カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ

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カフェノート

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  ふとした時お父さんはどうしているのかなと思い出すことがある。

  今日も喫茶店の二階のカウンター席で紅茶を飲みながらぼんやり道を行き交う人を眺めていた時に思い出した。

  わたしにとって優しいお父さんだったけれど、お父さんは生きているのか死んでしまったのかも分からない。わたしが小さい頃両親は離婚をした。そして、お父さんは姿を消した。

  お父さんに会いたいなと時々思う。

  もし会えたらどうして早乙女さおとめを置いて出ていったのと聞きたい。

  そんなことをぼーっと考えていたその時、テーブルの上に置かれている大学ノートに気がついた。

  そのノートはちょっと染みがあり表紙に、

『お客様の好きなことをご自由にどうぞ~』と黒のマジックで書かれていた。

  わたしはそのノートを手に取りぺらぺらめくった。

○月○日  
   イチゴのショートケーキ美味しかった。あまりにも美味しいので二個食べてしまいました。まりこ。

○月○日  
  テストの点数最悪だったぜ。くそー。母さんに怒られるなー。よし、バレないように隠しておくぜ。うっしっし。祐介。

  あはは、テストの点数悪かったんだね。可哀想にね。わたしは、ノートを眺めながら知らない誰かに同情しつつも笑った。

○月○日  
  わたしの家に猫がやって来ました~。西川唯。文章の下に下手くそな猫のイラストが描かれていた。

  猫か可愛いだろうな。しかし下手くそなイラストだよねと知らない誰かのイラストにわたしは笑った。

  わたしは笑みを浮かべながらノートをめくった。


  ○月○日  
  聞いてくれよ。俺の最悪な点数のテストを机の引き出しの奥に隠していたのに母さんにバレてゲンコツを食らったぜ。くそー。女のくせに狂暴な母さんだよ。祐介。

  あ、この人はテストの点数が悪かったさんだ。数日前のページにテストの点数が最悪と書いてあったね。可哀想にお母さんにバレてしまったのねと同情しつつもわたしは笑ってしまった。

 カフェの来店感想ノートには様々なことが書かれていた。

わたしはノートをめくりながらいろんな人生があるなと思った。

  人は様々な思いを抱えながら日々生きている。きっと、楽しいことも悲しいこともその人生の中にあるのだろう。

  わたしも何か書いてみようかな。

  そう思ったその時、違和感を感じた。

  何かが少し違っている。ノートをぼんやり眺めていると何かがおかしいことに気がついた。

  だって、そこには……。

  ○月○日
  気がつくと西暦二千年になった。空から恐怖の大魔王なんて降ってこなかった。俺達は当たり前のように今日も生きている。さあ、青春を楽しまなくては。

  なんてノートに書かれているのだけど、恐怖の大魔王?  それから西暦二千年になったって?  現在は西暦二千二十二年なんだけどなと思いながらわたしはノートをめくった。


  次のページにも西暦二千年について書かれていた。

  ○月○日  ミレニアム。各地でミレニアムイベントがあった。西暦千年代から西暦二千年代へと新しい時代の幕開けの瞬間に生きていることが奇跡のようでなんだか嬉しかった。祐介。

  わたしが読んでいるこのノートはよく見ると年季が入っていた。表紙を確認すると小さな文字で『2000年』と書かれていた。

「あはは、なんだ過去のノートを見ていたんだ~」

  気づかないで読んでいた自分がおかしくてわたしは笑ってしまった。

  だけど、この古いノートが気になりもう一度ページをめくった。

  そして、ペンを握りわたしは、祐介と書かれている文字の下に『奇跡の瞬間に出会えた祐介さんが羨ましいです。二千四年生まれの早乙女より』と書いた。

 ペンを置いたわたしは、ティーカップの取っ手をつまみ紅茶を飲んだ。アールグレイの爽やかな香りが心を落ち着かせた。

  そろそろ帰ろう。ノートをパタンと閉じわたしは席を立った。

  これが見知らぬ祐介君とわたしの出会いだった。
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