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混乱とクリスの答え
それは、幸せのかたちでした
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昼食の後。クリスはカイとともに議会がある建物へ移動した。ルドも一緒に行こうとしたが、クリスが報告をするだけだ、と強引に置いてきた。
四角い建物に入り、会議室に移動する。大きな丸いテーブルには金髪緑目の女性陣が座っていた。
カイが手を上げて軽く声をかける。
「待たせたか?」
「いえ。そんなに待ってはおりません。それより長旅でお疲れのところを、ありがとうございます」
五十代ぐらいの女性が二人を迎える。
「久しぶりだな、エーヴァ」
「お久しぶりです。こちらへどうぞ」
案内された席にカイとクリスが座る。
「今回のことについて説明を願いたいのですが、よろしいですか?」
「あぁ」
クリスが経緯を説明していく。全員が最後まで黙って聞いていた。
「これが今回の顛末だ」
エーヴァが静かに頷く。
「それで突然、神の加護が必要な魔法がすべて使えなくなったのですね。もともと私たちには神の加護はないので、あまり関係ありませんが」
「あぁ。だが、これから世界は混乱する」
「そうですね」
「そこでシェットランド領はどう動くか、決めてほしい」
クリスの言葉にエーヴァが他の人達を見ると、全員が決めていたように頷いた。
エーヴァが代表して口を開く。
「今回の件に関しては、クリスティ。すべてあなたに任せます」
「え?」
「たぶん議会で議論する時間などなく、事態は次々と変化していくでしょう。ならば、現場にいるあなたに一任するのが最善だと思います。そのための領主ですし」
「だが……」
エーヴァが金色の髪を揺らして微笑む。
「大丈夫。風は今、あなたに吹いています。私たち一族を長年の呪縛から解放したあなたなら、きっと良い方向へ導くことができるでしょう」
「呪縛……」
「神と悪魔からの関与がなくなった今、私たちは〝神に棄てられた一族〟ではない。解放されたのです」
「いや、私はそんなつもりはなく……」
戸惑うクリスの肩をカイが叩いた。
「そんな大事にとらえるな。今、一番風に乗っているのはクリスティだ。そのまま流れに乗ればいい」
「いや。それが、よく分からなくてだな……」
「気にするな」
「大事なところだろ!」
「よし。じゃあ行くか」
「おい、待て!」
カイがクリスを引っ張って会議室から出て行く。
エーヴァが残った人たち全員を見回した。
「ここでの話を口外することは禁止します。議事録も残さないでください。録音はありますか?」
「はい。録音してあります」
手をあげたマーリアにエーヴァが頷く。
「では、そのデータは誰もアクセスできないところで保管してください。もし、このことが知られたら、世界を変えた者としてクリスティが攻撃対象になります」
「もしくは、この世界を変えた者として象徴的な存在となり、利用される可能性があります」
マーリアの意見にエーヴァが微笑む。
「簡単には利用されないでしょうけどね。ただ、命を狙われることに変わりはありません」
「そうなった時は私たちが全力で守ります」
「はい」
全員が力強く頷いた。
※※
家に戻ったカイがクリスに話す。
「今日は泊まって、明日の朝オークニーへ戻れ」
「……そうだな。もしかしたら、帝都に行くようになるかもしれないしな。休める時に休んでおこう」
「そういうことだ」
「では、ちょっと休む。セスナとはいえ長距離の移動は疲れた」
「そうだな。夕食ができたら呼ぶ」
自室に戻ったクリスはベッドに倒れると、そのまま眠った。
クリスが起きた時、外は暗かった。本来、この時期は太陽がなかなか沈まず、夜でも空は白く明るい。だが、元空中庭園であるこの街は円形のドームで覆われており、時間に合わせてドームを暗くして夜を作っていた。
「夜か……かなり寝てしまったな」
クリスが体を起こし、ベッドサイドのテーブルを見る。そこにはメモ紙があり、ミレナの字で伝言が書かれていた。
「……食事は食堂に準備してあるから起きたら食べろ、か。気を使わせてしまったな」
食事より休むことを優先させたミレナの心使いにクリスの心が緩む。家に帰ってきたんだと実感してしまう。
クリスが食堂に移動すると、二人分の食事があった。
「他にも食べてないやつが? もしかして、犬か?」
勉強熱心なルドのこと。食事を忘れ、図書室で気になる本を読み漁っているかもしれない。
クリスは仕方なく図書室へ足を向けた。
「やっぱりいたか」
予想通り図書室に明かりが付いている。中に入ると、机に大量の本を並べて眠るルドの姿があった。
「おい、おき……」
クリスがルドを起こそうとして、並んだ本に気を取られて手が止まる。
「これは……遺伝子の本? こっちは複製についての本か?」
クリスは背後に気配を感じて振り返った。そこにはカイが立っており、黙ってついてこい、と手で誘導する。
クリスは足音を消して図書室の入り口まで移動した。
「すごいだろ? 食事は後でいいって、ずっとここで本を読んでさ。苦手なセスナでの移動で相当疲れているのにな。すごい体力というより、あれはもう執念だな」
「どうして、そこまで……」
「それが愛だろ」
「!?」
顔を真っ赤にするクリスにカイが諭すように訊ねる。
「なあ、クリスティ。どうして、そこまで番犬を拒否するんだ?」
「べ、別に拒否しているわけでは……」
「けど、告白を断ったんだろ?」
クリスの顔が一瞬で青くなる。
「な、なんでそれを知っ!?」
「カマかけたが、当たりか」
「っ!」
クリスが歯を食いしばり、殺さんばかりに睨む。その形相にカイが両手を挙げた。
「落ち着け、落ち着け。騙したのは悪かった。だがクリスティは番犬が嫌いなわけじゃないだろ?」
「知らん」
拗ねたクリスが顔を背ける。カイは苦笑いをしながら話を続けた。
「クリスティ。おまえは幸せになったらいけないってことはないんだぞ。それに、おまえのことだ。これからも、難儀な道を選んでいくんだろ? それなら、たまには幸せな方を選んでもいいと思うぞ?」
「……私の道に巻き込みたくない。あいつには……あいつの幸せを選んでほしい」
「番犬の幸せ?」
「そうだ。あいつには私より可愛らしい……」
「クリスティ」
カイが無理やりクリスの言葉を切る。
「あのな、クリスティ。人の幸せっていうのに決まった形はないと思うぞ? 一番大切なのは、本人が幸せだと思うことだ。人が決めた形に合わせたからって、幸せになれるとは限らない」
「いや、だが……」
ごねるクリスにカイが問いかける。
「なら、おまえは第三皇子と結婚したら幸せになれるか?」
「セルティと? ないな。むしろ息苦しくなる」
「だろ? だが、世間一般ではその結婚が幸せになるって言われているぞ? 皇子との結婚を夢みる女は多い」
クリスがポカンとした顔になる。
「……確かに、そう言われている、な。だが、それはセルティのことを知らないからだろ」
「そうだな。だが、おまえが言っていることも同じことだぞ。事実を知らないまま勝手に理想を作って、押し付けている」
「いや、それは……」
「それにな。逆にここまできたら、番犬を幸せにできるのは、おまえしかいないぞ」
「なぜだ?」
「クリスティ」
カイがクリスの肩に手をのせる。
「いい加減、腹くくれ」
「なぜ、そうなる!?」
「腹をくくってくれるのですか?」
クリスが顔を上げると、隣に赤い髪が垂れていた。
「お、おま!? いつ、そこに!?」
「師匠が自分を幸せにしてくれるとか、なんとか?」
「そんなことは話してない!」
クリスが怒ったように図書室から出ていく。その後ろ姿にカイが肩をすくめた。
「誰に似たのか、頑固だな」
「そういうところも可愛いですよ」
「惚気か?」
「事実です」
「はい、はい。ごちそうさま」
カイが呆れていると荒々しくドアが開いた。クリスがズンズンとルドの前まで迫る。
「どうされました?」
「ここに置いていたら、ないことないこと言いそうだからな。来い!」
クリスがルドの腕を引っ張る。
「どこに行くのですか?」
「食堂だ。夕食がまだだろ?」
「あ、そういえば、まだ食べてないです」
「ほら、行くぞ」
クリスに引っ張られて移動していくルドをカイは手を振って見送った。
四角い建物に入り、会議室に移動する。大きな丸いテーブルには金髪緑目の女性陣が座っていた。
カイが手を上げて軽く声をかける。
「待たせたか?」
「いえ。そんなに待ってはおりません。それより長旅でお疲れのところを、ありがとうございます」
五十代ぐらいの女性が二人を迎える。
「久しぶりだな、エーヴァ」
「お久しぶりです。こちらへどうぞ」
案内された席にカイとクリスが座る。
「今回のことについて説明を願いたいのですが、よろしいですか?」
「あぁ」
クリスが経緯を説明していく。全員が最後まで黙って聞いていた。
「これが今回の顛末だ」
エーヴァが静かに頷く。
「それで突然、神の加護が必要な魔法がすべて使えなくなったのですね。もともと私たちには神の加護はないので、あまり関係ありませんが」
「あぁ。だが、これから世界は混乱する」
「そうですね」
「そこでシェットランド領はどう動くか、決めてほしい」
クリスの言葉にエーヴァが他の人達を見ると、全員が決めていたように頷いた。
エーヴァが代表して口を開く。
「今回の件に関しては、クリスティ。すべてあなたに任せます」
「え?」
「たぶん議会で議論する時間などなく、事態は次々と変化していくでしょう。ならば、現場にいるあなたに一任するのが最善だと思います。そのための領主ですし」
「だが……」
エーヴァが金色の髪を揺らして微笑む。
「大丈夫。風は今、あなたに吹いています。私たち一族を長年の呪縛から解放したあなたなら、きっと良い方向へ導くことができるでしょう」
「呪縛……」
「神と悪魔からの関与がなくなった今、私たちは〝神に棄てられた一族〟ではない。解放されたのです」
「いや、私はそんなつもりはなく……」
戸惑うクリスの肩をカイが叩いた。
「そんな大事にとらえるな。今、一番風に乗っているのはクリスティだ。そのまま流れに乗ればいい」
「いや。それが、よく分からなくてだな……」
「気にするな」
「大事なところだろ!」
「よし。じゃあ行くか」
「おい、待て!」
カイがクリスを引っ張って会議室から出て行く。
エーヴァが残った人たち全員を見回した。
「ここでの話を口外することは禁止します。議事録も残さないでください。録音はありますか?」
「はい。録音してあります」
手をあげたマーリアにエーヴァが頷く。
「では、そのデータは誰もアクセスできないところで保管してください。もし、このことが知られたら、世界を変えた者としてクリスティが攻撃対象になります」
「もしくは、この世界を変えた者として象徴的な存在となり、利用される可能性があります」
マーリアの意見にエーヴァが微笑む。
「簡単には利用されないでしょうけどね。ただ、命を狙われることに変わりはありません」
「そうなった時は私たちが全力で守ります」
「はい」
全員が力強く頷いた。
※※
家に戻ったカイがクリスに話す。
「今日は泊まって、明日の朝オークニーへ戻れ」
「……そうだな。もしかしたら、帝都に行くようになるかもしれないしな。休める時に休んでおこう」
「そういうことだ」
「では、ちょっと休む。セスナとはいえ長距離の移動は疲れた」
「そうだな。夕食ができたら呼ぶ」
自室に戻ったクリスはベッドに倒れると、そのまま眠った。
クリスが起きた時、外は暗かった。本来、この時期は太陽がなかなか沈まず、夜でも空は白く明るい。だが、元空中庭園であるこの街は円形のドームで覆われており、時間に合わせてドームを暗くして夜を作っていた。
「夜か……かなり寝てしまったな」
クリスが体を起こし、ベッドサイドのテーブルを見る。そこにはメモ紙があり、ミレナの字で伝言が書かれていた。
「……食事は食堂に準備してあるから起きたら食べろ、か。気を使わせてしまったな」
食事より休むことを優先させたミレナの心使いにクリスの心が緩む。家に帰ってきたんだと実感してしまう。
クリスが食堂に移動すると、二人分の食事があった。
「他にも食べてないやつが? もしかして、犬か?」
勉強熱心なルドのこと。食事を忘れ、図書室で気になる本を読み漁っているかもしれない。
クリスは仕方なく図書室へ足を向けた。
「やっぱりいたか」
予想通り図書室に明かりが付いている。中に入ると、机に大量の本を並べて眠るルドの姿があった。
「おい、おき……」
クリスがルドを起こそうとして、並んだ本に気を取られて手が止まる。
「これは……遺伝子の本? こっちは複製についての本か?」
クリスは背後に気配を感じて振り返った。そこにはカイが立っており、黙ってついてこい、と手で誘導する。
クリスは足音を消して図書室の入り口まで移動した。
「すごいだろ? 食事は後でいいって、ずっとここで本を読んでさ。苦手なセスナでの移動で相当疲れているのにな。すごい体力というより、あれはもう執念だな」
「どうして、そこまで……」
「それが愛だろ」
「!?」
顔を真っ赤にするクリスにカイが諭すように訊ねる。
「なあ、クリスティ。どうして、そこまで番犬を拒否するんだ?」
「べ、別に拒否しているわけでは……」
「けど、告白を断ったんだろ?」
クリスの顔が一瞬で青くなる。
「な、なんでそれを知っ!?」
「カマかけたが、当たりか」
「っ!」
クリスが歯を食いしばり、殺さんばかりに睨む。その形相にカイが両手を挙げた。
「落ち着け、落ち着け。騙したのは悪かった。だがクリスティは番犬が嫌いなわけじゃないだろ?」
「知らん」
拗ねたクリスが顔を背ける。カイは苦笑いをしながら話を続けた。
「クリスティ。おまえは幸せになったらいけないってことはないんだぞ。それに、おまえのことだ。これからも、難儀な道を選んでいくんだろ? それなら、たまには幸せな方を選んでもいいと思うぞ?」
「……私の道に巻き込みたくない。あいつには……あいつの幸せを選んでほしい」
「番犬の幸せ?」
「そうだ。あいつには私より可愛らしい……」
「クリスティ」
カイが無理やりクリスの言葉を切る。
「あのな、クリスティ。人の幸せっていうのに決まった形はないと思うぞ? 一番大切なのは、本人が幸せだと思うことだ。人が決めた形に合わせたからって、幸せになれるとは限らない」
「いや、だが……」
ごねるクリスにカイが問いかける。
「なら、おまえは第三皇子と結婚したら幸せになれるか?」
「セルティと? ないな。むしろ息苦しくなる」
「だろ? だが、世間一般ではその結婚が幸せになるって言われているぞ? 皇子との結婚を夢みる女は多い」
クリスがポカンとした顔になる。
「……確かに、そう言われている、な。だが、それはセルティのことを知らないからだろ」
「そうだな。だが、おまえが言っていることも同じことだぞ。事実を知らないまま勝手に理想を作って、押し付けている」
「いや、それは……」
「それにな。逆にここまできたら、番犬を幸せにできるのは、おまえしかいないぞ」
「なぜだ?」
「クリスティ」
カイがクリスの肩に手をのせる。
「いい加減、腹くくれ」
「なぜ、そうなる!?」
「腹をくくってくれるのですか?」
クリスが顔を上げると、隣に赤い髪が垂れていた。
「お、おま!? いつ、そこに!?」
「師匠が自分を幸せにしてくれるとか、なんとか?」
「そんなことは話してない!」
クリスが怒ったように図書室から出ていく。その後ろ姿にカイが肩をすくめた。
「誰に似たのか、頑固だな」
「そういうところも可愛いですよ」
「惚気か?」
「事実です」
「はい、はい。ごちそうさま」
カイが呆れていると荒々しくドアが開いた。クリスがズンズンとルドの前まで迫る。
「どうされました?」
「ここに置いていたら、ないことないこと言いそうだからな。来い!」
クリスがルドの腕を引っ張る。
「どこに行くのですか?」
「食堂だ。夕食がまだだろ?」
「あ、そういえば、まだ食べてないです」
「ほら、行くぞ」
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