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すれ違う二人
オグウェノの真意
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帆船の船室に戻ったムワイが嬉しそうにクリスに訊ねた。
「あの弟子の魔法はなんですか!? 手から剣が出るなんて、見たことも聞いたこともありません! しかも、僕の魔法を斬るなんて!」
「なんで、そんなに嬉しそうなんだ? 自分の魔法が効かなかったら、普通は悔しがるだろ」
クリスの疑問にオグウェノが困ったように答える。
「ムワイは魔法バカなんだ。魔法のことになると見境がない。敵だろうが味方だろうが、その魔法を納得するまで調べないと気が済まなくなる」
「……迷惑な性格だな」
「あぁ。魔法が絡むと敵陣のど真ん中でも突っ込んで調べようとする」
「迷惑しかないな。あ、そうか。あの『圧縮』という魔法は、対象を無力化しつつ、調べやすくするための魔法か」
「あぁ。どうすれば調べやすくなるか、考え抜いたすえに編み出した魔法だ」
「恐ろしいな」
「魔法に関してだけは天才だからな」
ムワイが机に紙を広げ、ペンでメモをとり始めた。
「えっと……剣を呼び出す呪文と……あと魔力の流れは……で、そこから……」
「ああなると、しばらくは使い物にならない。無視してくれ」
「わかった」
クリスは頭に被っていた白い布を取った。流れ落ちた茶色の髪にオグウェノが首をかしげる。
「あれ? 一晩たったら金髪に戻るんじゃないのか? だから布を用意していたのに」
「寝たり、意識を失ったりしたら戻るだけだ」
「なら、なんで戻ってないんだ?」
「寝てないからだ」
「寝てないのか!?」
驚くオグウェノをクリスは睨んだ。
「ずっと隠しているのは面倒だからな。髪の色を隠すための布なら、もう被らなくてもいいな?」
睡眠不足のせいで不機嫌なクリス。これ以上機嫌を悪くしないためにオグウェノが話題を変えた。
「それにしても随分早く追いつかれたな。普通なら帝都から川を使って船で移動しても二日……風向きが良くて、凄腕の魔法師を使っても一日半はかかるのに」
「そうだな」
視線を逸らしたクリスの顔をオグウェノが覗き込む。
「心当たりがあるのか?」
「極秘だ」
「〝神に棄てられた一族〟の知識か?」
「風にあたってくる」
クリスはスタスタと部屋から出ていった。
「逃げられましたわね」
「あ、いたのか」
「最初からいましたわ!」
ベレンが頬を膨らませて怒る。クリスたちより先に帆船に乗ってこの部屋にいたが、気付かれていなかった。
「悪い、悪い」
オグウェノの軽い態度にベレンが眉間にシワを寄せる。
「その態度は悪いと思っていませんでしょ? それで、ここに来るまでに何かありましたの?」
オグウェノがムワイとルドが魔法で戦ったことを説明すると、ベレンが目を丸くした。
「あのルドの動きを封じるなんて、すごい魔法師ですのね」
「あいつはそんなに強いのか?」
ベレンが視線を伏せる。以前なら、意気揚々とルドのことを自分のことのように自慢していた。しかし、今は心が苦しくなる。
なるべく平静を装って淡々と答えた。
「えぇ。将来は魔法騎士団の総隊長を担うと皆が期待していますわ」
「凄腕揃いと言われている魔法騎士団の中でもトップクラスの腕前ということか。魔法が強いのか? それとも剣の腕か?」
「魔法も剣も超一流ですわ」
「へぇ、それはすごいな。性格は? そこまで凄いなら性格に欠点の一つや二つあるだろ?」
「それは……」
語りかけてベレンが口を閉じる。そのままオグウェノを睨んだ。
「情報収集をしようとしていません?」
「気が付いたか」
「……ルドと戦うつもりですの?」
オグウェノが軽い雰囲気を消して真面目な顔になる。
「必要とあれば」
ベレンが息を吐いて残念そうに微笑む。客人として扱われているとはいえ、油断はできない。
「気軽にお話しもできませんわね」
「なかなか敏いな。あの国だと疎まれそうだが」
「……否定はしませんわ」
「オレの国だと重宝されるのに。残念だ」
「どういうことですの?」
「そっちの国と違ってケリーマ王国では男も女も平等だ。能力さえあれば男でも女でも関係なく、なんでも出来る」
「なんでも? 例えば何が出来ますの?」
「そうだなぁ……」
オグウェノが胸の前で腕を組んで考える。
「自分の店を持って商売をしてもいいし、騎士になってもいいし、領主にもなれる」
「女性の領主!?」
「そうだ。実際にいるぞ。実力さえあれば女が跡継ぎでも問題はない」
「ですが、知識の差は……」
「ケリーマ王国の国民は子どもの時に全員、学校に行くことが義務になっているからな。男でも女でも最低限の読み書き算術はできる。そこから、さらに学ぶかは自由だ」
ベレンが理解できない、と軽く首を振った。
「どうして、そこまで民に勉強をさせるのですか?」
「国が栄えるためだ。優秀な民が育ち、国政に関われば国は発展するだろ? それに知識は武器にもなる」
「知識が武器に……」
「生きることに男も女も関係ない。それがケリーマ王国の考え方だ」
衝撃で言葉が出ないベレン。そこに部屋の外から声がかかった。
「王子! ちょっと来てくれ!」
「なにかあったか?」
オグウェノが小走りで出ていく。残されたベレンがポツリと呟いた。
「生きることに男も女も関係ない……」
呼ばれたオグウェノが甲板の一段上にある操舵室に入る。
「どうした?」
「王から通信だ」
「ありがとよ」
オグウェノが通信機に話しかけた。
「なにか用か? 親父」
『用があるから通信してるんだろうが。例の物だが、どこに運んだらいい?』
「そっちは今どこにいるんだ?」
『サジェの砂漠をもう少しで抜ける』
オグウェノが地図を見る。
「それならニヤッタのオアシスで落ち合おう」
『わかった。どれぐらいで着きそうだ?』
「何事もなければ昼過ぎには着くと思う」
『そうか。こっちは夕方には到着する』
「了解。じゃあ、また後で」
『おう。またな』
通信が切れる。オグウェノが甲板の方を見ると手すりに腰かけているクリスの姿があった。
「と、いうわけだ。ニヤッタへ行ってくれ」
「了解!」
甲板に出たオグウェノがクリスに声をかける。
「落ちるなよ」
「それは気を付ける。なかなか体験できないことだからな」
クリスは遠くを眺めながら風を浴びる。
「すんなり協力してもらえて助かる」
「そのほうが早く帰れそうだからな」
「……すぐに帰るのか?」
「帰ってすぐに治療をしないといけない者がいる」
「その者の治療を終えたらケリーマ王国に来ないか?」
「冗談を……」
クリスは言いかけて言葉を止めた。
自分と同じ深緑の瞳が静かに見つめてくる。頭に被っている白い布が翼のように風ではためく。
「ケリーマ王国なら男のフリをして治療師をする必要はない。今までと同じ生活が出来るように領地や家も用意しよう」
「悪いが……」
答えようとしたクリスの口をオグウェノが人差し指で塞ぐ。
「すぐに返事をしなくていい。少し考えてくれ」
「考えるまでもないと思うが?」
オグウェノが男前の笑顔をクリスに近づける。
「時間をくれ。その気持ちを変えてみせる」
「私はシェットランド領から離れる気はない」
「ならばシェットランド領をケリーマ王国の領地にする」
突拍子のない提案にクリスは目を丸くした。
「は?」
「オレが本気を出して、月姫が協力してくれたら実現可能だ」
「私にその気はない。船室に戻る」
クリスはオグウェノの横を通り過ぎようとして、手を掴まれた。
「なんだ?」
「オレは本気だからな」
「〝神に棄てられた一族〟を手中に収めたいなら交渉する相手は私ではないぞ」
クリスは手を振りほどき船室へと姿を消した。
「そういう意味じゃないんだけどなぁ」
オグウェノが困ったように頭をかいた。
「あの弟子の魔法はなんですか!? 手から剣が出るなんて、見たことも聞いたこともありません! しかも、僕の魔法を斬るなんて!」
「なんで、そんなに嬉しそうなんだ? 自分の魔法が効かなかったら、普通は悔しがるだろ」
クリスの疑問にオグウェノが困ったように答える。
「ムワイは魔法バカなんだ。魔法のことになると見境がない。敵だろうが味方だろうが、その魔法を納得するまで調べないと気が済まなくなる」
「……迷惑な性格だな」
「あぁ。魔法が絡むと敵陣のど真ん中でも突っ込んで調べようとする」
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「えっと……剣を呼び出す呪文と……あと魔力の流れは……で、そこから……」
「ああなると、しばらくは使い物にならない。無視してくれ」
「わかった」
クリスは頭に被っていた白い布を取った。流れ落ちた茶色の髪にオグウェノが首をかしげる。
「あれ? 一晩たったら金髪に戻るんじゃないのか? だから布を用意していたのに」
「寝たり、意識を失ったりしたら戻るだけだ」
「なら、なんで戻ってないんだ?」
「寝てないからだ」
「寝てないのか!?」
驚くオグウェノをクリスは睨んだ。
「ずっと隠しているのは面倒だからな。髪の色を隠すための布なら、もう被らなくてもいいな?」
睡眠不足のせいで不機嫌なクリス。これ以上機嫌を悪くしないためにオグウェノが話題を変えた。
「それにしても随分早く追いつかれたな。普通なら帝都から川を使って船で移動しても二日……風向きが良くて、凄腕の魔法師を使っても一日半はかかるのに」
「そうだな」
視線を逸らしたクリスの顔をオグウェノが覗き込む。
「心当たりがあるのか?」
「極秘だ」
「〝神に棄てられた一族〟の知識か?」
「風にあたってくる」
クリスはスタスタと部屋から出ていった。
「逃げられましたわね」
「あ、いたのか」
「最初からいましたわ!」
ベレンが頬を膨らませて怒る。クリスたちより先に帆船に乗ってこの部屋にいたが、気付かれていなかった。
「悪い、悪い」
オグウェノの軽い態度にベレンが眉間にシワを寄せる。
「その態度は悪いと思っていませんでしょ? それで、ここに来るまでに何かありましたの?」
オグウェノがムワイとルドが魔法で戦ったことを説明すると、ベレンが目を丸くした。
「あのルドの動きを封じるなんて、すごい魔法師ですのね」
「あいつはそんなに強いのか?」
ベレンが視線を伏せる。以前なら、意気揚々とルドのことを自分のことのように自慢していた。しかし、今は心が苦しくなる。
なるべく平静を装って淡々と答えた。
「えぇ。将来は魔法騎士団の総隊長を担うと皆が期待していますわ」
「凄腕揃いと言われている魔法騎士団の中でもトップクラスの腕前ということか。魔法が強いのか? それとも剣の腕か?」
「魔法も剣も超一流ですわ」
「へぇ、それはすごいな。性格は? そこまで凄いなら性格に欠点の一つや二つあるだろ?」
「それは……」
語りかけてベレンが口を閉じる。そのままオグウェノを睨んだ。
「情報収集をしようとしていません?」
「気が付いたか」
「……ルドと戦うつもりですの?」
オグウェノが軽い雰囲気を消して真面目な顔になる。
「必要とあれば」
ベレンが息を吐いて残念そうに微笑む。客人として扱われているとはいえ、油断はできない。
「気軽にお話しもできませんわね」
「なかなか敏いな。あの国だと疎まれそうだが」
「……否定はしませんわ」
「オレの国だと重宝されるのに。残念だ」
「どういうことですの?」
「そっちの国と違ってケリーマ王国では男も女も平等だ。能力さえあれば男でも女でも関係なく、なんでも出来る」
「なんでも? 例えば何が出来ますの?」
「そうだなぁ……」
オグウェノが胸の前で腕を組んで考える。
「自分の店を持って商売をしてもいいし、騎士になってもいいし、領主にもなれる」
「女性の領主!?」
「そうだ。実際にいるぞ。実力さえあれば女が跡継ぎでも問題はない」
「ですが、知識の差は……」
「ケリーマ王国の国民は子どもの時に全員、学校に行くことが義務になっているからな。男でも女でも最低限の読み書き算術はできる。そこから、さらに学ぶかは自由だ」
ベレンが理解できない、と軽く首を振った。
「どうして、そこまで民に勉強をさせるのですか?」
「国が栄えるためだ。優秀な民が育ち、国政に関われば国は発展するだろ? それに知識は武器にもなる」
「知識が武器に……」
「生きることに男も女も関係ない。それがケリーマ王国の考え方だ」
衝撃で言葉が出ないベレン。そこに部屋の外から声がかかった。
「王子! ちょっと来てくれ!」
「なにかあったか?」
オグウェノが小走りで出ていく。残されたベレンがポツリと呟いた。
「生きることに男も女も関係ない……」
呼ばれたオグウェノが甲板の一段上にある操舵室に入る。
「どうした?」
「王から通信だ」
「ありがとよ」
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「なにか用か? 親父」
『用があるから通信してるんだろうが。例の物だが、どこに運んだらいい?』
「そっちは今どこにいるんだ?」
『サジェの砂漠をもう少しで抜ける』
オグウェノが地図を見る。
「それならニヤッタのオアシスで落ち合おう」
『わかった。どれぐらいで着きそうだ?』
「何事もなければ昼過ぎには着くと思う」
『そうか。こっちは夕方には到着する』
「了解。じゃあ、また後で」
『おう。またな』
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「それは気を付ける。なかなか体験できないことだからな」
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「……すぐに帰るのか?」
「帰ってすぐに治療をしないといけない者がいる」
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「冗談を……」
クリスは言いかけて言葉を止めた。
自分と同じ深緑の瞳が静かに見つめてくる。頭に被っている白い布が翼のように風ではためく。
「ケリーマ王国なら男のフリをして治療師をする必要はない。今までと同じ生活が出来るように領地や家も用意しよう」
「悪いが……」
答えようとしたクリスの口をオグウェノが人差し指で塞ぐ。
「すぐに返事をしなくていい。少し考えてくれ」
「考えるまでもないと思うが?」
オグウェノが男前の笑顔をクリスに近づける。
「時間をくれ。その気持ちを変えてみせる」
「私はシェットランド領から離れる気はない」
「ならばシェットランド領をケリーマ王国の領地にする」
突拍子のない提案にクリスは目を丸くした。
「は?」
「オレが本気を出して、月姫が協力してくれたら実現可能だ」
「私にその気はない。船室に戻る」
クリスはオグウェノの横を通り過ぎようとして、手を掴まれた。
「なんだ?」
「オレは本気だからな」
「〝神に棄てられた一族〟を手中に収めたいなら交渉する相手は私ではないぞ」
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