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ケリーマ王国
それは、酔ったイケメンの殴り合いでした
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「なにをするんですか!」
ルドが怒鳴りながら泉から顔を出す。酒で目元が赤くなったオグウェノが不満気に顔をしかめる。
「お前のその態度。見ていてムカつく」
「は!?」
「その自分だけ我慢すれば……っていう自己犠牲的な態度。そのうえ、我慢してるんだぜ的な悲壮感を漂わせて、何様だ? あ? 自己陶酔者か?」
酔っ払いの戯言とはいえ、あまりの言葉にルドが怒る。ばしゃばしゃと派手に水音をたてながら泉から出た。
「はぁ!? 何を言っているんですか!? いつ、自分がそのようなことをしましたか!?」
「してるだろう!」
「してません!」
額と額がぶつかりそうなほど顔を近づけ、深緑の瞳と琥珀の瞳が睨み合う。
「そもそもなぁ! てめぇの、その煮え切らない態度が気に入らねぇんだよ!」
「別に、あなたに気に入られなくて結構です!」
「あぁ! そうだよ! オレに気に入られる必要なんかねぇ! だがな! 月姫にはハッキリさせとけ!」
「なぜ、そこで師匠が出てくるのですか!?」
「あぁ!? お前、月姫があそこまで態度に出しているのに、知らぬ存ぜぬで通すつもりじゃねぇだろうな!?」
クリスが記憶を失ってからの様々な行動がルドの脳裏によみがえる。可愛らしい仕草の中にあるルドへの特別な想い。さすがに鈍いルドでも、なんとなく感じ取っていた。
あからさまにルドの勢いが落ちる。
「いや、あれは……師匠は記憶がないからで……」
オグウェノがルドの胸倉を掴み、視線を無理やり合わせる。
「記憶がないから! だろうが! 記憶がないからこそ、しがらみも建前もなく、自分の感情を出せているんだろ!」
「え……」
思わぬ指摘にルドが呆然とする。
「あれはな! 月姫の本当の気持ちなんだよ! ずっと出来なかったことが、記憶をなくしたからこそ、できているんだ!」
「いや、でも……なんで……なんで、あなたにそんなことが分かるのですか!?」
「ずっと見ていたら、嫌でも気づくんだよ!」
オグウェノがルドを突き飛ばした。
「ずっと……?」
呆けているルドを無視してオグウェノが床に座る。そして、瓶を無造作に掴むと、酒を直接瓶から呑んだ。
「オレはずっと月姫の話を聞いて育ってきた。たった一人で月から地上に降りてきた少女。しかも、それが原因で空中庭園は落下して〝神に棄てられた一族〟は滅びかけた。そんな、自分が原因で滅びかけた場所にいるのは、居心地が悪いだろう。だから、オレがヒーローになって助けるんだって、勝手に月姫を不幸な少女にしていた。だが、実際は違った」
オグウェノが酒を煽るように呑む。
「月姫は自分で居場所を作っていた。しなくてもいい贖罪をしていた。オレが考えていたより、ずっとずっと強かった。そのことを知った時、オレは自分を恥じた。なんて浅はかな考えをしていたのだろう、と。それから、ずっと見ていた。なぜ、こんなに強いのか、と」
ルドがオグウェノの向かい側に腰を下ろす。
「そしたらな。やっぱり、ただの女の子だったんだよ」
「え?」
オグウェノは視線を空に向けた。嘲笑うような口の形をした月がこちらを見下ろす。
忌々しくなったオグウェノは星空だけを写している泉を見た。
「月姫はなぁ。故郷を失くして、それでも自分が出来ることをしている、ただの頑張り屋な女の子だったんだよ」
「それは……」
「知識は武器になる。だから、あらゆることを学び、その中で治療師という道を選び、今に至っているわけだ」
「そこまで師匠のことを……」
「そうだよ。お前よりオレのほうが、ずっと見てるんだよ。なのに、なのに……」
オグウェノが瓶に残った酒をイッキ飲みする。
「なんで、お前なんだよ! いつまでもグジグジで、こんな鈍いのに、魔力と顔だけが良くて、魔法騎士団のエースなんて呼ばれているだけのヤローなんて!」
何気に褒められているがルドは沈んだ。
「そうですよね……自分なんかより、あなたのほうが、よく師匠のことを見ているし、理解している……自分なんかより、よっぽどか……」
オグウェノが空になった酒瓶を床に叩きつける。
「そういうところだ! そういうところがムカつくんだよ! 悲壮感漂わせるぐらいなら改善しろよ! 自己陶酔してるぐらいなら、月姫のことを考えろ!」
「ですから! そういうつもりはありません!」
「なら、さっさと月姫の気持ちに応えろよ! それとも他にいい女でもいるのか!?」
「いません! そもそも師匠を、そのように見たこともありません!」
「なら、すぐ見ろ! 今見ろ! で、どうなんだ!? 考えられるのか!?」
ルドが顔を真っ赤にして否定する。
「そ、そんなすぐに考えられるものでは、ありません! そもそも、自分は師匠に相応しくありません!」
「はあ!? なんで相応しくないんだ!?」
ルドは視線を落とし目の前にある白色の酒が入った瓶をひっつかんだ。それから、そのまま一気飲みをする。あっという間に空となった瓶をルドが床に置いた。
突然の行動にオグウェノがおずおずと声をかける。
「お、おい? 大丈夫か?」
ルドは手の甲で豪快に口元を拭くと、正面からオグウェノを見据えた。
「自分は国に住む人々が安心して過ごせるように、と戦場で戦ってきました。そうすることで、幸せになる人が増えると思って。ですが、実際は違いました。自分が戦っていた相手も人間。その人にも家族がいました。自分はその人たちの幸せを奪っていたのです。そのことに気付かず、多くの血を流してしまいました」
ルドが自分の両手を見る。
「こんな血だらけで汚れた自分が、師匠の隣に立つことなど出来ません。自分は師匠に相応しくありません」
ルドが悔しそうに両手をキツク握り俯く。その赤髪をオグウェノはスパーンと軽く叩いた。
思わぬ衝撃にルドが驚いて顔を上げる。すると、目前に真っ直ぐ睨んでいるオグウェノがいた。
「お前、バカか?」
「え?」
「月姫がそのことを知らないと思っているのか? そんなことぐらい想像つくし、知ってるに決まってるだろ」
「え?」
「魔法騎士団にいて、エースなんて呼ばれているのに、戦果がゼロなわけないだろ。まさか、月姫がそんなことも考えられない程、世間知らずだと思っているのか?」
確かに、記憶を失う前のクリスは、いろいろ世間知らずのところもあったが……
「いえ……そこまで世間知らずではない……と、思います」
唖然としているルドの頭をオグウェノが殴る。
「それでも、お前を選んでるんだよ! いい加減に気づけ!」
殴られた姿勢のままルドが固まる。そこにオグウェノが畳みかけた。
「なんだかんだ言って、お前が一番月姫を蔑ろにしているんだよ!」
「自分が……一番、師匠を……」
俯いたまま動かないルドを眺めながら、オグウェノが近くにある酒をグラスに注ぐ。
「もし、お前より先にオレが月姫に会っていたら……いや、それでも今と変わらないかもな」
オグウェノがゆっくりとグラスに口をつける。甘めの酒なのだが何故かいつもより苦い。虚しく吹き抜ける風を振り払うようにオグウェノは立ち上がった。
「よし! 一発殴らせろ!」
「は? え? なぜ!?」
オグウェノが両手を組んでボキボキと関節を鳴らす。その姿にルドは本気を感じ取って腰を浮かした。
「ま、待ってください。なぜ殴られないといけないのですか?」
ルドの質問にオグウェノが良い笑顔で答える。
「踏ん切りがつかないようだから、気合いを入れてやろうと思ってな」
「別に気合いを入れなくていいです!」
「細かいことは気にするな」
「細かくないです!」
ルドが逃げるようにズルズルと後ろに下がる。
「あ、あと、オレは月姫のことは諦めてないからな。隙があったら奪うぞ」
「そこは諦めてください」
ルドが爽やかな好青年、もといイケメンの顔でバッサリと切る。
そんなルドの即答にオグウェノがニヤリと口角を上げた。背景に大輪の薔薇が似合う、艶やかな色男の笑み。
「よく言った。歯くいしばれ」
「遠慮します!」
ルドの叫びも虚しくオグウェノが顔面へ全力で拳を振り抜いた。が、ルドが紙一重で避ける。そこで足元がよろけたオグウェノは体勢を立て直しながら不満そうに言った。
「避けるなよ」
「避けますよ!」
「いいから、とりあえず殴られとけ」
「とりあえずで殴られたくありません!」
言葉の応酬に拳の応酬が加わる。
オグウェノが黒髪を揺らし、汗を振り撒く。美の造形物のごとく、鍛え上げられた筋肉から繰り出される拳。当たればかなりのダメージだ。
そのため、ルドは必死に攻撃を避けた。着痩せしているが、筋肉はしっかりあり、動きは素早い。濡れた赤髪からは雫が弾け飛ぶ。
「ちょっ、もう、呑みすぎです! ここらでお開きにしましょう!」
「まだまだ! 夜はこれからだ!」
オグウェノからの攻撃をルドが受け流す。しかし、先ほどガッツリ呑んだ酒が効いており、体がふらつく。それはオグウェノも同じで足元がおぼつかない。
お互いにフラフラと攻撃とも防御ともつかない動きをしながら体にダメージを増やしていく。
二人の殴りあいについて、活き活きしているオグウェノの表情から影の護衛はそっと目を閉じた。
こうして、見目麗しく、目の保養にも、観賞用にもなる男二人のサシ呑みは、酔っぱらいの殴りあいとなり、夜は更けた。
ルドが怒鳴りながら泉から顔を出す。酒で目元が赤くなったオグウェノが不満気に顔をしかめる。
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「してません!」
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「あぁ!? お前、月姫があそこまで態度に出しているのに、知らぬ存ぜぬで通すつもりじゃねぇだろうな!?」
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あからさまにルドの勢いが落ちる。
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「え……」
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「あれはな! 月姫の本当の気持ちなんだよ! ずっと出来なかったことが、記憶をなくしたからこそ、できているんだ!」
「いや、でも……なんで……なんで、あなたにそんなことが分かるのですか!?」
「ずっと見ていたら、嫌でも気づくんだよ!」
オグウェノがルドを突き飛ばした。
「ずっと……?」
呆けているルドを無視してオグウェノが床に座る。そして、瓶を無造作に掴むと、酒を直接瓶から呑んだ。
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オグウェノが酒を煽るように呑む。
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ルドがオグウェノの向かい側に腰を下ろす。
「そしたらな。やっぱり、ただの女の子だったんだよ」
「え?」
オグウェノは視線を空に向けた。嘲笑うような口の形をした月がこちらを見下ろす。
忌々しくなったオグウェノは星空だけを写している泉を見た。
「月姫はなぁ。故郷を失くして、それでも自分が出来ることをしている、ただの頑張り屋な女の子だったんだよ」
「それは……」
「知識は武器になる。だから、あらゆることを学び、その中で治療師という道を選び、今に至っているわけだ」
「そこまで師匠のことを……」
「そうだよ。お前よりオレのほうが、ずっと見てるんだよ。なのに、なのに……」
オグウェノが瓶に残った酒をイッキ飲みする。
「なんで、お前なんだよ! いつまでもグジグジで、こんな鈍いのに、魔力と顔だけが良くて、魔法騎士団のエースなんて呼ばれているだけのヤローなんて!」
何気に褒められているがルドは沈んだ。
「そうですよね……自分なんかより、あなたのほうが、よく師匠のことを見ているし、理解している……自分なんかより、よっぽどか……」
オグウェノが空になった酒瓶を床に叩きつける。
「そういうところだ! そういうところがムカつくんだよ! 悲壮感漂わせるぐらいなら改善しろよ! 自己陶酔してるぐらいなら、月姫のことを考えろ!」
「ですから! そういうつもりはありません!」
「なら、さっさと月姫の気持ちに応えろよ! それとも他にいい女でもいるのか!?」
「いません! そもそも師匠を、そのように見たこともありません!」
「なら、すぐ見ろ! 今見ろ! で、どうなんだ!? 考えられるのか!?」
ルドが顔を真っ赤にして否定する。
「そ、そんなすぐに考えられるものでは、ありません! そもそも、自分は師匠に相応しくありません!」
「はあ!? なんで相応しくないんだ!?」
ルドは視線を落とし目の前にある白色の酒が入った瓶をひっつかんだ。それから、そのまま一気飲みをする。あっという間に空となった瓶をルドが床に置いた。
突然の行動にオグウェノがおずおずと声をかける。
「お、おい? 大丈夫か?」
ルドは手の甲で豪快に口元を拭くと、正面からオグウェノを見据えた。
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ルドが自分の両手を見る。
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「え?」
「月姫がそのことを知らないと思っているのか? そんなことぐらい想像つくし、知ってるに決まってるだろ」
「え?」
「魔法騎士団にいて、エースなんて呼ばれているのに、戦果がゼロなわけないだろ。まさか、月姫がそんなことも考えられない程、世間知らずだと思っているのか?」
確かに、記憶を失う前のクリスは、いろいろ世間知らずのところもあったが……
「いえ……そこまで世間知らずではない……と、思います」
唖然としているルドの頭をオグウェノが殴る。
「それでも、お前を選んでるんだよ! いい加減に気づけ!」
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「なんだかんだ言って、お前が一番月姫を蔑ろにしているんだよ!」
「自分が……一番、師匠を……」
俯いたまま動かないルドを眺めながら、オグウェノが近くにある酒をグラスに注ぐ。
「もし、お前より先にオレが月姫に会っていたら……いや、それでも今と変わらないかもな」
オグウェノがゆっくりとグラスに口をつける。甘めの酒なのだが何故かいつもより苦い。虚しく吹き抜ける風を振り払うようにオグウェノは立ち上がった。
「よし! 一発殴らせろ!」
「は? え? なぜ!?」
オグウェノが両手を組んでボキボキと関節を鳴らす。その姿にルドは本気を感じ取って腰を浮かした。
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「別に気合いを入れなくていいです!」
「細かいことは気にするな」
「細かくないです!」
ルドが逃げるようにズルズルと後ろに下がる。
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「避けますよ!」
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「ちょっ、もう、呑みすぎです! ここらでお開きにしましょう!」
「まだまだ! 夜はこれからだ!」
オグウェノからの攻撃をルドが受け流す。しかし、先ほどガッツリ呑んだ酒が効いており、体がふらつく。それはオグウェノも同じで足元がおぼつかない。
お互いにフラフラと攻撃とも防御ともつかない動きをしながら体にダメージを増やしていく。
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