【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

文字の大きさ
121 / 243
すれ違う二人

カイの見解〜ルド視点〜

しおりを挟む
 人々が空を飛ぶ帆船に注目する中、カリストとラミラが人混みをかき分けてカイの所に来た。

「クリス様は?」

 カリストがカイに詰め寄る。カイが呆然と空を見上げたままのルドに視線を向け、苦笑いをした。

「あー、ここだと騒がしいから場所を移動しよう。行くぞ」

 カイがルドの襟を掴み、引きずりなが歩きだす。
 すぐ近くにあった店に入り、カイが珈琲を四つ注文した。

「あの、ここはどういうお店なのでしょうか?」

 ラミラが落ち着かない様子で店内を見回す。丸いテーブルと椅子があり、一見すると酒場のようだが、それよりは明るくオシャレな雰囲気。
 カイがメニュー表をカリストとラミラに渡した。

「カフェというお茶や軽食、デザートを提供する店だ。食べたいものがあったら注文しろ。おごるぞ」

 冷めた目でカリストがメニュー表をカイに突き返す。

「ケリーマ王国では庶民もお茶をする文化があるのですね」
「昼間は暑いからな。休憩もかねてお茶をする文化が発展している。あと国民のほとんどは字が読めるからメニュー表を読んで注文もできる」
「はぁ……」

 ラミラがメニュー表をそっとテーブルの端に置く。隣ではカリストが冷気を放ち、反対側では生気を失ったルドが今にも椅子から崩れ落ちそうな姿勢で座る。

 混沌とした状況にラミラが助けを求めるようにカイに視線を送った。
 カイが苦笑して手を横に振る。

「いやぁ、悪かった。どうもクリスは自分であいつらについて行っているようだ」

 カリストから冷気が吹き出した。

「いえ、クリス様は確かに目の前で攫われました」
「悪い、悪い。言い方が悪かった。最初は攫われたが、今は自分の意思でついて行ってるようだ。なにかあったらしい」
「なぜ、そう思うのですか?」

 カイがルドを指さす。

「まず、こいつを見て逃げた」

 全員がルドに注目するが、本人は動かない。琥珀の目は焦点が合わず、ぼんやりと天井を眺める。

「それで、こんな不甲斐ない姿になったのですか」
「逃げた先がえらい男前さんの背中だったからな。ショックだったらしい」

 カリストが標的をルドに変更する。

「たぶんケリーマ王国の第四王子ですね。情けない。それでクリス様の真意を確かめずに呆然として、その間に逃げられたのですか?」
「いや、それが変わった魔法を使うヤツが現れてな。予測になるが、立つのも無理な状態になる魔法らしい」
「らしい?」

 カリストの黒い瞳が鋭くなる。カイがルドを指さした。

「こいつはなんとか立っていたんだ。ただ、攻撃するために魔法で出した炎は押しつぶされて消えていた」
「立てなく……押しつぶされ……圧力……いや、重力のほうが……そうか! 重力! それなら風の魔法を使わずに浮かび、帆船に乗り込んだのも説明がつきます」

 カリストが大きく頷く。一方のラミラが悩みながら首を傾げた。

「屋敷の書庫に重力というものが書いてある本がありましたような……確か、物が引っ張り合う力のことでしたよね?」
「お、よく勉強しているな。簡単に言うと、そういうことだ。ただ、普通は重力なんて知らないはずなんだがな」
「重力を知っていて、そこから魔法を作り出したのか、それとも偶然出来たのか……」

 カリストの呟きにカイが唸る。

「ケリーマ王国の王子の従者か……ケリーマ王国の王族は独特な文化で国を維持しているが、不明なところも多いからなぁ」

 そこに珈琲が運ばれてきた。
 ウエイトレスが立ち去ると、ラミラがカイの前に置かれた珈琲を自分のものと交換し、毒味をする。
 次にカリストが珈琲を飲み、安全を確認したところで、ようやくカイが珈琲を飲んだ。
 以前、二人より先に飲み物を飲んだカイは、薬や毒が入っていたらどうするのだと、永遠説教された。

 そのことを思い出したカイが苦笑いを浮かべながら説明する。

「ケリーマ王国の跡継ぎは能力性だ。王女の子の中で統治能力が高い者が後継者になる。ただ、その選抜方法は不明で、王女は滅多に人前に姿を現さない」
「王の子ではなく、王女の子なのですか?」

 驚くラミラにカイが頷く。

「普通の国では王の子が跡継ぎになる。それも男の場合がほとんどだ。だが、ケリーマ王国の場合は女が跡継ぎになることが多い。だから、統治しているのも王女のことが多い。過去には王が統治した時代もあったらしいが、ここ百年はそんな感じだ。そのためか、王女の子から後継者を選ぶ」
「はぁ……」

 男尊女卑の国や風習が強い世界しか見たことがないラミラには想像が出来ない。

「まあ、シェットランド領と同じだと思えばいい」
「それは言い過ぎではありませんか? あのように統治された国があるとは思えません」

 断言したラミラにカイが苦笑する。

「それは褒められているのか?」
「存分に褒めています。シェットランド領のような国があれば、全ての人がその国に移住するでしょう」
「まったく同じというわけじゃないぞ。ただ、考え方とか統治方法が似てるってだけだ」
「それだけでも、かなり違います。全ての人を人として扱う。それだけで……」
「おい。それ以上、力を入れるなよ。カップが割れる」

 ラミラがハッとしてカップから手を離した。

「失礼いたしました」
「で、これからどうしますか? 仮にクリス様がご自分でついて行っているとして、そのまま放置されるのですか?」
「いや、一応クリスから直接話を聞こうと思う。それと別件で気になることがあるんだ」
「別件?」

 カイが珈琲を飲みながら呆然としているルドに訊ねた。

「クリスティを攫ったのはケリーマ王国の第四王子でいいんだよな?」

 ルドからの返事はない。ただの屍のようだ。
 代わりにカリストが答える。

「そのように聞いています」
「ケリーマ王国って代々女しか生まれてこないで有名なんだよな。だから、女が跡を継ぐ」
「では、王族を語る偽者だと?」
「その可能性もあるが……それより、繋がってこないか? シェットランド領と似た考え方と統治方法。女しか生まれない王族。そして滅多に姿を見せない王女」
「まさ、か……」

 丸くなった黒い瞳にカイがニヤリと笑う。

「気づいたか?」
「ありえるのですか?」
「かなり昔の記録になるが、空中庭園が落ちる少し前に月から流れ星が落ちて、それを回収に行った部隊がいたそうだ。ただ、その部隊が帰還した記録はない」
「……可能性はありますね」
「オレとしては、それも確かめに行きたいんだが、いいか?」

 カイの確認にカリストとラミラが当然のように頷く。

「確認するまでもありません。私たちは、どこまでもあなた方に付き従うだけです」
「難儀な性格だな。で、コレはどうする?」

 カイが屍と化しているルドを突っつくが反応はない。

「このまま置いていきますか?」
「それでもいいが、重力の魔法を使うヤツに対抗できるのは、こいつぐらいだからなぁ」
「仕方ありませんね」

 カリストが縄を取り出し、ルドの体に巻き付けた。

「さ、行きましょう」

 全身に縄を巻かれてミノムシ状態となったルドはカリストに引きずられてカフェから出て行った。





しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...