【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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第二章・片思い自覚編〜帝都へ

リミニ領に到着したものの

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 クリスは息を殺して体を小さくした。
 ルドが迫る追手との距離を計りながら、周囲に人がいないことを確認する。懐から小さな玉を後へ投げると、激しい破裂音とともに黒煙が上がり視界を塞いだ。
 煙の中で馬の鳴き声と混乱した声が響く。慣れない音に興奮した馬が暴れる。

 それは、ルドが乗っている馬も同じだった。何事かと暴れそうになる馬をルドがなだめながら走らせる。クリスはルドが抱きしめていなければ落馬していたほど。
 混沌とした中でルドが魔法を詠唱した。

『幻影よ! 走れ!』

 ルドが道を外れ、森の中へと馬を誘導する。しかし、今まで走っていた道にも暴れようとする馬をなだめながら走っていくルドの姿。
 その光景を眺めていると、ルドが声をかけた。

「師匠、少し離れますね」

 クリスの腰からルドの手が消える。馬を操作しながらマントを外し、裏表を逆にして羽織った。真っ白だったマントがこげ茶色に変わる。
 その様子を見ていると、馬が大きく揺れた。

「あっ……」
「危ないっ」

 落ちかけたクリスをルドが背後から抱きしめる。クリスは大きな腕を思わず掴んだ。

「このまま森を越えますので、しばらく我慢して下さい」

 ドキドキしながらクリスは無言で頷いた。

(これは馬から落ちかけたからだ。慣れていないからだ)

 心の中で必死に言い聞かせていると、ルドが思い出したように言った。

「声を出して大丈夫ですよ。追手は幻影の方に行ったみたいですので」
「……そ、そうか。足が速いヤツらだな」
「この森を越えるために速さより力強さを重視して馬を選んだので、追いつかれるのは分かっていました」
「そういうことか。ところで、この道でリミニ領まで行けるのか?」

 獣道と言えるのかも怪しい道を馬が進む。

「人は滅多に通らない抜け道ですが、方向は合っています。目立たないようにマントの色は変えましたし、このまま森を抜けられるでしょう」
「なかなか便利なマントがあるんだな」

 悪目立ちしていた白色のマントは周囲の木々と似たこげ茶色になっており、森に馴染んでいた。
 ルドが琥珀の瞳を伏せる。

「戦場で必要なだけです」

 いつもより数段落ちた声にクリスは振り返った。すると、ルドが白い布の下でニコリと笑顔を作る。

「今は師匠を守ることに役立ったので良かったです」

 いつもの人懐っこい笑顔とは違い、どこか寂しそうな笑顔。クリスはかける言葉が見つからず、そのまま前を向いた。


 足場が悪い獣道で移動速度が落ちる。陽が傾き影が伸びた頃、ようやく森を抜けた。枯草が広がる先に頑丈そうな城壁に囲まれた大きな街がある。
 ルドがクリスに声をかけた。

「あそこがリミニ領の領主が住んでいるリミニ街です。今晩はあそこに泊まります」
「……そうか」

 言葉数が少ないクリスにルドが謝る。

「すみません。もう少し休憩を取れば良かったのですが、それだと日が暮れていたかもしれないので」
「私のことは気にするな。そもそも休憩できる場所がなかっただろ」
「森の中でしたから。お前も、あと少しだから頑張ってくれよ」

 ルドの声に応えるように馬が足を動かす。城門の前に到着すると門番に止められた。

「馬から降りろ! 通行証と身分証を出せ!」

 ルドが全身を覆っているこげ茶色のマントを翻す。突如、現れた白い魔法騎士団の正装服に門番が固まった。

「降りる時間も惜しいので馬上から失礼します。通行証です」
「は、はい! 失礼しました! どうぞ! お通りください!」

 通行証をロクに確認せず門番がルドを馬ごと通す。クリスは呆れたように肩をすくめた。

「あれでよく門番が務まるな。それとも、その服の威力か?」
「そこは深く考えないでください。このまま中央にある城へ行きま……」

 ルドの言葉が終わる前に建物が倒壊するような音が響いた。ルドが思わず馬を止めて音がした方向を見る。
 すると入って来た城門より少し南側で土砂煙が上がっていた。

「修復中の城壁が崩れたぞ!」
「下敷きになっている人がいるか!?」
「作業していたヤツが何人かいたはずだ!」

 男たちを中心に人々が集まる。

「崩れた所に行くぞ」

 クリスは当然のように言ったがルドは動かない。

「どうした?」
「……今、師匠は狙われています。あのように不特定多数の人が集まる所へ行くのは危険です」

 思わぬ言葉にクリスはルドの襟首を掴んで睨んだ。

「お前はそれでも治療師か! 目の前の助けられる命より、あるか、ないか分からない危険を優先するのか!?」

 ルドが目を丸くする。

「お前はここにいろ! 私一人で行く!」

 威勢は良いが実際に一人で馬から降りるのは難しい。クリスはどうにか降りようとモゾモゾとするが降りれない。
 すると、ルドが手を出して止めた。

「わかりました。自分も行きます」

 ルドが馬を走らせて倒壊現場に到着する。先に降りたルドが手を貸してクリスを馬から降ろした。

「怪我人はどこだ!?」

 現場に走っていくクリスをルドが追いかける。
 数人が振り返り、クリスの服を見て喜びの声を上げた。

「治療師か! 助かった!」
「こっちだ! こっちに来てくれ!」
「いや! こっちが先だ!」
「なんだと!」

 言い争いが始まりそうな雰囲気にクリスは怒鳴る。

「喧嘩をしている場合ではないだろ! まとめて診るから、ここに連れて来い! 動かせなければ、無理に動かすな! 怪我がひどい者から治療をしていく!」
「わ、わかった」

 手足から血を流している人や頭から血を流している人が集まる。人数はそんなに多くなく十人もいない。

 クリスは頭から血を流している人を診ようとして声をかけられた。

「ここの管理を任されている指揮隊長のジョコンド・バッチだ。見かけない顔だが、どこの治療師だ?」

 質問に答えようとしたクリスをルドが止める。

「ワケあって帝都に行く途中です。緊急事態ということで治療を許可しました」

 魔法騎士団の正装服を着ているルドにジョコンドが慌てて敬礼をする。

「失礼しました!」
「治療してもいいのか?」
「ぜひ! お願いします!」

 クリスの問いにジョコンドが何度も頷く。魔法騎士団と共に行動している、というだけで身元や身分は保証される。

 クリスは頭から血を流している人に近づき、治療を開始した。その様子を見ながらルドがジョコンドに訊ねる。

「瓦礫の下敷きになっている人はいませんか?」
「はい! 片付けをしている途中でしたので、倒壊した城壁の下には、誰もおりませんでした」
「怪我人はこれで全員ですか?」
「そうだと思います!」

 ジョコンドが一回り以上年下のルドにハキハキと答える。
 クリスはルドに声をかけた。

「怪我の重症度が高い順に治療をしていけ。二人で治療すれば、すぐに終わる」
「……自分一人で治療をしてもいいのですか?」
「してみろ。治療が難しい怪我だと判断したら私を呼べ」
「はい」

 ルドが並んだ怪我人を見渡す。同時に全員がサッと視線をそらした。
 怪我は痛いし治療はしてほしいが魔法騎士団の騎士服の威圧感はそれを越える。

 そんな周囲の反応にも慣れた様子でルドが治療を開始した。





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