1 / 75
カフェノート
しおりを挟むふとした時お父さんはどうしているのかなと思い出すことがある。
今日も喫茶店の二階のカウンター席で紅茶を飲みながらぼんやり道を行き交う人を眺めていた時に思い出した。
わたしにとって優しいお父さんだったけれど、お父さんは生きているのか死んでしまったのかも分からない。わたしが小さい頃両親は離婚をした。そして、お父さんは姿を消した。
お父さんに会いたいなと時々思う。
もし会えたらどうして早乙女を置いて出ていったのと聞きたい。
そんなことをぼーっと考えていたその時、テーブルの上に置かれている大学ノートに気がついた。
そのノートはちょっと染みがあり表紙に、
『お客様の好きなことをご自由にどうぞ~』と黒のマジックで書かれていた。
わたしはそのノートを手に取りぺらぺらめくった。
○月○日
イチゴのショートケーキ美味しかった。あまりにも美味しいので二個食べてしまいました。まりこ。
○月○日
テストの点数最悪だったぜ。くそー。母さんに怒られるなー。よし、バレないように隠しておくぜ。うっしっし。祐介。
あはは、テストの点数悪かったんだね。可哀想にね。わたしは、ノートを眺めながら知らない誰かに同情しつつも笑った。
○月○日
わたしの家に猫がやって来ました~。西川唯。文章の下に下手くそな猫のイラストが描かれていた。
猫か可愛いだろうな。しかし下手くそなイラストだよねと知らない誰かのイラストにわたしは笑った。
わたしは笑みを浮かべながらノートをめくった。
○月○日
聞いてくれよ。俺の最悪な点数のテストを机の引き出しの奥に隠していたのに母さんにバレてゲンコツを食らったぜ。くそー。女のくせに狂暴な母さんだよ。祐介。
あ、この人はテストの点数が悪かったさんだ。数日前のページにテストの点数が最悪と書いてあったね。可哀想にお母さんにバレてしまったのねと同情しつつもわたしは笑ってしまった。
カフェの来店感想ノートには様々なことが書かれていた。
わたしはノートをめくりながらいろんな人生があるなと思った。
人は様々な思いを抱えながら日々生きている。きっと、楽しいことも悲しいこともその人生の中にあるのだろう。
わたしも何か書いてみようかな。
そう思ったその時、違和感を感じた。
何かが少し違っている。ノートをぼんやり眺めていると何かがおかしいことに気がついた。
だって、そこには……。
○月○日
気がつくと西暦二千年になった。空から恐怖の大魔王なんて降ってこなかった。俺達は当たり前のように今日も生きている。さあ、青春を楽しまなくては。
なんてノートに書かれているのだけど、恐怖の大魔王? それから西暦二千年になったって? 現在は西暦二千二十二年なんだけどなと思いながらわたしはノートをめくった。
次のページにも西暦二千年について書かれていた。
○月○日 ミレニアム。各地でミレニアムイベントがあった。西暦千年代から西暦二千年代へと新しい時代の幕開けの瞬間に生きていることが奇跡のようでなんだか嬉しかった。祐介。
わたしが読んでいるこのノートはよく見ると年季が入っていた。表紙を確認すると小さな文字で『2000年』と書かれていた。
「あはは、なんだ過去のノートを見ていたんだ~」
気づかないで読んでいた自分がおかしくてわたしは笑ってしまった。
だけど、この古いノートが気になりもう一度ページをめくった。
そして、ペンを握りわたしは、祐介と書かれている文字の下に『奇跡の瞬間に出会えた祐介さんが羨ましいです。二千四年生まれの早乙女より』と書いた。
ペンを置いたわたしは、ティーカップの取っ手をつまみ紅茶を飲んだ。アールグレイの爽やかな香りが心を落ち着かせた。
そろそろ帰ろう。ノートをパタンと閉じわたしは席を立った。
これが見知らぬ祐介君とわたしの出会いだった。
2
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる