に降りることは滅多になかった。百年前までは」
ルドはクリスの話を思い出した。
「そういえば師匠も百年ぐらい前に一族が地上に降りたと言っていたな」
「そう。百年ぐらい前に空中庭園がシェトランド領に墜落した」
「あの極寒の地に墜落……よく生き延びたな」
セルシティが神妙な顔で頷く。
「あぁ。しばらくは空中庭園の残骸の中で生活していたが、物資がなくなり一族は滅びかけた。そこで、カイ殿が帝都に出てきて実力で功績をあげ、シェットランド領を拝領し、立て直した」
「それだけで立て直せるのか?」
「裏で先帝と現帝が支援したからな。見返りは失われた文明の知識。その結果、クリスティの一族は絶滅を免れ、現在に至っている」
ルドはふと訊ねた。
「もしかして、その関係は今も続いているのか?」
「そこは想像に任せる。ただ、クリスティがどれだけ重要かは分かっただろ? それをこちらの落ち度で危険にさらしたとなれば、非常にマズい事態になる」
「ベレンを制御できなかった、こちらに非があるからな」
「あぁ。ベレンの母親、叔母上は聡明で先見の目もあり行動力もあった。そのことで、現帝は何度も助けられた。しかし、娘にその力があるかというと、そうとは限らない」
セルシティが大きくため息を吐く。
「今回のことは、ベレンが親の力を自分の力と勘違いした結果だ。今までのことも含め、それ相応の処罰を親子共々受けてもらうことになる」
「それは、そちらで勝手にやってくれ。それより今は師匠だ」
「そうだな」
そこへ従者が報告にきた。
「クリス様の執事より魔法の解読が終わった、と連絡がありました」
「行くぞ」
セルシティとルドが同時に立ち上がり、部屋から出る。
まっすぐ続く長い廊下。普通の廊下に見えるが、ルドは違和感を覚えた。
人払いをしているため、その場にいるのはカリストとセルシティの親衛隊数名のみ。
到着したルドとセルシティに、床を探っていたカリストが立ち上がり説明をする。
「ここに魔法のほつれがあります。ここから空間をこじ開ければ元に戻せると思います」
そう言ってカリストが指さした先に、ぼんやりと銀色に光る物が見えた。ルドは手を伸ばしたが掴むことが出来ない。触れた感触もない。
「見えてはいますが、空間を歪めているため、実物はそこにありません。ですので、触れることも出来ません。ちなみに、それはクリス様の扇子についていた飾りです」
「師匠の!? では、この先に師匠がいるのですか!?」
ルドは歩き出そうとしたが、カリストが止めた。
「このまま歩いてもクリス様がいる空間とは違うので会えません」
「ぐっ……」
セルシティが微笑みながらカリストに訊ねた。
「この空間を元に戻すことは出来るかい?」
「少々、骨が折れるのと魔力をほぼ使い切りますが出来ます」
「わかった。元に戻した後のことは任せてくれ。必ずクリスティを助けよう」
「そのお言葉、お忘れなきよう」
そう言うと、カリストが懐から数本の銀ナイフを出し、スッパリと指を切る。そして、赤い血がついた銀ナイフを床と天井と左右の壁に投げた。銀ナイフが刺さった場所からバチバチと火花が飛ぶ。
「いきますよ」
カリストが五本目の銀ナイフ刺そうとして、火花が消えた。廊下の見た目は変わらないが、違和感が消失する。
「解除したのかい?」
セルシティの質問にカリストが頭を横に振った。
「いえ。この魔法を施術した人が解除したようです。ただ、それにしては魔力が……」
話している途中で何かに気が付いたカリストが走り出す。ルドも急いで追いかけた。
二人が廊下の途中にあるドアを勢いよく開ける。目の前では輝く魔法陣の中で消えかけているクリスの姿。
「師匠!」
「クリス様!」
二人が部屋に駆け込む。気がついたクリスが手を伸ばした。
「師匠!」
ルドも応えるように手を伸ばす。精一杯伸ばしたお互いの指先が触れかけ――――――――
クリスが消えた。
「え!? なんのために街を沈めたんだ?」
「あの大きな湖を作るためだ。人が増えれば水はより多く必要になる。必要な量の水を確保するために、ああいう湖を作り、川の流れを変え、水を管理、制御していたらしい」
「それだけの技術があったのか!?」
「そうだ。失われるには、とても惜しい知識や技術だ。あの街は湖に沈めたことで地表にはなかったから残った、という皮肉の結果だ」
閃いたルドは目を大きくした。
「そうか! 地表ではなく湖の中にあったから残ったのか! と、いうことは他にも地表になかった文明が残っている可能性が!」
「そうだ。ただ無傷で残ったのは三か所だけらしい」
「三か所!? それは、どこなんだ!?」
セルシティが悪戯をする子どものように笑う。
「私はクリスティがいた場所しか知らない。他の二か所は教えてもらえなかった」
「師匠の一族はどこにいたんだ!? 地表にはいなかった、ということは地下か?」
「私もそう思ったが、そうではなかった」
「どこなんだ?」
もったいぶるセルシティに苛立つ。そんなルドの気配を感じ取ったのか、セルシティがすぐに答えを出した。
白い指で天井を指す。
「空中庭園にいたそうだ。だから、奪われなかったらしい」
「空中庭園?」
「簡単に言うと空飛ぶ巨大な島だ。そこに数百人が住んでいたという」
「数百人が住める空飛ぶ島!?」
ルドの反応にセルシティが満足そうに笑った。
「それだけの技術と文明があったんだ。それを全て神に奪われたと思うと、惜しいという言葉では済まない」
セルシティが悔しそうに両手を握る。その気持ちはルドにも分かった。数千年かけて創り上げたモノを一方的に奪われる理不尽さ。
その知識と技術があれば、人はもっと豊かで、救われる命もあっただろう。
「クリスティの一族は文明を奪われることを免れたが金髪、緑目の人間しか生まれない体にされた。失われた文明の記憶を持つ者として、どこにいても分かるように。そして、”神に棄てられた一族“という仰々しい呼び名で、関われば呪われ、滅ぶ、と噂される存在にされた。奪った文明や、その知識が再び地上で栄えないようにするための、神の小細工だろうな」
「だから師匠は髪の色を変えていたのか……」
「あぁ。そもそも、神に棄てられた一族は空中庭園内で生活が出来るから、地上に降りることは滅多になかった。百年前までは」
ルドはクリスの話を思い出した。
「そういえば師匠も百年ぐらい前に一族が地上に降りたと言っていたな」
「そう。百年ぐらい前に空中庭園がシェトランド領に墜落した」
「あの極寒の地に墜落……よく生き延びたな」
セルシティが神妙な顔で頷く。
「あぁ。しばらくは空中庭園の残骸の中で生活していたが、物資がなくなり一族は滅びかけた。そこで、カイ殿が帝都に出てきて実力で功績をあげ、シェットランド領を拝領し、立て直した」
「それだけで立て直せるのか?」
「裏で先帝と現帝が支援したからな。見返りは失われた文明の知識。その結果、クリスティの一族は絶滅を免れ、現在に至っている」
ルドはふと訊ねた。
「もしかして、その関係は今も続いているのか?」
「そこは想像に任せる。ただ、クリスティがどれだけ重要かは分かっただろ? それをこちらの落ち度で危険にさらしたとなれば、非常にマズい事態になる」
「ベレンを制御できなかった、こちらに非があるからな」
「あぁ。ベレンの母親、叔母上は聡明で先見の目もあり行動力もあった。そのことで、現帝は何度も助けられた。しかし、娘にその力があるかというと、そうとは限らない」
セルシティが大きくため息を吐く。
「今回のことは、ベレンが親の力を自分の力と勘違いした結果だ。今までのことも含め、それ相応の処罰を親子共々受けてもらうことになる」
「それは、そちらで勝手にやってくれ。それより今は師匠だ」
「そうだな」
そこへ従者が報告にきた。
「クリス様の執事より魔法の解読が終わった、と連絡がありました」
「行くぞ」
セルシティとルドが同時に立ち上がり、部屋から出る。
まっすぐ続く長い廊下。普通の廊下に見えるが、ルドは違和感を覚えた。
人払いをしているため、その場にいるのはカリストとセルシティの親衛隊数名のみ。
到着したルドとセルシティに、床を探っていたカリストが立ち上がり説明をする。
「ここに魔法のほつれがあります。ここから空間をこじ開ければ元に戻せると思います」
そう言ってカリストが指さした先に、ぼんやりと銀色に光る物が見えた。ルドは手を伸ばしたが掴むことが出来ない。触れた感触もない。
「見えてはいますが、空間を歪めているため、実物はそこにありません。ですので、触れることも出来ません。ちなみに、それはクリス様の扇子についていた飾りです」
「師匠の!? では、この先に師匠がいるのですか!?」
ルドは歩き出そうとしたが、カリストが止めた。
「このまま歩いてもクリス様がいる空間とは違うので会えません」
「ぐっ……」
セルシティが微笑みながらカリストに訊ねた。
「この空間を元に戻すことは出来るかい?」
「少々、骨が折れるのと魔力をほぼ使い切りますが出来ます」
「わかった。元に戻した後のことは任せてくれ。必ずクリスティを助けよう」
「そのお言葉、お忘れなきよう」
そう言うと、カリストが懐から数本の銀ナイフを出し、スッパリと指を切る。そして、赤い血がついた銀ナイフを床と天井と左右の壁に投げた。銀ナイフが刺さった場所からバチバチと火花が飛ぶ。
「いきますよ」
カリストが五本目の銀ナイフ刺そうとして、火花が消えた。廊下の見た目は変わらないが、違和感が消失する。
「解除したのかい?」
セルシティの質問にカリストが頭を横に振った。
「いえ。この魔法を施術した人が解除したようです。ただ、それにしては魔力が……」
話している途中で何かに気が付いたカリストが走り出す。ルドも急いで追いかけた。
二人が廊下の途中にあるドアを勢いよく開ける。目の前では輝く魔法陣の中で消えかけているクリスの姿。
「師匠!」
「クリス様!」
二人が部屋に駆け込む。気がついたクリスが手を伸ばした。
「師匠!」
ルドも応えるように手を伸ばす。精一杯伸ばしたお互いの指先が触れかけ――――――――
クリスが消えた。
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