【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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月からの流れ星と治療

似た者親子の親子喧嘩

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 開いた球体の中には、数枚の小さな長方形の黒い板があった。
 カイが手に取って確認する。

「あー、コレか。シェットランド領に持って帰れば中の情報を見ることが出来るが……持って帰っても、いいか?」
「コレはクリスティアヌス殿に返した物だ。そちらの好きにしてくれ」

 王の言葉にカイがクリスを見る。クリスは軽く頷いた。

「シェットランド領に持って帰ろう。だが、私は帝都ですることがある。先に帰って情報を確認してほしい」
「そうか。なら、セスナで帝都まで送って、オレはそのままシェットランド領に帰ろう」
「それなら、早く帝都に着くな」

 二人の会話にルドが顔を青くする。そこにオグウェノが手を上げた。

「オレも行く」
「なぜだ?」

 露骨に嫌な顔をしたクリスにオグウェノが真面目な顔で説明する。

「その中の情報を見届けるためだ。お袋に報告しないといけないからな」
「もっともらしいことを言っているが、セスナに乗りたいだけじゃないのか?」
「そうとも言う」

 オグウェノがあっさりと認める。額を押さえクリスはため息を吐いた。その隣でカイが唸る。

「第四王子一人なら乗れるが、護衛とかは定員オーバーで乗れないぞ」
「こいつらは飛空艇で追いかけてくるから、大丈夫だ」
「なら、お前も飛空艇で来ればいいだろ」

 オグウェノが大きく頭を振って拒否する。

「嫌だ。あのセスナとやらに乗りたい」
「子どもか!」

 カイが呆れたように言った。

「わかった。もう、おまえら全員、飛空艇で帝都に行け。オレは先にセスナでシェットランド領に戻る。で、帝都での用事が終わったら、これより大きいセスナで迎えに行ってやる。そうすれば全員乗れる」
「アレより大きいセスナとやらに乗れるのか? なら、いいぞ」

 オグウェノが喜んで同意すると、王も頷いた。

「その方がこちらとしても助かる。このバカ息子がしたことの詫びの品を帝都まで飛空艇で運ぶのだが、皇帝に渡す時、クリスティアヌス殿に仲介を頼みたい」
「それはかまわないが、誘拐罪の擁護はできないぞ」
「そこは、こちらで処理する」

 王がオグウェノに視線を向けると、しっかりと頷いた。

「自分でやったことだからな。ケジメはつけてくる」
「よし。なら、行ってこい」

 王とオグウェノが拳を合わせる。

「この親にしてこの子あり、といった感じですね」

 カリストの呟きにクリスは頭を抱えた。


 翌日の早朝。
 ようやく空が白くなってきた頃、湖に浮かぶ城の桟橋で使用人たちが飛空艇に次々と荷物を運びこむ。
 その隣でカイがルドに忠告していた。

「クリスティの側から離れるな。うかうかしていると、第四王子に取られるぞ」
「取られる? また誘拐されるということですか!?」

 周囲を警戒するルドの頭をカイが叩く。

「そういうことじゃない。まったく、鈍いにもほどがあるな」
「はぁ……」
「とにかく、クリスティから離れるな。あいつは今、脆くなっている」
「脆く?」
「自分が何者なのか。それは、いつもあいつの中の楔になっている」

 そこに治療師の服を着たクリスが歩いてきた。その姿にカイから先程までの真剣な表情が消える。
 カイが軽い笑顔でクリスに手を振った。

「朝が弱いのに、よく起きられたな」

 茶色の髪を一つに纏めたクリスは目をこすりながら答えた。

「……カリストに起こされた」
「そうか。そっちも出発する頃だろ? 気を付けろよ」
「あぁ。早く用事を終わらせて、さっさとシェットランド領に行かないとな」
「待ってるから、帝都での用事が終わったら連絡しろよ」
「わかった」

 ラミラがセスナから顔を出す。

「荷物はすべて積み込みました」
「お、ありがとう。じゃあ、そろそろ行くか」

 クリスはカイに声をかけた。

「空はまだ暗いからな。気を付けて操縦しろよ」
「あぁ」

 カイが乗り込んだセスナが湖に線を引きながら飛び立つ。
 そこに王が走ってきた。

「カイ殿はもう帰られたのか」
「あぁ。早くしないと日が沈む前にシェットランド領に着かないからな。この時期は日が沈むのが早い」
「別れの挨拶ぐらいしたかったのだが、残念だ。それにしても、この距離を半日で移動できるとは素晴らしい技術だな」
「大っぴらには出せない技術だがな」
「世界が追いつくには、まだ時間が必要だ」

 そこにオグウェノが叫ぶ。

「親父! 荷物はこれで全部か!?」
「まだ、入り口にあるぞ」
「冗談だろ!? これ以上、乗せたら重くて飛ばねぇよ!」

 王がオグウェノに怒鳴る。

「おまえがやったことを考えたら、これ全部でも足りないんだぞ! 根性で飛ばせ!」
「根性論で無茶言うな!」
「無茶をやったのは、おまえだろ!」

 突如始まった親子喧嘩にクリスは目を細めた。本気で言い争っているのに、本気で憎んではいない。不思議な関係。
 無言で眺めるクリスにルドが訊ねた。

「どうかされましたか?」
「親とは……どのような存在ものなのだろうな」
「師匠?」
「あ、いや。なんでもない、気にするな」

 歩き出したクリスの後ろをルドが歩く。

「何か用か?」
「カイ殿から側にいるように言われました」
「……そうか」

 城の中に入るとカリストが小走りでやってきた。

「ベレン様の調子が悪いそうです」
「……たぶん二日酔いだろうな。今から診に行くから白湯と薬を準備してくれ」
「はい」

 カリストが離れ、クリスは再び歩きだす。ルドが少し顔を引きつらせていたが、クリスは何も言わない。

 クリスが部屋に入ると、ベレンはベッドにうつ伏せていた。

「どうした?」
「うぅ……頭が痛くて、吐き気もして……」

 クリスは手を向け、透視魔法で全身を確認した。

「二日酔いっぽいな。酒には弱いのか?」
「そのようなことは、ないのですが……」
「酔いと疲れが重なったか。これから、あの船に乗って帝都に戻るが……動けるか?」

 枕に顔を埋めて苦しんでいたベレンの呻き声が止まる。

「……そうですか」
「ここに残るか?」
「いえ。帰りますわ」

 ベレンが顔を上げる。そこでクリスの後ろに立つルドに気づき……

「きゃぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!!」

 すざましい叫び声に、クリスとルドが耳を塞ぐ。

「どうされました?」

 薬を持参したカリストがノックもなしに部屋に飛び込んだ。

「あ、あの、すみません。驚いて……」

 こんなに声が出るとは思っていなかったベレンが赤くなった顔をシーツで隠す。そこへイディが部屋に飛び込んできた。

「どうした!?」

 全員が無言でイディに視線を向ける。何も起きていないことを確認したイディが顔色一つ変えずに平然と頭をさげた。

「失礼」

 イディの行動にベレンが吹き出す。

「あんなに慌てるなんて……いたたっ……」

 頭を押さえるベレンにカリストが薬と白湯をテーブルに置いた。

「痛み止めと二日酔いの薬です」
「くすり?」

 ベレンが紙に包まれた茶色の粉を不思議そうに眺める。

「薬とは、植物や動物から作った物で、体を整える効果がある」
「治療魔法は使わないのですか?」
「魔法も使うが、薬を飲んだほうが良く効く」
「そうですか」

 ベレンが覚悟を決めたように薬と白湯を飲む。クリスはベレンの腹部に手を向けた。

『蠕動運動の回復。肝機能の回復』

 ベレンの顔から苦悶が消える。

「……吐き気と、体の重い感じが楽になりました」
「頭痛も、もう少ししたら楽になる。動けるなら早く支度をしろ。もうすぐ出発だぞ」
「大変!」

 慌てるベレンを置いてクリスは部屋から出る。廊下で待機していたラミラに手伝うように声をかけた。





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