【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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振り返りからの進展

それは、解決への糸口でした

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 交易の分岐点である街は人々で賑わっていた。
 クリスはオグウェノたちを連れて人混みを抜け、街には入らずに小高い丘を登る。
 その途中でオグウェノがクリスに声をかけた。

「どこへ行くんだ?」
「滝が見える場所に行っている」
「これは正規の道ではないだろ」

 獣道を突き進んでいたクリスが足を止めて振り返る。

「そうなのか?」
「あぁ。舗装されて歩きやすい道があるぞ」
「いや、この道でいい」

 クリスが前を向いて再び歩きだす。空気が潤い、草花が増えていく。クリスは足元の草花を踏まないように丘を登っていった。

「昔、先代の領主に連れられて世界を旅していた時、ここに来たことがある。その時は、この道を通った」

 あの頃は何も知らず、ただ言われるままカイの後ろを付いて歩いていた。

 水しぶきが全身を濡らす。クリスが顔をあげると、目前に白滝があった。
 息を整えてていると、背後でオグウェノが呟いた。

「相変わらず雄大だな」

 平然と滝を見上げるオグウェノとイディ。息が上がっているクリスに対して、二人に疲れた様子はない。

「来たことがあるのか?」
「あぁ。近くに別荘があると言っただろ? 休養で来ることがある。だが、この場所は知らなかった。展望台より近くで滝を見ることができるんだな」
「そうなのか?」
「あぁ。展望台だと、ここよりもう少し離れた高い場所になる。ほら、あそこだ」

 オグウェノが指さした方向を見上げる。すると、ここよりも高い丘に集まっている人々がいた。

「それで、ここには人がいないのか」
「いい穴場だな」
「そうか?」

 クリスが足元に気を付けながら歩く。滝壺から湿った風が巻き上がり、体が揺れる。
 隣にオグウェノが来た。

「気を付けろ。滝壺は下手に落ちたら上がってこられず、溺れ死ぬこともあるからな」
「あぁ」

 クリスが返事をしながら顔をあげる。
 目の前にいるのはオグウェノのはずなのに、赤髪が揺れる光景が見えた。心にぽっかりと穴が開いたような、半身が抜け落ちたような、不思議な喪失感がクリスを襲う。

 いつからルドが隣にいるのが、当たり前になっていたのだろう。なぜ、今ここにいないのだろう……

「月姫?」

 オグウェノの声でクリスの意識が戻る。

「なんだ?」
「いや、ボーとしていたから。大丈夫か? 疲れたか?」
「大丈夫だ。行こう」

 クリスは自分の気持ちを置き去るように、さっさと丘を降りる。
 それから、前回宿泊した宿屋を覗いた。昼時ということもあり、食堂が賑わっている。クリスたちも店内に入り、昼食を注文した。

「ここでも変わったことは思い当たらないな」
「赤狼と来た時は、ここに泊まったのか?」

 クリスの顔が一瞬で真っ赤になる。あの時の温もりが、腕に包まれた感触が、匂いが、一気に溢れだす。

「わ、わ、わわわ、わ、私はなにも覚えてない!」
「ふぅーん」

 オグウェノがテーブルに肘をつき、手に顎をのせてニヤリとする。
 そこに中年女性が食事を運んできた。

「はい、おまち。あ、また来てくれ……えっ!?」

 中年の女性がクリスの顔を確認した後、驚いた顔でオグウェノとイディを見る。そして、クリスに詰め寄った。

「この前の赤髪のイケメン兄ちゃんはどうしたんだい!?」

 食い気味で質問をしてきた中年女性にクリスが平然と答える。

「誰かと間違えていないか? あなたとは初対面だが?」
「何を言ってるんだい!? この前、船で一緒だった私だよ? この宿にも泊まっただろ?」
「あぁ、妹と間違えているのか」

 クリスの答えに中年女性がキョトンとした顔になる。

「妹?」
「双子の妹がいるのだが、よく間違えられて困っている」
「……あぁ。そういえば髪の色が違うね。そうか。双子だったのかい。よく見れば、男もんの服を着てるじゃないか。間違えて悪かったね。妹さんは元気かい?」
「あぁ。この宿で、とてもよくしてもらったと聞いている」
「元気なら良かったよ。またおいで、と伝えといておくれ」
「わかった」

 中年女性が笑顔で下がる。オグウェノが訳知り顔で頷いた。

「以前、赤狼と来た時に会った人に声をかけられても、別人と言い訳するための変装か」

 クリスが食事を食べ始める。

「あの滝の変な噂のせいだ」

 二人で夕日を見たら一生添い遂げることが出来る。そんな場所に、別の男二人を連れてきたとなると、どんな噂をされるか分からない。ただでさえ目立ちたくないのに、悪目立ちすることは間違いない。

 オグウェノがクリスに流し目を向ける。

「ここで共に夕日を見るか?」
「そんな時間はない」

 クリスが微塵も考慮することなく却下した。オグウェノが思わず苦笑いをする。

「まったく手強いな」

 呟きは誰にも拾われることなく零れ落ちた。



 昼過ぎに街を出発したクリス達は、夕方には王城に戻った。

 翌日からも、クリスは記憶の中にある光景を思い出し、ルドの痕跡を追った。しかし、ルドが変貌する原因は見つからなかった。

「これで全部か……」

 香が売られている店の前で、クリスが空を見上げる。いつもと同じ雲一つない快晴だ。
 そこで、オグウェノがふと思い出した。

「そういえば、あいつ一人だけで行った場所があったな」
「いつのことだ!?」
「この店にいた時、砂嵐がきただろ? その時だ」
「どこに行った?」
「こっちだ」

 オグウェノが王都を囲む防壁まで案内する。クリスは、そこにあった物を見て絶句した。

「なんだ、コレは?」

 街を守るために高く作られた防壁を軽々と超えた、大木より太く黒いモノが空を貫くように立っている。
 オグウェノが胸の前で腕を組んで説明をした。

「巨大な竜巻が街に接近していたんだが、赤狼がこれを出して竜巻を消したそうだ」
「……そもそもコレはなんだ?」
「わからん」
「だが、魔法で出したんだよな?」
「たぶん」
「たぶん? おまえは一緒にいなかったのか?」

 オグウェノがバツの悪そうな顔になる。

「その前に魔力を使い切って意識が飛んでいたから、直接は見てないんだ」
「目撃者は?」
「少し離れたところにいた兵が見ていたらしい。その話だと、宙に飛んだ赤狼が両手を向けたら、地面から真っ赤な柱が現れて竜巻を消した。と、いうことだった」
「巨大な竜巻を消すほどの真っ赤な柱? そんな魔法あったか?」

 クリスの問いに、オグウェノが顔を歪めながら同意する。

「そこだ。そんな魔法は思い当たらない。ムワイも知らなかった。と、いうかこの話を聞いた後、ここを一通り調べてから研究室に籠っちまった」
「……これを再現するつもりか?」
「だろうな」
「はぁ……」

 クリスは頭を抱えた。
 いくらルドの魔力が大きくても、巨大な竜巻を一瞬で消すほどの魔法が使えるとは思えない。いや、使ったからこそ、あれだけの魔力切れを起こしたのだろう。しかも、着地を考えていなかったから、竜巻で壊れた瓦礫の上に落ちて全身に大怪我を負った。

「とりあえず、犬が大怪我を負った経緯は想像がついた。だが、どこでこんな魔法を知っ……まてよ」
「心当たりがあるのか?」

 クリスがオグウェノに迫る。

「王城に通信機はあるか!?」
「もちろんあるぞ」
「貸してくれ!」

 クリスが王城に向かって走り出す。

「どうした!? 城に戻るなら馬車を使ったほうが早いぞ!」

 オグウェノは慌ててクリスを追いかけた。





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