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後日談
デート後編(クリスの場合)
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クリスは横向きで馬に乗っていた。その隣にはルドがクリスを抱き込むように馬に跨っている。
馬車とは違う振動。振り落とされないために、クリスは自然とルドにしがみつく。服越しでも分かる、しっかりとした筋肉。直接、耳に伝わる心臓の音。
クリスの中で嬉しさと恥ずかしさがせめぎ合う。
(こんな状態が続いたら身が持たん)
馬が帝都の裏にある山を登る。クリスは自身の限界を感じながら訊ねた。
「どこまで行くんだ?」
「もう着きます」
生い茂った木々を抜けた先に、木がまばらに生えた小さな丘が現れた。馬から降りたクリスが眼下に広がる絶景に驚く。
「すごいな」
「よく見えるでしょう?」
ルドが相槌を打ちながら馬の手綱を木に結びつける。
「そうだな」
そこからは帝都が一望できた。周囲の建物より一際高くそびえる帝城。そこを中心に大通りが放射線状に伸びる。大通りからはクモの巣のように細い通りが広がり、その間に家や広場がある。
「あ、あそこに屋敷が見えるぞ」
「はい」
「こうして他の屋敷と比べると大きい方なんだな」
どことなく楽しそうなクリスにルドの頬が緩む。
「オークニーにある師匠の屋敷に比べれば小さいですけどね。帝都は土地が限られているので、あまり大きな屋敷はありません」
「住んでる人数も違うしな。おまえの屋敷は必要最低限の人数だが、私の屋敷は人が多い」
クリスがオークニーを思い出す。
屋敷に住んでいる者は全員、訳ありの奴隷だった。ほとんどはクリスが自ら拾い上げ、必要な者には治療をした。その結果、一部の者は屋敷の使用人となり、それ以外はシェットランド領へ移住。
(元気にしているのだろうか)
クリスの心境を察したのかルドが声をかける。
「みんな待っていますから、早く帰りましょう」
「まだまだ、かかりそうだがな。これから、女騎士団が本格的に発足する。エルネスタ殿が実技指導の担当になるが、それのフォローもしないといけなくなる」
ルドが生気の抜けた目で遠くを見た。
「そうですか。母上が指導者に…………ですが、いつか、きっと、落ち着く日が……たぶん、きます。そうしたら、数日ほど休みをとって帰りましょう」
「そうだな。数日ぐらいなら……先は長いな」
今でも一日休みを取るだけで、これだけ苦労している。それが増々忙しくなる上に、数日の休みとなると……考えるだけで気が遠くなる。
ルドも同じことを考えたようで、苦笑いを浮かべながら話題を変えた。
「遅くなりましたが、昼食にしましょう」
「あぁ」
ルドが収納袋から昼食が入ったバケットを取り出す。シートを敷き、昼食を並べた。
パンに具材を挟んだものと紅茶。あとはデザートの焼き菓子と果物。
「本当にピクニックだな」
「こういうのも、たまにはいいと思いまして」
「シェットランド領を思い出すな。夏の天気がいい日はミレナが焼いたパイを外で食べた」
「ミレナ殿が焼いたパイは美味しいですからね」
クリスがシートに腰を下ろす。
「あぁ。落ち着いたらシェットランド領にも顔を出さないとな」
「そうですね」
二人は帝都を眺めながら昼食をとった。
満腹になった二人は寝っ転がって空を眺めた。日差しは強いが、木陰にいるため風が吹くと涼しい。葉の隙間を白い雲が流れる。
「こんな贅沢な時間の使い方は久しぶりだな」
「師匠は少しでも時間があると、本を読むか、研究をするか、でしたから」
「ずっと、そんな日々が続くと思っていたんだがな」
「予想外なことばかりでしたね」
「そうだな」
クリスが自分の髪を摘まみ上げる。金髪がキラキラと太陽の陽を弾く。
「髪の色も変えず、男装もせず、こうして外を歩く日が来るとは思わなかった」
「それはいいのですが、自分はちょっと心配です」
「なにが心配だ?」
ルドが体を起こしてクリスを覗き込む。
「師匠は可愛いですから、変な虫が寄ってこないか心配です」
「かわっ!? だから、私は可愛くないし! そういうことは言うな!」
顔が真っ赤になったクリスは逃げようとしたが、すぐルドが覆いかぶさって逃げ道を塞いだ。
琥珀の瞳が怖いほど真剣に見つめてくる。
「そういうところですよ」
「いや、だから……」
無言の圧力にクリスの声が止まった。
強い風が駆け抜け、髪が巻き上げられる。思わず目を細めたところで唇になにかが触れた。
「ぇ?」
目前には顔を真っ赤にしたルド。
「え? えぇ?」
クリスがパニックになっていると、ルドが立ち上がった。
「暗くなる前に帰りましょう」
「いや、待て! おまえ、いま何をした!?」
クリスが追いかけると、ルドが恥ずかしそうに睨みながら振り返った。ヤケ気味にクリスに近づく。右手でクリスの顎を上げながら親指を唇に添えた。
「もう一回、しましょうか?」
その言葉にクリスは心臓が止まるかと思った。でも、嫌ではない。むしろ……
「……いいぞ」
琥珀の瞳が丸くなる。
「……本当に、いいのですか?」
クリスは答える代わりに目を閉じた。一拍置いて、そっと影が落ちる。
先ほどの触れたか触れないか分からないのとは違う。唇にしっかりとお互いのぬくもりを感じる。
ルドが離れ、クリスは目を開けた。恥ずかしさから逃げるようにクリスがルドの胸に顔を埋める。
そのままルドがクリスを抱きしめた。
「絶対、次の休養日も帰ってきますから!」
「いや、さすがに二回連続は無理だろ」
「頑張ります! いや、このご褒美があるなら、頑張れます!」
「これは、ご褒美ではない!」
クリスの叫びが静かな丘に響いた。
馬車とは違う振動。振り落とされないために、クリスは自然とルドにしがみつく。服越しでも分かる、しっかりとした筋肉。直接、耳に伝わる心臓の音。
クリスの中で嬉しさと恥ずかしさがせめぎ合う。
(こんな状態が続いたら身が持たん)
馬が帝都の裏にある山を登る。クリスは自身の限界を感じながら訊ねた。
「どこまで行くんだ?」
「もう着きます」
生い茂った木々を抜けた先に、木がまばらに生えた小さな丘が現れた。馬から降りたクリスが眼下に広がる絶景に驚く。
「すごいな」
「よく見えるでしょう?」
ルドが相槌を打ちながら馬の手綱を木に結びつける。
「そうだな」
そこからは帝都が一望できた。周囲の建物より一際高くそびえる帝城。そこを中心に大通りが放射線状に伸びる。大通りからはクモの巣のように細い通りが広がり、その間に家や広場がある。
「あ、あそこに屋敷が見えるぞ」
「はい」
「こうして他の屋敷と比べると大きい方なんだな」
どことなく楽しそうなクリスにルドの頬が緩む。
「オークニーにある師匠の屋敷に比べれば小さいですけどね。帝都は土地が限られているので、あまり大きな屋敷はありません」
「住んでる人数も違うしな。おまえの屋敷は必要最低限の人数だが、私の屋敷は人が多い」
クリスがオークニーを思い出す。
屋敷に住んでいる者は全員、訳ありの奴隷だった。ほとんどはクリスが自ら拾い上げ、必要な者には治療をした。その結果、一部の者は屋敷の使用人となり、それ以外はシェットランド領へ移住。
(元気にしているのだろうか)
クリスの心境を察したのかルドが声をかける。
「みんな待っていますから、早く帰りましょう」
「まだまだ、かかりそうだがな。これから、女騎士団が本格的に発足する。エルネスタ殿が実技指導の担当になるが、それのフォローもしないといけなくなる」
ルドが生気の抜けた目で遠くを見た。
「そうですか。母上が指導者に…………ですが、いつか、きっと、落ち着く日が……たぶん、きます。そうしたら、数日ほど休みをとって帰りましょう」
「そうだな。数日ぐらいなら……先は長いな」
今でも一日休みを取るだけで、これだけ苦労している。それが増々忙しくなる上に、数日の休みとなると……考えるだけで気が遠くなる。
ルドも同じことを考えたようで、苦笑いを浮かべながら話題を変えた。
「遅くなりましたが、昼食にしましょう」
「あぁ」
ルドが収納袋から昼食が入ったバケットを取り出す。シートを敷き、昼食を並べた。
パンに具材を挟んだものと紅茶。あとはデザートの焼き菓子と果物。
「本当にピクニックだな」
「こういうのも、たまにはいいと思いまして」
「シェットランド領を思い出すな。夏の天気がいい日はミレナが焼いたパイを外で食べた」
「ミレナ殿が焼いたパイは美味しいですからね」
クリスがシートに腰を下ろす。
「あぁ。落ち着いたらシェットランド領にも顔を出さないとな」
「そうですね」
二人は帝都を眺めながら昼食をとった。
満腹になった二人は寝っ転がって空を眺めた。日差しは強いが、木陰にいるため風が吹くと涼しい。葉の隙間を白い雲が流れる。
「こんな贅沢な時間の使い方は久しぶりだな」
「師匠は少しでも時間があると、本を読むか、研究をするか、でしたから」
「ずっと、そんな日々が続くと思っていたんだがな」
「予想外なことばかりでしたね」
「そうだな」
クリスが自分の髪を摘まみ上げる。金髪がキラキラと太陽の陽を弾く。
「髪の色も変えず、男装もせず、こうして外を歩く日が来るとは思わなかった」
「それはいいのですが、自分はちょっと心配です」
「なにが心配だ?」
ルドが体を起こしてクリスを覗き込む。
「師匠は可愛いですから、変な虫が寄ってこないか心配です」
「かわっ!? だから、私は可愛くないし! そういうことは言うな!」
顔が真っ赤になったクリスは逃げようとしたが、すぐルドが覆いかぶさって逃げ道を塞いだ。
琥珀の瞳が怖いほど真剣に見つめてくる。
「そういうところですよ」
「いや、だから……」
無言の圧力にクリスの声が止まった。
強い風が駆け抜け、髪が巻き上げられる。思わず目を細めたところで唇になにかが触れた。
「ぇ?」
目前には顔を真っ赤にしたルド。
「え? えぇ?」
クリスがパニックになっていると、ルドが立ち上がった。
「暗くなる前に帰りましょう」
「いや、待て! おまえ、いま何をした!?」
クリスが追いかけると、ルドが恥ずかしそうに睨みながら振り返った。ヤケ気味にクリスに近づく。右手でクリスの顎を上げながら親指を唇に添えた。
「もう一回、しましょうか?」
その言葉にクリスは心臓が止まるかと思った。でも、嫌ではない。むしろ……
「……いいぞ」
琥珀の瞳が丸くなる。
「……本当に、いいのですか?」
クリスは答える代わりに目を閉じた。一拍置いて、そっと影が落ちる。
先ほどの触れたか触れないか分からないのとは違う。唇にしっかりとお互いのぬくもりを感じる。
ルドが離れ、クリスは目を開けた。恥ずかしさから逃げるようにクリスがルドの胸に顔を埋める。
そのままルドがクリスを抱きしめた。
「絶対、次の休養日も帰ってきますから!」
「いや、さすがに二回連続は無理だろ」
「頑張ります! いや、このご褒美があるなら、頑張れます!」
「これは、ご褒美ではない!」
クリスの叫びが静かな丘に響いた。
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